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クリームヒルト鉱山の調査

 メイドのイライザにはアスラが起きたら魔法の勉強を続けるように俺が言っていたと言づてを残した。


 俺とヨミとジェシカはエリーネに連れられて、首都の奥へ。


 首都の敷地内にある鉱山の入り口へと向かった。


 その途中で騎士たちのキャンプに出交わした。




「おはよう。昨日はどうでしたか?」




 テントの前で槍を構えて立っていた騎士へエリーネが挨拶をする。




「おはようございます。エリーネ卿。昨日の夜は第三班の担当でしたが、いつもと同じですね。戦果はオークデーモンのクリスタルが三つほど。もはや鉱石よりも魔物のクリスタルの方が安定的に手に入ってしまいます」


「引き続き警戒と監視をお願いします」


「はい……って、あの……エリーネ卿はどちらへ?」


「これから冒険者と共に鉱山へ入ります」


「き、危険です! すでに中級冒険者が半分も調べることが出来ずに犠牲を……」




 意図したわけではないと思うが、騎士はとっさに口をつぐんだ。


 冒険者は実力主義の世界だし、魔物の討伐は己の実力と魔物の強さを見極められなければ死と隣り合わせ。それを含めて全て自己責任だから、犠牲や失敗の責を依頼者が負う必要はない。


 それでも、エリーネは割り切れるような人ではないと、騎士もわかっていたのだろう。




「エリーネ卿。でしたら我々も共に鉱山に入ります」




 決意を秘めた瞳でエリーネを見た。


 だが、少し困ったようにエリーネは言葉を返す。




「……あなたたちの実力を過小評価するつもりはありませんが、この件に関しては彼らに任せて欲しいわ。アイレーリスを救った英雄のことは、知らないわけじゃないわよね」




 そこで初めて騎士は俺たちを見た。


 表情が見る間に引きつっていく。




「……あ、あなたたちは……」




 やっぱり生中継の効果は絶大だったようだ。


 ほとんどの人に気付かれる。


 だから、妹がギルドの存在する国にいれば、気付かないはずがないんだ。


 そういう意味で使った作戦ではなかったが、このことからも妹の所在がある程度絞れる。




「私たちが中を調査している間は魔物が出てくることはないと思うけど、取り逃がしてしまう可能性はゼロじゃないから、その時はお願いします」


「は、はい! お任せください」




 背筋をピンと伸ばして騎士は声を張っていた。


 苦笑いを手で隠すようにして、エリーネは鉱山の入り口へ向かった。


 山の中腹に少しだけ整備されたようなスペースがある。


 ここは金華国だった頃に鉱山の入り口として人工的に作られたスペースだった。


 そこにはぽっかりと縦横三メートルくらいはある穴が掘られている。


 周りには魔物の爪痕のようなものも見受けられた。




「それはたぶん、鉱山から出てきたオークデーモンとかの爪痕ね。鉱山の出入り口はここしかないから、騎士たちにはずっと監視させてるの」




 エリーネが説明する。


 つまり、戦った痕跡は鉱山から出てきた魔物と騎士たちのものだ。




「……入ろうとしたら、魔物に遭遇するなんてないよな?」




 ありがちな展開を予想するが、事も無げにヨミは答えた。




「近くに魔物の気配はありませんよ」




 そう言って鉱山の中に入っていく。


 俺とエリーネとジェシカも後に続いた。


 入り口近くは外から日の光が入ってくるが、少し進むと辺りが暗くなる。




「あ、ヨミさんちょっと待って」




 エリーネがそう言うと、急に明かりが広がっていく。


 通路に等間隔に電球のようなものが取りつけられていたが、もちろん魔法の明かりなんだろうなと思った。


 通路はほとんど真っ直ぐに進んでいた。


 エリーネは地図を広げて先を行くヨミに指示を出していく。


 脇道も所々にあるが、一度も曲がらない。




「ジェシカ、俺が一番後ろにつく」


「え? そう?」




 脇道の奥に魔物がいた場合、後ろを取られる可能性があると思った。


 だが、それから十分歩き続けても魔物には遭遇しなかった。


 そして、大きく開けた場所に出る。


 そこには木の階段や通路が作られていて、壁には足場が取りつけられていた。




「ここで鉱石を採掘していたってことか」




 壁に触れてみると、AIが話しかけてきた。




『鉄が含まれているようですね。あまり純度は高くないようです』


「そうなのか?」


『この様子ですと、この辺りの鉄鉱石はすでにほとんど採掘された後なのではないでしょうか』




 その事をエリーネに聞くと、驚きながらもAIの分析が間違いではなかったことを教えてくれた。




「ここはまだこの鉱山全体の一割くらいの場所でしかないわ。最深部には金とか希少な鉱石があるはずよ」




 エリーネは地図と周りの様子を照らし合わせているようだった。




「これは何でしょうか?」




 どこからかヨミがツルハシを持ってきた。


 使い込まれているようだが、それほどボロくはない。




「ちょっと貸してみろ」




 ヨミからツルハシを受け取り、壁を触りながらAIに掘れそうなところを分析させる。




『あまり期待しない方が良いと思いますが、この辺りならまだ少しくらいは鉄鉱石が埋まっているかと……』




 AIに指示された辺りをめがけてツルハシを振り下ろす。


 ガツッという音と、ツルハシを握った両手に痺れるような振動が伝わる。


 壁の一部が砕けて、つるつるしたような部分が顔を覗かせていた。


 そこをツルハシで細かく叩くと、黒光りする石が取れた。




「ふぅん、なかなか質の良さそうな鉄鉱石ね。金華国が鉱山に恵まれた国だと聞いてはいたけど、本当だったのね」




 ジェシカが俺の手元を覗き込んで感心した。




「はい。それについてはすでに調査をしてキャロライン女王陛下に報告しています。ただ、最後にこの鉱山の調査だけが思うように進まなくて……」




 とまあ二人が何やら面倒な話を始めてしまった。


 ヨミはツルハシに興味を持ったのか、俺の使い方を真似て壁を叩いていた。




「これは、石を掘るための道具だったんですね。武器なのかと思いました」


「いや、人間だってそれで殴られたりしたらただでは済まないだろうけど……」




 ヨミは軽々しくツルハシを担いで掘った石を見せたが、どれも普通の石だった。




「アキラ、ヨミさん。行くわよ」




 エリーネの声が下の方から聞こえる。


 どうやら階段を降りていたようだ。


 俺たちも小走りにエリーネとジェシカを追いかけた。


 広場の一番下の階層にはトロッコとレールがあった。


 レールは鉱山の奥へと続いている。


 ここから見ると途中で魔法の明かりが曲がりくねっているからどこまで続いているのかはよくわからなかった。




「これに乗っていくのか?」




 トロッコはどう見ても二人くらいしか乗ることが出来ないように見える。


 一台だけでは全員一緒に乗ることが出来ない。




「いいえ。これは人が乗るためのものじゃないわよ。鉱山の奥から採掘した石を運ぶためのもの」


「あ、そういう……」


「それと、この辺りは冒険者が調査済みだから、まだ警戒する必要はないと思うわ」




 エリーネが言いながらレールの横の道を歩き出す。




「取り敢えずはこのレールに沿って進めば良さそうね」




 そうつけ加えて地図を折りたたんだ。


 こうして歩いていると、いかにもなダンジョンを探索している気分になる。


 魔物が生息していても不思議ではなさそうだが、だとしたら鉱山として成り立たないだろう。


 人工物がこれだけあって整備されていることを考えれば、以前は採掘するために多くの人が出入りしていたはずだ。


 その人たちが中級冒険者でも死傷者が出るような鉱山で仕事を出来たとは思えない。




「なあ、エリーネ。以前、ここで仕事をしていた人たちはなんて言ってるんだ?」


「それなんだけど、あのウェンリーという男が王になってからこの鉱山は閉鎖されたらしいのよ」


「閉鎖? もう鉱石を掘り尽くしたってことか?」




 閉鎖の理由なんてそれしか考えられなかったが、少なくともさっきの採掘場にはいくらか鉄鉱石が残っていた。


 言っていて、その予想が間違っているだろうなと思った。




「それがよくわからないらしいのよ。他の鉱山はそのまま仕事を続けるように言われたのに、ここだけは閉鎖されたんだって」


「……気になるな」


「でしょ? ちなみに、閉鎖される以前にこの鉱山で仕事をしていた人に話を聞いたら、この鉱山の入り口は首都の敷地内にあるし、魔物が外から入り込むことも中から出てくることもなかったらしいわ」


「それじゃ、魔物が現れるようになったのは?」


「報告に上がるようになったのは、私がこの町に来てから二週間位してからかな。でも、調べてみたら私たちがウェンリーとミュウを倒した後くらいから見かけるようになったみたい」


「ウェンリーは俺たちじゃなく、ミュウが殺したんだけどな」




 あんなやつの命のことまで責任を感じる必要はない。


 そこだけははっきりさせるためにあえて補足した。




「フフッ……そうね、アキラって時々妙なところにこだわるわね。アイレーリスの英雄としての働きは、私も間近で見ていたけど。何となく、庶民的って言うか……ごめん、上手く説明できないわ」




 英雄的ではないということを言いたいんだろうが、俺だってそのつもりはない。


 元々世界を救うつもりだってなかったはずだ。


 ただ、デモンに苦しめられた目の前の人たちを助けるために戦っていたら、いつのまにかそう言うことになっただけだ。


 この異世界でも、俺の在り方に変わりはない。




「話を戻すわね。当初私に話が上がってこなかったのは、鉱山から出てくる魔物はそれほど強くなくて、通りがかりの冒険者やこの町の自警団が討伐してしまったらしいの。ちなみに、自警団がクリームヒルトの騎士団の元になってるわ」


「そう考えると、ミュウが何か仕掛けておいたのかな」




 魔族のことだから、自分が倒された後に町を壊滅させる目的で、とか。




「……どうかな。それだと、出てくる魔物が一番強くてもオークデーモンって言うのはないんじゃない。少なくともこの町の人たちは支配していた魔物と戦ったのよ。人間に変身できるくらいの力を持った魔物と戦ってきたんだから、もっと強い魔物が現れるようにしておかないと嫌がらせにしかならないんじゃない」


「その割には中級冒険者のグループがこの鉱山で被害に遭ってる見たいじゃないか」


「そこも不可解なのよ。私だって、冒険者だったからこれくらいの仕事なら十分中級冒険者でもできると思っていたわ」




 結局、自分たちの目で確かめるしかないってことか。




「おしゃべりはそこまでにしてください。魔物の群れが近づいてきます」




 ヨミはツルハシを優しく壁に立てかけてエリーネの前に立った。




「魔物の群れ? どれくらいだ?」


『……危険度はそれほど高くありません。数は二十ほどですが、魔力はワイルドファングよりも低い。スライムよりはマシ程度の魔物です。彰が変身して戦うよりも、ヨミさんに任せた方が早いでしょう』


「皆さんは下がってください。エリーネさん、防御魔法をお願いします」




 AIの分析は俺にしか聞こえていないが、ヨミには近づいてくる魔物のことはよくわかっているようだった。




「あら、アキラくんは戦わないのね。残念」


「……あのなあ、一応死傷者が出てる仕事なんだからもうちょっと緊張感を持ってくれよ。楽しんでいるようにしか見えないんだが」


「言っておくけど、ギルドは自分の実力も理解できない冒険者の面倒を見てあげるための組織じゃないわよ。怪我したりましてや死んでしまうのは己の実力を客観的に見ることができない未熟者ということよ」


「言いたいことはわかるけど、結構ドライなんだな」


「私たちの目的はあくまでも将来起こりうる魔族との戦争に団結して立ち向かうことにあるわ。己の実力を見極めることの出来ない冒険者は他の冒険者たちの足を引っ張ることになる。それが現実でしょ」




 ジェシカはきっぱりとそう言いきった。


 それに、ギルドは魔族との戦争を不可避だと考えているようだ。


 俺としては、アスラやバルトラムやグレースの例を見ると、戦争そのものを回避する方法があるんじゃないかと思ってしまうが……。


 ジェシカにヨミのことを明かすことが出来ないのは、この考え方が頑なに思えるからだった。




「まあいいわ。ヨミさんも上級冒険者になったばかりだし、その実力が見られるだけでも」




 ジェシカがそう言うと、エリーネが防御魔法を使った。


 俺たちの周りが淡い光で包まれる。


 ヨミの表情が引き締まったものになり、そこで俺はふと気がついた。


 ここって、山の中を掘り進んだ、いわゆる洞窟のようなものだよな。


 ってことは……。




「ヨミ! 壁や天井を壊すなよ! 俺たち全員生き埋めになるからな」


「あ、そうですね。でも、それほど激しい戦いになるとは思いませんが」




 辺りを見回してから、ヨミは構えた。




「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺たちはあんたたちを襲う気はない」




 そう言って現れたのは小人のような姿だが、明らかに人間ではない緑色の体をした魔物。


 ゴブリンだった。


 総勢二十匹のゴブリンたちはみんな手を上げてゆっくりと近づいてきた。


 その様子からは殺意どころか戦意すら感じられない。


 前に見かけたゴブリンはやけに好戦的だったが、まあ魔物にもいろいろあるんだろう。




「エリーネ、話をするから防御魔法を解除してくれ」


「え? ちょっと待ちなさい。アキラくんは魔物なんかの言うことを信じるつもりなの?」


「ジェシカはこの依頼を引き受けたわけじゃないんだろ。俺の仕事を見学するために付いてきたなら、口は挟まないで欲しいんだけど」


「……わかったわよ」




 少しムッとしていたが、そう言って少しだけ距離を取った。


 改めてゴブリンたちを見る。


 顔つきを見ると若そうだった。


 その中でも一番背が高くて体格のいいゴブリンですらエリーネと変わらないくらい。


 子供のゴブリンはせいぜい犬くらいの背丈しかない。




「お前がこいつらの代表なのか?」




 一番先頭に立ち、最初に話しかけてきたオスの……男のゴブリンに聞く。




「ああ、そうだ。俺とこいつは夫婦で、チビ助たちは俺たちの子供だ。他の奴らは俺と違うところで生まれたけど、行くところがないから一緒に生活するようになった兄弟みたいなもんだ」




 ……夫婦。子供のゴブリンは十匹くらいいる。




「お前らはどこからこの鉱山に入ってきたんだ?」


「……ここは鉱山、なのか?」


「知らなかったのか?」


「俺たちはここで生まれた。場所はそれぞれ違うけど、食料や出口を探している間に他の強い魔物に襲われたりしながら、隠れたり逃げたりしてみんなに出会ったんだ」




 俺とヨミとエリーネはお互いの顔を交互に見ていた。


 魔物の生態は俺にはよくわからない。


 ここで生まれたとゴブリンは言うが、この中に彼らよりも年のいったゴブリンは見受けられない。




「えーと、お前を産んだ親のゴブリンはどうなった? その、他の強い魔物にでも襲われて亡くなったのか?」


「は? 何言ってんだ? お前らは俺たちがどうやって生まれるのか知らないのか?」


「……いや、子供を産んだってことは、お前らも親がいるんだろ」




 小さいゴブリンを見ながら聞くが、ゴブリンのリーダーは少し馬鹿にしたような表情で言った。




「あのな、それじゃ俺たちを最初に生んだゴブリンはどこから生まれたんだ?」




 ……卵が先か、鶏が先か。


 その問答をしているようだ。




「俺たち夫婦と兄弟は、クリスタルに魔力が集まって自然発生したんだ。もちろん、それにもいろいろ条件がある。クリスタルが発生した環境や、自然界の魔力の流れ、瘴気や他の動植物。森の中のように動植物が豊富な場所だと、それを媒体にした新しい魔物が生まれるみたいだけど、こういう場所だと魔力の低い魔物は俺たちのようなゴブリンとして生まれることになる」




 そう言えば、ヨミは新種の魔物として討伐されかけたんだっけ。


 ってことは、ヨミも自然に発生した魔物だったと言うことか。




「……そんな話、初めて知ったわ」




 ジェシカが驚愕の表情を向けた。




「そうなのか? お前ら妙な格好の魔物だし、新種だから俺たちの常識もよくわかってないのかな」




 ヨミのことがバレたのか。弱いと言っても魔物だとわかるものなんだろうか。




「ま、魔物? だ、誰のことだ。なあ」




 ジェシカに気付かれないように誤魔化したが、エリーネは苦笑いで首を横に振った。


 やっぱり俺の演技力じゃ誤魔化しきれないか。そう思っていたら、ゴブリンたちはさらに妙なことを言った。


「いや、あんたたちみんなのことだけど」


「はあ!? 誰が魔物だって!? 私たちは人間よ! あんたたちと一緒にしないで欲しいわ!!」




 ジェシカがいきり立つ。


 子供のゴブリンたちが一斉に泣き出してしまった。

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