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其の二

二人の少女は聞き込みを開始した。

取り敢えず母からは名前と在所だけしかその男の情報は得られなかったが、その近辺で手当たり次第に聞き込みをしてみた。どうやら、その平治という男は花街のゆね(・・)という女郎に嵌ってしまったらしく、通いつめた挙句、身請けするとまで言い出したらしい。しかし、父親がとても厳しい人物らしく、そもそもまだ身代も譲られていない為、いずれ自分の物になるとは言え、身請けるだけの金が自由にならなかったらしい。結局、平治の知らぬところで於ゆねには手切金が渡され店にも入れなくなったらしい。旅籠の近くの土産屋の女主人が噂好きで、殆どのことはこの女主人が教えてくれた。子供に花街の話をするのもどうかと思うが、実際に聞いたのは於珠であった。繰子よりは歳も上な為、聞きやすかったのだろう。


「なあ、花街ってなんやの。偶に聞くけど、何する所なん」

名前は知っていても実際何をする所までは知らなかったらしい繰子が於珠に尋ねる。

「子供は知らなくていいの」

冷たくあしらう。というか於珠もどう教えて良いのか判らなかった。

「とにかく、好きな女に会えなくなるぐらいなら死んだ方がマシって事かしらね」

簡潔に纏める。最後に情けない男と付け足す。

「そんだけ好きってことなんかなぁ。よぉわからんけど、その於ゆねって人はどうやったんやろね」

「どうって何が」

「その平治って人の事、どう思ってたんやろ。嫌いやったんかなぁ」

「それは・・・」

於珠には、好きとか嫌いとか、そういう事ではない様に思えた。於ゆねにしてみれば何人も居る客の中の一人であり、特別な感情など無かったのでは無いのか。事実手切金まで受け取っているのなら、考えるまでも無いだろう。確実に身請け出来るだけの甲斐性があるというのなら話は別だろうが、それが無いからこうなっている訳である。

「ま、私ならそんな男はごめんだわね」

なんでやの、と繰子が聞く。

「だって、会えないからって死のうとするのよ。本当に好きなら、死ぬくらいならもっと色々出来るでしょうが」

「色々って」

「駆け落ちとか、攫うとか、色々よ」

言っておいて相手にその気が無いのなら駆け落ちは無理かと思う。

「攫うって、そら犯罪――」

「だって、死のうと思うくらいならそれくらいするでしょ。普通」

――死んだら本当に二度と会えないんだから、と言葉には出さなかったが、そう思った。姉の事を思うと自分の考えが矛盾しているとも思う。否、姉の事があったからこそ、そう思うのだろうか。だからと言って攫うような男もどうかとも思うし、他人に危害を加えない分、自分で死んだ方がマシだとも思う。どちらにせよ、自分には当面関係無い事だとも思う。

繰子は、なるほどなぁと感心するばかりだった。

「ま、取り敢えず、大体の事情はわかったから帰りましょ」

これ以上聞き込みをしてもそれ以上のことは判らないから、という判断だった。

「んじゃ、何買って帰ろ」

既に繰子の興味は別の所にある様だった。



聞き込みを終えて戻って来た二人を母は出迎えた。帰って来るなり早速、どないやったと聞いて来る。矢張り、どうしても最近の母を娘は気に入らない。

「今日は行かんかったんか」

ふてくされた様に娘が問う。

『あぁ、様子見や。詳しいことが判るまではな。で、どやった?』

ふてくされたままの娘が聞いてきた事を伝える。

『そおかぁ。そういうことかぁ』

娘の言葉を聞くなり、何かを考え始めた。暫くの間黙ったままだった。

――一体何やの?人がせっかく聞いてきたったのに。礼も無しかいな。

言葉には出さなかった。実際聞いたのは繰子ではなく於珠であったのだが。それでも面白く無い。

『良っしゃ。』

母が突然立ち上がる。しかし乍ら娘は別段驚く素振りは見せなかった。

「・・・結局行くんか」

ぼそりと言う。

『しゃあないわな。姐さんが一肌脱いだるわ』

「そんなおばちゃんの肌なんか誰も見たないわ」

反射的に突っ込んでしまう。突っ込まなければよかったと後悔する。

そして母は、も一つ頼みが有るんやけどと無駄に可愛い仕草で娘を見る。

「嫌や」

『そぉ言わんとぉ。簡単な事やから』

さらに無駄に可愛い仕草を作り娘に近づく。

「嫌や言うてるやろ」

娘はそれを必死で拒む。

『しゃあないなあ――』


結局、物に釣られてしまった。


その晩。母は何処かへ出掛けた様だった。



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