魔王様が生く~女神の剣が生まれた日~
連載の魔王様が逝く~勇者を率いて邪神狩り~のクレアとアリアの馴れ初め?的なものです。
そこはどこまでも白い空間だった。どれ程時間が経っただろうか?自分が何者か、ここはどこか、何時からここにいるのか、何時までここにいるのか、何もわからない。
記憶が何もない。ただずっと、どこまでも何もないこの空間を漂っている。もう時間の感覚もなかった。
この日もいつもと変わらないと思っていた。
この日が絶対に忘れられない、忘れてはならない、そんな大切な日になるとは知らず。
この日出会った人が守りなくて、ずっと、笑顔を見ていたくて、泣いていたらその原因を取り除いてあげたくて、ずっと、一緒に笑いあって過ごしたいと思う。大切な大切な人になるとは知らず。
この日も漂っていた。いつもと変わらなかった。彼女が現れるまで……。
この日俺の全てを与えてくれた。自我も名前も--これからの未来も……
◆◇◆◇◆
「あなたはどうしてここにいるのですか?」
それは彼がかけられた生まれて初めての言葉だった。何処までも白い空間でずっと一人で……。ずっと、立っていた。いつ終わるのかわからない永遠にも思えた時を。
「わからない」
そう言う他に選択肢が無かった。突然目の前の空間が揺らいだと思えば目の前に現れた少女。長い金髪を揺らしながら地面に降り立つ姿はとても美しく絵になっていた。彼女は何かを探す様にキョロキョロと辺りをみまわしている。
彼が見惚れていると。彼と少女の澄んだ蒼い瞳と視線が合う。そして、かけられた言葉が先程の問だった。
「そうですか……。私はアリア。運命と生命を司る女神です。あなたの名前は?」
そう聞かれても、彼には名前が無かった。……名前を呼んでくれる相手が今までいなかったのだから、必要もなかった。
「……わからない、何もわからない」
「そうですか……記憶も無いのですね……」
アリアは悩むような素振りをし、
「名前が無かったら不便ですね。--『クレアシオン』ってどうでしょうか?これからの未来を自分で創り上げていけますようにって--って、どうしたんですか!?」
彼の目から涙がこぼれ落ちていた。
「--ッ!?わ、わからない。水滴?止まらない……」
彼は動揺していた。何故目から水滴が溢れてくるのか?--彼には感情の起伏が無かった。何もなかったからある意味当然かもしれない。感情を揺さぶる物がなかったのだから。
彼は----クレアシオンは徐々に意識が感情がココロが鮮明に成ってくるのを感じていた。名前は外界から個を切り離し、個を確立するためのものだ。彼は女神と出会うことによって、彼女に『クレアシオン』と、名付けられたことによって初めて、外界----白い空間の呪縛から解き放たれることができた。
「やはり、あなただったのですね。……消え入りそうな声で呼んでいたのは……」
アリアの呟きは彼には届いていなかった。
「それで、これからどうしますか?」
「どうするって?」
「あなたには選択肢が二つあります。一つは転生すること。記憶を消して新しい生をうけ--」
「嫌だ!!……止めてくれ、無くしたくない。あなたに貰った名も、この記憶も……」
先程まで、感情が乏しかった彼だが、記憶を消す、と言う言葉に過剰とも思える反応を示した。
「--では、もう一つの選択肢ですが……。止めにしましょう。クレアシオンさん。私の元で働きませんか?」
「働く?」
「はい、神界で神に仕える天使として」
神界----創造神を頂点とし、最上級神、上級神、中級神、下級神が住む世界。神は数多くある創造神が創造した世界を管理するのが仕事だ。神には世界を管理するためにその世界の神域に住む管理者と神界に住む神がいる。両者の共通の仕事が邪神から世界を守ることだ。人の負の感情から魔族--悪魔や魔王--は生まれる。そして、魔族の信仰心から邪神は生まれ、邪神は負のエネルギーから眷属の魔王を生み出す。ただ、自分たちの欲のために、人を堕落させ、欲のままに動かしたり、恐怖や絶望を与え、負の感情を喰らう。そんな邪神から世界を神と共に守るのが天使だ。
だが、戦うことが全てではない。人びとを教え導き、堕ち無いように、魔族が生まれないように、人びとが苦しま無いようにするのも神と天使の仕事だったりする。
「どうしますか?」
「--働かしてくれ。女神様には、名前の恩がある。それに--」
--ずっと何もない永遠という呪いから、救ってくれた。
途中で言葉を切ったクレアシオンを不思議そうに首をかしげるアリア。
「--働かしてくれ」
「わかりました。それではあなたに身体を授けましょう」
「……え!?」
「あなたは今、魂だけの存在ですよ」
彼は気がついていなかった。自分に実体が無いことを……。あるいは、忘れていた。それほどまでにここにいる時間はあまりにも永すぎた。
「では、あなたに身体を授けます」
そう言うとアリアは彼に----冷たく光る青白い魂に両手を伸ばした。包み込む様に両手を掲げると、
「生命を司る女神アリアの名のもとに永久に捕らわれしこの魂に名と器を授けます」
手のひらから蒼い魔法陣が浮かぶ、魔法陣が少しずつ大きくなり、光の糸が魂を包んでいく、そして繭ができた。
「名をクレアシオン、この者を女神アリアの使いとします」
繭が紅く光り、脈打つ様に鼓動する。鼓動が徐々に早く強くなっていきそして--
生まれた。永久にも等しい時を孤独に耐えた魂が今、クレアシオンとして、女神アリアの天使として生まれた。
アリアの白い繭に添えられていた手が、そのままクレアシオンの頬を包む。黒い髪に金色に光る瞳。
クレアシオンの金の瞳とアリアの蒼い目が合う。そして--
「ふ、服を着て下さい!!」
「えぇぇー!!」
バチィン!!、と乾いた音が響く。
生まれたばかりなのに無茶を言う。しかし、身体は一七、八だ。少女の前に全裸の男……成る程、事案だ。
◆◇◆◇◆
クレアシオンはアリアから、布をもらい身に纏っていた。女神は泣いていたが、泣きたいのは彼の方だろう。
「ぐすっ」
「泣き止んでくれよ。俺もまさか全裸だとは思わなかったよ。………でも、ありがとな、女神様」
「そ、そうですよ。なんで裸何ですか!?変態ですか?」
「……いや、俺が悪いのか?これは……」
どこか腑に落ちないクレアシオンの視線を感じ、アリアは話題を変えた。
「か、身体の調子はどうですか?」
「どうって、言われても……。まだ、実感がないな」
「そうですか。じっくり馴れていきましょう」
魂だけだったので彼には身体からの情報がどれも新鮮で、情報の多さに混乱していた。
「それでは、これに手をおいてください」
そう言い、水晶を取り出すアリア。その水晶は大きく、彼女の両手にやっと収まる大きさだ。クレアシオンの纏う布といい、水晶といい、いったい何処から取り出しているのか?謎は尽きない。
「これは何だ?」
「これはレベルとスキル、称号を見るためのものです」
「レベル?スキル?称号?」
「えっと、ですね--
レベル:相手を殺した時に発生する経験値と言うものが一定を越えると上がるもの。筋力、防御力、素早さ、持久力等の物理的なもの以外に魔力、魔防御力、保有魔力量等、体が強化される。保有魔力量が多いほど、他の力も強くなる傾向がある。
スキル:スキル、エキストラスキル、ユニークスキルの順に取得が難しい。スキル自体は簡単に取得でき、レベルを最大にする者は神や天使には多いが、使いこなせているかは別の問題。自身のもつスキルどうしを活かせるか?それが難しい。使いこなせていないスキルレベル最大の者とスキルレベル五だが、スキルを活かせている者では後者が勝つことがある。
称号:特定数の者たちに呼ばれたり、世界に認められると勝手につく。中には特殊な効果が有るものも。
「で、あなたに身体を授けたのでスキルが何かあるかもしれません。スキルによって、邪神や魔族と戦うか事務的なことをするか決めましょう」
「わかった」
彼が水晶に触れると、淡く光り輝いた。暖かくそれでいてきれいだなとそう考えていると、
「ああ、出てきましたね」
水晶に映っていたのものは
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名前 クレアシオン=ゼーレ=シュヴァーレン
レベル 1
職業 魔法戦士
ユニークスキル 鬼神化 九尾化 神器作製
エクストラスキル なし
スキル なし
称号 なし
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二人は茫然としていた。クレアシオンは自分のスキルが少ないことに、アリアは--
--なんで?なんで神器作製が?神器は神の格、神しか持つことが出来ないのに……。それに、私が名付けたのは、名前だけ……ファミリーネームとミドルネームは付けていないのに……。
と、神器とは神の神格、神の命、神の象徴だ。それを天使が持つことがどう言うことか。文不相応だろう。
だが、
--ああ、そう言うことですか。
一つのスキルによって、納得した。
--鬼神化--
このスキルが原因だろう。だが、異常な事には変わらない。クレアシオンには不自然な所が多すぎる。いや、存在その物が不自然とでも言うのか。
「それでは、ユニークスキルが三つも有るので確認してください」
どうしていいか、わからずにいると。
「水晶に触れながら見たいスキルを念じて下さい」
「わかった」
クレアシオンが水晶に手を触れ、念じると
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【鬼神化】 ユニークスキル、破邪の鬼の神、武神。武器の扱いに長ける。鬼神化すると筋力、防御力が飛躍的に上昇。
【九尾化】 ユニークスキル、伝説の狐、妖怪や神の使い。全属性魔法に長ける。九本の尻尾は手足の様に動かせ、手足より筋力はある。狐尾化すると、魔力、素早さが飛躍的に上昇。
【神器作製】 ユニークスキル、鬼神化の影響で取得されたスキル。製作者が望む姿で現れる。また、製作者の強さによって神器の耐久値、切れ味、攻撃力があがる。製作者しか使用出来ない。神器作製後、このスキルは消滅。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「……」
「これってどうなの?」
「異常ですね。取り合えず、鬼神化してみて下さい」
「異常って……」
クレアシオンが鬼神化すると、額に二本の上向きに湾曲した黒い角が生え、髪は銀色に染まっていった。
「……鬼神化って言うぐらいだから、オーガよりもムキムキになると思ったのに……。そのままですね」
魔物のオーガはムキムキで人を喰らう食人鬼だ。オーガは単純な戦闘力に加え、簡単な武器を作ったり、冒険者の装備を奪い取って装備する知能があるので、Bランクに相当する。
鬼からオーガを想像したのだろう。鬼人(男はムキムキ)もいると言うのに……。
鬼神化したクレアシオンは角を不思議そうに触っていた。鋭く尖り、刀の様になっている。強度を測るかのようにコンコンっと叩たりしていた。角は太さの割りにはなかなか硬いようだ。
「今度は九尾化してください」
クレアシオンは今度は九尾化する。頭から二つの狐耳が生え、そこから広がる様に髪が金色に染まっていく。そして、髪の毛が伸び始めた。短かった髪が腰の辺りまで伸びる。目の色は蒼く染まっていた。アリアと同じ髪の色に、目の色……。
九尾の金色の尻尾はだらんと垂れ下がっていた。
「私と同じ髪と目の色ですね」
そうアリアが笑顔で言うと、クレアシオンの尻尾がゆらゆらと揺れる。表情も心なしか嬉しそうだ。
「どうですか?鬼神化と九尾化どっちが身体に馴染みますか?」
アリアの質問にクレアシオンはうーんっと考えた。彼の尻尾はピンっと扇状に広げられていた。悩んでいるのか、尻尾はだらんと垂れ下がったり、ピンっと張ったりを交互に繰り返していた。
アリアはその尻尾の様子を興味津々っと言った様子で眺めていた。時々、尻尾に手を伸ばし、触ろうとするが、尻尾はひょいっと避けてしまう。
そして、
「うーん、鬼神化と九尾化は、あんまり変わらないかな?元の姿のほうが楽だし」
彼がそう言うとアリアは少しがっかりした様子だ。クレアシオンの九尾化を気に入っていたのだろう。
「そう……ですか」
彼女ががっかりした様に言うと
「--それでも、九尾化のほうがいいな、……その、……まぁ、あれだ、女神様とお揃いだしな」
彼は顔を背けながら言った。すると、アリアはパァーっと咲いたような笑顔を見せて、
「はい!!」
と、クレアシオンに抱きついた。クレアシオンは顔を赤くし、急いでアリアから距離を取った。アリアは、
「ごめんなさい。いやでしたか?」
と、落ち込んで、下から覗き込むように見上げてくる。
「い、嫌じゃないぞ、突如で驚いただけだ」
--なんで、こんなに鼓動が早くなる!?どういうことだ?見られているだけで落ち着かないし、悲しそうな顔はしてほしくないし、なんだこの感情は?
クレアシオンは今まで誰もいない空間にいた。なので、今の気持ちを理解出来ないでいた。この日、彼は初めて恋をした。あるいは一目惚れだったのだろう。だが、彼が自覚するのは遥か先の話し、そして、想いを告げるのはもっと先のお話し--
「それじゃあ、尻尾触っていいですか?もふもふして、気持ち良さそうですし」
「あ、ああ、い、いい--」
いいぞ、とクレアシオンの許可より先にアリアの手が彼の尻尾を掴む。
「わぁー!!ふわっふわで気持ちいいですね。毛も艶々で手触り最高です」
「そ、そうか、それは、よ、良かったな……」
アリアの手が動くたび、ビクッと尾が動く、それを必死に耐えているクレアシオンと、それを気にせずさわり続けるアリア。
終わったあと、アリアはホクホクと、クレアシオンはぐったりしていた。
「すみません。気持ちよくてつい。……カーペットに欲しいですね」
アリアがそんなことを言うとクレアシオンはビクッとし、尻尾を抱え込んだ。
「冗談ですよ。でも、たまには触らして下さいね」
クレアシオンの様子を見て笑いながら冗談だと言うアリア、だが、彼は見逃さなかった彼女が割りと本気で考えていたことを。
「ま、まぁ、次のスキル行きましょう。や、止めてくださいそんな目で見るのは」
クレアシオンはジトーッとした目で誤魔化そうとしたアリアを見ながら九尾化を解いた。
「あぁ~」
「女神様?次、行くんですよね?」
◆◇◆◇◆
「次は、神器作製ですね。私も神なのでもっていますが、神以外が持つことは基本ないですね」
そう言い、何もない空間から杖を取り出すアリア。その杖の装飾は余り派手ではないが、気品溢れるものだった。
「神器作製を使うと声が聞こえて来ます。その声に望むイメージを伝えると、ある程度は希望通りになります」
「ある程度って事は望み通りにならないこともあるんだな?」
「はい、創造神様が創られた世界に影響を与えすぎたり、剰りに協力な物は作れません。凄く腕のいい鍛治師が造るぐらいに思ったらいいと思います」
アリアの説明を聞き、自分の望むものを考えるクレアシオン。これからの未来を、半身とも言える神器を作るのだ。慎重に、何が自分に出来て何が出来ないかを考える。持っているスキルはこれを入れて三つ、否、作製後消えるのだ。二つしかないスキルを活かせる神器は--。
「……まだですか?」
「いや、いま一生懸命考えてるから!!」
「神器は自分の心の底からの望みを写すと言われてますよ。ですので、あんまり深く考えても意味ないですよ」
「……」
--早く言えよ!!
と、思ったが、言っててもしかたがない。一呼吸し、
「【神器作製】」
すると、
『神器を作製します』
無機質な女性の声が聞こえてきた。
『あなたの望む形は--』
--俺が望む形……、この女神様の側にいたい。そして、この名前『クレアシオン』、未来を造り上げられる様に、と名付けられたのなら、未来を切り開いていきたい。
クレアシオンは色々と考えた。だが、どれも一つの事に繋がる。呪縛から解き放ち、全てを与えてくれた--
--ああ、そうだ、特別な物は要らない。ただ、この人を守りたいだけだ。
『了解しました。作製します』
--【神器作製】が消滅しました。続きまして【神器召喚】を取得しました。--
光りがクレアシオンの頭上に集まり、魔法陣を描く。そして----二メートル程の抜き身の大剣が彼の目の前に落ちた。
彼の前髪が少し持っていかれた。その大剣は、無骨で装飾を一切されていないが、白銀の剣身が美しい。だが、
「あ、危ねー」
「だ、大丈夫ですか!?」
剣身は半分以上埋まっている。クレアシオンは永い間この白い空間にいたが、この地面が柔らかくない事は知っている。これはーー。
「殺しに来てないか?」
『シテマセン』
「おい!!」
『……』
「……」
「大丈夫ですか?それにしても、綺麗な剣ですね。でも、使えるのですか?」
クレアシオンが無機質な女性の声を疑っているとアリアに使えるか聞かれた。確かに大剣は凄く大きい。幅もあるので重さも相当だろう。それに、地面のめり込み具合から見た目以上の重さもあると考えられる。
「……大丈夫だろ?俺の神器だし……」
そういいクレアシオンは大剣に手を伸ばし、艶消しされたような漆黒の柄を掴み持ち上げようとするが、びくともしない。
アリアの目が段々冷たくなっていく。クレアシオンは焦り、鬼神をして引き抜こうとするが、少し動いただけだった。
「……持ち上がりませんね」
「……そうだな」
「バカですか?」
「いや、この柄に両手を添えて、仁王立ちしてると、威圧感が……」
確かに彼が鬼神化して、地面に突き刺さった大剣に両手添えて仁王立ちすると、威圧感はある。白金色の髪から覗く金色の瞳、額から伸びる二本の角は天を指し、地面に突き立てた(突き刺さった)大剣は『不動』の意志を感じさせる。だが、
「不動の意志を見せているのはあなたじゃなくて、剣ですよね」
「ま、まぁな」
返す言葉もない。
「正座」
「はい……」
有無を言わさない、アリアの声に思わず正座する鬼神。
「何を言いたいか分かりますか?」
「はい……」
「たった一回しか、しかも、神しか出来ない神器作製で……。なんで、使えない物を作ったのですか」
最もだ。守りたいと思って作った大剣が自分では持てない。まるで、お前には無理だと言っているようで----
「岩に剣突き立てて、そのまま台車に乗っけて誰かに引いてもらうつもりですか?」
それいいな、と冗談で言おうとしたが、
「そのまま、坂の上から転がしますよ」
その言葉に押し黙った。
「まぁ、レベルが上がったら使いこなせるかも知れませんしね。鬼神化もあることですし、ある意味、鬼神用の神器かも知れませんしね」
クレアシオンが落ち込んだのを見て、言い過ぎたと思ったアリアは、あわててフォローをした。
「では、そろそろ行きましょうか?」
「どこに?」
「神界ですよ、クレアシオンさんに武術と魔法を教えてくれそうな人に心当たりがあるので、早速行きましょう」
アリアの言葉にやっと、やっとこの白い空間から抜け出せると、クレアシオンはこれからの未来に期待を抱いた。
◆◇◆◇◆
神界、神々が住まう世界。そこには、ありとあらゆる形をした神や天使がいる。太陽神、月神、水の神に火の神、武神に魔神。いろいろな権能を司る神がいる。
アリアとクレアシオンは一度、服を買いに行っていた。さすがに布一枚じゃ、神界に来れないから。クレアシオンはトゥニカを身に纏っている。
「ここです。ここに、武術の大剣の神の武神と魔術の神の魔神の夫婦がいます」
「なんで、武術と魔術?」
クレアシオンはこの家に来るまで、目に入るもの全てが新鮮で落ち着きをなくしていた。フラ~っとどこかに行こうとする彼をアリアはしっかりと止めて、クレアシオンがあれは?これは?と聞いてくるのを、微笑みながら教えていた。
「クレアシオンは魔法の適正がありますし、武神の鬼神で神器は大剣、教えて貰うのに、これ以上ない夫婦ですよ」
っと、いいながらノックをする。
「は~い」と女性の声が聞こえてきた。扉が開き、
「あら、アリアちゃんじゃないの。後ろの男性は?」
紫色色の髪の女性が出てきた。彼女はアリアを見て笑顔で出迎え、後ろに見知らぬ男がいるので、それをたずねた。
「今日は、マリーズさん、彼は私の天使になった、クレアシオンです。ルイスさんいますか?」
「いるわよ。どうしたの?」
アリアはマリーズとなかがいいのだろう。マリーズはアリアを歓迎してるみたいだ。
「クレアシオンに修業を着けて貰いたくて」
「ルイスに?そんな細い体じゃ厳しいわよ」
マリーズはクレアシオンを見定めるように上から下まで見ると、クレアシオンの細い体じゃ無理だという。
「……それが、マリーズさんとルイスさんにおねがいしたくて」
「私にも?」
マリーズの視線が少し厳しくなる。魔術と武術は基本どちらかしか極めない。一流の武道家は多少魔法も使えるし、一流の魔導師も多少武術は使えるが、それは、師匠が教えれば済むことだ。それなのに、両方のスペシャリストから教わろうとする。それは、失礼な事だと思われてもしかたがない。
「まあ、話しは中で聞くは、お茶とお菓子ぐらいはだすわよ」
家の中に招かれるアリアとクレアシオン。二人は少し緊張していた。
◆◇◆◇◆
「それで、話しはマリーから聞いたが、どういうことだ?」
リビングでソファーに腰かける四人、テーブルの上には湯気の上がる紅茶と焼き菓子が置かれていた。アリアとクレアシオンの対面に座るのはマリーズとルイスだ。
「それは……、クレアシオンさん、ここでお茶を飲んでいてください」
「?わかったけど?」
そう言い、アリアはルイスたちを連れて少し離れた所に行く。クレアシオンは紅茶と焼き菓子が気になっていたのか、そっちに集中していた。彼は紅茶の匂いを嗅いで、口に含んだ。
「どうしたんだ?」
連れ出されたルイスとマリーズは怪訝そうな顔をする。
「クレアシオンさんは【世界の狭間】で見つけました」
驚きを隠しきれない二人。
「どうことだ!?」
「そうよ、あそこは何もない空間じゃない!!」
【世界の狭間】文字通り世界と世界の狭間にある空間。だが、世界が交わらないように、その空間は果てしなく広く、そして、何もない。ただ、白い空間が広がるだけ。そこは神でさえめったに近寄らず、長時間いると、神でさえ狂ってしまうとされていた。
「なんで、そんなところにアリアは行ったんだ?」
「……誰かに呼ばれた気がしたんです。消え入りそうな……不安で潰されそうな声に……」
アリアは用事が有って、たまたま【世界の狭間】に行った訳でわない。ただ、消えてしまいそうな声の主を助けに行っただけ。
「そこで、彼に会いました。名前も記憶も体も無い状態で……」
「あいつは危なくないか?」
【世界の狭間】に記憶を無くした状態。怪しい所が多すぎる。
「大丈夫ですよ。クレアシオンさんには邪気とか感じませんでしたし。それに、今は私の天使ですから」
と、アリアは満面の笑みで答えた。
「はぁ~、アリアちゃんには敵わないわね。それで、私達に鍛えて欲しいってどういうことかしら?」
アリアは色々な神に娘や妹の様に可愛がられていた。たが、可愛い妹の頼みでも聞けないこともある。鍛える分には構わないが、魔法と武術どっち付かずに成ることがあるから。
「それは、クレアシオンさんを鑑定したら解ります」
三人はクレアシオンを見て、ぎょっとした。彼は何故か涙を流していた。
「旨い。……旨すぎる。あ、ひっく、甘くて、ぐす……、柔らかくて美味しい……!!」
三人はドン引きしていた。焼き菓子一つで泣いていた。一つの焼き菓子をそれはそれは大事に食べていた。
「く、クレアシオンさんは記憶が無くて、何でも新しく見えるんですよ」
アリアがフォローをいれるが、
「これは、天命……!?神はこれを世に広めろと!?」
クレアシオンは、アリアとの出会いもこれまで【世界の狭間】で孤独に耐えたことも、この天命の為だったのかと、神界の最上級神の家の中で、最上級神二人と中級神の目の前で【神】に祈りを捧げた。
「き、危険は無さそうね」
「だな、見なかったことにしよう」
マリーズとルイスは見なかったことにした。
「そ、それで、あっちは置いとくとして頼んだ理由は?」
ルイスは鑑定はクレアシオンが落ち着いてからするつもりだろう。
「そ、そうですね。たすかります」
そして、アリアはクレアシオンのステータスをルイスとマリーズに教えた。
「はぁ!?鬼神化に、九尾化、それに鬼神化は神器作製つきだと?」
「それほんと!?」
信じられないような事を言うアリアに聞き返す二人、神になるスキルなんて聞いたこともない。それに、その話が本当なら、武術と魔術を使いこなす資質は十二分にある。
「はい、ユニークスキルしかありませんでしたけど……」
いくら強力なスキルを持っていても、大技だけでは直ぐに殺られてしまう。しかし、
「いや、十分すぎる。二つのスキルは変化するだけで、基本は人形だろ?」
「はい」
「なら、下手にスキルを持っているより、自分で手に入れた方がいい。与えられた物より勝ち取った物の方が自分の血と肉になるからな!!」
生まれつきや、神の加護で得たスキルより、自分で血の滲むような鍛え方をして取得したスキルのほうが同じスキルレベルでも違いが出る。使いこなせるか?咄嗟の判断が出来るか?そこに大きな違いが出る。ルイスは鍛えて見たくなった。問題は、
「問題はあいつがやるかどうかだな」
「そうね、命がけの闘い、出来る力があるからってだけじゃ、いざって時に折れてしまうわ」
その時、クレアシオンは焼き菓子を食べ終わって手持ちぶさただった。そこで、まだ話しが続くと思ったマリーズはクレアシオンに、
「これ、よかったら」
と、ケーキを差し出した。イチゴのショートケーキだ。
「あ、ありがとう」
恐る恐る、それをクレアシオンは一口食べると……。
「甘い白いふわふわが柔らかい焼き菓子を包んで……、赤い果実の酸味が甘味を洗い流して、また新たな甘味を呼び込む準備をする。--革命だ。【神】は私に新たな世界を魅せてくださった!!なんと言うお導き……」
崇め奉った。神に祈りを……。--狂信--そんな言葉が三人の頭をよぎる。彼は本気だが、神をバカにしてるようにもとれる。
「……おい、こいつ本気で言ってるのか?」
小声でルイスがマリーズに聞くと、鑑定をしたマリーズが言った。
「本気よ……。彼は本気でお菓子を世界に広めるきだわ。だって----称号に【甘党】と【遣糖使】が付いているもの」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
甘党 甘い物が大好き。お菓子作りに補正あり。
遣糖使 世界に甘味を広げる使命を帯し者。
ユニークスキル 【糖気闘乱】を取得。
糖気闘乱 血液中の糖分を使いステータスを大幅に上昇させる。ただ、血液中の糖分を使いきると動けなくなる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「……ちょっと話してくる」
そう言い、ルイスはクレアシオンを掴んで二人から距離をとった。
「なぁ、俺はお前を疑っている。アリアは素直でやさしいやつだ。お前があのこを、利用しようとするのなら、俺はお前を容赦しねぇ」
クレアシオンの胸ぐらを掴み、真意を問うように彼の目をまっすぐ見据える。ルイスにそう言われ、先程までとクレアシオンの雰囲気が変わる。まるで、底のない暗闇のような雰囲気を纏っていた。
「なあ、何もないって、分かるか?」
「あぁ?」
突然の脈略のない、クレアシオンの問いにルイスは眉をひそめる。しかし、クレアシオンは気にせず続ける。ルイスの目を見返して、
「真っ白な空間で、方角も時間も……自分さえも失うような場所で……俺はずっと漂っていた」
「……」
それは、知っている【世界の狭間】とはその様な場所だと言われていた。たが、知識として、知っているだけだ。体験した訳じゃない。
「お前には、分かるか?感情が自我が無くなっていく恐怖が……。それさえも、忘れている事にも気がつかない恐ろしさが」
「……」
分かる訳がない。実際にそんな事にならないと全てはわからない。だが、伝わってくる。
「女神様に出会って、名付けられて、俺の世界が色付いた。真っ白な世界から、解放された歓びと、徐々に呼び覚まされる感情……」
ああ、こいつは名付けられて、アリアに出会って救われたんだな、そう、ルイスは考えたが--。
「ーーそれと、同時に思い出した。自我が無くなる恐怖が……。記憶は何もかも残っていないのに……。恐怖だけが今も押し寄せてくる」
そんなに簡単じゃなかった。記憶も感情も自我も徐々に無くなっていく。何もかもが無くなっても、無くしていく時間が永すぎて、全て無くした今となっては、その間に感じた恐怖だけが残り続けていた。
アリアが出そうとしたもう一つの提案。それは、天国--楽しかった記憶を夢見続ける最後の魂の墓場--に逝くこと、クレアシオンには恐怖しか、記憶がない。それをアリアは確信は持てなくても感じ取っていた。だから、提案しなかった。彼の目の奥に見える隠そうとする恐怖を見て--。
「女神様の明るさに触れて、確かに救われた。だが、すがり付くつもりはない。……女神様の為に命を張る覚悟は……決まってる。あの人は俺を救ってくれた。俺にとって、暗闇に差した一筋の光だ。それを守るためなら、死ぬ覚悟もある」
ルイスは見た。クレアシオンの真っ直ぐ見据えられた瞳に映る決意が、覚悟が、不動の意思が感じられた。それ故に、
「駄目だ。お前、それじゃあ、アリアが悲しむ。守り抜くためにお前に、生きる術を教えてやる。死ぬ覚悟は要らない、生き抜く覚悟をしろ!!」
クレアシオンの抱える闇を見たがゆえに、クレアシオンの覚悟を見たがゆえに、その覚悟を変えてやる。死ぬ覚悟で守られても、守られた側は堪ったものじゃない。ルイスは決めた。こいつに全てを教えてやると。
クレアシオンは、雷に打たれ様な衝撃をうけた。守ることしか考えていなかった。独り善がりの決意だった事に気がつかせられた。アリアに貰った未来だ。死ぬ覚悟で生きたら、アリアに失礼だ。最後まで、生き抜く覚悟を持って死のうと、クレアシオンは誓った。
「お前には、俺の持てるもの全てを使って鍛えてやる!!」
「ああ、頼む!!」
「俺のことは、師匠と呼べ!!教わるからには敬語を使わんか!!」
「はい!!師匠……!!」
「それで、お菓子のことは、冗談だよな?気を紛らわすためだよな?」
ルイスがお菓子に泣き、広めようとしたのは冗談だよな?っと聞くとクレアシオンは先程まで、真っ直ぐ見据えていた目をスーっと反らして、
「ジョウダンデスヨ」
と、一言。ルイスは、
「目を見て言え!!さっきまでの雰囲気はどうした!?」
と、クレアシオンの肩を掴んでガクガクと揺らした。
熱くなる男二人を見てマリーズは、
「最初から、彼はアリアちゃんを守るつもり満々だったのよね。--称号に【女神の剣】が付くくらいには……」
そう溢した。クレアシオンが《ヴェーグ》を作った時、その称号は既に付いていた。だが、余りにも彼は歪だった。何がかはわからないが、それが、ルイスとマリーズには怪しく映っていたのだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
名前 クレアシオン=ゼーレ=シュヴァーレン
レベル 1
職業 魔法剣士
ユニークスキル 鬼神化 九尾化
神器召喚《ヴェーグ》 糖気闘乱
エクストラスキル なし
スキル なし
称号 女神の剣 甘党 遣糖使 武神の弟子 魔神の弟子
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【神器《ヴェーグ》】 クレアシオンの神器、圧倒な質量と切れ味で障害を薙ぎ倒せる大剣。望む未来を切り開けるように、道を切り開けるようにと名付けられた。真に使いこなせれば名に恥じない威力を発揮する。威力を求めたため、見た目以上に重い。
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こうして、【女神の剣】が後に、【神界の剣】と呼ばれる天使が誕生した。ルイスの伝で集まった武神とマリーズの伝で集まった魔神の修業を受けて、ありとあらゆる技が彼の中で合わさり、新しい型が生まれていく。驚く程、師匠たちの技を吸収し、彼なりに噛み砕いて咀嚼し、技の無駄が削ぎ落とされ、洗練されていった。
神々の時間は長い。それは天使も同じこと、だが、クレアシオンは今、多くの人と時間を共にし、思い出を積み重ねていく。
彼が何処から来たか、何者だったのか、それは神々でさえもわからない。だが、これだけは言える。
--彼は女神アリアの天使だ--
これは、女神アリアと天使クレアシオンが出会った時のお話し。そう、まだ、クレアシオンが【堕ちた天使】、【魔王】と呼ばれる前の遥か昔のお話し。
まだ、クレアが純粋?だった頃のお話し。イザベラと出会う数千年前の話し。クレアが何者かは神界七不思議の一つです。
別に、本編のメインヒロイン含め、登場人物の名前が決まってない訳じゃ無いんだからね。
すみません。嘘です。決まってないです。
クレアの性格を掘り進めたら書きたくなりました。彼の性格が変わったのはイザベラと出会う切っ掛けの事件が原因です。たまに、閑話や短編でクレアシオンの過去を出そうかな?って考えてます。ただ、長い文章書く才能がないです。
自分で投稿してわかったことは、作者様がたの大変さです。投稿まだかなー遅いなー、と考えてた自分を殴り飛ばしたいです。