其の七
母は事の次第を娘に伝えた。勿論、一部は伏せて。
そして。男が川辺にやって来た。あれから、ずっと考えた。答えは出た。でも、確証が欲しかった。だから来たのだ。川辺に女は居なかった。代わりにあの時の少女が立っていた。
「答えは出たの?」
暫しの沈黙の後。
「・・・多分。違うかもしれないけど――」
そうであって欲しいと思うと男は言った。
「そう。なら早く行きなさいよ」
でも、と男が言う。
「でもじゃない!男が一度そうと思ったなら――」
――とっとと行動しや。
はっとして辺りを見回す。あの女の声が聞こえた気がした。矢張り居ない。気のせいか。
少女に言われて男は何かを決心した様だった。
そして立ち去って行った。
『――言きおったか』
ふう、とため息を吐く。でもそれは今までとは違ったものだった。
「もう見えへんの?」
ひょっこりと娘が顔を出す。
『・・・そうみたいやなぁ』
女は其処に居たのだ。
けれど、男にはもう見えない。
「何で見えんくなったんよ」
母に問う。
『死にとうなくなったんやろ。ま、これで終わりやな』
「何でやの。ずっと死にたがっとったのに、何で突然。それに、あの兄ちゃんが生きよとしても於ゆねって人は死にたいんやろ?」
何も解決してへんと娘は不思議そうに問う。
『あぁ、ええんよ。於ゆねさんを生かすも死なすも、全部あの人次第やねんから』
「けど、もし死んでしもたら・・・」
『まぁ、そうなるかもしれへんな』
あっけらかんと母が言う。
「せやったら・・・」
『けど、そうならんかもしれへんな』
「結局判らんのやんか」
『せやな。もしあの人がこれから何かしらの行動して、その結果二人が一緒になったなら、それでええんや。けどな、もし結果そうならんでも、もう如何しようもなくなっても、そん時は二人で一緒に死んだらええ』
なんでや、と更に喰いつく。
「そうならんよにするつもりやったんちゃうん?二人が死なんよに、死んで終わりで、それでええの?」
何故か泣きそうな顔になっている。死んで、それでもいいと言う母の言葉が納得出来なかったのだろう。悪い人間ならばそれも仕方ないと思う。でも、あの二人は何も悪いことはしていない。無理矢理引き裂かれてしまっただけなのに。それなのに――。
『私等はあくまできっかけを与えたに過ぎんのや。これから何をするかはあの人次第。無理矢理にでも於ゆねを攫って駆け落ちでもするかもしれん。勿論二人で生きて行けるのならその方がよっぽど良ぇ。けど旨く行くか如何かは判らん。最悪そうなってもそん時は二人で死ぬやろう。私はな、あの人等を一人で死なせたくなかっただけや。好きな相手と離れ離れになって、そんで死ぬくらいなら、二人一緒の方が良ぇんよ。一人で死んで一人で苦しむよりも、二人で一緒に苦しんだ方がよっぽど良ぇ。そう思ただけや』
せやから、私等の出番は終わりなんよと答える。空を見上げている。
娘にはよく判らない答えだった。
ところで、と母が話題を変える。
『お前、何を心配しとったんや』
何がと娘がそっぽを向く。
『お前、私があの男を好きんなったと思うとったんやろ』
含み笑いをしながら娘を見る。
「別にそんな事あらへんもん」
見透かされていた。顔は膨れている。
『心配せんでもあんなん私の趣味やあらへん。それにな。私が好きなんは今も昔も、これからも只一人――』
お父ちゃんだけやと笑った。
娘はその後三日間口を聞いてくれなかった。




