表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

其の四

「これでいいの?」

気だるそうに少女が歩いてくる。

「於珠ちゃん、演技旨いね」

巫女姿の少女が先程の少女に近づく。

「・・・なんで私がこんなこと」

あまり乗り気では無かったらしい。しかし、借りがあるから嫌とも言えず、仕方なくやっただけの事であった。勿論、この程度で返せるとも思っていなかったが。

「・・・で、これでどうにかなるのかしらね」

「さぁ、あのおばちゃんの考えてる事はようわからんわ」

繰子が答える。答えにはなっていないけれど。

ところで、と少女が繰子を見る。

「何やの」

「あんた、何拗ねてんのよ」

「べ、別に拗ねてへんよ」

あからさまに動揺している。仮令二人の会話の半分しか聞こえていなくとも、於珠にはそれが判った。ここ最近の繰子を見ていれば当然だろう。

「わかった、あんた、母親盗られたみたいで寂しかったんでしょ?」

意地の悪そうな顔をして聞く。

「ちゃうもん、そうやないもん!」

心の中を見透かされたような気持ちになる。それもある。けれど――。

本当は。娘が本当に心配していたのは。

「ま、いいわ。そういえば、あんたの母親、いつ於ゆねさんに会いにいったのよ。ってか、何で会えたのよ」

尤もな質問であった。さすがに少し可哀想になって話題を変えたのだが、言ってみて何故会えたのかと改めて不思議に思う。

「う?この間、聞き込み行った夜とちゃうの?なんや夜こそこそと出てったみたいやし。何で会えたんかは知らんけど」

――別にこそこそなんてしてへんで。

背後から母の声が聞こえた。予想していなかったためか、娘は必要以上に驚いた。

「驚かせんでよ」

『なんやの、人をお化けみたいに』

「おばけやろ」

当然の突っ込みである。女は、既に死んでいるのだ。だから、生きている人間には見えないし、声も聞こえない。けれど、これから死ぬ人間には見えてしまう事があるらしい。「本当に会ったん?適当言うてるだけやないの?」

本当やと母は言う。

「じゃ、なんで会えたんよ。真逆、その於ゆねさんがもう死んでたとか言わんよね?」

疑り深い眼で母を見る。

『違う、違う。あんな、その女もな。同じやってん」

死んでたんやんかと娘が言う。

『だから違うって。同じなんはあの男とや。於ゆねさんも死のうと思うてたんよ。だから会えたんよ。本当はなぁ、それを確かめに行ったんや。もし、本当にあの男に心が無いんなら普通に私に気付かんやろ。けど気付かれてしもたからなぁ』

難儀なもんやとため息をつく。

「じゃ、手切金はなんで受け取ったんよ。好きならなんで受け取るんよ」

さっぱりわからんわと不思議そうな顔をする。先程、於珠がしていた演技も――殆ど素ではあったが――繰子が母に言われた通りに於珠へ伝えたのだが、肝心な部分をまだ聞かされていなかった。

『それはなぁ、好きやからこそや。好きやったからこそ、あのお人の父親に頼まれた時、嫌とは言えんかったんよ。於ゆねは女郎やからな。女郎と一緒にれば悪い噂が立つ。そうなれば客も減る、だから今回の事は無かった事に、てな。優しかったんやね。けど――』

本当、難儀なもんやと繰り返す。

「そんで受け取ったんか」

少女は漸く納得したらしい。尤もなんで女郎だと悪い噂が立つのかはよく判らなかったが。

――ま、それだけやないんやろけどな。

ぽつりと母が口に出した。

「他になんかあるん?」

「ん、まぁ、な。お前にはまだ早いよってに。そのうちな」

一体なんやのと娘はまた拗ねた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ