俺の彼女はしっかり者の乙女です
「わ、私が、もしよければ彼女に立候補してもいいかな」
蓮杖憐。変わった名前の彼女はかなり性格も変わっていた。
俺こと二階堂銀次郎のアルバイト先の先輩で、俺より年は1歳年上。
明るいムードメーカーで、面倒見もいい彼女。
バイト先の仲間でしかなかった彼女と俺の関係は、バイトとは関係のないところで深くなった。
「新人さんはわたしのことをれんれんって可愛く呼ぶことを義務付けてるんだからね」
大学1年生となり、高校生まで1度もやっていなかったアルバイトを始めることにした。
いわゆる普通のアルバイト。しかし飲食系はクレームが怖いので、近くのチェーン的な古本屋が俺のデビューとなった。
面接を受けていざ初出勤をしたときに、最初に俺を案内してくれたのが、蓮杖憐、通称れんれんであった。
「れんれん♪」
「採用だ!」
「いや、もう採用されてますから。大体あなたにそんな権限あるんですか」
「あるよー、私店長に次いで2位だよー。バイトリーダーだよー」
「へー、まだ若そうなのに。おいくつですか?」
「20歳だよ」
「じゃあ俺より一切上ですか。そんなんでれんれんでいいんですか?」
「いいよー。むしろ敬語もいいよー。仕事中は駄目だけどねー。君のお名前は?」
「二階堂銀次郎です」
「二階堂……銀次郎……、二番目ばっかりだね。じゃあつっくんだ!」
「つっくん?」
「ここの人は私があだ名をつけるのが恒例になってるんだー。二番目、ツー。よってつっくんに決定!」
何か知らんが、あだ名がついた。とは言っても、いい人がいてよかった。新しい環境に身をおく上で、1番怖いのは無視だからな。こんなに明るい人がいるなら安心だ。
「しっかしいつもれんれんは店にいるな」
俺の出勤日は大体週3から週4、れんれんのシフトも見ているが、週6、7はいる。
「そりゃ私フリーターだもの。稼がないとね」
俺とれんれんは一緒にいることが多かった。
この店のアルバイトのシステムは朝10時~17時組と17時~23時組に分かれる。
俺は17時~23時組である。この間でマックスで出てもいいし、分割して出てもいい。
現在、このバイトで23時まで店にいられるのは、俺を採用してくれた店長と、れんれんと俺しかいない。
ほんの少し前までは締めをできる人が後2人いたらしいが、一気にやめてしまい、店長が休みの日に占め作業だけ着ていたらしい。
俺が3ヶ月ほどアルバイトをしてこなれるまでは、店長とれんれんができるだけいてくれて、俺に締め作業を教えてくれた。
締め作業は1人でもできるが、安全を考えて2人でやるべきということで、俺が出勤する日は確実にれんれんか店長と2人きりということになる。店長は朝から出勤していることも多いので、21時頃に帰宅をするようになってからは、れんれんと2人きりになることは当たり前であった。
「しっかし、俺が来るまではれんれんが1人で店を閉めることもあったってことだろ。それじゃあ大変じゃないか?」
「まぁね、1人だと片付けが大変で……」
「いやそうじゃなくてさ、れんれんが1人で帰るってことになるだろ、遅い時間に。女の子が1人じゃあぶないだろ」
れんれんは20歳で俺より年上。普段ものすごくしっかりしているので頼りがちにはなってしまうが、身長は俺より少し小さめで、スタイルもスレンダー系だが、出るところが出ていて可愛らしい見た目である。正直深夜に1人出歩いていい人ではない。
「…………、あー、そういうこと……、ふーん、そんな風に気にしてくれるのは君が始めてかなー」
「そんなことないだろ」
「そんなことがあるんだなー。私どうもいろいろ気にしちゃって口うるさいでしょ。それで、あまり可愛げがないって言われちゃってさ」
「俺は別に気にしないけど。あれだけ言ってくれるのはむしろ気にしてもらって嬉しいし」
れんれんは教育係としても店長代理を務めていて、俺はほとんどれんれんに仕事を教えてもらった。
その時に、普通の仕事だけではなく、えりがだらしないとか、髪が染まっていると注意したり、身だしなみが悪いと注意したり、休憩時間に栄養バランスの悪いものを食べていると、口出ししたり、まぁいわゆるおかん体質である。
「そ、そんなに前向きに褒められると照れるなー。もう、つっくんてば女の子をいつも手玉に取ってるんでしょ!」
「全然だ。俺には女友達すらいない。れんれんくらいだって、俺とまともに話してくれる女の子は」
「そっか。じゃあ今日もお願いします」
「OK」
俺とれんれんは途中まで帰宅ルートが同じなため、俺が出勤している日はいつも帰るまで一緒である。
俺のアルバイト生活はれんれんのおかげでとても充実していた。
「悪いね。こんな時間まで」
「いえいえ、お金もらえるならいいです。明日早くありませんし」
そんな日々を過ごしていると、日をまたいでも仕事を俺とれんれんはしていた。
今日は3ヶ月に1回行っている棚卸し作業と言う店内の在庫を確認する作業がある。
これは基本的に店長と朝のバイトリーダーが行っている作業なのだが、店長が体調不良、朝のバイトリーダーがどうしても外せない都合があったため、閉店時間を早くして、夜のアルバイトで行っていた。
数えるだけでもなかなか大変で、他のアルバイトも帰ってしまい、ほぼ作業が終わりに近づい0時過ぎには、俺とれんれんだけになっていた。
「後はこの段ボールを片付けてっと、うんしょー!」
「無理すんなって。俺が運ぶ運ぶ」
本が大量に詰まったダンボールは女の子のれんれんではなかなか持ち上げられないようで、俺が運ぶ。
「ほんとごめん……、ほとんど運んでもらっちゃって」
「いいっていいって、普段はれんれんの足を引っ張る側なんだから、たまには力になれないと」
「そんなこともないと思うけどな」
「しっかし、この部屋は暗いな。俺入るの初めてだけどさ」
控え室の奥にある小さな部屋。前から何があるのかとは思ってたが、ダンボールが大量にある暗い部屋だった。
「ここはいわゆる本を控えてある部屋なんだ。うちはお客さんから売ってもらった本で商売するから、どうしても地域で余る本と足りなくなる本があるから、それをときどき交換してるらしいよ」
「にしても、もう少し部屋に工夫はいるだろ」
「綺麗には私がしてるけど、電気つかないし、内側からだとたまにたてつけが悪くて開かなくなるし、そのうち修理を……」
「え、ここ内側からだと開かないの?」
「たまにね。でも大丈夫、そういうときのためにいつもドアにつっかえを入れてるから」
バタン!
「ん?」
「へ?」
れんれんがそう言ったとたん、ドアのほうで音がした。明らかにドアが閉まる音だ。
「ああ! ドア支えてるやつが壊れてる!」
名もないドアを支えるやつが砕けていた。
ドアを俺もれんれんも押してみるがびくともしない。ぼろいくせに無駄にドアは頑丈だった。
「これってさ」
「うん、けっこうピンチ」
俺とれんれんはあきらめの表情を浮かべてその場にしゃがんだ。冷たいし、すわり心地もよくない。
しかし朝までここにいるのは面倒がすぎる。
「3時くらいになれば、セ○ムの人が電話をしてきて、それに反応がなければ、店長に連絡が行くはずだけど」
「それは店長に悪いな……、どうすっか」
携帯は基本的にロッカーに入っていて持ち歩かないから連絡手段もない。これはあれだ、積んでるな。
「……ごめんね。本当ならつっくんはこういう仕事はしてないのに、私を手伝ったからこうなっちゃって……」
「れんれんが謝ることじゃないだろ。今回に関しては誰も悪くない。いろいろ不幸が重なっただけだ。まぁそれより、これ貸すよ。寒いだろ」
れんれんは外の本整理の仕事が多いのと熱がりなので、どちらかと言うと薄着姿で仕事をしているため、俺より着ているものが少ない。もっと早く気づけないところが俺の足りないところだ。
「え、いいよいいよ、そっちだって寒いでしょ」
「いや、どう見てもそっちのほうが寒がってるし。俺寒いのそこまでだし」
「でも……」
いかんな、れんれん全然悪くないのに、妙に負い目を感じているようだ。
「れんれん、こういう感じのことを俺が自分で言うのは恥ずかしいけどさ。俺女の子の前で、ちょっとかっこつけようとしてるんだぞ。それを遠慮されるとさ、逆に俺が恥ずかしいというか、マナー違反というかさ」
「…………、うんありがと」
よかった。自分でこれを言うのは笑われるかと思ったが、素直に答えてくれた。
「じゃあさ、ついでにもっといいかな?」
「何を……!?」
れんれんが何かを言ったかと思うと、彼女は俺の横にぴったりひっついていた。
「こ、こうすればもっとあったかいかなって?」
「……、あぁそうかな……」
いかん、暖かいかどうかもよく分からない。
「わ、私じゃくっつかれても嬉しくないかもだけど……」
「またそういうことを。俺の胸に手でもあててくれよ」
「……え? あ……」
「めっちゃどきどきしてるだろ。れんれんは可愛いって。もっと自信持っていい」
「あ、ありがと……、やっぱりつっくんは、優しいね。私をそう言う風に女の子みたいに扱ってくれるのは君だけだよ」
「それはれんれんの周りのやつが見る目がないだけだって」
「ふふ……、あれ? 何か聞こえない?」
「何かって……誰だ?」
『おーい、もう誰もいないのかー?』
俺達のほかに誰もいないはずの店内に聞こえる少し低めの声。それを聞いた俺達は叫んだ。
「「てんちょー!」」
そして俺達は無事に助け出された。体調のよくなった店長が心配になって来てくれたとのことだった。
「いやー、こんな漫画みたいな展開もあるもんだな。最初はちょっと余裕あったけど、普通にびびったわ」
「そだねー」
いつも以上に遅くなったため、れんれんには断られかけたが、家まで送ることにした。
「全くなー。れんれんなんかずっと真面目にやってんのに、何で悪いことが起こるんだろうな」
れんれんみたいに真面目に仕事をしている人がこのような理不尽な目にあうところが、実に現実の面白くないところだ。
「私はそんなに別に悪くなかったけどな……」
「れんれん、周り静かだからさー。ばっちり聞こえてるって……」
あの状況を悪く思ってないってことはそういうことだよな。俺も恥ずかしい。
「おっとと、乙女のつぶやきは聞こえてもスルーするのが空気の読める男ですぞー」
「そうだな、れんれんは乙女だもんな。俺はちゃんと知ってる。純粋に俺にデリカシーがないんだ。彼女もずっといないし、やっぱこういうところなんだろうな」
「あ、あははー、彼女いないんだ」
「ああ、からっきしだ。でもあきらめないぞ。きっと37くらいになって、財産さえ得ればチャーミングな彼女を手に入れて……」
「……そんなに待たなくてもいいんじゃないかな?」
れんれんが優しく言ってくれる。慰めてくれるのか。優しいな。
「37にならなくてもさ、今とか明日とかに彼女できても困るわけじゃないよね」
「まぁ、そりゃ俺のことを好いてくれて、俺が好きになれる子ならな」
当然のことだ。俺はもちろん彼女が欲しいのだから。
「あ、あのさー、もしかしたら困るかもしれないけど……、私がもし彼女にして欲しいって言ったら……、どうかな?」
「え? れんれんが?」
「あ、や、やっぱり困るよね……」
「い、嫌別に困らんけどさ。えーと、マジなやつ? ちょっと困惑してんだけど」
「…………」
れんれんからの答えはなかったが、その表情や雰囲気で分かる。これは冗談ではない。俯きがちに少し震えながら俺の回答を待っているのだから。
「えーと、返事はこの場でしていいシステムかな? じゃあさ」
「そ、即答ってことは、駄目ってことだよね。うん、ごめんね。アルバイト先の先輩にいきなり言われても困るよね。それに私可愛げないし……、あ、でも告白は本当。優しくて私を女の子扱いしてくれる君が好き」
「いや、れんれんは可愛いって。それに言ったじゃん。困らないって。俺すっげぇドキドキしてるよ。嬉しくてさ。俺も好きだよ」
れんれんが何を自虐しているか知らないが、お世辞抜きで可愛いのである。
「え、またまたー。気遣いとか同情で付き合ったら後悔するよー」
「いや、そう言うのじゃない。本当に好きだ」
「……ひうっ! えーと、信用できないからもう1回好きって言える?」
「好きだ」
「……もう1回」
「好きだぞ」
「あうぅ……でも」
「あーもう、そっちから告白してきたのに、何で俺が振られそうになってんだよ、面倒だ」
「あっ」
俺は言葉はいらないというようにれんれんを抱きしめた。アルバイトでは頼りになる1歳年上の先輩だけど、こうしてみるとちょっと小柄である。
「…………これで伝わるか? 俺の気持ち」
「……うん、分かった。すっごくドキドキしてるのが伝わったよ……よろしくね」
こうして俺に彼女ができたのである。
「あっははー。今日こそはスカートを履いてもらうわ!」
「嫌だー! そんなフリフリは着れない!」
大学終わりでのんびり町を歩いていると、かしましい声が聞こえてきた。
髪の長い女の子らしい格好をした女の子が、髪を短めにしたボーイッシュな格好をした女の子を追いかけている。
「待てー!」
「嫌だー!」
そして俺を中心に2人が回りだした。可愛くていいのだが、対処にこまる。
見た感じ顔はそっくりだから双子かな? というかこの2人……。
「こらー! そんなに騒がしくしたらもう買い物に連れて来ないよ! すいません迷惑をかけて……あ……」
そこに現れたのはれんれんだった。
「あ、れんれん、奇遇だな」
「あ、あうう……グッドアフタヌーン?」
「何で英語?」
そんな明らかに動揺されたら俺も照れるんですが。
「あ、あははーごめんねー。妹2人が騒がしくて」
「ああ、れんれんの妹なのか」
誰かに似てると思ったら、2人ともれんれんそっくりだ。
「お姉ちゃん、この人は誰?」
「ねーさんがいつも言ってるあの人じゃない? つっくんだっけ?」
「ああ、もう紹介してくれてるのか。はじめまして、俺は二階堂銀次郎って言うんだ」
「私は蓮杖恋子です。双子の姉で12歳です」
「私は蓮杖可憐だ。双子の妹で12歳だよ!」
「よろしく、恋子ちゃんに可憐ちゃんでいいかな?」
「よろしく、お兄ちゃん」
「よろしく! にーさん!」
見た目としゃべり方は個性があるが、2人ともれんれんに似て礼儀のある子だ。可愛らしい。
「じーっ」
俺が感心していると、恋子ちゃんのほうが俺とれんれんをじっと見てくる。
「どうしたんだ?」
「何かお姉ちゃんの雰囲気が違う気がする……。仕事と家事しか考えてなかったお姉ちゃんが最近なんか浮かれ気味だったのは気づいてたけど、また1歩上がったような……感じ?」
「えー、何の話?」
恋子ちゃんはなかなかめざといようだ。可憐ちゃんは話についてこれてないようだが。
「そうなんだよなー。れんれん照れちゃって、キスもさせてくれないんだ」
「ちょっと!」
「いいじゃん、隠すもんでもないし、下手に照れたりすると、からかわれるぞ」
こういうときはある程度余裕を見せたほうがからかわれないものだ。
「ふーん、まだそこまでみたいだけど……、お姉ちゃん。もちろん家に来てもらって、お父さんとお母さんにも紹介するのよね」
「う、うん……」
「わー、にーさん家に来てくれるのー。遊んでー」
「え? 俺家に行っていいの?」
「う、うん、そう言う感じになっちゃったみたい」
付き合って2日目にして、なぜかれんれんの家にご招待になった。
「まぁとにかくきちんとしててくれればいいから……」
お邪魔する日の当日。れんれんに不安そうに念押しされた。
「別にそこまで気負わなくていいんじゃないか? 言っても俺達19と20だぞ。大人ってわけじゃないが、すごく子供ってわけでもないだろうし、そこまで揉めないだろ」
「うーんとね、お母さんのほうは心配してないんだけど、お父さんがね」
「何? れんれんのお父さんめっちゃ怖い人? 昔ながらの頑固なお父さんとか?」
「ううん、すっごく優しくて、怒られたことなんてないくらい」
「じゃあ何が心配なんだ?」
「私も恋子も可憐もね、お父さんに溺愛されてきたから、私が彼氏連れて来たなんて言ったら、卒倒しちゃうかも」
「そっか、じゃあまずはいい感じのお友達くらいで話してみるよ」
「そうしてもらえると助かるよー。じゃあはいってはいってー」
というわけで、俺はれんれん宅にお邪魔することになった。
「はじめまして、憐さんとアルバイト先で仲良くさせてもらっています二階堂銀次郎と申します」
家にはれんれんそっくりなまだ若そうなお母さんと、おだやかそうなお父さんがいたので、即挨拶した。
「あらあら、ご丁寧にどうも」
「お兄さんいらっしゃい」
「にーさん、歓迎するよ!」
恋子と可憐も笑顔で迎えてくれて、空気は悪くない。
「2人とも面識があるのね。それにしても、憐と仲良くしてくれてありがとう。この子は同年代の男の子を連れて来てくれるなんて、ねぇお父さん」
「…………」
お父さんが何か上の空だな。どうしたんだ?
「お父さん!」
「はっ、す、すまない母さん。憐が男を家に連れてくるという現実には起こりえないことが起こった幻覚を見てしまった。まだまだあの子は無垢な女の子、異性の友達がいるはずなどない」
「どうも、異性の友達です」
現実というか何も見えていないお父さんに自己紹介する。
「ええ? いる!? あー、君は男装女子だな」
本当にこの人は大人か。小学生以下の発想だ。
「残念ながらお父さんと同じものを持っています」
「え、じゃあどういうことだ?」
「お父さん、落ち着いてください。憐も女の子なんですから、男の友人がいることは何も不自然ではありませんよ」
「い、いつの間に」
「むしろ遅いじゃない。20歳といえば、恋人の1人や2人、セ○レの1人や2人、旦那の1人や2人いてもおかしくないのよ」
「……そうか」
「いやいや、そうじゃないです」
意外とお母さんも大概だな。
「それにしても、憐にとっては貴重なお友達よね。いい関係にはなれそうなの?」
「ええ、それはですね」
「この2人付き合ってるけど?」
「「え?」」
恋子ちゃんがカミングアウトしてしまった。しまった、口止めしてなかった。
「にーさんは本当のにーさんになるんだよね」
「あらあらまぁまぁ。家に来てくれたから、ちょっとそうかもと思ったけど……」
「あわわわわ、これは夢だ……」
「お父さん、残念ながら夢じゃなくて……、この人は本当に彼氏です」
「れ、憐に彼氏はまだ早いだろう。むしろずっといなくていいんじゃないのか?」
すげぇな。俺けっこう大抵のこと大丈夫だけど、これはなかなかどん引きだ。
「は、早いとか遅いとか関係なく好きだし」
「で、でも彼が裏で何かしてるかもしれないだろ。1人か3人殺してるかもしれないし」
「俺そんな風に見えますか?」
「……全然見えない。普通にいい人っぽいけどー! でもさー」
以外と見た目での評価は悪くないようだが、本能的に認めないのか。
「はぁ。お父さん、そんなに私が好きになった人信用できないの?」
「え? うーん」
お父さんが腕を組んで何かを考え始めた。
「私の大事な憐が大事に思っている人……、あれ? ということはいい人? 娘が選んで、見た感じも悪くない。あー、何か大丈夫そうな気がしてきた。娘を末永くよろしくお願いします」
そんなに簡単に納得の方向性に向かっていいのか。
「何かうまくいったな」
「うん、よく分からないけど……」
「やったわ。私についにお兄さんができるのね」
「わーい、遊ぼう!」
お父さんが納得したのを見て、恋子ちゃんと可憐ちゃんに両方から抱きつかれる。
「あ、こら! 離れなさい!」
「嫌よ。私ずっとお兄さんに憧れてたのー」
「一緒にサッカーとか野球してねー」
恋子ちゃんは意識的に、可憐ちゃんは無意識的にだが、やたら俺にベタベタしてくる。
見た目はれんれんと同じだから文句なしで可愛らしいので、ちょっと照れてしまう。
「ぎゅーっと」
特に恋子ちゃんは正面から抱きついてきた。
「こら! マジで離れなさい」
「私お兄さん気に入っちゃった。ねえ、私でもいいんじゃないかしら? 私のほうが6歳年下でお得でしょ。年増なんてやめたほうがいいわ」
「誰が年増だ! 私の肌はまだ20歳成り立てでピチピチなんだ! スキンケア舐めんな」
「わーい、にーさんの上たかーい」
蓮杖家3姉妹に上から横から絡まれて、幸せやら、どうしようやら。
まぁでも、れんれんの家族に認められたのは間違いない。
きっとこれからも、楽しく過ごしていけると、騒がしい中で俺は感じていた。