表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/214

続・クリームヒルト鉱山の調査

 十匹もいるゴブリンの子供たちをあやすのに優に一時間以上はかかった。


 さすがに悪いと思ったのか、ジェシカまでゴブリンの子供をあやす手伝いをしていた。




「……人間ってのは怖いんだな。話に聞いた限りじゃ、オークデーモンは人間をエサにしてるらしいけど、俺たちにはとても無理だ」




 ゴブリンのリーダーがぽつりとそんなことを言っていたが、これもある意味では人間と共生を望むことになるんだろうか。


 魔物を恐れさせて支配するってのは、何か違う気がするけど。


 どう考えてもそれだと人間の方が悪者のように見える。


 まあ、魔物や魔族を敵としてしか認識していないジェシカを魔物扱いしてしまったのは不幸な事故だったと思うしかない。


 それよりも、気になるのはゴブリンがそう思った理由だ。




「人間を知らないわけじゃないんだよな?」


「ああ、他の魔物から聞いたことがある。外の世界は人間が支配してるとか」




 ゴブリンの知識はどこか偏りがあった。


 魔物の生まれについて妙に詳しかったかと思えば、人間のこともろくに知らない。


 魔法については使い方の基礎は知っていて、子供のゴブリンにはまだ使えないようだがリーダーや彼が兄弟と呼ぶゴブリンたちには簡単な魔法が使えた。


 そして、彼らの目的は食料の調達と外の世界の探索だそうだ。


 ゴブリンたちはここを洞窟だと思っていた。そういう環境にゴブリンは生まれやすいらしい。


 ただ、ここの奥にいる魔物はゴブリンが集団で戦っても太刀打ちできるような相手ではなかったから、逃げるようにして魔物の少ない場所を目指しているうちに俺たちに遭遇したと言うことだった。




「あなたたちは生まれながらにして、そういう知識を持ってるってこと?」




 エリーネが子供のゴブリンの頭を撫でながら聞く。




「ああ、クリスタルから自然発生した俺たちはみんなそういうことを知ってる。俺の作った子供は知らねえから、俺が教えてやってるんだけど」


「……不思議ね。今まで魔物と交流しようなんて考えたこともなかったから、そういう違いがあるなんて知らなかったわ」




 ジェシカの言葉からやっととげとげしさが抜けてきたような気がする。


 まあ、子供のゴブリンを討伐する魔物と認識するのは気が引けるんだろうな。


 肌の色は違うし、手は長く足は短いが、丁度人間の子供が持つ人形のような大きさだった。


 俺が討伐したゴブリンはもっとしわくちゃで魔物らしかったが、ここにいるゴブリンは顔つきが幼いから、マスコットのように見えなくもない。




「そうですね。もしかしたら私たちは凄い発見をしているのかも」




 エリーネもジェシカの意見に同意していた。


 ヨミも、詳しいこととそうでないことに偏りがあるのは自然に発生した魔物だから、と言うことなのか。




「ちょっと待って、それじゃ……魔物を倒すとクリスタルだけが残るじゃない? あれって、放っておくとまた魔物として復活するってこと?」


「それは無理だな」




 ゴブリンのリーダーが当たり前のように言い切った。




「どうして? あなたたちはクリスタルから生まれたんでしょ?」


「だから、最初に説明しただろ。環境とか魔力の流れとか、条件が揃わないと生まれないんだって」


「そう……それじゃ、クリスタルを加工した道具を使ってもそれがいきなり魔物に戻ったりするわけじゃないのね」




 ホッとしたようにジェシカは首から提げたペンダントと腰に下げた短剣を握っていた。


 どちらもクリスタルを加工した道具だったってことか。




『彰、警戒を。この反応はオークデーモンのようです。囲まれています』




 不意にAIが告げた。


 ここは一本道で、今までにオークデーモンの反応はなかったはずだが。




「エリーネさん。ゴブリンたちも防御魔法の範囲に入れてあげてください」




 ヨミもその気配に気がついたのか、エリーネに言う。




「え? ……わかったわ」


「何? どうしたの?」




 エリーネが迷ったのはほんの一瞬、戸惑いを見せるジェシカとは対照的だった。


 ジェシカの方が実戦から遠ざかっていることの表れだろう。


 ヨミと俺は全員を守るように通路の前後に付いた。


 魔法の明かりに照らされて、通路を塞ぐようにオークデーモンが現れた。




「おいおい、ゴブリンどもだけじゃなくて、人間までいるぜ。こりゃありがてえ」


「知り合いか?」




 ゴブリンのリーダーに聞くと、苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。




「こいつら、俺の子供と仲間を喰いやがったんだ」


「文句があるなら、俺たちを倒して見ろよ。魔物の世界は弱肉強食だろうが」




 オークデーモンは鼻を鳴らして笑った。




「ヨミ、暴れられて壁や天井が壊されると面倒だ。速攻でかたづける」


「はい。闇の神の名において、我が命ずる。闇の力をその身に纏い、破壊する力を与えよ。ダーククロースアーマー」




 背中越しにヨミの殺意が伝わってくる。




「な、何だその魔法は――」




 ドシュッという音と共に、オークデーモンの首が転がった。確認するまでもない。ヨミの回し蹴りが炸裂したんだろう。




「お、お前俺の仲間を――」


「変身――」


『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』




 変身が完了したときには、すでに俺の右手にはマテリアルソードが握られていた。




『チャージアタックワン、クレセントスラッシュ!』




 俺を押し退けてヨミに襲いかかろうとした横からオークデーモンの体を真っ二つにする。


 ものの数秒で俺たちを囲んだ二匹のオークデーモンはクリスタルへ変わっていた。


 すでに俺の変身も解除している。


 この辺りにはもう脅威になるような魔物はいない。




「……実力の確認にすらならないわね。この程度の魔物じゃ弱すぎてあなたたちの実力を評価できないわ」




 愚痴のようにジェシカがそう言った。




「……お前……いや、人間様って強いんだな。オークデーモンの奴らもこれでよくエサにするなんて言ってられたもんだ」




 ゴブリンたちから俺とヨミは羨望の眼差しを集めてしまったが、何かまた妙な誤解を与えているような気がしてならない。


 その視線から逃れるように通路の前に行く。




「先に進もうぜ。もうこの辺りには魔物はいないし」


「そうね」




 俺たちが奥へ向かおうとしたら、ゴブリンのリーダーが駆け寄ってきて回り込んだ。




「ちょっと待ってください。あの、クリスタルは?」


「え? ああ、オークデーモンの? いらないからやるよ」


「いいんですか? あれ一つで、俺たちみんなが一週間は生きられるくらいのエサになるんですけど」


「……クリスタルって、食えるものなのか?」


「何言ってるんですか、俺たち魔物のエネルギーは魔力ですよ。魔力を取り込まなければ死んでしまうって……人間様は知らないんですね……」




 また一つ新しく魔物の生態に詳しくなった。




「それじゃ、魔物は人間みたいに食事をしないってことか?」


「必要なことは魔力を外部から取り込むことなので、食べることで取り込むことも出来ますよ。例えば、野生動物や植物にも魔力はありますから」




 ってことは、この世界で魔力がないのは俺だけってことか。


 ……妹にも同じことが言えるだろうが。


 それじゃ、ヨミにはクリスタルを手に入れる意味はあるのか。


 ヨミを見つめると、静かに近づいてきて耳打ちした。




「いりませんよ。あんな魔物の魔力なんて、私の口に合いません」




 クリスタルそのものにはこれといって特徴はないが、魔物の姿を見ていると食べる気にはならないか。




「両方やるから好きにしろ」


「あ、ありがとうございます。人間様のことは、私たち家族の救世主として後世まで語り継いでいきます」




 将来、ゴブリンたちは人間を襲わなくなるんだろうか。


 だとしたら、この世界の歴史の転換点がこんなところで発生したと言うことに……。


 ジェシカだけは奥歯に物が挟まったような表情をさせていた。


 今度こそ俺たちは先に進む。


 大きく二回道が蛇行したが、レールはずっと一本だった。


 途中に脇道があるところでは、一応ヨミに魔物が隠れていないか確認させた。


 オークデーモンに囲まれたのは、たぶんこういう脇道をほとんど警戒せずに進んでいたからだと思った。


 そして、さらに進むと道が左右に分かれている場所にぶつかった。


 レールも切り替えることでどちらにも行けるようになっている。


 ただ一つ問題があった。


 どちらの道も明かりが途切れている。


 エリーネは地図を見ながら左右の道を見比べて迷っているようだった。




「あの、この奥には行かない方がいいですよ」




 ゴブリンのリーダーが話しかけてきた。


 ……まあ、特に害があるわけでもなかったから放っておいたが、さすがにこのまま連れて歩くのも鬱陶しい。




「あのな、その前にどうしてお前らが付いてくるんだよ」


「いやぁ、人間様と一緒ならオークデーモンは怖くねえし、せっかくだから探索も済ませちまおうかと」


「俺たちはお前らのためにここに来たわけじゃない」


「それじゃあ、人間様はここに何をしに来たんですか?」


「鉱山全体の調査と、ここから魔物がひっきりなしに現れるからその原因を調べに来た」




 大人のゴブリンたちは互いの顔を見合わせて何やら動揺していた。




「何だ? 何か知ってるなら、教えてくれ」


「……人間様、悪いことは言いません。出口がわかるならそっちに向かった方が良い」




 神妙な面持ちでゴブリンのリーダーが言う。


 だが、そこまで言われると逆に気になるというもの。


 何かあるのだという確信と裏付けがいっぺんに手に入ったような気がした。




「そう言うことなら益々この目で確かめないわけにはいかない。危ないと思ってるなら、お前らはここから戻れ。俺たちが来た道には今のところ魔物もいないし、外に……」




 そこまで言って気がついた。


 外にはエリーネの雇っている騎士団が待ってるんだった。


 こいつらが人間に悪さをしないゴブリンだと説明しないと、問答無用で討伐される可能性は否定できない。




「途中に広場がある。鉄鉱石を採掘できる場所だが、そこで俺たちが戻るまで待っていてくれ」


「……本当に行くんですか? だったら、そうだな……お前たちだけでその広場には行けるな?」


「え? あんたまさか……。止めときなよ、この子たちの父親なんだよ。せっかく助かったってのに……」




 ゴブリンの夫婦は何やら話し合いを始めたが、リーダーの決意は固いようで最後にはメスのゴブリンが諦めたように納得していた。




「人間様に迷惑をかけるんじゃないよ。それと、必ず生きて帰るんだよ」


「ああ、逃げ足だけは速いから大丈夫だ」




 そう言うとゴブリンたちはリーダーだけを残して道を戻っていった。




「俺たちはこの奥から逃げてきたんです。だから、案内できると思います」


「本当に? 信じて大丈夫なの?」




 ジェシカはまだゴブリンを信じてはいないようだった。


 何か罠が仕掛けられてるとでも思ってるのだろうか。


 ただの鉱山にそんなものがあるはずはないし、魔物が罠を仕掛けるなんてことも経験上ないと思った。


 ただまあ、ジェシカの考え方はそう簡単にも変えられないだろうなと言うことも承知している。


 こればかりは仕方のないことだった。




「……あなたは逃げてきたと言ったわよね? 何から逃げてきたの?」




 エリーネが聞いたが、俺もそっちの方が気になった。




「……この奥にはたくさんの魔物がいます。オークデーモンだけじゃねえ。ラミアとかトロルとか。俺は運良く見なかったけど、キマイラなんて言う魔獣にも近い魔物もいるって話です」


「アハハハッ、ありえないわ。あなた嘘をつくならもうちょっとマシな嘘をつきなさいよ」




 ジェシカが声を上げて笑った。


 だが、ゴブリンは表情を変えずに真顔のままだった。




「ジェシカさん。ゴブリンの言っていることが本当なら、中級冒険者に死傷者が出たということも信じられるとは思えませんか?」




 冷静にエリーネが言う。


 それでもジェシカは負けずに反論した。




「ラミアやトロルだってこんな鉱山に生息してるはずはないけど、おまけにキマイラよ? ケルベロスほどの脅威ではないけど、そんな魔物がどうやってこんな鉱山に現れるというのよ」


「ここで議論をしていても仕方ないだろ。そんなにヤバい奴らが相手なら俺とヨミだけで調査を続けてもいいし、エリーネとジェシカもゴブリンたちと待っていてもいいんだぜ」


「私は一緒に行くわよ。アキラとヨミさんのことは信用してるけど、そこまでの事態になってるなら、この辺りを任された伯爵としても真相をこの目で確かめておきたいし」




 エリーネの瞳は冒険者の時よりも責任感に溢れている気がした。




「私も付き合うに決まってるでしょ。そんな魔物がいるなら、あなたたちの実力を確認するいい機会になるわ」




 ジェシカもただの意地ではなく冷静な口調で言った。仕事としてここに来ているのだというプライドも見えた。


 感情的な言い争いをしているように見えたが、二人とも仕事だと冷静に考えてくれているなら大丈夫だろう。




「それじゃ、行きましょう。ゴブリンさん、どちらへ行けばいいんでしょうか?」


 ヨミが聞くと、ゴブリンは迷わず方向を示した。


「この道は左です。でも、ここから先はいろんな魔物がいますから、気をつけてくださいね」


「あ、ちょっと待って。明かりを用意するわ」 




 ヨミが歩き出そうとしたら、エリーネがそう言って魔法を使った。


 掌くらいの光の球が現れる。


 エリーネが操ると、それは俺たちの少し先を照らすように動いた。




「鉱山に設置された魔法の明かりほど明るくはないけど、ないよりはマシでしょ」




 こうして俺たちは鉱山の奥を目指して探索を再開させた。


 ヨミを先頭に、ゴブリンが道案内をし、エリーネが地図を確認しながら、ジェシカと俺が背後に気を配る。


 小さな魔法の明かりだけが頼りなせいか、気分的に暗闇の奥から邪悪な雰囲気が伝わってくるようだった。




 次の採掘場に着いたのは、それから一時間以上かかった。


 エリーネが周りを明かりで照らしながら地図で確認すると、これでようやく鉱山の半分を進んだことになるらしい。


 結局のところ、ゴブリンの道案内はかなり正確で助かった。


 二手に分かれた道から先は、レールも枝葉のように広がっていて迷路のようだった。


 そして、魔物の数も確かに多くなっていた。


 ここまでに討伐した数は、オークデーモンの集団が二組。ラミアが一匹にトロルが二匹。


 この採掘場はラミアの住み処になっていた。


 どいつもこいつも問答無用で攻撃してくるものだから、話し合いにもならない。


 とはいえ、魔族を相手にしてきた俺とヨミの障害になるような魔物はいなかった。


 ちなみに、倒した魔物のクリスタルはエリーネとジェシカとゴブリンが集めている。




「……相変わらず、アキラもヨミさんもクリスタルに見向きもしないのね。これだけの魔物のクリスタルなら一財産になるのに」




 一緒に冒険していた時を思い出すとエリーネは言った。




「ジャンケンよ。ラミアのクリスタルなんてそうそうお目にかかれないんだから」


「ジャンケン? ってなんですか?」


「ああもう、そこから説明しなければならないのね」




 ジェシカとゴブリンは今しがた倒したラミアのクリスタルを巡って争っていた。


 所有権はもちろん、俺とヨミにあるのだが、二人とも興味がないと知るとそう言うことになった。


 まあ、勝手にやってくれればいい。




「次はどっちへ進めばいいかわかるか?」


「たぶん、あの階段を降りてさらに下へ進めばいいはずよ」




 エリーネが魔法の明かりを自分のところに寄せて、地図を照らしながらそう言った。




「アキラ! なんかキラキラする石が取れました!」




 ヨミは何が楽しいのか、ここでもツルハシで採掘をしていた。


 足場から飛び降りて、俺に石を見せる。


 確かに最初の採掘場で取れた石とは輝きが違うが、俺には見ただけで鑑定する能力はない。


 触れてみると、AIが鑑定して見せた。




『この石には銀が含まれているようですね』


「この辺りからは銀が取れるんだな」




 エリーネにヨミが採掘した石を見せる。




「前はこの辺りからも金が採掘できたらしいわ。それはほとんど掘り尽くされてしまったみたいだけど」




 奥の採掘場はまだ金がたくさん眠っているらしい。


 そうなると別の疑問が浮かんでくる。


 金華国を支配したウェンリーにとって、金は必要な資源だったはずだ。


 それが採れる鉱山をどうして封鎖してしまったんだろう。


 ま、それもその場へ行けばわかるか。


 階段を降りようとしたら、




「もうそろそろお昼頃だし、ちょっと休憩にしない?」




 エリーネがそう提案してきた。すでに軽食の準備をしている。


 俺はそこまで気を回していなかったが、エリーネはしっかり鞄に食糧を詰め込んでいた。


 思い返せば、一緒に冒険しているときもそういう細かいことに気を配っていたのはエリーネだった。


 確かに少し小腹も減ってきたし、それほど疲れてはいなかったが休憩を取ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ