密談……
うーん……全然進まないです。
本来は、2.26事件とモノンハン事件を入れる予定でしたが、まあ、ボツ案だからいいやと思って、すっ飛ばして投稿します。
ある北海道の秘密ドックに暖房の効いた事務所に、山本五十六が突然に訪問してきた。
「久我博士。そろそろ教えてくれないかね」
「はい?何でしょうか」
「私は最初は君は何者かを疑っていた。しかし、石油や戦艦、そして電探などの設備を提供してくれた」
「ええ、そうですね」
「日本は近いうちにアメリカと戦うことになるのではないかと思ってる。違うかね」
「………」
「君は何者か一体何を企んでるのかわからなかった。どこかのスパイなのか、最初は君の背後は何者なのか知りたいと思ってた。しかし、現在では考えられない程の高性能な装備や設備等を見ると、もしかしたら君は未来から来た人間ではないか、この先に何が起こるのを知ってるのではないかと思うようになってきたのだよ」
勇司は山本の洞察力と勘の鋭さに驚愕したが平静を保ち沈黙する。
「本当のこと言ってくれないのかね。俺は君を信用してる、これだけの設備を提供してくれて感謝している。しかし、君の正体がわからず気になってしかたがないんだよ」
山本はなかなか言ってくれない勇司をじっと見つめ続ける。
「………」
「………」
お互いに何も喋らず沈黙が続く。
「ふぅ…」
勇司はこのままでは埒があかないと感じ、短い溜息を吐く。
「確かに、あなたから見ればそう思うのは無理もないでしょうね」
「うん?」
「本当のこと言っていいか正直判断しかねます。すみませんが時間を下さい」
「いや構わない。こっちが押し掛けて来たんだ。気にすることはない」
「では、しばしお待ちを。(ブレイン、聞こえるか)」
勇司は瞑目し、テレパシーでブレインを呼びかける。
(聞こえている。話は全てに聞いた。明かしても構わない。)
(いいのか。)
(味方は1人多い方がいい。)
(わかった。)
軽くため息を吐き、山本と向かい合う。
「許可出ましたのでお話しましょう」
「え、どういうことかね」
山本は疑問符した。久我博士は目を瞑り、じっとしてるだけで連絡取ってるようには見えなかった。まさか、テレパシーで連絡取り合ってたのは誰も思ってなかっただろう。
「私は未来人ではありません。頭脳に同居人がいます」
自分の頭にちょんちょんと指差す。
「はぁ…」
山本は呆然した。何を言ってるのか理解できなかった。勇司は構わず話を続ける。
数年前に落雷事故で瀕死の状態で彷徨ったこと、ブレインの協力でラジカセを作り上げたこと、北海道のどこかにある秘密の基地を築きあけた……等々…
一通り説明を終えた頃は、山本は開いた口が塞がらず呆然していた。
話が終わったと気づき我に返った山本は、
「つ、つまり…君の頭の中にいる未来人の協力によって、ここまでやってきたというのかね」
「そうです」
山本はどんでもない話だと言い聞かせるように頭を振る。
「にわか信じられんが、ここまで異常ともいえる兵器を見せつけると信じざるえんな」
「信じて頂けるですね」
「ああ、ここまで明かしてくれたんだ。信じよう」
「ありがとうございます。閣下」
「やはり、アメリカと戦うことになるんだね。この先はどうなったのか教えてくれないかね」
「ええ、実は……」
ブレインの世界で起こった歴史や第二世界大戦、太平洋戦争などの様子を語り始める。
数十分全て語り終えた頃、最後まで聞いていた山本は腕を組み瞑目する。いろんなことが頭の中を巡って考えているようだが、やがて目を開くと視線を上を向き、ふぅと溜息を吐き、ようやく口を開く。
「やはり敗戦か。思ったとおりになったな」
緒戦で連戦連勝で驀進するが中盤以降になると本気となったアメリカが戦況を巻き返し、資源の乏しい日本は資源確保や補給が困難になり戦況が悪化していった。
昭和20年8月に広島と長崎に二発の原子爆弾を投下され、約30万人が死傷した。日本の軍令部はこれ以上の戦争は無意味と悟り無条件降伏を受託した。
やはり案の定だったと分かり山本は力なく溜息を吐く。山本はアメリカと戦えば日本全土が焼け野原になると反対していた。アメリカが本気になると手が付けられなくなると分かりきった話だった。
「ええ、軍令部はあまりも無能過ぎて戦略は稚拙すぎました」
「耳の痛い話だ。いや、開戦を踏み切った俺も同類か」
真珠湾攻撃計画を立案して作戦を決行したが、結果は成功、しかし戦略は失敗だったと聞いた山本は自分を恥じていた。
「ええ、閣下は早期講和を目論んでいたようですが、かえって敵愾心を煽っただけで実現しませんでした」
「甘い考えだったと認めざる得ないな」
アメリカを完膚無き叩きだし有利な条件で早期講和をする。この点に尽きるだったが希望的観測だったようだ。
「アメリカは欧州参戦のためにわざと日本を挑発してました。ハル・ノートがいい例です」
「ハル・ノート?…なるほど、米国の国務長官か。いや、そうなるだろうな。それを気付かずアメリカの挑発を乗ろうとする連中が多い」
コーデル・ハル、1933年にルーズベルト大統領の指名により国務長官に任命した人物である。|日米間協定の提案基礎の概要をまとめ上げ、日本に突きつけた。日本側にとっては飲めない要求案であり、日米決裂や戦争の引き金の原因をつくった。
「アメリカは巨大な国家です。物量では太刀打ちできません。しかし、アメリカを打ち勝つためには一度挫折させる必要があるのです。講和程度では効かないでしょう」
「うーん…難しい問題だな。アメリカ本土を半分占領しても、そうは簡単に白旗を上げるまい」
アメリカに打ち勝つには「講和」か「条件付降伏」しかないと山本はそう考えていた。広大な土地を持つアメリカに勝利するのは非常に困難。
「そのために”我々”はアメリカに打ち勝つためにここまで準備してきたのです」
「なるほど、異常とも言える兵器はそのためか」
山本は腕を組み再び瞑目する。
お互いの会話が進まず沈黙が続く。ほんの数十秒の時間だが山本は吹っ切れたように表情をみせる。
「わかった。協力しよう」
「本当ですか、閣下」
「うむ」
山本は頷く。
「ありがとうございます、閣下」
「これからは大変になるな。秘密に守れる仲間を集めて説明しないといかんな」
「そうですね。まずは海軍と陸軍の意識改革しないといけません。後はハンモックナンバーとも言える年功序列制も廃止すべきです」
「う~ん…」
山本はまた唸った。口で言うのは簡単だが実行するとなるとそう簡単いかない。海軍と陸軍の仲の悪さは有名であり、例えば同じ工場でも陸軍用と海軍用に区切られ、軍用機の型式や機銃などの互換性が皆無で無駄が多かった。生産効率が悪くなるのは当たり前である。
「難しい問題だが課題としておこう」
実は山本も年功序列制は弊害だと考えていた。優秀な成績を修めてもいざとなると頭がでっかちで役に立たない人物が多い。優秀な若手がいると頑迷な上官のせいで昇進できないことも珍しくない。
「人選はお任せしますが、私も参列お願いします」
「うむ、わかった。」
「あ、忘れておりました。米内さんを除外でお願いします」
「ん、なぜかね」
山本は一時驚愕したがすぐ落ち着いた。理由を聞いていいかと言うと。
「ええ、実は……」
米内の問題をいくつかに打ち明けていく。親露派でロシア語は堪能、ハニートラップ、東京裁判……etc.
聞いた山本は腕を組み、うーんと唸る。
「なるほど…。話はわかった。米内を見切りをつけよう」
どうやら、山本は米内を見限ることを決めたようだ。しかし、完全に無視するわけはいかない。米内は山本の先輩であり、海軍の上司でもある。米内に知られないように適度に付き合いにすればいいと考えた。
自分の運命はどうなったか聞いてみたら、昭和十八年の4月にソロモン諸島ブーゲンビル島上空で米軍機に撃墜され戦死すると聞いた時は身震いした。
「自分の死期がわかっててもゾッとしない話だな」
「ええ、暗号が解読されて、待ち伏せされてましたからね」
「まいったな。暗号まで解かれてるとは。流石はアメリカだ、侮れんな」
「軍令部はまったく気付いていませんでした。いえ、一部は海軍も暗号が読まれていることに気付いてましたがどうも事なかれ主義で口を噤んだか、情報に対する重要性の認識不足で黙っていたようです。一応、オトリとして作戦実行したことがありましたがアメリカが警戒してて引っかかることなく空振りに終わりました。結局暗号は解かれていないと結論達したのです」
「なるほど」
頭痛くなってきた。軍令部はそれほど間抜けなのか思い知らされる。
「それだけではありません。長官が亡き後、古賀峯一大将が長官親補しますが1年足らずで飛行機遭難を起こします」
「なんと、古賀君が…」
古賀峯一は海軍左派であるが大艦巨砲主義論者でリベラルな軍人であり、米内光政・山本五十六・井上成美などとも親しく、井上は古賀の事を『非常にものの判断の正しい人』と高く評価している。
「ええ、一番問題なのは最重要軍事機密文書がアメリカの手に渡ってしまったことです。軍令部はそのことを重要視せず古賀さんが戦死かどうかだけでした」
「なんだと!」
山本は立ち上がり、重要なことを見落とし馬鹿げたことを議論してたのか。軍令部の不甲斐なさに怒りを覚える。
「落ち着いて下さい。これは我々が起こった歴史のことで、この世界ではそうなるとは限りません」
憤慨する山本を宥めるように手を挙げて制止する。
「あ、ああそうだった。おらとしたことが…」
バツが悪そうに頭を掻き座り直す。
「となると軍令部も変えないといかんな」
腕を組み、どうしたもんかと悩む。山本は海軍航空本部長であり、軍令部に口に出す力はない。せいせい進言する程度だ。
「心配いりません、天皇陛下を味方に付けましょう」
「んな…」
また大胆なことを言い出す。確かに天皇陛下を味方に付ければ大きな力を得ることはできる。しかし反対派の連中が黙ってはいないだろう。何やらの手を使って妨害して来るはずだ。
「天皇陛下がご静養の名目で、内密にうちに来て頂ければいいです。」
ここは温泉が結構ありますので…とちょっと苦笑いする勇司。
「なるほど」
うまい手だ。確かに天皇陛下が認めてくれば、政界や軍部の奴らを幅を効かせられることができる。使わない手はない。
「しかし、毎回のようにここまで来る訳はいかんな」
確かに東京から北海道まで足運ぶのは苦痛だろう。しかもここは極秘とも言える基地であり、秘密を漏らせば世界各国の諜報員に悟られる危険性がある。
「ええ、心配いりませんよ。相手の目を逸らすためにどこかの総合研究所を建設して構えようと考えてます」
「ほう」
山本はなるほどと思った。これならばリスクはかなり減るだろう。
随分話し込んだのか窓から差し掛かる日射しはオレンジ色に染まっていたのを気付いた。
「日が暮れましたね。そろそろ食事しましょうか。地酒もありますよ」
勇司はそろそろ食事しようと提案する。
「ほう、それはいいですな。ご馳走になろう」
現地しか獲れない毛蟹や魚等、地酒まで大いに振る舞い、他愛もない会話を交えながら夜の更けるまで続いたのであった。
後日、海軍航空本部に戻った山本は大忙しだった。極秘に信用できる人物等を集めて、外部に漏らさないように料亭で日本の将来に関わる話し合いが行われることになる。
次回は2、3日後予定です。ダブン……
12.14日追記
ちょっと修正しました。