其の六
『嘘やよ』
取り敢えず、微笑んで誤魔化す。まぁ平素の事である。
「う、そ?」
『そうや。私は女郎やないで。私はまぁ、平治さんの知り合いでな。あんたの気持ちを確かめに来ただけや。ごめんなぁ』
変わらずに微笑んでいる。
於ゆねは信じていないようだった。眼がそう言っている。
『し、信じてへんね?』
「女郎じゃないなら、どうやって此処に来たのよ」
完全に疑われている。女が自ら遊廓に来るなど通常は在り得ないだろう。
先程の自分の行動を後悔する。ため息をついた後、しゃあないなと言って女の後ろを指差す。
恐る恐る女は振り返る。その先に在ったのは先程まで自分が見ていた鏡だった。振り向いた自分が映っている。けれど――。
『――私はもう死んどるんよ』
聞いた途端に後ずさり、がたがたと震えだす。
『あ、そうやない、別に怖がらせるつもりはないんよ』
ごめんな、ごめんなと何度も謝る。
そして、自分が来た理由を告げる。
『落ち着いたかえ。私はあんたに何かしよ思て来たんやない。その、平治さんの事で来たんや』
――真逆、あの人に何かするつもりでは。
「お願い、あの人には何もしないで!私なら如何なってもいいから、だから・・・あの人は、あの人だけは・・・」
その名を聞いた途端に青ざめ、必死で訴える。眼は濡れたままだ。
『ああっ、違うんよ。そうでもないんやて。ええか、良う聞くんやで。私が来たんはあんたの気持ちを確かめたかったからや』
口調は矢張り優しい。
「妾の、気持ち・・・?」
確かめて如何すると於ゆねは問う。
『そら勿論、あの人に言うわいな』
当たり前の様に女が答える。
「そんな、今更・・・」
『今更?もう遅いとでも言うんか』
「だって」
女は手切金を受け取っている。
『そんなら聞くけど、なんで受け取ったん』
それは――。
「妾が一緒じゃ、あの人が不幸になる」
女は顔を伏せる。
「そう言われたんか。あの人の父親に」
片や旅籠の若旦那。片や只の女郎。
『ま、言われてもしゃあないわな』
「そこまで判っていて如何して・・・」
『ただのおせっかいやよ』
笑いながら答える。
――どうせ死ぬなら。
「え?」
『どうせ死ぬんなら、好きな相手と一緒の方がええやろ』
「な・・・」
何を。
『一人で死んでもつまらんでぇ』
言った女の顔は笑っていたが、於ゆねには少し悲しそうに見えた。
『死にたいんやろ?』
「如何して・・・」
そら判るわぁ、と女は続ける。
『死にたくない奴に私は見えへん』
きっぱりと言う。
――ならば。
「それじゃあ――」
――あの人も。
「死のうと――」
そうやろなぁと溜め息を吐く。
『だから、な。どうせ死ぬんなら――』
二人一緒の方がええやろと女は笑った。
『せやから、もう少ぉし待ってみぃや』




