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10.魔王

 ふと気が付くと、空が真っ黒な雲に覆われていた。そして、目の前には大きな橋。


「デモンズ・・・アーチ」


 ココが呟く。言葉をつまらせたのは、緊張のためか。


 魔王居城まで続く大きな橋は、先が見えないほどに長い。獣人族の援軍が先に着いているはずだが、その姿は見えない。


「ルマ族とロト族は・・・もっと先で戦っているんだろうか?」


 エサカが呟く。


「魔王居城付近に、魔導の気配がある。・・・戦いの気配もな」


 すぐ脇で龍神が答え、エサカはギョッとしたように身をひく。


「・・・そう、緊張することもないだろう。我等龍神とて、この世界の中にある命の一つであるのだから」


 龍神は、くつくつと笑い、目を細める。


「さあ・・・神の加護を受けた者達よ・・・。神の悲願を叶えるのだ。この世から、魔王を取り去り、民が安心して暮らせる大地にするのだ。・・・我等神族は直接、歴史に介入することは許されていない。しかし、そなたらに加護を与え、手伝うことはできる」


「センキ様・・・」


 ミオンが龍神を見上げ、龍神はその視線を受け、柔らかな微笑みを浮かべる。


「我が加護を受けし愛し子、今度こそ、そなたの役目を果たすことが出来るな」


「はい」


 ミオンは頷き、タスクに視線を向ける。


「行こう、タスク」


「・・・ああ」


 タスクは頷き、そして、魔王居城を見上げた。黒い雲に覆われ、時々稲光と思われる光がそのシルエットを浮かび上がらせる。


「不気味ね。・・・魔王って、どんなヤツなのかしら」


 ナギが呟く。答えを求めているそれではなく、ただ単に、気になったというような呟き。その呟きに龍神とキララがほんの一瞬、瞳の色を深くした。



***



 タスク達はデモンズアーチをひた走る。魔王居城までもう少し、というところで、ゴロゴロと転がる魔物達の死骸を発見する。


「・・・どうやら、先陣隊は頑張っているようだな」


 ニッ、とエサカが不敵に笑うと、ルザナが頷く。


「今まで行動に移さなかった方が不思議だわ。・・・集落で怯えているばかり・・・。魔の気配に抑えられていたのね」


「そうですよね、協力すればなんてコトはないのに・・・」


 ココは首を傾げる。


「・・・機というものよ」


「・・・機?」


 キララが頷く。


「そう、機。・・・物事には、変革が訪れる転機というものがあるわ。その条件が揃わないとうまくいかないものなの。・・・以前の魔王討伐の時のように、ね」


「・・・でも、この世には無駄なことは一つもないって、私は教わってきました」


「・・・その通り。以前の魔王討伐隊の事でさえ、転機を迎えるための条件となっているの。・・・でなければ、私達が出会うことがもっと遅れていたか、条件が揃わないままとなっていたかもしれないわ」


 ココは納得したように頷く。


 その時、どん、と突き上げるような揺れを感じる。


「・・・何っ?地震??」


 ナギが辺りを見回し、原因を探ろうとする。


「・・・魔王が、居城付近の一帯を隔離した」


「げ。隔離って事は、魔王倒すまで逃げられないってコト~?」


 冷静に言うミオンに、カナは確認するように尋ねる。


「そう。・・・でも、これは大した問題じゃないわ。問題なのは・・・」


「魔王が本気になったこと、ね」


 キララがミオンの言葉を継ぐ。


「・・・急いで、先陣隊と合流しましょう!」


 タスクの号令で、皆が走り出す。



***



 剣戟と魔法の残滓や魔物達の死骸を避けながら走り、ようやく、動く人影を発見する。


「「・・・っ!」」


 その人影の顔が見えるまでに近づくと、タスクとミオンが息を呑む。その気配に気付いたか、その人物が振り返りざま、微笑んだ。


「・・・遅かったな、タスク、ミオン」


「「・・・団長!?」」


 見事にハモって2人は目を見開く。


「団長だけじゃないぞ~」


 ニヤニヤと笑いながら、声をかけてきたのは、副団長だ。見ると周りにはタスクとミオンの同僚である魔導騎士団員達が揃っている。


「・・・魔導騎士団が・・・なんで・・・」


 呆然とタスクが呟くと、団長が苦笑する。


「お前達だけに任せておく訳にもいかないだろう」


「そうですよ。何も、精鋭部隊だけが行かなきゃいけないってコトは、無いんですからね。ハイ」


 聞き覚えのある口癖と声が聞こえ、その方向を向くと、(ドード・ヨーン)のギルドマスター、ショーが立っていた。


「ギルドマスター!?・・・えっ、(ドード・ヨーン)のみんなもいるの?」


 ナギが尋ねると、ショーはにこやかに頷く。


「俺も来てやったぞ」


「げ!リョー!!」


 口をついて出たのがその言葉。ココは嫌そうにその相手を見つめる。


「お、お前な~・・・、そこまで嫌うか?」


 ガックリとするリョーを尻目に、ショーはタスクへと視線を向ける。


「レムさんから、依頼を受けましてね。・・・いろんなギルドへ掛け合ったんですよ。ハイ。・・・しかし、驚きましたね。タスクくん、あなた、レラ族だったんですね」


 ショーの視線の先には、タスクの背から生えた、黒い翼。


「はい。そうです」


「レラ族のイメージは一新されたな」


 苦笑するのは、リョー。


「あっちで、レラ族の連中が、戦ってる」


「え!?」


 タスクは仰天して、リョーの指さす方を向く。目をこらせば、確かに黒い翼が舞っている。


「・・・キララ・・・」


「タスクの、おかげね。・・・レラ族も内に隠るだけでは何も変わらないことを学んだんだわ」


 キララはそう言って微笑み、タスクの背をポンポン、と叩く。


「・・・はい」


 声を震わせ、タスクはうつむく。


「先へ進め。・・・奥でルマ族とロト族が戦ってる」


 タスクの肩に手を置き、団長が静かに告げる。


「・・・はい!」


 タスクは顔を上げ、団長の顔を見る。


「ありがとうございました、団長。・・・みんな、行こう!!」


 振り向き、ミオン達が頷くのを確認すると、タスクは走り出す。


「負けるなよ・・・」


 団長はその背を見送りながら、低く呟いた。



***



 居城の入り口付近まで来ると、ルマの戦士とロトの呪術師がレラ族と共に戦っていた。


「ああ、若長」


 先に声をかけてきたのは、ルマ族の神官長レシェル。


「レラ族の方達も来て下さったんですよ」


 ニコリと微笑む。


「・・・こうして、目にしても信じられません・・・。あの、レラ族が」


 タスクはそう返し、黒い翼が舞う方を向く。


「皆、あなたと翼主を心配して来られたようですよ。労ってあげて下さい」


「はい。・・・ところで、長は?」


「年甲斐もなく、あちらで暴れてますよ」


 クスクスと笑って、レシェルが指す方を向くと、巨大な槍を振り回し、魔物を斬ると言うより、はじき飛ばしているルマ族の長の姿があった。


「・・・すげえ・・・」


 エサカが感嘆の声を上げる。


「若い者にはまだまだ負けないとおっしゃっていましたからね。・・・ここは我々に任せて下さい。あなた方は、城内へ」


 レシェルはエサカに微笑むと、居城への入り口を指し示す。


「さあ、いって下さい!」


 その言葉に押されるように先へ進むと、神官ギルド(ジーガルド)のギルドマスター、レムとその弟のレシルが呪術を放ちながら、こちらに寄ってくる。


「若長、一応南の国のギルドには声をかけておきました。・・・お会いになりましたか?」


「ええ。会いましたよ。・・・助かりました。まさか、魔導騎士団まで動くとは思っていなかったのですが・・・」


「我々も驚きましたよ。ギルドの連絡網を使ったんですが、城まで話が伝わったようで。・・・でも、もっと、驚いたのは、レラ族ですね」


「・・・ええ」


 レムに頷いた時、頭上に影が落ちる。タスクが上を向くと黒い翼が大きく広がっている。


「タスク」


「・・・ダアタ!?」


 仰天するタスクの隣に舞い降りて、ダアタはニコリと微笑んだ。


「翼を出したんだな。・・・おかげで、お前が来たことがすぐにわかった」


「ダアタまで、出てきたのか!?・・・集落はどうなってる?大丈夫なのか?」


「大丈夫さ。女達は置いてきた。男ほどではないが、充分、集落を守る力はある。・・・ユナがまとめてくれているはずだ」


 ダアタが言うと、タスクはぎくり、と身体を強ばらせる。


「・・・ユナが?」


「ああ。アレも女ながらも長候補だったことはある。張り切っていたぞ」


「そう、ですか・・・」


「・・・何だ、タスク。まだ、ユナが苦手か」


 くつくつとダアタが笑う。


「いえ・・・」


 言葉とは裏腹に渋面を作ったタスクを、キララが不思議そうな面持ちで見つめる。


「タスクはユナが苦手だったの?・・・とてもしっかりとしている、落ち着いた物腰の娘だと思ったけど」


「幼い頃は、相当なじゃじゃ馬でして。タスクだけではなく、同じ年頃の子どもはみんなユナに泣かされていたものです」


「俺達にとって、ユナは小さな暴君でしたからね。むしろ、ユナが翼主じゃないかと思ったくらいで」


 肩をすくめ、タスクは嘆息する。嫌な思い出が脳裏を過ぎる。


「ククク・・・後でユナに言っておこう」


「・・・勘弁してください」


 ダアタの言葉にガックリと肩を落とすタスクに、仲間達も思わず笑みをうかべる。


「ところで、それは【守護者の剣】ではないな?・・・形は同じようだが」


 ダアタはタスクがその手に持つ白く輝く剣を見て、目を瞠る。


「はい、水人族に伝わる伝説で、魔王を倒すための聖剣になる対の剣の片われだと言われて、もう片方の【神の剣】と融合させたんです。【純白の剣】というそうですよ」


「ほぉ・・・いわれがある剣だとは聞いていたが、魔王討伐のための剣だったのか・・・」


 感心して剣を眺めるダアタ。


「・・・ダアタ、本当にありがとう・・・皆に外に出ようと説得してくれたのは、ダアタでしょう?」


「まぁ・・・タスクが頑張っているのだしな。我々だけ隠里で怯えているなんて、卑怯じゃないか」


 笑うダアタに、タスクはホッと目元を緩めた。


 その一瞬の気の緩みが、油断を生んだ。


「・・・っ、タスク!」


 突然の短い叫びにタスクはハッとする。叫びを発したのは、ミオンだったからだ。


「ミオン!?」


 振り向けば、ミオンは黒い影のようなものに巻き付かれ、身動きが取れずにいた。


 油断していた自分に舌打ちをして、タスクはミオンに駆け寄ろうとする。が、結界に弾かれ、触れることすら叶わない。


「ミオン!!・・・ミオン!」


『勇者共よ・・・城内へ入ってこい。・・・決着をつけようではないか』


 地の底から響くような声がタスク達の耳朶をうつ。


「・・・っ、魔王か!?」


 そう叫んだエサカは、短剣で自分達とミオンを隔てている結界に斬りかかるが、まるで歯が立たない。


「ミオンさん!」


 ココが呪文を放っても同様に弾かれてしまう。


『龍神族は・・・抑えさせてもらったぞ。最早、お前達に龍神の恩恵は無い』


 低く笑うと、黒い影のようなものと共にミオンの姿が掻き消える。


「・・・一刻の猶予もないってワケだな・・・行こうぜ!」


 エサカが言う。冷静を装ってはいるものの、声が震えている。


「タスク。・・・絶対、ミオンを取り戻そう!ね!」


 カナにぎゅっと腕を捕まれ、タスクは唇を噛んで、悔しそうに頷いた。


「・・・ああ、絶対だ」


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