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其の五

――あの日、どうしても自身の眼で確かめたかった母は、自ら花街へと赴き、於ゆねを探した。さすがに女であるから、花街に入るのに抵抗はあったが、それでも確かめたかった。幸いにも、誰にも見えない為に忍び込むのは簡単だった。というか、堂々と道の真ん中を歩いて行った。

遊女たちが客を引いている。彼女達が今の自分を、遊女でない女が往来を歩いているのを見たら如何思うだろうか。そんな事が頭を過ぎった。答えは出なかった。否。あまり考えたくなかった。

問題は、街の何処に於ゆねが居るのかという事だった。

はっきり言って、それについては何も考えていなかったのだ。人にも聞けない為、最終的には虱潰しに一人ずつ確かめて回ろうとも思った。思った直後、街の広さと、何人も、それこそ何百人もいる女達を見て、自分の考えが甘かったと思った。確かめる為とはいえ、毎度毎度情事の最中に覗き込むのも如何かと思う。しかし、それもすぐに道が開けた。男達の会話が聞こえて来たのだ。会話の中に確かに於ゆねという名が出てきた。そこから後は男達の後を尾けて行った。どうやら、於ゆねは特別に美人という訳ではないが中々に人気はあるらしい。そこから先の会話は女である自分には少し辛かった。どうであれ、於ゆねの所まで辿り着いたのである。

男の一人がゆねの元へ向かう。気は進まないが仕方なく後に続く。

情事の最中、部屋の前で女は待っていた。中からは声が聞こえて来る。聞きたくは無いが聞こえてしまう。青白いはずの顔は真っ赤だった。いい歳をして何をとも思うが、誰にも見られてはいない事が唯一の救いだった。何故か自分が情けなくなる。

――何でこんな事しとんのやろ。所詮は他人事やのに。阿呆らしい。帰ろか。

などと思っている内に、中から男が出てきた。

――ま、しゃあないか。

思い直して中へ入る。声は掛けず、勿論戸は開けもしない。先程まで此処で、と思うと矢張り帰りたくもなる。とはいえ、此処まで来たのならば、確かめなければそれこそ阿呆だろうとも思う。

部屋の中で、於ゆねは鏡に向かい、乱れた髪を梳かしていた。次の客のためだろうか。黙って後ろに立ってみる。矢張り鏡には映らない。声を掛ける。

『於ゆねさんやね』

突然呼ばれて驚き、振り返る。

其処に居たのは真っ紅な着物の黒髪の美しい女。

「だ、誰?」

動揺は隠せない。相当驚いたのか、身を引いている。

「・・・あなた、一体誰?いつの間に・・・」

同じ店にこんな女が居たであろうか。

――矢っ張り見えるんか。

女の勘は当たっていた。此処まで来て見えなかった時はそれこそくたびれ損だったけども。

『驚かせたらごめんやで。ちょっとなぁ聞きたいことがあるんよ』

時間は取らせんよってと於ゆねの傍に座る。そして、あの名を口にする。「如何してあの人を・・・」

言ってはみたものの、考えてみれば簡単な事である。

この女が自分と同じ女郎なら、知っていても不思議ではない。けれど、自分だけ、と思っていた。否、思いたかった。でも、あの人もそう言った。もしかしたら、自分と出会う前の事かもしれないし、あの事の後かもしれない。それとも・・・少し寂しくなってくる。でも、一体自分に何の用なのだろう。思い当たる節が無かった。

『実はな、最近なってあのお人は私の客なったんやけど・・・どうやら気に入られたらしくてなあ身請けしてくれる言うんよ。けど――』

嘘である。その先にはまだ、迷惑なんや、あんたはどないして断ったん、と続く筈だった。けれど、そこまで聞く前に目の前の女は泣き出してしまった。

――あかん。ちぃと意地が悪すぎたか。

実は別に考えがあっての事ではなく、単に先程までの恥ずかしさの仕返しのつもりであった。八つ当たりもいい所である。

しかし、これで確信した。

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