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王都のギルド本部

 朝日が昇ると同時に馬車を走らせた。


 残りの道程は順調で、何事もなく王都が見えてきた。


 大きな壁に囲まれた町が見える。


 その先には背後を山に囲まれた白い城がぽっかりと浮かんでいる。




「なあ、あれが王都なのか」


「ええ、王都カリューラルド城下町と、奥に見えるのが女王様の住むお城でさ」




 城は中央にビルのような直線的な建物があって、三角の屋根が付いている。その屋根だけが緑色で後ろの山の色に合わせたかのよう。


 その部分を囲うように大小いくつもの塔がくっついている。


 そのどれもが白で、円錐形の屋根だけがやはり同じように緑だった。


 そこから広がるように裾野にかけて町が広がっているのが遠目でもよくわかる。


 その全てを包み込むように壁で囲んでいる。


 クリームヒルトの町を囲っていた木の壁とは大違いだ。


 石とレンガだろうか。


 ここからでもその広さが窺える。


 これは想像していたよりも大きな町だ。


 都市と言ってもいい。


 もしかしたら本当にあそこに未来がいるのかも知れないと期待を抱く反面、捜すのに苦労しそうだと思った。




「しっかし、兄さん強いんだねぇ。あれだけの魔物をたった一人で倒しちまうとは。これだけ一度に魔物のクリスタルが手に入ったんなら、結構な稼ぎになりますよ」


「そうなのか?」


「全部でそうさなあ……金貨3枚ってところかなぁ」


「どうやって換金するのか、知ってるか?」


「そりゃ、魔物クリスタルを扱ってる店に持っていけば、それで。って、本当に兄さん何も知らねえんだな。冒険者なら当たり前のことなのに」


「だから、まだ無職だと言っただろう」


「それにしちゃ、強すぎだけど」


「ところで、冒険者じゃなくても買い取ってもらえるのか?」


「それは問題ねえが、ちょっと価格は相場より下にふっかけられるかも知れねえな。ギルドに登録してる冒険者はそれだけである程度の信頼を得られるが、兄さんのように無職だとそう言った後ろ盾がないからな」


「ってことは、先にギルドへ行った方がいいのか……」




 馬車の中を改めると荷物がそれなりにある。


 倒した魔物のクリスタルが二十以上に、ジョサイヤが用意してくれた水と食料。


 さすがに全部持ちながら街を歩くというのは面倒だ。




「あんたとの契約は、王都に着くまでだったよな」


「ええ」


「もう一日だけ延ばせないか? 必要なら料金も払う」


「そいつは構いませんよ。ジョサイヤの旦那からは相場よりも多く金をいただいてるから、追加料金も必要ありませんぜ」


「そうか」




 ジョサイヤは本気で俺のためにいろいろ手配してくれていたんだな。


 それだけエリーネのことを信用していたと言うことか。


 御者は馬のスピードを緩める。王都に近づくにつれて、街道に列が見えるようになってきた。


 人や馬車が王都の門に向かって並んでる。


 俺たちもその列の最後尾についた。


 すぐに後ろに人や馬車がやってきて、さらに列は長くなっていった。




「これって、何だ?」


「王都に入るには入城許可書を提示する必要があるんですよ。国内の人間なら、別の入り口から自由に出入りできるんですがね。私だけならそっちから出入りできるんですが、兄さんは入れてやれねえから、一緒にこっちから入るんです」


「入城許可書?」


「へえ、何しろこの王都は城との間に壁や門がない。町に入れば誰でも城まで近づけるんです。まあ、城の入り口は近衛隊が守っているし、城の中は簡単に出入りできやしませんがね。でも、町の人間と城は信頼関係があって距離が近いんでさ」


「……いや、事情はどうでもいいんだ。問題は、その……入城許可書っての、持っていないんだ」




 まさか、ここまで来て無駄足だというのか。




「え? いや、ジョサイヤの旦那から何か書状をもらってるはずですよ」


「あれは、確かギルドへの紹介状だったはずだが」


「それはもう、入城許可書と似たようなもんです」




 話している間にも列は進んでいく。


 俺は言われた通り、紹介状をもらった布の袋から出して、すぐに見せられるようにした。


 並んでから一時間も経たず俺の馬車の番になった。


 御者は自分の懐から何かカードのようなものを門番に見せる。




「よし。馬車の中に人を乗せているなら、その者の許可証も出してもらおう」


「はいはい。兄さん、借りますよ」


「ああ」


「…………ほう、ジョサイヤ様直々の紹介状とは……。お前もあまり失礼のないようにな」


「へえ、当然でさ」




 門番は馬車の外から俺に見えるように敬礼していた。


 御者は少し誇らしげに手綱を握って馬車を王都へと向かわせた。




「取り敢えず、中央広場まで行きますよ。ここでグズグズしてると、門番だけでなく他の通行人の迷惑になりますんでね」


「いや、俺には勝手がよくわからないから、適当にやってくれ」




 御者が返したジョサイヤの紹介状を袋にしまいながら、返事をした。


 門に繋がる道は大きな通りだった。


 馬車が二台すれ違ってもまだ余裕がある。


 左右にはレンガ造りの建物が建ち並んでいる。


 いくつあるのか数えるのも面倒なくらいだ。


 ほとんどの建物が2階建てか3階建て。


 大きな建物を建てる技術がないわけではないだろう。


 ここからでも奥の方に見える城は、俺の世界にある高層ビルくらい大きい。


 まあでも、町中にあの大きさの建物を建てないのは、町作りの常識が俺の世界とは違うのかも知れないな。


 大通りの途中にはいくつか脇道があった。


 その先に何があるのかもちょっと気になるが、今はとにかくこの世界の常識をわかっている御者に任せるしかなかった。


 中央広場というのは町の中心からやや北にあるらしい。


 そこには町の主な道路が集まってきていて、どこへ行くにも一度は通る場所なんだとか。


 俺はまず、ギルドへ向かうことにした。


 中央広場から西へ向かう道路を行く。


 そういえば、王都の道はさすがに整備されていた。


 と言ってももちろん、アスファルトで舗装されているわけじゃない。


 石畳の道路だった。


 どういう加工技術があるのかわからないが、馬車がほとんど揺れないほどだから、よほど平らになるように敷き詰めてあるのだろう。


 魔法とかでそういうことが可能なのかも知れないな。




「兄さん。あれがアイレーリス王国のギルド本部ですぜ」




 黒を基調とした建物が右手前方に見える。


 町中にある建物の中では大きい。5階建てくらいだろうか。


 御者はギルド本部の建物の奥にある駐車場に馬車を駐めた。


 俺は一人でギルドの本部へ向かう。


 両開きの扉はエリーネの家の扉よりも高級感のある装飾があった。


 ノックは、した方が良いのか?


 迷っていると中から人が出てきた。




「おっと、危ないな。扉の前に突っ立ってるなよ」


「あ、ああ」




 すれ違ったのはいかにもな冒険者だった。


 背中に剣を背負い、銀色の鎧を身につけている。胸のところにライオンのような装飾が施されていて、小手やブーツも似たような素材で作られているものを身につけていた。




「あら。ごめんなさい。ギルドに仕事を依頼しに来たのかしら? まさか、冒険者じゃないわよね」




 男の後から出てきたのは色っぽい女だった。


 ぴったりとした服で全身を覆い。胸のところと腰のところだけ赤い鎧を身につけている。


 小手とブーツも赤い。


 腰には細い剣――レイピアを下げていた。




「ハハハッ! そんなわけないだろう! 丸腰で冒険しようなんて考える馬鹿がどこにいるって言うんだ」


「そうね。もし難しい問題を抱えているなら、ギルドで仕事を依頼するときに私たちを指名して頂戴。もちろん、お代は高く付くけれど」




 そう言うと、ウィンクして去っていく。


 まったく相手にしていないということだけはわかった。


 名前を名乗らないんだから、指名するも何もない。




「あ、待ってくださいよー」




 二人を追いかけるように黒いローブを着た優男がギルドから出てきた。


 格好からして魔道士だろうな。


 俺は三人組には目もくれずに開け放たれた扉から中へ入った。


 ギルドの中には多くの人がいた。


 冒険者っぽい格好をしたものから、さっき町で見かけたような商人だか一般市民だか。


 入ってすぐのところには受付が三つあった。


 左側の受付には冒険者が集まっていた。


 そして、右側の受付には一般市民や商人が集まっていた。


 真ん中の受付にはそのどちらもがひっきりなしに話しかけている。


 俺はまず誰に話しかけたらいいのかわからなかったので、どちらにも対応している真ん中の受付に向かった。


 二人並んでいたのでその後ろに並ぶ。


 話している内容は聞き取れないが、何やらテキパキと指示を出しているからすぐに俺の番になった。




「初めまして。今日はどのような用件で来たの?」


「初めましてって、よくわかるな」


「そりゃ、こういう仕事をしてたら常連とそうでない人の区別なんてすぐ付くわよ」




 受付嬢は最初からタメ口だった。


 そこにちょっとイラッとしてしまうのは、現代人のエゴか。


 こういう役所的な場所にいる人間は普通敬語を使うものだと思ってしまう。




「えーと、そうだ。これを見せておいた方が良いか」




 俺はジョサイヤが書いてくれた紹介状を出した。


 受付嬢はそれを見ると、挑戦的な瞳で笑った。




「へぇ。クリームヒルト家からの紹介状ね。それじゃあ、私も名乗っておこうかな」


「私も?」


「あなたの名前はここに書いてあるもの。アキラ=ダイチって。私は、ジェシカ=アーシェラ。元冒険者だけどギルドにスカウトされて今はこの本部の受付兼代表を務めているわ」


「受付で、代表?」




 改めて見てみると、受付嬢はわかるが代表という役職とは似つかわしくなかった。


 年は二十台前半くらいだろう。


 栗毛のショートカットが似合い、猫のような目が可愛らしい。


 スタイルも整っていて、いわゆるアイドルのような雰囲気はある。


 逆に代表と呼ばれるような威厳はまったく感じられない。




「ジョサイヤさんの紹介だから大目に見てあげるけど、私を馬鹿にするような発言は控えた方が良いわよ」


「いや、すまなかった。人を見かけで判断しないということを学んだはずだったのに、第一印象で失礼なことを言ったな」


「あら、素直な人は嫌いじゃないわ」


「でも、実際大変じゃないのか? 年も俺とそんなに変わらないように見えるのに、ギルドの代表なんて」


「あらあらあら。アキラくん、君なかなか見所あるわね。でも、私の方が3歳年上ね。ジョサイヤさんの紹介状だとアキラくんは21歳らしいから」




 ジェシカは俺の肩をバシバシと叩いて笑った。


 半分くらいは社交辞令のつもりだったのだが、素直に受け取られたらしい。


 ま、嫌われるよりはいいか。




「それで、話を戻すけど用件は何?」


「それが、どう説明したらいいのか。そもそもギルドは何をするところなのかわかっていないんだ」


「簡単に説明すると仕事の請負と斡旋ね」




 ジェシカの説明によると、ギルドというのは国に所属しない組織で全世界に独自のネットワークを持っている。


 ありとあらゆる仕事を請け負い、その仕事をギルドに登録している人間――この世界ではギルドに登録している人間は基本的に冒険者と呼ばれているらしいが、別に冒険しないで一つの町に留まってギルドの仕事をこなして生計を立てている人もいるらしい。




「ってことは、人の捜索とかも依頼できるのか?」


「ええ。捜したい人がいるのね? 何か手がかりはあるの?」




 答えに窮した。


 手がかりって、あの途切れ途切れのテレパシーしかない。


 どの国にいるのかすらわからなかった。




『彰、私に記録されている未来さんのデータを出力するのはどうでしょう』


「あのな、この世界にパソコンがあると思うのか?」


『いえ、そうではなくて。彰の体を通して絵を描くことくらいはできますよ』


「そうか、お前なら写真並みの絵が描ける」


「ねえ、さっきから何をブツブツ言ってるの?」


「あ、いやこっちの話――」




 人のいる前でAIと話すのは控えるべきだった。




「それよりも、紙とペンはないか? 手がかりになるかわからないけど、捜してる人の絵が描ける」


「絵、ねえ」




 訝しげな表情をさせたが、紙とペンを用意してくれた。


 俺はAIに手の制御を任せる。


 見る見るうちに未来の絵が完成した。




「……あなた、絵描きなの? ずいぶん上手ね。まるで写し取ったみたい」




 AIのデータを書き起こしたわけだから写真と変わらない精巧な絵だ。


 そう思わせても不思議ではない。




「いや、今のところ無職だ」


「それで、手がかりはこれだけ?」




 あれ? あまり反応が芳しくない。




「それじゃダメなのか?」


「どこの国にいるのか、何をやっている人なのか、何も情報を無しにこの絵だけを頼りに人を捜せというつもり?」


「……無理なのか?」


「無理とは言っていないわ。でも、情報がないなら全ての国のギルドに連絡を取って人を使って捜すことになる。いくらかかるか計算しましょうか?」




 丁寧な言葉遣いに俺はハッとさせられた。


 そりゃそうだ。


 探偵まがいの仕事。おまけに手がかりはほぼゼロ。人を使うのに、金がかからないわけがない。


 確か、ジョサイヤにもらった金と、馬車には魔物クリスタルがあってそれを換金すれば全部で金貨10枚以上になる。




「金貨10枚なら払えるが」


「桁が違う。金貨500枚は必要よ」


「500!?」


「それも、着手金だけでね。捜し出すまでに日数がかかればさらにその分日当が増えるわ」




 結局、自力で捜すしかないのか。


 でも、この町だけでも捜して回るのに何日かかる。


 それでも、この町にいるならまだいい。


 いなかったら、その日数が無駄になる。


 行き違いになる可能性も否定できない。


 淡い期待と大きな絶望が一遍にやってきたような気分だった。

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