第9話 vs.堕天使ルシファー
ルシファーの斬撃を、サンダースとバーチカルソードをクロスさせることで受け止める。
ガギイイイィィン!!
凄まじい効果音が鳴り響き、俺はルシファーに力ずくで飛ばされ、壁に衝突。ずり落ちるときにHPバーを見てみたが、四分の一を削られていた。
「このダメージ……反則だろ……」
ルシファーとの戦いが始まり、そろそろ十五分が経とうとしている。しかし、俺たちはルシファーにほとんどダメージを与えられていない。
ルシファーのHPバーは二本ある。現在、ルシファーの残るHPは、バー一本と、半分になったバー一本。つまり、五人掛かりでたったの四分の一しか、HPを削れていないのだ。
そして今、俺たちはピンチである。
アスカのMPは50を切り、後二回魔法を使えるかどうか。カインとヘディのHPも、レッドゾーンに入っている。グレムも、後一発しか打てない。
そして俺は……サンダースに、ひびが入っている。
さらには、回復アイテムが底を尽きかけている。
俺はよろよろと立ち上がり、他の四人に指示を出す。
「一回引こう!」
俺たちは部屋を出た。
―――
「くそっ、何なんだよあの強さは!」
太刀を鞘に納め、回復を済ませたカインが毒づく。
「レベルの差が大き過ぎるんだ。ルシファーのレベルは20だからな……」
「そんな化け物……どうやったら倒せるのよ……」
暗く沈んでいるグレムとヘディ。完全に戦意を喪失しているこの二人に、もう一度ルシファーと戦えと言っても、それはもう無理だろう。
アスカとカインは……聞いてみるか。
「アスカ、カイン」
「どした?」
「何?」
二人が俺を見てくる。
「また、戦えるか?」
「まさか、また戦うの!?」
アスカが驚きの声を上げる。
「当たり前だ。そうしないと、地上には上がれない」
「でも、アレンとルシファーのレベルの差は、7もあるんだよ!?無理だよ……」
完全に諦めているアスカの頭に手を乗せ、優しく話しかける。
「大丈夫だって。俺は絶対死なない。決めたろ?絶対、三人揃って現実世界に帰ろうって」
アスカは、泣きながら「でも……」と言っている。
俺はそれ以上アスカと話していると辛くなるだけだと判断し、立ち上がった。
カインに話しかける。
「カイン。お前はどうだ?」
「俺か?えー……と、まあ、行けると思うぜ」
「カイン。無理なら無理って言ってくれ。その方が、良い」
カインは、黙った。
俺はそれを見て、笑顔を作る。
「じゃあ、行ってくる」
四人に背を向け、右手を振りながら、俺は再びルシファーが待つ部屋へ入った。
―――
『ほう。逃げたと思ったが、まさか戻ってくるとは……。しかも一人で』
機械的ではない、まるで、本物の人間が喋っているような声で、ルシファーが喋る。
「お前……喋れるのか」
モンスターが喋れるって、前代未聞だぞ。まあ、別に良いけど。
「まあいいさ。俺はお前を倒してあの階段を上る。そのために、本気で行く。だから……」
そう言ってサンダースとバーチカルソードを鞘から抜き、バーチカルソードの剣先をルシファーに向けた。
「……だから、お前も本気で来い」
そう言い、俺は剣技『雷剣』を発動。雷が二本の刀身を包む。
そこまで見たルシファーが、高らかに笑う。
『はっはっはっ……。貴様、あの時は本気ではなかったのか?』
「当たり前だろうが」
――スペシャルスキルを使ってない時点で。
俺が一回目に戦った時にスペシャルスキルを使わなかった理由。それは、味方を巻き込む可能性があるからだ。
このUnique Onlineでは、PKが出来る。つまり、他のプレイヤーにダメージを与える事ができると言うことだ。
まあ、俺からすれば、迷惑なだけのシステムだが。
それに、『双剣』のスペシャルスキルは、攻撃範囲が大きい。
そんな訳で、俺はスペシャルスキルを使わなかったのだ。
「無駄話は止めて、行くぞ」
そう言い終わるや否や、俺はバーチカルソードを突き出しながらルシファーめがけて突っ込んだ。
ルシファーは俺の攻撃を右に移動することで回避し、側面から俺の右の脇腹を狙って漆黒の剣を突き出してきた。
それをギリギリで回避し、全力で右に飛ぶ。
「剣技発動!『雷刃』!!」
着地と同時に、刀身に宿る雷を全力でルシファーの顔面に飛ばす。
ルシファーはそれを漆黒の剣で凪払い、俺に向かって走り出した。
「(これは初級の剣技だけど、やっぱりあれは反則だろ……)」
スキルを凪払うって……さすが、レベル20は伊達じゃない。
まあ、俺のレベルとの差が7って言うのもあるんだろうけど。
「さて……と。使うか」
俺はそう言って二本の剣の柄を逆手に持ち替え、ルシファーに向かって走り出した。
走りながら剣技を発動。二本の刀身を雷が包む。
充分に近づき、サンダースを振り上げる。が、ルシファーはサンダースに漆黒の剣をぶつけ、左上へと軌道を変える。
剣技とは、二連撃以上の場合、軌道を逸らされた時点で強制的に終了させられる。しかしそれは、武器が一本の時。
武器を二本使う俺の場合、片方の軌道が逸らされたとしても、もう片方は止まらない。
ガアアァァアン!! と、凄まじい金属音が響く。
俺は柄を持ち替え、バックステップで下がって距離をとる。
「『双雷逆刃』でも無理なのか……」
二連撃技は一応成功したが、倒すべきモンスターの体には触れていない。
あの漆黒の剣一本だけなら問題はない。パワーでは負けるが、剣技の手数では俺が上回る。
問題は盾だ。
手数で上回れたとしても、盾で斬撃を防御されてしまう。
「(これからどうすれば……)」
何の策もない今、ひたすら剣技を使っていくしかないのか……。
ルシファーを睨み付け、両膝を軽く曲げる。
「(やってみるしかない!)」
両膝を一気に伸ばし、前進した。
―――
――すげえ。
ルシファーと戦っているアレンを見て、カインはそう思っていた。
最弱のスキルである『小さくなる』。自分の知る中で、一度の剣技発動で最も相手に攻撃できる回数が多い、攻撃重視である最強の武器、『双剣』。
その二つを持つアレンが今、五人掛かりでも倒せなかった――いや、全体の四分の一しかHPを削れなかったモンスターと、たった一人で戦っている。
一度戦ってみたことがあるカインは、アレンは強いと思っていたが、やっぱり強かった。
しかし。
「ぐっ」
アレンが『双雷逆刃』の次に発動したスペシャルスキルの最後の一撃が防がれ、ルシファーに弾き飛ばされた。
床に座り込むアレンに、ルシファーがゆっくりと歩み寄っていく。
アレンを注視すると、HPが半分より少し多めまで減少していた。対するルシファーは、ダメージを一切受けていない。
ルシファーのあの一撃。
やはり、アレンとルシファーの間に立つ、7と言う数字の差は、それほどまでに大きい。
よく叩いたり殴ったりしているアレンだが、カインをいつも助けてくれる、大切な友達であり、大切な幼なじみ。
そんな大切な人が今、窮地に立たされている。
気が付くと、カインは太刀の刀身を炎で包み、ルシファーに向かって走り出していた。
―――
「(『双雷逆刃』だけじゃなく、『雷剣の舞』も通じないとは……)」
――本物の化け物じゃん。
しかし、諦める訳にはいかない。
『諦める=死』と言うこの世界で、諦める訳にはいかない。
壁に背中を預けながら、何とか立ち上がる。
顔を上げると、そこには漆黒の剣を振りかぶった、背中に六枚の黒翼を持つ堕天使の姿。
「(まずい……)」
と、そう思った時。
「うおおおおおおっ!!」
刀身を炎で包んだ幼なじみが、走ってきていた。
カインはそのまま走り続け、加速。太刀を上段に構え、ルシファーに太刀を振り下ろす。
ルシファーはその斬撃を盾で防き、爆音が響く。
「ぶっ飛べ!!」
カインがそう怒鳴ってから一秒後、太刀を包んでいた炎の火力が倍化。その威力を防ぎ切れず、ルシファーは吹っ飛んでいき、壁に背中を打ち付けた。
それでも、ルシファーのHPは一割しか減少していない。
残りのHPは、バー一本と四割まで減ったバー一本。
ルシファーを倒すには、まだまだ時間がかかりそうだ。
それにしても。
「カイン、ありがとうな。お陰で助かった」
「礼なら後で言ってくれ。今はあの堕天使をどうするかだ」
「ああ、そうだな」
とは言ってみたが、どうしたものか。
「これで二対一だ。数的には俺たちが有利だけど、こっからどうすんだ?」
「まさかカイン。何も考えずに来たのか?」
「気が付いたら走ってた」
「マジかよ……。でも、これで勝機ができた」
カインが俺を見る。
「どうすんだ?」
「俺がアレ(・・)を使うから、ルシファーに隙ができたらそこに突っ込め」
カインの頬が緩んだ。
「アレ(・・)……俺が負けたヤツか」
「ああ。でも、これが通じなかったら、ルシファーは倒せない。一世一代の賭だ」
「ははっ、あの剣技なら問題ねえだろ」
俺とカインは互いに顔を見合わせ、同時に頷いた。
立ち上がったルシファーを視界に捉える。
俺は全力で地面を蹴り、一気に距離を積めて肉薄。着地と同時にバーチカルソードの腹をルシファーに叩き付け、少し下がる。
両足を肩幅に開いてサンダースをだらりと下げ、バーチカルソードを肩に担ぐように構える。
「(剣技発動……)」
二本の刀身が雷に包まれる。その雷はこれまでに無いほど強く発光し、バチチチチと音を立て始めた。
「『雷撃連斬』!!」
肩に担がれたバーチカルソードを一旦肩から浮かし、振り下ろす。直後、バーチカルソードの刀身を包んでいた雷が刀身を離れ、ルシファーに向かって飛んでいく。
バーチカルソードを振り下ろしたと同時に俺は走り出し、ルシファーが一撃目を剣で凪払った時、俺は至近距離まで接近していた。
ブレーキをかけるように右足で踏ん張り、だらりと下げていたサンダース素早く逆手に持ち替え、勢いに任せて振り上げる。
――ズバッ
俺はここで初めて、ルシファーにダメージを与えた。が、これで二回。まだまだ『雷撃連斬』は終わらない。
サンダースを振り上げた瞬間、次にバーチカルソードを逆手に持ち替えて振り上げる。
血を思わせる赤いエフェクトライトが光る。
両手を一旦柄から離し、再び持ち方を変える。
強く柄を握り、一気に、振り上げたままの二本の剣を振り下ろす。
『ぐあああああっ!!』
ルシファーが悲鳴を上げ、剣を振り回す。俺の右の太ももを掠ったが、大したダメージではない。気にすることはない。
両腕を振り切り、遠心力を利用し、回す。バタフライの腕の動きのように。
そして、サンダースを左上から右下へ。バーチカルソードを右上から左下へ、振り下ろした。
ルシファーの体から大量に出現した赤いエフェクトライトが視界を埋める。
これが、俺が現時点での最強のスキル。七連撃剣技、『雷撃連斬』だ。
と、次の瞬間、俺はルシファーの盾で殴り飛ばされていた。
一瞬自分のHPを確認。俺の残りHPは、僅か22だった。
「くっ、行けぇ!」
そう指示を出した直後、俺は床に何とか着地。5のダメージを受けた。
その直後にカインを見る。
カインの剣技が、ルシファーの盾を一刀両断し、炎がルシファーの左手を焼いていた。
ルシファーがカインを斬ろうと剣を振る。カインはそれをバックステップで回避し、俺が居る場所まで下がってきた。
「俺とアレンの攻撃でも、倒せねぇのかよ!」
カインの言葉を聞き、急いでルシファーを注視。HPバーがどうなっているかを見る。
ルシファーの二本ある内の一本のHPバーは無くなっていて、もう一本は残り三割。HPバーが村のない赤に染まっていた。
ルシファーを倒すことはできなかったが、ここまでHPを削れば上出来だろう。
俺はHPを回復させながら立ち上がり、ルシファーを見ながらカインに言う。
「後三割だ。一気に決めるぞ」
「おう。もう一発かましてやるぜ」
HPが八割まで回復したことを確認し、ルシファーに向かって走り出そうとした。
その時。
ルシファーが、剣を手放した。
「(何をするつもりなんだ?)」
そう思って見ていると、ルシファーは六枚の黒翼を限界まで天井へ伸ばした。そして、その黒翼を振り下ろし、飛翔。天井の近くまで飛び上がり、翼を伸ばして滞空し始めた。
『なかなかやるな。しかし、ここからは本気で行くぞ!』
ルシファーが、漸く翼を使う時が来た。
「お、おいアレン……サンダースが……」
カインが慌てたように言うので、俺のサンダースを見た。
そこには、刀身が粉砕し、柄だけの剣が握られていた。
恐らく、これだけ派手に壊れていたら、修復は不可能だろう。
俺はサンダースの装備を解除し、それを部屋の端に放った。
そして、スペアとして所持していた片手用直剣、『鋼の剣』を装備。
『鋼の剣』はサンダースよりも性能は低いが、双剣として装備は出来る。ただ、俺が気になるのは、『鋼の剣』の耐久力が持つか、だ。
そこまで考えて、俺はバーチカルソードを縦に思い切り振り下ろした。 考えても仕方ない。やるしかないんだ。
俺が顔を上げるのと、ルシフィーが行動を開始するのは、ほぼ同時だった。
To Be Continued.