8.2つの剣
ロト族の集落を出て、半日ほどで人族の通る西の国の街道に出る。
「さすがに、人通りは少ないわね」
ナギが辺りを見回して、そう呟く。
「南の国ぐらいだな、賑わっているのは。・・・魔物の生息地との間に獣人族の集落がある分、直接攻められることはないから。」
エサカが言うと、ナルホド、とナギが呟く。
「・・・そう考えてみると、南の国は、本当に平和よね。ギルドが正常に機能してるのも、南の国だけだし。・・・冒険者も集まるから、自然と戦力も南の国に集まってることになるわね。だから、騎士団も近衛隊も人員を少なくできるのよ」
「地理的に一番良い場所にあるのよね。・・・でも、南の国には、他の国には無い責任がある」
「それって・・・」
ミオンの呟きに、ココが反応する。
「・・・有事の際・・・この場合で言えば、魔王討伐隊を編制することとか、他の国への援助なんかも、南の国の義務になっているわね。・・・それに、王の義務も他の国には無いものがあるわ」
「ああ、それなら知ってるわ。・・・守っているのよね。神宝を・・・」
ルザナが声をひそめる。
ルザナの言うとおり、南の国には、神宝と呼ばれるものがある。まことしやかに流れる噂によると、その中には、この世界を創った神の力が込められていて、そのおかげで、魔導を行使することが出来るのだという。
「この世界を創られた神は、神宝を託してこの世界を去ってしまったけれど、私達が未だにその恩恵を受けられるのは、その神宝のおかげなのよね」
ミオンがその手に光を灯らせて呟く。
「魔王は神宝を狙っている。・・・それさえあれば、今まで以上の力を手に入れることが出来るから。・・・神宝は所有者に恩恵を与える。・・・だから、魔王が神宝を手に入れてしまえば・・・」
タスクの言葉に、全員がぞくりと身を震わせる。その光景を容易に想像できたのだ。
「絶対に、魔王を倒さなくてはいけません。・・・南の国に魔手が伸びる前に」
スズが結論づけると、皆が頷く。
「他人事じゃないものねぇ・・・。張り切りますか!」
ニッと笑うと、ナギがココの手を取る。
「早速なんだけど、ココ、遠話(の呪文)でミオリさんに連絡とってくれる?」
「はい。――――・・・」
ココは、ぷつぷつと呪文を唱え、遠話の呪文を発動させる。
『あら・・・お久しぶり。随分とお仲間が増えたのねぇ・・・』
笑みを浮かべて、水人族の女性、ミオリは面々を見回し、まあ、と呟く。
『・・・翼主がいるわ。タスクくん、契約者になったのね』
「・・・俺のこと、気付いてたんですね」
そのセリフで、レラ族と見抜かれていたことに気付き、タスクは苦笑する。
『当然よ。人かそうではないか、容易に見分けられるわ。だって、魂が違うもの。・・・隠したがっていたようだし、黙っていたのだけど』
水人族の特殊能力を思い出し、タスクは頷く。
「あまり広めたくなかったもので・・・」
『そうでしょうねぇ・・・。ところで、遠話を使ったということは、何かご入り用なのでしょう?』
「ええ。今、光石は手に入る?そろそろ魔物の勢力圏に入るし、人数も増えたから、少し買い足しておきたいの」
ナギが注文を告げれば、ミオリは目を細めた。
『ああ、それなら今、カナが仕入れに行ってるわ。西の国の一番大きな湖わかるかしら?』
「・・・わかるわ」
『そこの水人族の集落にたくさんあるから、カナに持って行かせるわ。今、どの辺りにいるの?』
「西の国の街道よ。・・・獣人族の集落がある森の隣」
『あら、じゃあ、直接行ってもらった方が良いかしら。・・・オベリスクが建ってるところでしょう?』
タスク達は、今し方通り抜けたばかりの場所に建つオベリスクを振り返る。
「そうです。ちょうど、その前にいるんですが」
タスクが答えると、ミオリはにこりと微笑む。
『そこから、水人族の集落はすぐよ。・・・オベリスクを背にまっすぐ進めば、水人族の集落のオベリスクが見つかるから。・・・ココちゃん、遠話しながら歩けるかしら?』
こくり、とココが頷く。
タスク達は、ミオリの指示通りに進み、水人族の集落のオベリスクを発見する。
「ありましたよ。・・・この先の湖に行けば良いんですよね」
『そうよ。・・・ああ、タスクくん。水人族も翼主に怯えるから、ちゃんと説明してあげてね』
「・・・はい」
タスクは苦笑して、キララを見やる。キララはひょいっと肩をすくめ、もう慣れたとばかりに溜息をついてみせる。
しばらく進むと、光り輝く水面が眼前に広がる。
「わ~キレイですねぇ~!!」
ココが歓声を上げると、エサカとルザナも表情を明るくする。
「ああ、キレイだな。・・・魔の空気にあてられていたから、こんな場所に来ると清々しい気持ちになる」
「ホントね。・・・森の中はうっそうとしてるから・・・。たまに外に出るのも良いわね」
「あの・・・どちら様ですか?」
突如背後から声をかけられ、タスクは危うく叫び声をあげてしまうところだった。それほど、気配が隠されていたのだ。
「最近、後ろばっかり取られてる気がするんだけど・・・」
キララが少々不機嫌に呟くと、背後から声をかけた張本人がギョッとして身をひく。
「っ・・・翼主!?」
「智翼主よ。・・・そんなに怯えないで。いきなりあなた方を支配するなんてことはしないから」
キララが言うと、その水人族の男性はおずおずと側に寄り、タスクを見上げる。
「あなたが契約者ですか?」
「ええ。・・・あの、俺達は・・・魔王討伐隊で・・・」
「あ~ッ!!!いったぁ~ッ!!!」
大音量で話を遮られ、キンキンする耳を押さえながら声の聞こえた方向を見る。
「・・・カナ?」
ミオンがその声の主をそう呼ぶ。
「ミオンじゃな~い!ひっさしぶり~!!!元気だった?もうさ、母さんに聞いてびっくりしたよ~!魔王討伐隊だって?大変だねぇ!・・・あ、そうそう、母さんがね、あんた達に会うことがあったら、これを渡せっていわれてたのよ~!!はいっ受け取ってちょうだい!」
「あ、う、うん」
どこで息継ぎをしているのかわからないほど、良くしゃべるカナにすっかり気圧されて、ミオンは素直にそれを受け取る。
「それ、光石じゃない!」
ナギが思わず叫んで、駆け寄る。
ミオリはすでに、ナギが光石を必要とすることがわかっていたのだろう。その事に気付いて、皆がミオリの方を向く。
『・・・カナ、ご苦労様だったわね』
「あっれ!母さんじゃん!・・・そっかぁ~、母さんがこっちにこの人達を連れてきてくれたのね!」
カナがニコニコとミオリを見上げる。
『カナ・・・、あなた、魔王討伐隊に入れてもらいなさい』
「・・・うん!わかったぁ!」
タスク達が突然の発言に反応できずにいると、カナがぴょこんとお辞儀をする。
「これから、よろしくぅ!」
「あ、ちょ、ちょっと・・・危険なことなんですよ?わかってますか?」
タスクが慌ててそう言うと、カナはきょとん、としてから、にっこりと笑う。
「もっちろん、わかってるわよ?・・・魔王と戦うんでしょ?まかせてよ、あたしの父さんも前の魔王討伐隊にいたんだもん。戦い方もぜぇ~んぶ、父さんに教わったから♪」
絶句。
「・・・タスク・・・?」
呆然としているタスクに、ミオンが声をかける。
「・・・出来すぎだ」
「え?」
「・・・この出会いは、偶然にしては出来すぎ・・・」
タスクの呟きは、皆の耳に届く。
「偶然じゃないわ。・・・必然よ。タスクがミオンに惹かれたのも、前の魔王討伐隊関係者がまわりに集まってくるのも・・・」
キララがタスクの呟きに答えると、ハッとしてタスクはキララを見つめる。
「俺が・・・キララの契約者になったのも?」
「・・・そうよ」
キララが素直に肯定すると、タスクはまた、黙り込んでしまう。
『考えるの、無駄だと思うわ』
まだ遠話の効果がとぎれていなかったらしい。ミオリがやんわりと言う。
『タスクくんの、欲しい答えは今ここでは得られないわ』
「・・・以前・・・お聞きしましたね。・・・あなたがなぜ、水人族の集落で暮らさないのか・・・」
『・・・ええ』
「あなたは、神子だったんでしょう?」
タスクの問いに、ミオリは薄く微笑む。
「あなたは・・・集落から、逃げた」
『・・・そうよ。カナの父親に逃がしてもらったの。・・・外の世界を知らず、けれど、すべての未来を読む・・・。カナの父親は私とカナを逃がして、水人族から責めを受けて・・・二度と私達に会えない呪いをかけられてしまった。・・・そして、私も外の世界を知ってしまったから、力を失った。』
しんと静まりかえったその場で、唯一、声を発したのが、先程、声をかけてきた水人族の男性だった。
「ミオリ様は・・・けじめをつけると仰って、集落を出て行かれた。我々は、カナにもミオリ様にも申し訳ないことをしたと、反省したのです。・・・ですが、あの人にかけた呪いは、簡単には解けないモノなので・・・」
「で、あたしが、その解くための方法を探し回りがてら、母さんの仕事の手伝いをしてるわけ。・・・一人で世界中を回ってるのよ?少しは、戦力になると思うわ」
そう言って胸を張るカナに、タスクは苦笑する。
「・・・ありがたくお借りしますよ、ミオリさん。・・・この必然に、感謝しなくてはいけませんね」
『そうね。・・・この、偶然を装った必然に』
***
遠話の効果が切れると、タスク達は、水人族の集落に招待される。
「申し遅れました。私はキキトと申します。・・・我々水人族には、戦う力はほとんどありません。代わりと言っては何ですが、この集落にある魔導具をご自由にお使い下さい」
ようやく名乗る機会が訪れた水人族の男性は、そう言って宝物庫へとタスク達を案内する。
「あの、良いんですか?上の方に許可を取らなくても・・・」
ココが心配そうに尋ねると、キキトは微笑んで頷く。
「私がこの集落の責任者です」
「え!?・・・あ、すみません、お若く見えたから・・・」
「・・・水人族は、大人になってしまえば、見た目は死ぬまで変わりません。その点では、ある程度大人になっても成長する、他の獣人族の方達とは違いますね」
ニコニコと説明をするキキトに、ココは恐縮しきってしまう。
「ある意味、詐欺よね」
ぼそっとナギがタスクを見やりながら呟く。歳をごまかしていることを、正直に説明したことを今更後悔する。
「あ、あはは」
から笑いをするタスクに、宝物庫にある宝を眺めていたココが慌てて抜き身の剣を差し出す。
「た、タスクさん!・・・これ、【神の剣】というんですって!タスクさんがレラ族の方から受け取った物と同じじゃありませんか?」
「!・・・ああ、確かに・・・」
ココの持つ剣を受け取り、細部まで確認する。
タスクはおもむろに自分の剣を抜き、2つの剣を並べた。
「これは・・・!」
キキトが息を呑む。なぜなら、色合いが微妙に違うこと以外、すべてが同じ作りになっていたからだ。
「これは、【守護者の剣】と言います。代々、一族の長が受け継ぐことになっていて、今は俺が預かっています」
「・・・そうでしたか・・・。この【神の剣】と対になる剣があるとは聞いていましたが、レラ族に伝わっていたとは・・・。その剣の柄にくぼみがあるのがわかりますか?」
キキトに言われ、タスクは剣の柄に触れてみる。
「ああ、ありますね。少しわかりづらいですが・・・」
「この集落には、2つの剣を繋ぐ聖石という物が剣と共に伝わっていました。・・・きっと、この時のため、この世界を作った神が残して下さったのでしょう」
そう言って、キキトは首から提げていた袋から石を取り出し、タスクに手渡す。
「この石を剣の柄にはめて、2つの剣を組み合わせて下さい」
「・・・はい」
タスクは頷き、言われた通りに2つの剣を組み合わせる。その時、剣から眩い光が発し、目を開けていられなくなる。
「うわっ・・・」
光が消え、目を開けると、組み合わされた2つの剣ではなく真っ白な剣がそこにはあった。
「ああ・・・伝説は本当だった」
「伝説?」
興奮で声がうわずっているキキトに、ナギが尋ねる。
「そうです。――2つの剣が出会うとき、【純白の剣】が魔と闇を打ち払う。・・・水人族に伝わる伝説です。6代前の神子が託宣を受けて・・・」
「すごい、伝説の聖剣ですよ!タスクさん、確か、欲しがってましたよね!?」
「ああ、そう言えば、ギルドマスターがツテを紹介してくれたときに、かなり天然な発言してたわねぇ」
ココとナギに言われて、タスクは恥ずかしさのあまり、俯いてしまう。
「本当にあったね、伝説の聖剣。・・・お話の中だけって思ってたのに」
「タスクには、そういう力があるのよ。・・・願いを実現させてしまう力が」
ミオンが言うと、キララが頷きながら、そう告げる。
「・・・これも、必然ですか?」
タスクはキララを見つめる。キララはこくり、と頷き、キキトを振り返る。
「・・・神はまるで、タスク達のため・・・タスク達が、魔王を倒すためにすべてを準備していたようね」
「・・・そうかもしれません」
キキトは続ける。
「神はすべてを見通されていた・・・。だから、偶然を装って、必然的な出会いを作り、そして、そのための準備を怠らなかった」
「神は本当にこの世界からいなくなってしまったんですか?・・・本当はどこかで、私達を見ているんじゃないんですか?」
スズがキキトに尋ねると、キキトは静かに首を横に振った。
「わかりません。神子でさえも、どうやって託宣を受けたか、覚えていないのです」
「そうですか・・・。でも、この世界を創った神は私達に味方していると考えて良さそうですね」
「そうね。・・・それだけで充分心強いわ」
ココが晴れやかに笑むと、ナギもニコリと笑う。
「行きましょう・・・魔王の元へ。魔王を倒せば、すべてがわかるはず。前回と違って・・・すべての条件が揃っているのだから」
前回とは、ミオンも同行していたという、魔王討伐隊の事。タスクはミオンを見る。
「・・・キョウ兄の時は条件が揃っていなかったのね。・・・魔王を一時でも倒せたのは・・・龍神の加護があったからなんだわ」
「・・・ミオン」
「今度こそ、ちゃんと倒さなくちゃ。・・・ね?タスク?」
「・・・うん。そうだね」
「おーいっ!いつまでそこにいるのー!!・・・もう、いっくよ~!!」
カナが大声で呼んでいる。
「今行くわ!」
ミオンはタスクの手を取り、皆の元へ走り出した。




