第一話 始まり
「っ!?やばい!!うわぁぁぁ!!!」
時を少し遡る。
休暇を迎えていた山内千馬はスノーボードをしにスキー場に来ていた。20代のころは休みがあればスキー場を訪れていたが年齢を重ねるにつれてあまり行かなくなっていた。今日は担当していたプロジェクトが終わり久しぶりに長期休暇が取れ部屋の片づけをしていると、スキーウェアを見つけ懐かしく思い訪れたのだった。
そのスキー場は景色が綺麗なことで有名で、リフトから降りると、客のほとんどがカップルのようだった。
千馬は3日前に誕生日を迎え、40歳となっていたが恋人もいない。
見ていると寂しくなってくるので静かなところを探し人がいなさそうな方に滑っていく。すると人が滑った形跡のないのないパウダースノーが目の前に広がっていた。
千馬は気づかなかったがその方向は進入禁止で、立て札が立てられているのに気付かず入ってしまっていた。
そして、景色を見ながら滑っていると冒頭のシーンになる。
いきなり目の前が暗くなり浮遊感に襲われる。
景色に見とれていて気づかなかったが穴があいていたようだ。
こんなところで一人で遭難しても誰も気づかないだろう。俺の人生はこんな終わり方なのかと考えると走馬灯が流れていくが一向に衝撃は来ない。
ゆっくり目を開けるとそこには森が広がっていた。
「は?どうゆうこと?」
(もしかしたら、誰かが俺を見つけて病院に運んでくれたのかもしれないな。なら、これは夢か。夢なら俺の体が小さくなってるのも納得できるしな。)
そう、千馬の体は縮んでいたのだ。千馬は身長190センチ程だったので今は明らかに小さくなっていた。
(ふう、助かったのはいいけど植物人間になってたらどうしよう。まぁ、とりあえずは夢だしもーいっかい寝るか。)
「おーい!起きるんじゃ!」
(ん?なんか体揺らされてるな。もしかして夢から覚めたのか。)
「ふぁー。」
「起きたかの?お前さんはどうしてこんなところにいる?」
「ん?あなたはどなたですか?ってかまだ森の中って事はこれも夢か。ならもっかい寝るか。」
ペちっ。
「おい!夢じゃないぞい。早く起きるんじゃ。」
「痛っ!え?なにこれ?夢じゃないの?」
「だから夢じゃないと言ってるじゃろ!それでお前さんはなんでこんな所にいるんじゃ?」
「え?わかんないです。どーゆーことですか?ちょっと待ってもらっていいですか?」
ほんとにどういう状況なんだこれ。死んだかと思ったら生きてるっぽいし、ここどこかわかんないし、なんかわかんないけど若返ってるっぽいし、んー、、、分からん。
「もしかしてお前さんは渡り人かの?」
「渡り人?」
「そうだとするなら少し落ち着いてから話すとしようかの。ついてくるんじゃ。」
(なんか一人で納得して歩き出しちゃったし。とりあえずついて行ってみるか。渡り人とか言ってるしもしかしてここは異世界的なとこなのかな?まぁ、後で爺さんに聞いてみるか。)
爺さんが立ち止まるとそこだけ少し森が開けていて1軒だけ家らしきものが建っている。
「さて、ここがわしの家じゃ。飲み物を用意するから少し待っておれ。」
家の中に入ると見た目とは違ってだいぶ綺麗な内装となっていた。軽井沢の貸し別荘みたいな感じだ。ちょっと部屋を見ていると爺さんが戻ってきた。
「それでは、まず何から聞いていこうかの。まずは…」
「あの、先に質問してもいいですか?」
「いいじゃろう。なんじゃ?」
「えっと、お爺さんは…(やべ、そういえば名前聞いてないわ)」
「ああ、すまんの。わしの名前はレイセルじゃ。お前さんの名前はなんじゃ?」
「あ、俺は…(このお爺さんは苗字もないようだし俺も名前だけでいいか)カズマです。」
「そうか。ではカズマよ。先程も聞いたがお主は渡り人かの?」
「その渡り人ってのが分からないんですが渡り人って言うのは?」
「渡り人と言うのは稀に居るとされる別の次元から次元の裂け目を通ってくるとされている人間のことじゃ。」
「じゃあなんで俺が渡り人だと?」
「ここは結界が張られていて普通の人間は入ってこれないようになっておるんゃ。それなのにあんな所にいたということは結界に影響されずにここに来たんじゃろう。もしそうならお前さんは渡り人じゃろう。」
「なるほど。じゃあ多分俺は渡り人ですね。」
「そのようじゃの。」
「じゃあ色々教えていただけませんか?」
「そうじゃの。色々話して行こうかの。まずは…」
話した結果、色々なことが分かってきた。
とりあえず、ここは爺さん以外は住んでいない幻影の森と呼ばれる場所であること、爺さんは訳あってここで暮らしてるらしいこと、それから爺さんは300歳ほどらしいこと、それは爺さんの師匠が命と引き換えに作った不死者の匣と言う魔道具のおかげらしいこと、それとこれが一番重要だがこの世界には魔法があるらしい。 魔法だぞ?あの漫画では当たり前のように出てくるやつ。めっちゃ興奮したよ。まぁ結界とか言ってたから薄々期待してたんだけどやっぱりあったらしい。あと、俺が若返っているのを伝えたら次元の裂け目を通る際に体が再構成されたんだろうと言っていた。
とまぁ、こんな話をしてたら夜になったので夕飯を爺さんが作ってくれたのだがめちゃくちゃ美味かったのだ。なんと、ここにある食材は全て自家製のもので作っているらしい。そんなことに驚きながら会話を続けていると、とりあえず、人里までは今のままでは行けないから1人で生きていけるぐらいには鍛えてくれるらしい。
そんな話をしてたら夜も更けてきて続きは明日ってことで寝る用意をしてくれた。ここには爺さん1人しか住んでないらしく、ベッドは1つしかなかったので、毛皮を持ってきてくれてソファーで寝るように言ってくれた。その後、爺さんは2階にあがって行った。
色々あって疲れていたのか目をつぶったら直ぐに寝入ってしまった。
目が覚めると爺さんもちょうど2階から降りてきていた。手招きをされたので行ってみるとそこには水甕のようなものが置いてあった。ようなものと言うのはすくってもすくっても水の量が減らないからだ。
「これはなんですか?」
「ん?ああ、これは水創甕という魔道具じゃよ。」
「これが魔道具ですか。」
「ああ、そうじゃよ。とりあえず顔洗ったら、そこの鍋に水を入れて沸かしといてくれ。」
「分かりました。火はどうやって付ければいいんですか?」
「ああ、それも魔道具じゃからそこの右下のボタンを押せばいいんじゃ。」
「これも魔道具なんですね。魔道具って言うのはそんなにめずらしくないんですか?」
「いや、そんなことはないぞ。その火が出る魔道具は街で買えば大金貨5枚はするじゃろう。」
「お金の価値ってどれぐらいなんですか?」
「ふむ。そうじゃの。金貨6枚あれば4人家族が1ヵ月は生活できるじゃろう。」
「金貨って事は他にもあるんですか?」
「うむ。 銭貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨、それぞれ10枚で次の硬貨1枚と同じ額じゃ。あともう1つ、白金貨100枚で白帝貨と呼ばれるものがあるがそれが使われることはまずないじゃろう。」
(多分地球と物価も違うだろうからどれぐらいかわかんないな。ただ、給料の8ヶ月半分ぐらいってことは、相当高いんだろうな。)
「魔道具ってそんなに高価なものなんですか?」
「そうじゃのう。魔道具はマジックアイテムの1つで属性に限らず使うことが出来るし魔道具を作れる人間はそう多くはないからの。まあ、ここには結構な数の魔道具があるがそのほとんどは師匠が作ったものがほとんどじゃからもっと高いの。特にさっきの創水甕は師匠のオリジナル1品ものじゃからの。白金貨1枚ぐらいはするじゃろう。」
「師匠さんってめちゃくちゃすごい人だったんですね。なんか不死者の匣とか言うのも師匠さんのやつなんですよね?」
「ああ、そうじゃよ。匣は作る時に匣の内側に特殊な素材で魔法陣を引きそしてそこに魔力を通して完成させる。そもそも魔道具を作る際に必要な魔法陣は師匠から弟子に一子相伝の秘術なんじゃ。だから魔道具は様々な形があるが匣は師匠が得意としていた形で今作れるのは世界でも数人ぐらいじゃろう。じゃが一流の魔道具士が魔道具を作る際、魔力だけでなく、命と引き換えに自分の生命力をも注いだ時、魂道具と言う桁違いな性能をもつ魔道具ができるのじゃ。不死者の匣も魂道具のひとつなのじゃ。」
「てことは、魂道具を作ったら死ぬってことですか?」
「ああ、そうじゃ。」
「死ぬのに魂道具作る人なんているんですか?」
「昔はほとんど作られていなかったようじゃがの。ある時、どこかの国の王が奴隷を使って魂道具を作らせたらしくそれなりの数が世界にはあるんじゃよ。魂道具の殆どはそれ1つで軍に匹敵すると言われておるからの。」
「そうだったんですね。どこの世界でも馬鹿なやつはいるんですね。」
「まあ、今はそんなことをするやつは滅多にいないがの。魂道具1つより継続的に魔道具を作らせた方が得じゃからの。魔道具士はどこでも貴重じゃから国や貴族が好待遇で囲っておるんじゃ。」
「あれ?じゃあなんでレイセルさんはこんな所で1人でいるんですか?レイセルさんも魔道具が作れるんですよね?」
「ああ、作れる。じゃが、師匠の魂道具である不死者の匣は珍しく戦闘力は高くないものの使用者の延命をするという効果があったんじゃ。魂道具は使い手を選ぶと言われていて適正がなければ使うことなど出来ないのじゃが、永遠の命というものに目が眩んだのじゃろう。それを知った権力者達がわしを狙い始めたのじゃ。このままでは周りの人間に被害が出そうじゃったからこうして1人山奥で生活してるのじゃ。素材は山の中の方が多いというのも理由じゃがの。」
「そうだったんですね。でも、師匠さんはなんで「お湯は沸いたかの?。」あっ、すいません。沸いてます!!」
触れちゃだめな話題だったのかもな。気をつけよう。そんなことするとは思えないけど、今は爺さんに頼るしかないから追い出されでもしたらたまったもんじゃない。
出てきた料理はパスタだった。パスタがあるのに驚いていると過去の渡り人が作ったものらしい。爺さんが驚いている俺を見て笑いながら説明してくれた。
食べ終わって食器も洗うと2人で外に出た。
「さて、まずは何からやろうかの。」
「あの!まずは魔法を教えてください!」
「魔法か。ふむ。そうじゃな。魔法ができればできることも増えるじゃろう。手を前に出してみるんじゃ。」
「はい。」
「いいか?これからわしが魔力を流すからそれを感じるんじゃ。いくぞい。」
そう言われても全然感じられない魔法を使うためなんだ。よーし。んーどこだ。おっ、なんか手がムズムズするな。これの事か?
「手がムズムズするんですけどそれで合ってますかね?」
「ふむ。そうじゃ。なら次は今感じたのを自分の中から探すんじゃ。これができるようになったら声をかけるんじゃ。わしは裏の畑の手入れをしてくるからの。」
そう言うと爺さんは家の方に歩いていった。
よし。頑張るぞ。まずはさっきのを思いだして、自分の体の中に。んーー。
分からねーな。爺さんも簡単じゃないって言ってたもんな。気長にやるか。
「そろそろ飯にするぞい。戻ってくるんじゃ。」
爺さんの声を聞いて驚いた。だいぶ時間が経ってたみたいだな。
「わかりましたー!今行きまーす。」
昼飯を食べてからは同じことをした。しかし、一向に分からない。
時間が経って夕食を食べている時、爺さんがこの世界のことをまた色々話してくれた。
まとめると、この世界は大体中世ぐらいだろう。場所によっても様々らしいけど、王国もあれば学術都市と呼ばれる合議で成り立ってるような場所も幾つかあるらしい。あと、昔来た渡り人がいろんなものを作ってて部分的に発展もしてるらしい。
夕食を食べおわったら今日は風呂を入れてくれた。爺さんは不死者の匣のおかげで常に清潔でいられるらしく昨日は忘れてたらしい。ちなみに、お風呂は爺さんが魔法で入れてくれた。初めて魔法を見たけど何もないとこからいきなり水が生まれたのを見たら異世界に来たんだなーと実感した。
翌日、朝食を食べたあと、また魔力を流してくれることになった。昨日魔法を見たおかげかはわからないが昨日より簡単に感じることが出来た。
しかし、その日も一日体の中の魔力は感じられなかった。
10日後、ついに体内の魔力を感じることが出来た。その後は、体の魔力を全身に送る練習を始めた。
それからは、爺さんの農業を手伝ったり、調薬を教えてもらったり、文字を書けるように教えてもらったり色々なことをしながら過ごしてた。魔力は使えば使うほど増えるらしいので寝る前は枯渇するまで循環させるようにしていた。
1ヶ月後。文字はマスターして、本はつっかえずに読めるようになった頃、やっと全身に魔力を回せるようになった。枯渇するまでの時間は3倍ぐらいに増えていた。すると爺さんがついに魔法を教えてくれることになった。
「まず、魔法の属性は、火、水、風、土の基本属性と上位属性の氷と雷、特殊属性の光と闇、それから、無属性じゃ。上位属性は氷なら火と水、雷なら風と火を使えるものが後天的に使えるようになると言われておる。他のものは基本的には先天的に適正がなければ使えん。しかも、適正があってもその中でも得意不得意があるのじゃ。わしは基本属性は火と水と土、上位属性の氷と 特殊属性は不死者の匣のおかげで闇が使えるのじゃ。得意属性は水じゃな。これはだいぶ特殊な例じゃがの。」
「適正ってのはどうやって分かるんですか?」
「まあ、そう慌てるでない。これを使うのじゃよ。」
そう言いながら爺さんが腰につけてる袋に手を入れると7個の指輪を取り出した。
「とりあえず、基本属性から見てみようかの。指のどこでもいいから全てはめてみるんじゃ。」
そう言って渡された4つの指輪。それぞれ赤、青、緑、黄の宝石みたいのがついている。
「はめました。」
「それじゃあ、魔力を循環させるんじゃ。」
言われた通りに魔力を循環させると全ての宝石がひかり出した。
「ほう。基本属性全ての適正があるのは珍しいの。火はと水は普通ぐらい、土と風はだいぶ適正があるようじゃの。」
「どれぐらい珍しいんですか?」
「そうじゃのう。魔法使える人間の3割ぐらいかの。魔法は大抵誰かに教えてもらわないと使えんのじゃ。だから魔法が使えるのは貴族か裕福な人間じゃないと使えんからの。実際はどれぐらいいるかはわからんがの。しかも、基本属性が全て使える人間は器用貧乏になりやすいから、大抵は2属性ぐらいをメインで使っておる。」
「そうなんですね。」
「それじゃあ、次はこれじゃ。」
そう言って渡されたのは白と黒の宝石みたいのが着いた指輪だった。付けていた4つの指輪と付け替えてはめるともう1度魔力を循環させた。
すると、今度はどちらも光らなかった。
「まあそんなもんじゃろう。特殊属性は使える人間が少ないから特殊属性と言われてるんじゃしな。とりあえずは4属性の魔法を練習するとしようかの。」
「あれ?上位属性と無属性の適正は計らないんですか?」
「いいんじゃよ。無属性は魔力の循環ができるなら使えるし上位属性は元となる属性の複合のようなものじゃから今のお前さんでは反応しない可能性が高いからの。」
「そうなんですね。じゃあこれは返します。」
「ああ、いいんじゃよ。それはお主にやるものじゃからの。その指輪は魔力を増幅させる魔法媒体じゃから練習の時は訓練にならんから使ってはならんがの。」
「じゃあいただきます。でも、これ無くしちゃそうなんですけど。」
「おお、そうじゃのう。じゃあこれをやろう。」
そう言って渡されたのは指輪が収納出来るようになってる木の箱とテニスボールぐらいのサイズの匣だった。
「木の箱はただの箱じゃが、その匣はアイテムボックスと呼ばれる魔道具じゃ。中は10メートル四方の空間拡張がされておる。使うときは手を触れて魔力を通すんじゃ。できたかの?そして、魔力を通した状態で収納したいものに触れるとその空間に収納できるんじゃ。普段はそれに入れて匣は腰に付けておくといい。」
「これってだいぶ貴重なものなんじゃないですか?」
「いいんじゃよ。作ろう思ったら作れるし、それは倉庫で埃をかぶったったしの。もっと大きな空間拡張がされてるものがまだいくつもあるからの。在庫処分も兼ねてるんじゃよ。」
「それなら有難く頂戴します。」
「うむ。それじゃあまずは無属性からじゃの。まずは体内の魔力を循環させて目に多くの魔力を流してみるんじゃ。」
言われた通り魔力を目に集めると爺さんから強い光を感じた。よく見ると爺さんの体全体が光って見えて腰のあたりから特に強い光を感じた。もしかしたらこれが不死者の匣なのかもしれないな。
「どうじゃ?」
「強い光が見えます。」
「うむ。出来ているようじゃの。魔力を部分的に集めるとそこの能力を上昇させることが出来るのじゃ。これは身体強化と呼ばれておる。酷使しすぎると筋肉が断裂したりするから慣れるまでは使い過ぎないようにするのじゃ。それじゃあ水の魔法からじゃの。わしの魔力の動きを見とくんじゃ。」
そう言うと魔力がだんだん手に集まっていき『ウォーター』という声を出すと手の上に顔の大きさぐらいの水の玉が浮いていた。
「いつもお風呂を入れてる時はなんも言ってないですけど詠唱って必要なんですか?」
「そうじゃのう。魔法は頭の中にあるイメージに魔力を変換して具現化するんじゃ。わしはもう詠唱が無くても発動出来るからいいんじゃが、初めは詠唱が必要じゃろう。まずは脳にイメージを覚えさせるために詠唱をしたんじゃ。練習をしてイメージが固くなったら言葉を唱えずに発動できるようになるじゃろう。」
「そうなんですね。」
「うむ。とりあえず1度やってみるのじゃ。わしの魔力の動きを思い出しながらはつどうしてみるんじゃ。」
爺さんのやったのをイメージするのか。確か胸のあたりから手に魔力を集めてたから…こんな感じかな?
「『ウォーター』おおー!出来た!!!」
喜んだのもつかの間、直ぐに水の玉は割れて手がびしょ濡れになってしまった。
「あれ?何がいけなかったんだろう?」
「おお、すまん。忘れておったんじゃ。魔力を具現化した後それをコントロールするには魔力を通して動かすんじゃ。もう1度やってみるのじゃ。」
魔力を流す。魔力を流す。よし。『アクア』
「できた!!」
「うむ。できたようじゃの。火と土もお手本を見せようかの。『ファイア』『ロック』」
詠唱と共に火の玉と土の塊が出現した。両方とも拳サイズだった。
「水と違って少し小さいんですね。」
「火は危険じゃからの。それに土は失敗した時に汚れるからの。練習は水でするのがいいじゃろう。完璧に使えるようになったら他の属性を使うのがいいじゃろう。」
「確かにさっきみたいに失敗したら怪我しそうですもんね。」
「完璧にできるようになったら数を増やしてみたり体の周りを動かしたりしてみるといい。5個同時に動かせるようになったら次の段階じゃな。」
「分かりました。」
それから、2ヵ月後5個同時に動かせるようなったので土を使う許可がでた。それからまた10日後土と水の玉を5個ずつ動かせるようになって、火を使う許可が出た。
それと同時に魔道具の作り方を教えて貰えるようになった。魔道具は魔法陣を書いて魔法を発動するものが一般的らしい。この時に知ったのだが、この世界には魔物と呼ばれる魔力を持つ動物もいるらしい。この森には結界があるため見た事がなかったみたいだ。
そして、魔道具は自分の魔力以外にも魔物の体の中にある魔石というものを使って動かすことも出来るそうだ。それは自身に魔力がなくても使えるが小型化は難しく攻撃用には城塞兵器ぐらいにしか使われていないらしく、基本は家具などに使われているそうだ。
魔法陣を0から作るのは難しく基本は劣化コピーされるものがほとんどらしい。俺がもらったアイテムボックスの下位互換である魔法袋は割と普及しているらしいがそれでも、コピーであるため融通が効かないらしい。たまに古代の遺跡から性能のいいものが発掘されるらしいが魔法陣の解読ができずそれの再現ができる人間は本当に数えられるほどしかいないらしい。
だか、爺さんは魔法陣の解読ができる数少ない人らしく魔法陣も色々教えてくれた。魔法陣は理解し出すととても面白く、徐々に使える魔法陣も増えてきた。
それから、2年の月日が流れた。
魔力は当初と比べ物にならないぐらいになった。魔道具は素材がなかったため作れなかったものもあったが魔法陣はほとんど教えてもらいそれなりに魔道具も作れるようになった。
俺が魔道具を作るのに蓄えていた材料のほとんどを使い切ってしまったらしく、爺さんはそれを集める旅に出ることにするらしい。
俺は着いてくるか聞かれたが、せっかくなので自由に世界を見てみたいということで爺さんとは別で旅をすることにした。30年もしたら戻ってくるらしいのでそれぐらいしたら顔を見せにこいと言われた。300年も生きてると30年はそんなに長く感じないらしい。
そんなこんなで旅に出ることになった俺だが、爺さんが餞別として100メートル四方の空間拡張と時間停止の機能がついた爺さんの師匠の匣をくれた。
その中には、この森の結界を通り抜けられるペンダントや簡易結界の魔道具で10メートル四方の結界を張れるものなど優れものの魔道具が入っていた。
特にすごいのは、爺さんの兄弟子が使っていたらしい一丁の魔法銃と指輪だった。これは爺さんの師匠と兄弟子、それと爺さんの三人で作ったものらしい。この魔法銃は雷属性だったため爺さんは使いこなせなかったらしい。俺は雷属性を使えるようになったので使えないで死蔵しておくよりも使ってもらった方がいいと言ってくれたのだ。しかも指輪は爺さんの師匠の相棒だったという雷龍の爪から作られていて雷属性の魔法媒体としてはトップクラスの指輪らしい。
なんと、この魔法銃はこの指輪と同時に使うと爺さんの師匠の作った魔法が発動されるということだった。行く前に1度見せて欲しいと言われたので指輪を指にはめて魔力を流してみると光が出たあと綺麗な紫の指輪になっていた。そして魔法銃にも魔力を流してみると雷龍の形をした魔法が具現化された。
これを見た爺さんはもう一生見ることもないかと思っていたと言って泣いていた。少しするとお礼として爺さんの魔法を見せてくれた。今の俺にはできないようなレベルの魔法で目指すべきものを見せてくれた。
こうして俺は旅に出た。その時には身長は元々の190近くまで成長していた。