第7話 合流
--地下三階--
地下三階の入り口である扉を潜り、足を踏み入れてから数分が経った今。
俺とカイン、アスカの三人は迷子になった。
原因は、地下三階を探索し始めてから、二分ほど経った時に遡る。
約三千人のプレイヤー達は、扉を潜ると我先にと走り出した。
俺達三人も走ろうとしたが、プレイヤーの数が多く、危なかったので、最後に出発した。
そして、分かれ道に遭遇した。
左へ行くか、右へ行くか。
俺は右、カインとアスカは左だと言い張ったが、最終的には、多数決で右に決まった。
何故右に決まったのか。
カインが土壇場になって、「やっぱり右にするわ」とほざきだし、右二人対左一人の構図になったのだ。
しかし、その選択こそが、間違っていた。
「ねえ、此処って、さっきの分かれ道じゃない?」
そう、戻ってきたのだ。
右の道を歩いていき、左へ曲がったり右へ曲がったりと、複雑な道を進んだ。そして、先程の分かれ道に戻ってきた。
俺とカインが首を傾げ、アスカがそんな俺とカインをジト目で睨んでくる。
本人的には真面目なのかもしれないが、他人から見ると可愛い。まるで、小動物みたいだ。
いやいや、今はそんなことどうでも良い。
そんな雑念を払うかのように大きくかぶりを振り、俺は考えた。
この分かれ道で左を選んで進み、先程と同じ場所に戻ってきた。ならば、次に選ぶ道は左になる。
この方法で行くしかないか。
「次は左に行ってみよう。俺とカインが選んだ道はハズレだったみたいだ」
そう言い、左の道へ進んで行った。
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何度か道に迷い、どちらの道に行くか悩み、数十分が経った。
右の道を選んだ時のようにはならなかった。
だから俺達は順調に進んでいると思っていた。
そう思いながら歩いていると、ふと、異変に気付いた。
今まで歩いてきた道の地面は平らな石が不規則に敷き詰められていて、所々茶色の土が乗っている。そんな道だった。
だが歩いていると、急に地面の色が変わったのだ。
その事に俺達が気付いた時には、正面に一体の骨だけ出来たライオンのようなモンスター、後ろにもう一体のそれが現れた。
挟み撃ちだ。
順番的に、俺が先頭を歩き、その後ろにアスカとカインが居る。それ故、必然的にライオン対俺、ライオン対カイン&アスカになった。
背中に装備した双剣を抜き去り、シャキインと音が響いた。
骸骨ライオンを注視し、簡単なステータスを見る。
名前・ボーンレオン
Lv・10
属性・無し
レベル13対レベル10で、雷属性対無属性。
相性は普通だが、勝てるだろう。
「カイン、アスカ。後ろのモンスターは頼んだぞ!」
俺はそう言い、双剣の柄を握る。
『雷剣』を発動し、再び発動。二重で発動したため、刀身を包む雷はバチバチと激しく音を立てる。
俺は両膝を思いきり曲げ、両手を振り上げて立ち幅跳びのように跳躍。一気にボーンレオンとの距離をゼロにし、振り上げた二本の剣を、着地と同時に振り下ろす。
ボーンレオンは斬撃をかわすように--ボーンレオンから見て--左へ移動した。
俺の左からの斬撃を回避する事は出来たが、右の斬撃は回避しきれなかった。そのため、俺はボーンレオンから見て、ボーンレオンの右の前足を切り落とした。
断末魔を上げながらボーンレオンはバックステップで後退し、俺から距離を取った。
ボーンレオンのHPを見ると、全快の半分ほどにまで減少していた。
俺の攻撃力は50近くある。さらに装備している武器のスキルによって、俺が繰り出す雷属性攻撃の破壊力は爆発的に上昇している。
正直、一撃でいけると思っていたが、結果的には無理だった。
まあ、顔面をぶった斬っていたら、間違い無く瞬殺出来たと思うが。
さて、気を取り直し、俺はボーンレオンを睨み付けた。
ボーンレオンは前足を失った影響からなのか、若干体がふらついていた。
俺は再び『雷剣』を発動。そして、『雷刃』を放ち、走り出す。
雷の刃はボーンレオン目掛けて一直線に飛んで行き、ボーンレオンの右肩と左腕に命中。
俺の作戦通りに進めば、ボーンレオンはバランスを崩し、攻撃が当たりやすくなったところでトドメを刺すつもりだった。
が、ボーンレオンはバランスを崩さなかった。それどころか、ボーンレオンは俺に向かって突進してきたのだ。
一瞬足を止めそうになるが、かぶりを振って前進を続行する。
「剣技発動!『二連速斬』!」
右足だけを地面につけ、全体重を乗せて膝を軽く曲げる。そして一気に足を伸ばし、前へ突進。一瞬でボーンレオンに肉薄し、右手の柄を逆手に持ち変え、右側に手を引きつけた。
その直後に左の剣を振り抜き、少し遅らせて右の剣を振り抜く。
二本の赤い線を体に刻んだボーンレオンは薄い緑色のポリゴンになり、消滅した。
双剣を構え直し、カインとアスカが居る後ろへ振り向く。
俺の視線の先には、丁度ボーンレオンにトドメを刺す直前のカインと、もしもの時のために構えるアスカが居た。
刀身が炎に包まれた太刀の斬撃を頭に受けたボーンレオンは、ポリゴン化して消滅した。
太刀を鞘に直したカインに、双剣を鞘に直しながら歩み寄り、話し掛ける。
「ついさっき終わったんだな。俺はてっきり、とっくに終わってると思ってた」
カインが振り向き、俺の顔を見た。その顔は、驚愕の表情だった。
「アレン、もう終わったのか?」
「ああ。ついさっきな」
俺が即答すると、アスカが歩み寄ってきて口を開いた。彼女の表情も、驚愕していた。
「いくら何でも早いよ!私とカインの二人掛かりでも手強かった相手なのに!」
「…………」
俺は言葉を失った。
……マジかよ。
アスカとカインのレベルは俺と同じく13で、二人が戦ったボーンレオンも、俺が戦ったボーンレオンと同じレベル10だったはずだ。俺が一人で勝てたんだ。二人なら、一瞬で終わると思うが。
いや、もしかしたら、レベルが違うのかもしれない。
「おまえらが戦ったボーンレオンのレベル……いくらだった?」
「「10」」
もう一度言おう。マジかよ。
レベル一緒じゃん。二人掛かりで手強いって言ってるモンスターなのに、俺一人で倒せてるって、どう言う事よ。
「アレンが早かったのはレベルだけじゃなくて、武器のスキルと剣技だと思うよ」
アスカの一言で、俺は納得した。
先程にも言ったように、俺の武器のスキルは『雷属性強化・Lv2』だ。そのスキルを持つ武器が二本合わさり、Lv4並みの属性攻撃を繰り出せるようになっている。さらに、武器が二本あると言う事は、一度の剣技発動で、二度の攻撃が可能になる。
つまりだ。
レベル10のモンスター相手に、レベル13の俺が『雷属性強化・Lv4』並みの斬撃を、一度の剣技で二回も与えたのだ。
そりゃすぐに終わるわ。
--ちなみに、カインも似たような剣技を使えるが、俺の剣みたいに属性強化があるわけじゃない。あの炎の剣が飛ぶヤツだ。
「まあいいじゃねえか。仲間に強いヤツが居ると心強いし。とりあえず先に進もう……ぜ!?」
カインが言い終わる前に、突如地震が起こった。
地面が激しく揺れ、蝋燭の火が揺らぐ。天井から砂のようなものが落ちてきて防具にかかる。揺れがあまりにも激しく、立っていられない。揺れがおさまった時、俺達は地面に両膝と両手をついていた。
ゆっくりと立ち上がる。
「まあ、とりあえず行こうか」
俺が歩き出そうとして右足を前に出し、地面に着けようとした。
その時。
ガコン! と音を出し、俺が今まさに足を置こうとした場所に穴が空いた。いや、正確には、地面が無くなった。
殆どの体重を右足に乗せていた俺は、目前に広がる謎の穴に吸い込まれるように、前のめりに倒れていく。
この穴に落ちたらどうなるのだろうか。やっぱり、死ぬんだろうな。
俺が瞼をギュッと閉じた時。
不意に俺の体が、倒れるのを止め、斜めの状態を維持した。
後ろを見ると、カインとアスカが俺の防具を掴み、穴への落下を中止させたようだ。
「「せー……のっ!」」
二人は同時に後ろへ倒れこんだ。二人に掴まれたままの俺も、その後に続き、地面に背中から倒れた。
急いで起き上がり、二人のHPを見た。
俺は重くはないが、それでも人の下敷きになったのだ。HPが減少しているかもしれない。
「……良かった」
二人のHPは、10ほどしか減少していなかった。
10くらいなら、このまま進んでも問題は無いだろう。
俺はお礼を言いながら二人に手を差し伸べた。
アスカが右手で俺の右手を握った、カインは左手で俺の左手を握った。
俺は体重を後ろへ移動し、その勢いで二人を立たせると、後ろを見た。勿論、先程の穴がどうなっているか確かめるためだ。
振り向いてみたが、穴があったはずの所には何もなく、穴が空く前の状態になっていた。
「どうなってるんだ……?」
「まあ、そんなに不思議がらなくて良いだろうよ」
俺の肩を軽く叩きながら、カインが話しかけてきた。
……いや、不思議がるところだろ。
「あの穴に落ちなかっただけで良かったじゃねえか。まあ、俺とアスカのお陰だけどな」
……ウザい。このバカのドヤ顔が滅茶苦茶ウザい。
殴りたい衝動に駆られるが、そこは我慢しておく。
町内で殴ったり蹴ったりしても、攻撃を受けたプレイヤーのHPは減少しない。しかし、フィールドで殴ったり蹴ったりすれば、受けたプレイヤーのHPは減少する。故に、フィールドで喧嘩はしない方が良いのだ。お互いのためにも。
--ちなみ、プレイヤーに故意的にダメージを与えたり、PKをしたプレイヤーのカーソルの色が赤に変化する。カーソルが赤のプレイヤーは、犯罪者と呼ばれる。
カーソルの色をまとめるとこうなる。
緑・普通のプレイヤー
青・自分のパーティメンバー
赤・犯罪者
「よし、先に進もうか」
俺の言葉を合図に、俺達三人は歩き出した。
---
ただひたすら進み続け、十分近くが経過した頃。
俺達三人は、漸く地下四階に続く階段の入口を発見した。
「やっと着いたね」
「長かったなぁ~」
「いや、まだ宝箱がある地下五階に着いた訳じゃないから。安心するのはまだ早いから」
「分かってるよ。とりあえず、早く行こうよ」
会話を終えた直後、誰かの声がした。
何と言うか、頭の中に直接話しかけてくるような、そんな感じだった。
その現象に遭ったのは俺だけじゃないらしく、カインとアスカも何が起きているのか分からないと言いたげな表情をしていた。
『おいアレン。俺だ、ハルトだ。返事をしろ』
「ああ、ハルトか」
そう言えば、テレパシーのユニークスキルを使えるんだったっけ……。
『何で返事をしなかったんだ』
「悪かった。完全にテレパシーの事を忘れてた」
『おいおい……』
ハルトの声が少し弱々しく聞こえたのは、多分俺の気のせいだ。
「で、何かあったのか?」
『ああ。さっき、地下に居た(・・)プレイヤー達にテレパシーで呼びかけてみたんだが……』
「居た(・・)?何で過去形?」
『まあ話を聞け』
何となくカインとアスカを見てみた。
二人は喋っているため、今は俺とハルトの二人でしかテレパシーで会話していないんだろう。
『とうやら、地震の後にいきなり現れた穴に落ちて、気が付いたら地上に居たらしいんだ』
「ああ、あの穴ってそうなってたのか」
俺が落ちそうになった穴。あれに落ちたら、強制的に地上に戻される。
何と言う悪質な罠何だ。
「俺とカイン、アスカは大丈夫だ。地下に居る」
落ちそうになったけどね。
『そうか。で、今何処に居る?』
「ついさっき、地下四階に続く階段を見つけたところだ。それより、俺達以外に何人のプレイヤーが地下に居るんだ?」
『おまえ達と同じ階に居るプレイヤーは二人だけだ。その二人と合流してから、地下四階に向かってくれ』
「分かった」
俺の言葉を最後に、テレパシーが途絶えた。
「何だったんだ?」
歩み寄ってきたカインとアスカに、ついさっき話した事を伝えた。
「なるほどね。じゃあ、あの穴に落ちなかて本当に良かったよ」
「ああ。次は気を付けろよな」
「……ハイ」
確かに今回、俺がうっかりしていた。だが、カインに注意される事になるとは……。想像もしていなかった。反論したいところだが、俺は二人に助けてもらったので、何も言えない。
「それにしてもおせえなぁ……」
カインは欠伸を一つし、そう呟いた。
俺も確かにそう。
ハルトとのテレパシーが終了してから、既に二十分が経とうとしているのだ。
確かに、地下三階は迷路のようになっており、迷うのは仕方ないとは思う。
でも、遅い。
俺達でも到着出来たのに。
そう心の内で呟いていると、二人のプレイヤーが走ってきた。
聞き耳を立てると、二人は何かを言い合っているようだった。
「あんたのせいで遅くなっちゃったじゃない!」
「うるさい!道を間違えただけだろう!」
「何回間違えたと思ってるのよ!二桁は行ったわよ!」
どうやら、片方は方向音痴らしい。しかも重度の。
二人が俺達の前まで来ると、「遅くなった」と言って頭を下げた。
あまりにもその動作が速かったので、俺達三人は言葉を失った。
暫くして、二人は顔を上げる。
俺から見て左側に立っているプレイヤーは少年で、若干長めの深緑の髪と髪と同じ色の瞳をしている。身長はアスカと同じくらいだ。目つきは鋭いが、全体的に見ると、中学生に見える。両の太股にはハンドガンが一つずつ携えられており、腰のベルトにはスペアの弾丸が引っかけれている。恐らく銃士だろう。
俺から見て彼の右隣に立っている少女の髪は鮮やかな赤で、方に着くか着かないかくらいの長さに切り揃えられている。瞳は髪と同じ赤だが、透き通っている赤だ。身長はアスカよりも低い。左の腰には片手用直剣が帯剣されている。剣士のようだ。
「俺の名前はグレム。こいつはヘディだ。宜しく」
少年--グレムは俺に向かって右手を伸ばしながら、簡単な自己紹介をした。次は俺達の番か。
「俺はアレン。で、こっちがアスカで残ってるバカはカインだ。こちらこそ宜しく」
「バカとは何だバカとは!」
言葉通りだ、と食いついてきたカインを軽くあしらい、グレムとヘディを注視する。
名前・グレム
Lv・11
職業・銃士
武器・ハンドガン
HP・593/593
名前・ヘディ
Lv・11
職業・剣士
武器・片手用直剣
HP・608/608
俺達よりレベルが2低い。だが、別に問題は無いだろう。
そう願っておこう。
グレムとヘディを見てみると、目を丸くしていた。
「この人達、レベル13なのか……」
「足手纏いにならないようにしないと……」
この二人は結構慎重だった。
「合流できたし、早く行こうよ」
---地下四階---
地下四階は地下三階のような迷路ではなく、地下二階のような広い部屋だった。地下二階よりは広いが。
俺達が立っている向かい側には扉がある。遠くて暗いからあまり良くは見えないが、頑丈そうな扉だとは分かった。
「早く行こうぜ!」
「そうだそうだ!」
カインとグレムがそう叫んだ時には、もう二人は走り出していた。
残された俺とアスカ、ヘディはやれやれと肩を竦め、歩き出した。
五歩くらい歩いた時だった。
急に地面に穴が空いた。
驚いたまま、何も出来ず、俺達五人は落下していった。
静かな部屋に、俺達の悲鳴だけが響いた。
To Be Continued.
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