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金木犀の香る公園

昼間はみどりちゃん、夜はコウちゃんの手伝いをしなければ行けなくなってしまった。特に昼間のみどりちゃんは存在すらあやふやな人間ですらない謎の存在であり、目的も特に無い彼女に時間を使うのは1秒でも長く家にいたい私にとってはかなりの苦痛だった。おまけに彼女は私の予定がちょうど空いたタイミングに合わせて面倒ごとを持ち込んでくるため私の休日は全て彼女に吸い取られてしまうのであった。


「こんにちは!今日も暇です?」


油断も隙もあったもんじゃ無い。噂をすればなんとやら私の至福の時はあっさりと終わりを告げた。挨拶を返さずにブランコの脇で地面に絵を描いている子供達の様子を眺めているとみどりちゃんは丸い頭を左右に落ち着きなく揺らしながら楽しそうに話し始めた。


「こんな噂を知っていますか?恐怖!ブランコ少女の怪!」


「ブランコ少女?」


あー、今回はブランコ少女がいるかどうか調べたりするのかなー


「そうです!この公園のブランコでお昼ごろから夜暗くなるまでひたすらブランコを漕いでいる女の子がいるらしいんですよ」


「幽霊の女の子がブランコを漕いでるんだーってこと?」


「幽霊かどうか、ブランコ少女が何者かは知りませんが」


私はブランコを指差しながら言った。


「どういうことかわからないけど、そもそも今は使えないよ」


ブランコは上部の鉄棒部分に巻き取られて使えない状態になっている。


「ちょっと前に事故があって、女の子が怪我しちゃったんだって。それで今は使えなくなってるみたいだよ」


私の指摘に対して持参していた緑茶のペットボトルを手の上で転がしながら少女は言った。


「使えなくなっているはずのブランコで遊んでいるから恐怖!ブランコ少女の怪なんですよ。気になりません?」


「なにが」


「ブランコ少女の正体ですよ!あたしだけだと暇だしブランコ少女はつむぎさんと一緒の時にしか現れないんですよ!」


「私といても現れないよ」


「つむぎさんがいれば出てきます!そんな気がします!」


「えぇ…」







公園のブランコを夕方まで監視しないといけなくなった。夕方が何時までか明確にはわからないが5時くらいまでここにいればみどりちゃんも満足するだろう。ただ、こんな所で何もせずにぼんやりと時間を潰すにしても7時間無駄にするのはさすがに罪悪感があるので家まで課題を取りに行くことにした。


「ついてこなくても良かったのに」


「つむぎさんが逃げないようにみはってるんです」


「逃げないって」


逃げたら狐様に何されるかわからないしな


「そういえばつむぎさんのお家、あたしどこにあるか知りません」


「すぐそこだよ」


公園から見える神社を指差す


「神社に住んでるんですか?神様の手下なんですか?」


「手下って…言い方が悪い気がする」


あながち間違っていない。


「まぁ敷地は神社の中だけど神社に住んでるわけじゃないよ」


鳥居の前でみどりちゃんは急に立ち止まった。


「あたし、ここで待ってます」


「?私のこと監視するんじゃなかったの」


「ここでいいです。ここで待ってるんで早く行ってきてください」


「まあ来ないならいいけどさ、どしたの?急に借りてきた猫みたいになって」


「いいって言ってるじゃないですか!早く行ってきてください!」


ふくれっつらの少女を置いて私は一旦家に入った。タブレットだけ回収すればいいか。それよりもなぜみどりちゃんは来なかったのだろう、私他の人のお家に入ったことありません!とか言いながら誘うまでもなく上がり込んでくるはずだと思ったのに


「つむぎさんまだー!?」


外から催促するように叫んでくる。


「ハイハイ戻りますよ」


財布にハンバーガー屋のクーポンが入っているのを確認してから表に出た


「遅いですよ!時々鐘鳴るって言うじゃないですか!」


「時は金なりね。時々鐘が鳴るからなんだったんだよ」


「そんなことより早く公園に戻りましょうよ!女の子が現れてたらどうするんですか!」


「今日はずっとここにいないといけないんだから準備は必要でしょ、お昼ご飯買ってからね」


「お昼ごはん!大切なことを忘れてました!そういえばお腹が空いてきましたね!」


さっきまでのふくれっ面はどこへ行ったのか猫の目のようにころころと表情を変える少女に少し引きながら私は提案した。


「そんな期待しても大したものは買ってあげれないよ。駅のところにあるハンバーガー屋で良いよね。500円のセットで」


「どんなものかわかりませんがそれで良いです!食べさせてくれるならなんでも!」







500円の昼セットを買おうとしたはずなのにいつの間にかフィッシュバーガーセットを買っていた。クーポンがあったからあまり損した感はなかったがなんとなく納得がいかない…


「お昼も買ったことですし早く見張りに行きましょ!」


「ハイハイ」


ガードレールの上を歩いて超人的なバランス感覚を見せながらせっついてくる。公園に着いたら静かになることだろうしもう少しの辛抱である。

あ!とみどりちゃんが突然声をあげた。


「どしたの、突然大きな声出して」


「いました!ブランコ少女!」


「まさかそんなに都合よく現れるわけが…」


みどりちゃんが指差す先、使えないはずのブランコを漕いでいる少女が、確かにいた。おかっぱ頭に赤いスカート、白いブラウスとごくごく平均的な幽霊といった見た目だった。花子さんを怪談から引きずり出してきてブランコに乗せた感じだ。


「おぉ…ここまであからさまに幽霊だと逆に感動すらしてしまうね」


「すごいですよ!つむぎさん!おばあちゃんの言ってたことは嘘じゃなかったんですよ!ブランコ少女は本当にいたんだ!」


どこかで聞いたことのあるようなセリフを叫んでいるみどりちゃんは放っておいて、ブランコ少女に声をかけてみることにした。どうやって使えなくされていたブランコに乗ったのかは知らないがこの少女からは未練や恨みつらみといった負の感情を強く感かじない。つまり幽霊では無い。さっさと正体がただの女の子であることを説明してもらってこの面倒ごとを終わらせたかった。


「事情聴取するよ。早く終わらせよう」


「りょうかいです!」


勇ましく宣言したのは良いものの、正体不明の見るからに怪しい少女に挙動不審な人物と共に声をかけるのはいかがなものか。


「えーと、やっぱみどりちゃんはそこのベンチで待っててくれない?」


「えぇー!やっと噂のブランコ少女とおしゃべりできそうなのに!」


「まあまあ平気そうだったら喋れるように取り計らってあげるから」


「ならいいですけど」


邪魔者を追い払ってブランコ少女に向き合った。あれ?なんて声かければいいんだ?


「こ、こんにちは〜」


とりあえず挨拶してみた


「…」


「君1人?ブランコ使えなかったはずなんだけどどうして乗れてるのかな〜?」


「…」


「お母さんいる?」


「…」


返事は全くない。


「これじゃあラチがあかないな。しょうがない、コミュ力お化けのみどりちゃんに頼むかな」


「やめて」


ようやく喋った


「あの人と私は相入れない存在。あんなに強力な生き霊を見たのは初めて」


やっと喋ったと思ったらなんておっかないこと言うんだ


「そ、そうなんだ〜 でもね?あの子は君とコンタクト取らないと気が済まないと言うか、止まらないと言うか」


「あの人には私のことただの人間だって伝えて。あなたにはなんとも言えない縁を感じる。あなたには私の正体教えてあげる」


「やっぱ君、人じゃないのか」


「まあそう言うことだからまたいつもみたいに夜この公園に来てね」


いつもみたいに?なんで私がほぼ毎晩ここに来てることを知ってるんだ?

じゃあね、と言い残してブランコ少女は公園から出て行ってしまった。

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