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ランナーズ・プルガトリィ  作者: 草場 影守
1章 再起動する魂たち
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15話 PES

 考え事の最中ではあったが、大丈夫。

 攻撃は見える。受けて、時間をかせごう。


「え、うわっ!」


 正面から《ブラックナイト》の剣戟を受けた。

 リミッタが外れているはずの《マーベリック》は、相手の力を受けきれず、一歩後ずさり、ひざを曲げてしまう。

 機体性能の差が如実に表れた結果だ。

 整備不全の骨董品に素人剣技。

 そんな機体が現行品、ましてやプログラムによる細緻の剣技に敵う道理はない。


 アレックスの頭の中で、思考が乱立していた。

 どうすれば勝てるか。逃げ道は。応援。槍のGLW。

 首なしの二機。あれが味方なら、相手の背後から攻撃できるのに……。


 なんとか相手の剣をいなし、再び距離をとる。

 HUDに機体損耗率が規定値を越えたと出ている。

 そんなこと、体の痛みでわかっている。


 剣を握る指が、破損した。各関節が痛い。

 唯一無傷なのは頭部くらいだ。

 せめてGLW標準の内蔵兵器、一二・七ミリ頭部機銃くらいあればよかった。

 相手にもついていないようだが。


 こちらの破損状況が相手には筒抜けなのだろう。

 初撃のあと、一向に打ち込んでこない。

 相手としては無傷で手に入れたいはずだ。

 このままこう着状態を維持すれば、時間を稼げる。


 その考えは甘かったことに、アレックスはすぐ気づかされた。

 《ブラックナイト》は無造作に踏み込むと、《マーベリック》の左肩を斬り上げたのだ。

 左腕が宙を舞う。目にもとまらぬ速さ。

 実にキレイな太刀筋だった。


 一瞬、痛みを忘れるほどに。


 背後で、左腕が地面に叩き付けられた。


「ああああああああああ!」


 斬られた肩が焼けるように痛い。

 ひざまずき、剣を取り落とし破損部分を手で押さえる。

 赤く着色されたシリコンオイルと衝撃吸収材が血のように流れる。

 およそ機動兵器がする動作ではない。


 その行動に、相手は動揺を示したようだ。

 切り上げた剣を下したまま、動かない。

 HUDに損害報告。左腕消失。感覚器官正常稼働。

 斬られたのは自分の腕じゃない。頭ではわかっている。

 しかし、その頭が機体との感覚を共有しているのだ。


 こんな機体、兵器として失敗作だ。


 自分を斬った相手を睨みつける。

 燃える赤の目が気に入らない。

 それでなにか変わるわけではない。

 だが、そうせずにはいられなかった。


 この感情が何なのか、アレックスにはよくわからない。

 怒り、憎しみ。

 きっとそのあたりなのだろう。


 感情を揺さぶられるのは、好きではない。

 ただでさえ生物と言い切りがたい自分が、もっと別の何かに変貌してしまいそうな気がするから。


 何か手はないか、痛みの中で思索を巡らせる。

 しかし、ダメだった。

 危機を知らせる電気信号が脳内で暴れ、思考を寸断していく。

 自分ではどうしようもない。


 まだ、左腕を無くしただけだというのに。

 ここで死ねば、少なくとも人の痛みを覚えて死ねる。

 それは、素晴らしいことではないのか?


(違う! また奪われた! 奪われたんだ! 許せるものか!)


 機体と一体化した頭の中で、《マーベリック》内のコードをすべてさらいだす。

 その中に、機能停止中のプログラムを見つけた。

 操縦系統に直結している。

 PES。

 ダメ元で接続を試みる。

 感情に流されるまま、動けと命じる。


「パイロットからの要請を確認。権限がないため要請を却下ししし、しし、ししし……。

 特殊コード割り込みにより権限を譲渡。ロック解放。PES強制起動。

 ヨベルの封印を解除。剣に鞘を、世に平穏を」


 レイチェルの声が頭に響く。

 心なしか、声音が違うような気がする。

 機械感応中は起動できないものだと思っていた。


 HUDにPESオンラインの文字。

 《マーベリック》のデュアルアイが青い燐光を放つ。


 痛みが消える。いや、わからなくなる。

 自分の意志とは無関係に、わき腹の吸気口が貪欲に外気を取り込む。

 ハイドロジェネレータの発電効率が強制的に上がる。

 腰の後ろ、二対下向きの排出(エキゾースト)パイプから、蒸気がまき散らされる。

 化学反応で生成された熱量と水だ。

 現在開発中のGLW搭載型熱併給発電(コジェネレーション)を利用せずとも、発電効率は七八%に達する。


 視界のはじに稼働限界の警告が表示されるが無視する。

 機体の外へと意識が流れる。

 赤目の一機。この子はだめだ、入れない。でも残りの二機。

 この子たちは、空いている。

 何ができるのか、わからない。でも、何をしたいかはわかる。


「あの二機を使いたい。できる?」

「ハロー、アレックス。すべてはあなたの命ずるままに」


 電子音声は、アレックスの考えを肯定した。

 反撃の時間だ。まずは観客を舞台に引きずり上げる。


 意識が、《マーベリック》を通し首なし二機をとらえた。

 不思議だ。体はここにあるし、意識もここにある。

 でも、あの二機にも自分がいる。


 視界が、《マーベリック》を含めた三機分の視界が自分にあった。

 原理なんてわからない。でも、できる。

 確信がアレックスにはあった。


 二機同時、コクピットにいるパイロットから操縦権限を奪う。

 ADMフレームの中枢、脊椎ユニットはこちらの手の内だ。

 狭い機内で慌てふためく様子が、制御モニタ越しのカメラから見て取れる。

 顔は認識できないが、さぞ驚いていることだろう。

 ざまぁみろ。


 戦闘を見物していた首なし《ブラックナイト》二機は、一度身震いを起こすと虚脱し、うなだれた。

 その様は実に人間的な動きだった。

 もげた首元から、《マーベリック》の両眼と同じ青い燐光がこぼれ出し、靄のように漂う。

 それはまるで、頭部を形作るかのように首へと収まっている。

 全能感が、アレックスの心を満たしていく。

 先ほどとは比べ物にならないくらいの高揚。


「これでキミたちは僕のもの」


 アレックスの口から発せられた言葉は、蠱惑的な響きを伴っていた。

 うなだれた二機は、見えない糸で操られるかのごとく、行動を開始する。


 脊椎ユニットに出力強制解放を指示。

 《マーベリック》にはない燃料電池用過給機(スーパーチャージャ)が動作し、圧縮された空気が水素との反応効率を向上させ、生み出される電力が各人工筋肉に限界を超える出力を与える。

 蒸気が排出されない。

 どうやらコジェネで更なる発電効率の上昇を加味された機体のようだ。

 一般の技術より進んでいる。今はそんなもの、関係あるものか。


「さぁ、人形劇の始まりだ」


 アレックスは武器を持たない首なしに、眼前の敵を後ろから羽交い絞めにさせた。

 突然の仲間の奇行に、対処に困っているようだ。

 無理やり引きはがそうとしない。

 もっとも、機体限界を超える出力だ。

 同型機ならば、そう簡単には振りほどけはしないだろう。


「キミもおなじにしてあげる」


 もつれあう二機の前に、剣を携えた首なしを進ませる。

 その狙いは首ありの左肩関節。

 上段に構えた剣を力いっぱい振り下ろす。

 剣技と呼べるような出来ではない、ただの一振り。


 当然ながら狙いは外れ、剣は左肩口を砕くにとどまった。

 硬いコクピットフレームに阻まれたのだ。

 刃筋もなにもない、これではただの打撃だ。


「硬いね。じゃ、もう一回!」


 《ブラックナイト》は機体各所から過度の排熱を繰り返し、もう一度剣を振り下ろす。

 今度は肩関節が根こそぎ引きちぎれた。

 ようやく切断できた。手間を取らせる。


「……ははっ! 楽しいなぁ!」


 次はどうしてやろうか、今なら何でもできそうだ。

 操り人形は機体の限界が近そうだが、まだ使える。

 そうアレックスが思案していると体が衝撃を受けた。


 視界が、地を空をと回転していく。

 《マーベリック》は中空に吹き飛ばされ、地面を転がる。

 過度の損傷による演算負荷を抑えるため、システムがセンサをカットしていく。


 宙を舞いながら見えたものは、大盾。


「次は、お前か」


 やられたら、やりかえす。そう心に決めた。

 仕方ないなどと、受け入れてなるものか。


 その決意とは裏腹に、機体は燃料を使い果たし動きを止める。

 にらみつけることも叶わず、視界がブラックアウトする。

 《マーベリック》、機能停止。

 

 アレックスの人生初のGLW戦は、敗北に終わった。


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