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ブレイン

一九二七年七月


 大正という元号が昭和に変わった次の年に起こった。

 首都より離れた関東の小さな盆地にある小都市。集落より離れた1軒家で変わった青年が住んでいる。

 この青年は今年で二十五歳。身長百七十五センチという長身であるがやや痩せ気味の体躯をしている。髪がボサボサで服装は白衣で着込んでおり、変わった発明品を作り出すことが有名で、集落の人々達はこの青年のこと変わり者とか奇人と呼ばれている。学者でありながら気さくな性格で人の付き合いが良く、評判は悪くはなかった。


 彼の住む民家の上空は不気味などす黒い雲が急に覆われ雲の中は無数の電光が発するのを見える。恐怖を覚えた人達は、巻き添えすまいと避難していく。一瞬の雷光が狙い澄ましたかように民家に直撃した。やや遅れて轟音が響く。


 それを気付いた人達は

「た、大変だ、久我(くが)のところに当たったぞ」


「誰か手を貸せ!消防組を呼べ!」


 近くにいた数人は慌ただしく駆け抜ける。青年が住んでた家の上に覆ってた黒い雲はいつの間にか消えていた。





 真っ白、何もない真っ白な空間で一人の久我という青年は空中に浮かぶように横たわっている。


「うん…ここは……」

 うっすらと目を開き、周りを見渡すと一瞬目が覚め驚愕した表情ですぐ起き上がる。キョロキョロと見回すが周りは真っ白ばかりで奥まで何も見えない。


「白い…、なんだここは。ま、まさかここは天国か……」

(そういえば、あの時の研究中、何かの光が直撃してきたっけ。)

 昨夜の出来事を思い出し、恐怖心が芽生え身震いした。


『目が覚めたかね。久我博士』


「え…な…」


 白い空間から青年の周りを囲むように巡礼者のような白ローブを着た十数人が現れる。口元しか見えず顔色が伺えないほど深くフードを被っていた。


「な、な、なんだ君らは…」

 どこから現れたのかわからず狼狽え、この場から離れようと藻掻くが空中に浮かんでいるせいで空回りするだけで動けないでいる。白ローブの1人が右手を軽く上げて制止する。


『久我博士、落ち着いて聞いて欲しい。我々は君に危害を与える気はない。』


「あ、ああ…」

 藻掻くのをやめ、呆然した表情でコクコクと頷く。


『気付いてると思うが君は落雷の直撃を受けたのだ』


「あ…やっぱり、ここは天国なのか」


『いや、違う。ここはあの世ではない。久我博士の脳内にある世界なのだ』


「脳内…?私は死んだのではないのか」


『違う。我々の力(ナノマシン)で君の身体を構築しておいた。不老しにくく寿命も伸びてるはずだ』


「えっ…」


『君にすまない事をした。あの落雷は我々がやったことだ。許して欲しい』


「なぜ、こんなことを……」


『我々と協力してもらうために君を選んだのだ。今後起こるであろう対米戦争を勝ち抜くための準備だ』


「対米?…将来はやっぱりアメリカと戦うことになるのか」

 日本はいつかアメリカと対決する(とき)が来るだろうと勇司は予想していた。


『察しがいいな。まずは我々の歴史を見て頂いたほうが早かろう。ほんの一瞬で済む。我慢してくれ』


 脳内に何かが流れてくるのを感じた。痛みのない世界はずなのになぜか針を刺すようなチクチクと感じる。


第一世界大戦 ポーランド侵攻     第二世界大戦

    真珠湾攻撃   太平洋戦争     バルバロッサ作戦

朝鮮戦争     ベトナム戦争   イラン・イラク戦争   フォークランド紛争  湾岸戦争 

    アメリカ同時多発テロ事件…

アフ… 北朝せ………… ア……リ… セリ……

カイ………争  中……壊…… ………崩壊

   ……… 第三次世……


etc.     etc.             etc. ……

etc. ……… etc.


「くっ…」

 膨大な情報量で脳の負担がかかり痛みが増すが、あらゆる歴史の記録が勇司の脳内に書き込まれてゆく。


「っ、はぁ、はぁ……」

 ようやく痛みが収まり頭からドッと汗が流れた。荒い呼吸を繰り返し、ゆっくり落ち着いて呼吸を整えた。ほんの数秒の時間だったが感覚は何時間かかったように感じた。


『大丈夫かね。今まで見た記憶は我々が生きていた歴史の記録だ』


「ま、まさか、君達は未来から来たというのか。やっぱりアメリカと戦うことになるのか」


『そうだ、どっちに転んでも日本はアメリカと対決することは避けられない。アメリカに打ち勝つためには日本を強くする必要がある。そのための準備だ』


「おいおい、俺はしがない学者にすぎない。そんなに力はないぞ」


『大丈夫だ。我々はいくつかのプランがある。私の言うとおりにすれば間違いなくできる』


「プラン…??」


『おっと、紹介遅れたな。私はアインス』


「アインス?すると他のみんなはツヴァイ、ドライ、フィーアとかじゃないだろうな」


『流石は博士だな。そのとおりだ。みんなに紹介しよう』

(ツヴァイ)

(ドライ)

(フィーア)

(フュンフ)

(ゼクス)

(ズィーベン)

(アハト)

(ノイン)

(ツェーン)

(エルフ)

(ツヴェルフ)


『そして私が十二人衆の筆頭、アインス。我々のことは『ブレイン』と呼んで欲しい』


「ブレイン…頭脳…?」


『そうだ、我々十二人の思念体は賢者、賢士や博士等の記憶や知識などを集成した十二人の頭脳を持つ集合記録媒体であり、あらゆるジャンルに対応できる科学力と技術力を持っている。歴史を変えるために我々は逆行してきたのだ』


「な。こ、こんなことしたら君達の歴史が変わると大変なことになるのでは」

 俗に言うタイムパラドックスのことである。時間軸を遡って過去の出来事を改変した結果、因果律に矛盾をきたすことである。

 例を挙げると、自分が生まれる前の時代にタイムトラベルし、自分の親を殺すと結果として自分自身が生まれることはなくなるという矛盾が出てくる。

 または若い頃の自分の母親と同じ年の時代に遡って、母親と恋に落ちて結婚したとしたら自分の存在はなんなのか、おかしな現象になる。


 しかし、ブレインは否定した。

『いや、我々が介入しても君達の世界は我々の違う歴史へ歩むことになる。何の問題はないのだ』


「え…?」


『パラレルワールドはご存知かね』


「パラレ……なんだそれは」


『おやっ、この時代はまだ認識してなかったか。パラレルワールドとは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界という。詳細は省くが我々は別の世界から来た未来人だと思えばいい』


「平行世界……この世界と違う別の世界」


『この認識で構わない。本題に戻そう。先程言ったように、このままで進めば日本だけでなく世界が破滅の道へ辿ることになる。それを避けなければならない』


「世界が滅ぶ……じゃあ、君達の世界はどうなったんだ」

 未来の世界がどのようになったかわかってしまったような気がした。


『君の想像したとおりだ。我々の地球は太陽系第2惑星の金星と同じく生物のいない死の惑星と化した。気付いた時は既に手遅れだった。我々はどうすることもできなかった』

 ブレイン達は悲痛な声を絞り出すかように聞こえる。いくら過去に介入しただけでも別の世界へ分岐して進むだけで現在は変わることはない。


『馬鹿なアメリカのせいで…いや、”奴ら”のせいで残忍非道の兵器を使ったのだ。オゾン層が破壊され、高温化や有害な紫外線が降り注ぎ、地上にいるあらゆる生物達を死滅を追いやった。あの兵器を作らなければよかったと思ったことか…』


 残忍非道の兵器と言ってもピンと来ないがブレインの苦悩していることはわかった。地球にいる生物を死滅に追いやる程の途方もない兵器であろうと理解できた。どんな兵器かわからないが…。


『また道が逸れたな。これは三世紀以上先のことで気にしなくていい。なぜ我々がこの時代へ遡った訳がある。我々の研究では”奴ら”がアメリカの後に関わってるとわかったのだ。そのためにはアメリカを一度挫折させる必要がある』


「挫折…。ベトナム戦争とか負けてるようだけど効果はなかったのか」

 刻まれた歴史の記録を巡ってみると、アメリカの敗戦はベトナム戦争くらいしか見つからなかった。他に紛争とかはあったが微々たるものだろう。


『あれはアメリカが撤退しただけで効果はない。アメリカ本土まで侵攻しない限り屈服させるのは不可能だろう。講和程度ではダメなのだ』


「日本はできるのか。物量で押し切られると勝ち目はないぞ。技術や生産量も桁違いだ」

 勇司は知っていた。アメリカという国はどんな国かを。聞いたところではアメリカは有数の高層ビルが建っており、街や道路など整備されて、自動車は一家に一台所有してる程の当たり前かように走ってると言われている。広大な土地を持つアメリカと構えるのはどう考えても無謀と言いようがない。


『そのために我々が来たのだ。何も心配はいらない。1年で5万トンクラスの戦艦を8隻作るほどの技術力は我々は持っている』


「は、8隻…。たった1年でか?」

 信じられない表情をする勇司。

(5万トンクラスになると、どう少なく見積もっても1隻だけでも5年以上位はかかる。それなのに1年で8隻。そんなことは可能だろうか。)


『可能だ。その気になれば1年で10万トン以上の戦艦の6隻を作れる自信はある。我々はそれだけの技術と実力はあるのだ。しかし今は無理だ。下地作りのために我々は外部の協力者が必要なのだ。そのために久我博士。君に選ばれたのだ。協力してほしい』


「………」


 1年で10万トン戦艦の6隻…。あまりもスケールが違いすぎて自分の判断を追いつかなかったが、すぐに気を取り直して軽く頭を振る。しかし、アメリカという巨大な相手に私ごとき何かできるのか……。例え日本が勝ったとしたらアメリカと同じように覇を進むのではないかと言ったら、


『それはない。日本はそのまま覇を唱え続けることは不可能なのだ。なぜならば中国、中東そしてイスラムが台頭してくるからだ。どの国も複雑な情勢がある。あの広大な支配地域を誇ったモンゴル帝国は400年で崩壊した。どう足掻いても全世界に統治するのは到底不可能なのだ。将来ソ連は崩壊するので脅威に成り得ない。アメリカ以上の国は出てくることはない』


 勇司は思考した。本当に可能なのか。いや、ブレインは可能だと言ってる。この先、どんな未来が待っているのか確かめてみるのも悪くはない。私の命を賭してみるのも面白い。


「いいだろう。引き受けよう」


『おお、ありがとう。久我博士』


勇司(ゆうじ)でいいよ。ひとつ聞きたい、”奴ら”とは何者なんだ」

 勇司が気になっていた。ブレインが言う敵はアメリカではなく”奴ら”だと。


(………)

 ブレインは何も答えない。いや、口籠もってるように感じがした。


 十数秒の沈黙が続いた。勇司は諦めたかようにふぅと溜息を吐いた。


「……話せないことなのか」


『すまない。今は答えることはできない。君が考えてる程の甘い相手ではない。(とき)がきたら話そう』


「わかった。その時が来たら話してくれるんだな」


『約束しよう。…おっと、お目覚めの時間のようだ。この話はいずれに……』

 アインスに率いる12人衆はうっすらと消えかかってゆく。


「え、あれ、急にねむ…く……ちょ…待……」

 青年は無意気に手を伸ばすが届かず、眠りに落ちるよう意識が薄らいでいく。





「う……あ、あれ…ここは…」

 目覚めた勇司は、きょとんとした表情を浮かべ周りの状況を見る。見知った病室、ああ、いつもお世話になってる病院の病室だな。と的外れな思考する勇司。


「ゆ、勇司様っ」

 そばにいた女性がの声をあけた。異国人と思わせる茶色の髪に鳶色の瞳。白い肌にふっくらした体つきの若い女性は、勇司のそばに縋った。


「ああ、無事でよかった。あれから心配で心配で…」

 涙がポロポロと流して泣き伏した。


(ゆき)か。すまん、心配かけた」

 勇司は照れくさそうにふっと笑い愛おしそうに幸の頭になでる。


「もう、ホントに心配したですよ」

 啜り泣き声でジトッとした瞳で睨む。勇司は苦笑した表情で(ゴメン)とつぶやき幸の頭になで続ける。

 夏の日差しがカーテンの隙間からこの病室へ白い筋を作って差し込んでいた。




 翌日、丸メガネをかけた六十代後半の老医者は勇司の身体をあっちこっち検査するが首を捻った。


「ふうむ、どこにも異常は見当たらんのう。直撃したとは思えぬ軽微じゃな。二、三日休養すれば回復するじゃろ」

 ここに運ばれてきた時は衣服はボロボロで生死にかかわる状態だったが、今はほんの軽い火傷を負ってるだけで済んでいた。老医者は首を傾げるしかなかった。


「あははは…頑強さが取り柄なんで…」

 冷や汗を掻く勇司。ブレインからナノマシンなんとか治療して貰いましたなんで言えない。


「ふぅ…もういい。今日は帰ってええぞい」

 老医師はやれやれという表情でシッシッと手を振る。

 勇司は苦笑した。まあ、毎度のことだし、いつもお世話になっているので腹が立つこともない。言葉を甘えて退院することにした。





 住処に着き、研究室に入るとそこは落雷で散らばった床の破片や資料、道具等がきれいに整頓されていた。


「あれ…。片付いている」


「大変でしたよ。ご近所さんのご協力で整理してくれたのよ」


「そうか、後でみんなにお礼を言わないとね」

 バツの悪そうな表情で頭を掻く。


「夕餉の仕度してきますね」


 わかったと言い、床下には落雷による焦げた跡が残ってるが殆ど修復されていた。みんなに感謝しないとなと思い、椅子に体を預け思考を探るように瞑目する。


「ブレイン、聞こえているか」


『聞こえている』


「さっきの続きだが、具体的に何をすればいいんだ」


『まずは資金作りだな』


「資金かぁ…こればかりはなぁ」

 勇司はげんなりした。研究や発明ばかりで明け暮れているがたいした成果は上がらず資金が得られていない。たまに妻と一緒に農家の手伝いや学校の臨時講師してるくらいで飯食う程度でやっとだった。無い袖は振れない。


『心配はいらない。君が発明している例のモノを売って資金を得ればいい』


「あーあれか、いくつか試作してるが失敗作ばかりだ。それに大量に生産にできる設備がないぞ」


 勇司が研究しているのは携帯できる小型で音質の良いラジオとかいくつかに試作していた。しかし、一番の問題なのは真空管で小型化が難しく、四苦八苦していた。


『ははは、心配はいらない。いくつかの設計図があるから君に提供しよう。この時代より優れた真空管、コンパクト化した磁気記憶装置等の機械をつくるのだ。試作機と設計図、そして真空管や磁気記憶装置のノウハウを会社へ売り込めばよい』


「できるのか。精密すぎて失敗しないか?」

 小型化がそれほど難しいか理解している勇司は疑問符する。


『大丈夫だ、この時代にない最高の機械を作ることはできる。我々を信じて欲しい』


「よしわかった、できる限りやってみよう。よろしく頼む」

 勇司は吹っ切れた。協力すると言った以上とことん付き合うつもりでいる。


『了解だ、こちらこそ頼む』


 勇司は休養後、数日間かけて必要なものを取り揃えて準備を取り掛かった。




 退院して2ヶ月過ぎた頃、ブレインが指示した通りにラジオテープレコーダーという機械が完成した。

 幅50センチ、高さ25センチ、厚さ15センチ位の直方体の箱で、小型高性能の真空管等に使ったラジオと、一般では高額で一部しか普及されていないテープレコーダーを手のひらに収まる程の小型化(カセット)して組み込んだ機器である。

(通常ラジカセと呼ばれる、2、30年先に進んだ技術である。)

 従来音質が悪かったテープレコーターを音質改良、プラスチックテープの耐性向上、従来のラジオよりコンパクトで段違いの性能を持っていた。電源は家電コンセントだけではなく乾電池で使用出来るように作られており、取っ手が付いてるので持ち運びやすく携行できるラジオテープレコーダーである。

 ラジオ放送を録音ができる機能はメリットが大きい。聞く時間帯が合わない又は放送を聞き逃しても録音していれば何度も聞けるので役に立つ。音楽放送も録音できるのでありがたい装備である。

 また、持ち運びが困難だったレコードプレーヤーの代わりにテープレコーダーにすれば、簡単に持ち運びができ、設置場所もとらないのも大きな利点である。


「すごい…かなり遠くまで電波が拾える。それに音声までかなりクリアだ」

 勇司は興奮冷まらぬままに歓喜した。


「でも、どこに売ればいいんだ。いくら高性能でもどこも買ってくれんぞ」

 自分の発明を歯牙にもかけない日本企業に、いつも門前払いを食らっている苦い経験がある。どうも日本企業は日本製品より信頼性の高い海外製品を頼る傾向がある。


『落ち着きたまえ、勇司。これだけの性能を持ったラジカセは君以外、作れる者は存在しない。それでもダメだったら海外へ売り込めばいい』


「むぅ…なんか面倒くさいけど、しょうがないな。君の言うとおり行動してみよう」



 書類や手続き等、数ヶ月かかってやっといくつかの特許を得ることをできた。その後、有名な日本企業へ売り込みかけた。最初は門前払いされると思い訪問したが、ラジカセを見せると目の色を変えた。

 破格の報酬でうちで働いてほしいと言われたが他にやることがあるので断った。



 後日談になるが、久我博士が提供したラジカセは画期的であり、発売してまもなく一気に受注が増加、海外からも注文が殺到して生産が追いつかないほどの爆発的にヒットした。

 もうひとつ、経営に振るわず倒産しにかけていた某乾電池のメーカーはラジカセのおかげで乾電池の需要が高まり爆発的に売れ、会社の景気を持ち直すことができた。経営陣たちが涙を流し手を取り合って喜び合ったのは言うまでもない。




「特許と資金を得たけど、その後はどうするんだ」


『この真空管で演算装置をつくって欲しい。これを完成すれば後は我々がナノマシンによって増殖できる』


「ナノ……できるのか。頭がさっぱり過ぎて追いつかない」

 何やら分かららず、勇司は頭を抱える。膨大な知識を詰め込んだとはいえ、常識の違いが多すぎて整理が追いつかない。


『すまない。理論を説明するのは難しい。図面のとおり作ってくればいい』


「わかった」

 これ以上追求せず言われたとおりに製作を取りかかる。



 約3ヶ月後、自動計算機(コンピューター)と呼ばれる筺体が完成した。高さ2メートル位のタンス並で中央より上に丸み帯びた長方形のモニターに埋め込み、その下は机のように一枚の板に区切られており、キーボードはタイプライターを改造して代用した。

 最初は真空管やブラウン管を用いたモニター等を作るのに苦労したが、工作機械のおかげでなんとかはかどった。

 ブレインの指示通りにアセンブラやプログラムなどのデータを打ち込み、この作業を数日間でなんとか終えた。試しに方式や算出などのプログラムなどをテスト入力してみると、たった数秒で解答を出した。


「すごいな。これは……人力でやると数週間かかるシロモノだぞ」

 今までかかった苦労がすべて報われたと感動を覚える。


『感動するのは後にしてくれないかね。設備や人工培養などの必要な材料を用意はできてるかね』


「ああ、わかった。必要なものは全てにここにある。一体何をするつもりだ」

 余韻を浸ってた勇司は我を返り、ブレインに言われたことを思い出し、準備はしてきた。しかし、何を使うのか見当つかなかった。


『私のナノマシンや人体錬成(ホムンクルス)をつくるためだ』


「ほむん?……人造人間か!」

 確か、ヨーロッパの錬金術師が作り出す人工生命体を作り出すと、どっかで本読んだことある。成功したと聞いたが眉唾ものだと思ってたが。


『そう思っても構わない。これさえあれば君のパートナーとして活動できる』


「パートナー?」


『そうだ、君1人では限度がある。私の分身がいれば活動しやすい』


「なるほど」

 確かに俺1人で活動するのは身に余る。雇用する手もあるが極秘に関するものなので妻以外の部外者は頼れない。ブレインの分身なら信用できるだろう。


 ブレインに言われたとおり、育成に必要なタンパク質などの物質をカプセルの中に投入する。

 数時間後、何やら塊が見えてきた。さらに時間を進むと赤子らしきものが見え始める。

赤子から小児になり、成長が倍速に進んでゆくように見える。


 数週間後、二十代位の成体に成長したクローンが目覚め、そしてカプセルから起き立ち上がる。


『初めマしてカな。勇ジ』

 目が覚めたばかりで体が強張ってるのか動きがぎこちなく、うまく喋れていない。


「すごい…本当に出来るとは」

 呆然してた勇司はにわかには信じられなかった。まさか目の前で人造人間(ホムンクルス)が成功できるとは思ってみなかった。ブレインが来てから不可思議な事が起こるばかりだ。


 ブレイン(クローン)は何を思ったのかゆっくりとストレッチを始める。徐々に体の強張りをときほずくように、身体の動きが良くなってゆく。


『フむ、声帯ハ安定するまで少々時間かカるガ身体の異常はナイ。スマないが何カ羽織るもノをイタだきたいノだが』


「あ、ああ、悪い。洋服はここに置いてあるから好きなように着てくれ」

 カプセルから目覚めたばかりで何も身に着けていない状態だった。気付いた勇司は持っていた衣料を何点かをブレインに渡す。


『あリガとう』

 ブレインは下着やズボン、カッターシャツ等を身に付け、礼を言う。


 確認した勇司は

「それでどうするんだ」


『心配イラない。これからは我々がヤルから君はやるベキことを集中シテ欲しい』


「これからとは…」


『ソウだな。どこかに広大な土地ヲ購入するンだ。できレば海岸近くて人知れず秘密が守れるような場所が望まシイ』


「ふむ…」

 勇司は顎に指をあてて考え込む。どこがいいか心当たりあるようだ。


「ちょっとアテがあるから時間をくれ」


『わかッタ。期待シテいる』


 後日、屋敷を売り払い、北海道のどこかに広大な土地を購入して、妻の幸と共に移住した。




まずい作品ですが、ご覧頂きありがとうございます。

次話は2~3日後投稿する予定です。(多少遅れると思います。)


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