持ち帰れない夢
あ、またこの夢だ。
僕は、気付く。
今まで何回となく見ている。
起きたら内容を忘れているのに、
同じ夢を見ているという事実だけは覚えているという不思議な夢。
今度こそは、内容を覚えて持ち帰ろう。
僕は、歩いている。
少し先に少女が同じように歩いているのに気付く。
彼女に話しかけようか少し悩む。
不審者と間違えられても困る。
一人で歩くには不安で、誰でもいいから話したい。
僕は、歩みを進め、彼女との間を詰める。
「こんにちは」
「こんにちは。また、話しかけてくれましたね」
僕は、前回も彼女に話しかけたことに気付く。
前回は、二人だけではなかった。
もう一人、いたはずだ。
「とうとう、二人だけになりましたね。あの男の人は行ってしまったようです。次は、私の番です」
彼女は唇を噛み締めながら、悔しそうに呟く。
不思議なことに、僕も次は彼女の番だと知っている。
「助けて」
彼女が僕にすがり付く。
彼女を助けたい。
でも、どうすればよいのだろうか。
キッキッキッ
鋭い金属音がする。
いつもと同じ音。
「お待たせしました。お乗り下さい」
何処からか声がする。
感情がない、でも逆らうことが出来ない絶対的な声。
彼女は息をのみ、僕を見つめる。
「行きたくない。助けて」
僕は、失望と共に首を横にふる。
助けたい、でも、声に従うしかない。
そうすることが決まっている。
彼女は諦めて、それに乗る。
彼女も、本当はそうするしかないことを知っている。
だって、彼女の番なのだから。
今まで反発する人も、逃げ出す人もいたが、皆、結局は乗らざるを得なかった。
順番は絶対だ。
そして、彼女は行った。
ゴリッゴリッゴリッ
鈍い音がする。
まるで何かを磨り潰すような、咀嚼するような不気味な音。
「次は、あなたの番です」
どこからか声がする。
とうとう、僕の番。
全身から汗が噴き出す。
怖い、怖い。
誰か、助けて。
全身がぶるぶると震える。
走って逃げ出そうかと周りを見渡すが、決して逃げ出せないことはわかっている。
覚悟を決めた時、不意に目覚めの気配がした。
よかった、助かった。
危機一髪、助かった。
安堵の涙が流れ、ほっと胸を撫で下ろす。
「次にここに来るときは、間違えなくあなたの番です。ここで、お待ち申し上げます」
どこからか、感情のない不気味なそれでいて、絶対的な声がする。
僕も、確信する。
次にこの夢を見るときが、僕の最後だと。
心にしっかり焼き付ける。
この夢の内容を持ち帰らなくては。
でも、きっと無理なことも確信している。
今まで何度も試したのにできなかったのだから。
そして、僕は静かに目覚めた。