13話 戦端は開かれた
もっとも警備が厳重であるはずの基地正面を、悠然と闊歩してくる一体の黒いGLWに、ユンカースは感嘆した。
実に豪気だ。
警備の人員もすべて地下へ避難させた。
今地上にいるのは、ランナーのみのはず。
やはり資金、人手共に不足だからと言って警備にGLWを配備しなかったのは失敗だ。
まさかといった事態がこうして起こる。
今後の方針に役立てるとする。
飾りとはいえ、役職をこなさなければ。
ユンカースは面倒な考えをため息と一緒に吐き出した。
思考を戦闘へと切り替える。
確認されている他の五機は見当たらない。やはり散開したか。
対するユンカースも一機。僚機はすべてほかに回した。
基地正面から攻めてくる者がいれば、それはとんでもない大馬鹿か、まごうことなき傑物か、だ。
前者なら速攻で片をつけ、他の援護に向かう。
だが、後者ならば。
「なんと!」
敵機、黒のGLWは立ち止まると左手で右腰の剣を抜き、切っ先を天へ向けたまま、眼前に掲げた。
剣礼。
間違いない。
相手は大馬鹿で、傑物だ。
騎士道精神を振りかざしたいのか。ユンカースは興が乗った。
こちらも登録してあるマニューバ、剣礼をし、機械槍を両手で構えなおす。
このようなマニューバは標準装備されているわけではない。
自分で追加しているのだ。
こういった特殊動作の有無で、相手の力量を推し量ることもある。
実に馬鹿らしいことだ。
故に双方、戦場に礼儀を持ち込む時代遅れ。
こちらの返礼を見届けると黒の敵GLW、いや、《所属不明の騎士》とでも呼ぶべき相手は右腕、黒塗りの大盾を構えた。
あの大盾、五五ミリ通常弾頭では抜けない。
機動力がウリのGLWに超重の盾を装備するなど、正気の沙汰とは思えない。
だからこそ侮れない。
相手は動かない。こちらの動きをうかがっているようだ。
大盾は、バックパックと肩装甲に補助稼働腕で固定されている。
どういった戦法をとるのか、心が躍る。
「いかん、いかん。悪い癖だ」
表情が、自然と緩んでしまう。
GLWの戦闘は、命のやり取りの中、相手の顔が見える。
もちろん、本当に顔が見えるわけではない。
だがGLW、ひいては人型戦闘機械による戦闘は人同士が戦っているという事実を、まざまざと思い起こさせてくれる。
通信等なくても、だ。
特に白兵戦では、相手の意志、感情、果ては息遣いまで感じられるという。
人同士の決闘。その強化、拡大。
それが廃れつつある、GLWの白兵戦だ。
「一筋縄ではいかないか」
相手は白兵戦、命の価値、命のやり取り、その楽しさを知っている。
楽な相手ではないだろう。通信を入れる。
「皆、すまん。しばらくはそちらに向かえん」
通信機が反応しない。
視界モニタ内、《ブラックナイト》のデュアルアイが赤く光を放っている。
ジャミングの類だろう。
「無粋だったな」
そうだ、浮気はよくない。
目の前の相手から気をそらすなど、昔のユンカースにはあり得なかった。
年をとったせいだ。いろんなことを考えるようになった。
考えることなど何一つなかったのだ。この機体はなんだ?
〈獰猛なイノシシ〉だ。
突っ込んで、突っかけて、突っ切ればいい。
外部スピーカを起動し、宣言する。
「我はペネトレイター・ユンカース! いざ往かん!」
先に動いた方が負ける? そんなやつは負けていろ。
先に動き、先に勝ちを取る。
そうして生き残ってきた。それだけが自慢の戦い方だ。
脚部駆動輪が全力で回転し唸りを上げる。
大地を砕きながら、獲物めがけて突進する。
牙は槍。獲物を寄越せと、風を切る。
その穂先はしかして相手を貫くことなく、大盾の縁によって左に逸らされた。
大した技量だ。
《ブラックナイト》が振り上げた左剣を《ランケア》の頭部に振り下ろす。
「ほう! だが甘い!」
槍は逸れた。それがどうした。イノシシは、その程度では止まらない。
逸らされた槍は流れるまま、右手を放し、左手一本でささえる。
その流れを殺さず、身をひねり、右の肩装甲を大盾に突き出す。
渾身の体当たりだ。
衝撃が互いの機体を揺らす。
《ブラックナイト》は倒れることこそなかったが、一〇メートル以上後ろに弾かれる。
大地に一対の轍が刻まれた。
あれほどの衝撃を受けてなお、バランスを崩さない。
SWSの優秀さがうかがえる。
「油断されてはなぁっ!」
距離が離れた《ブラックナイト》に槍を投げ放つ。
機械槍と呼ばれる所以。
投げられた直後仕掛けが展開し、推進器が表れ噴射が始まる。
槍は噴進弾のごとく飛翔する。
すぐさま体勢を立て直した黒色の騎士は、その剣でもって飛来する槍を打ち壊した。
突進で気絶しなかったとは、たいしたものだ。
ユンカースは、ますます楽しくなる。
基地内部から、散発的に爆発音が響く。どうだっていい。
バックパックから二本目の槍を取り出す。あと二本だ。
「あと二本分は、楽しませてくれるな?」
聞こえるはずもない。
だが、その言葉に答えるように、《ブラックナイト》は大盾を構える。
良い、実に良い。
退かず、怯えず、向かい来る。戦いとは、こうでなくては。
相手が襲撃者だろうが、騎士くずれだろうがなんでもいい。
今、この場は二人だけの決闘場だ。
《ブラックナイト》、そのうちの一機が目標を求めて基地をさまよう。
若きランナー、ジョッシュ・テイラーは不満に満ちあふれていた。
原理はわからないが、この機体に搭載されているという機能、AESエフェクトによって火器管制装置等、一部の電子制御部品を使用不能にできる。
そうなれば、敵GLW〈ヴァンガード〉は大した抵抗も出来ないまま、破壊できてしまう。
それは卑怯者の所業だ。
高周波ブレードも、FCSをロックされてしまえばただの薄剣となる。
眼前の〈ヴァンガード〉がこちらに銃を向ける。無駄なことだ。
そもそも《ブラックナイト》がロックオン対象にすら入っていないことに気付いているのだろうか。
AESエフェクト発動中は、レーダー誘導でこの機体を感知できない。
目視によるレーザー誘導であれば話は別だ。
そのため、まずは相手の頭を潰す。
人型兵器の頭部は目標捜索装置が搭載されることが多い。
それは高さ、可動域に優れるためだ。
いや、違う。人の似姿にしたいためだろう。
テイラーはそう結論付けた。
頭には目が欲しいのだ。そうでなくては気持ち悪い。
現に、ADMフレームは標準で頭部にシーカーを内蔵する領域が確保されている。
〈ヴァンガード〉が銃を捨て、高周波ブレードを抜いた。
その判断は妥当だ。頭部内臓の対空機銃では効果が薄い。
だが、無駄。
ブレードは振動しない。FCSを阻害しているためだ。
もういいだろう。未知の相手に、よく立ち向かった。
諸兄からすれば、我々の装備は卑怯でしかない。
テイラーは〈ヴァンガード〉の頭部を剣で切り落とし、そのままの勢いを殺さず、両足の駆動輪を操作し、自機を一回転。
敵機の両ひざを薙いだ。
両足をひざから失った機体が、バランスを失い倒れる寸前、胸部を手で押し、仰向けに倒れるようにしてやる。
これで脱出がしやすいだろう。
基地施設はあらかた制圧してしまったようだ。
航空輸送機があったが中は空だった。当然すべて破壊した。
目標を運び出されては困る。
こんなものは戦いではない。我々は誇りある騎士となる身だ。
殺戮を楽しむようなやからでは断じてない。
先ほど倒した機体を含め全員、無事脱出まで確認した。
他の同志たちがどうかは知らないが、自分はこのやりかたを曲げるつもりはない。
隣接する二つの建物を見つけた。格納庫だろう。
ハンガーが見える。テイラーは確認しに機体を動かす。
中には三機、〈タイタン〉が残っていた。
旧型機ではあるが、念のため破壊する。
左腰から剣を抜き、コクピットを貫く。脊椎ユニットに阻まれ貫通はしない。
そのうちの一機が待機状態だったようだ。
剣を差し込んだ断面から、火花が見える。
ハイドロジェネレータで動くGLWは、自爆用の炸薬でも積んでいない限り、破壊されても基本的に爆発しない。
環境に優しい兵器という売り文句まである。皮肉なものだ。
格納庫を出て、隣の建物へ。倉庫だろうか。
あった。
降着姿勢のGLW一機分が、十分収まるコンテナだ。
中身を確認して信号弾を撃とう。
今のところ、AESエフェクト中は敵味方共に光通信しか使用できないのが難点だ。
コンテナ側面、GLW操作用の開閉ノブを回す。
周囲を警戒しながら、ゆっくりと展開するコンテナを眺めた。
間違いない。
灰色の、細身の人型形状。
これだ。
テイラーが念のため、さらに近づいて確認しようとした矢先。
「《マーベリック》、発進!」
頭部からの視界モニタが死んだ。
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