第6話 炎の剣技
長らくお待たせしました。
テスト期間という名の試練を乗り越え、漸く『Unique Online』を再開します!
階段を下り、地下二階へ続く扉を押す。
扉は重く、左五人、右五人の計十人で開いた。
扉を完全に開き、地下二階のフィールドへと足を踏み入れた。
―――地下二階―――
地下二階を一言で表現するならば、巨大な一つの部屋だろう。
地面には茶色い石が不規則に敷かれ、壁にはよく分からない文字や絵画が描かれている。壁からは金属の棒が伸び、その先は天井を向いて皿状になっている。その皿の上には火が揺らめく蝋燭が立っている。そんなものが、何本もこの部屋にあり、何とも不気味だ。
天井は暗いため、よく見えず、闇が広がっているだけだ。
俺達が潜ってきた扉の向かい側に、同じような扉があるのを発見した。
恐らく、その扉が地下三階へと繋がる階段への入り口なのだろう。
「なんだ。ラストクエストだからどんなモンかと思ってたけど、大した事なさそうだな」
そう言って俺の右隣に立っていたカインが、一歩前に踏み出した時、突如壁に無数の穴が空いた。
穴の大きさは高さ二メートル、横幅一メートルと言ったところか。
――これから何が起こるのか。
その場に居たプレイヤー全員が息をのみ、一切動かずに、これから起こる展開を待った。
一体、何分経ったのだろうか。
突如、金属音が部屋中に満ちた。
擦れたり、当たったり、そんな風な音が、次第に音量を増していく。まるで、何かが近付いてきているようだった。
「何か……不気味だね」
絶対にこの場にいる全てのプレイヤーが思っているであろう事を、何故か俺の左隣に居るアスカが口にして、俺の方に近寄ってきた。
丁度その時、無数の穴から、武装した骸骨が穴から出てきた。
それを見たアスカは小さな悲鳴を上げ、その骸骨に怯えて俺の腕にしがみついた。
骸骨に怯えたのはアスカだけではなく、他の女性プレイヤーも同じような反応だった。
瞼を閉じて倒れかけるプレイヤーも居たが、まあ、大丈夫だろう。
アスカも、別にこんな骸骨、時間が経てば慣れる。はずだ。
次々と武装した骸骨が穴から出てくる光景を眺めていると、いきなり最前列に居た男性プレイヤーが太刀を鞘から抜き去り、骸骨の集団へ突っ込んだ。
そこで俺は漸く気付く。
この骸骨を全滅させない限り、俺達は先に進めないのだと。
そう悟ったのは俺だけではないらしく、他のプレイヤー達も各々の武器を手に持ち、一斉に骸骨へ飛び込んでいった。
アスカにくっつかれたままだった俺は、数分遅れて皆が居る場所へ向かった。
何をしてたんだって?勿論、アスカを説得させていたのさ。
ちなみに、骸骨のステータスはこうだ。
名前・スケルトン
属性・無し
Lv・10
―――戦闘開始から数分後―――
スケルトンの首を、左手で握ったサンダースで切断し、スケルトンを葬る。スケルトンがポリゴン化して消滅した直後、別のスケルトンの剣が、俺の頭を狙ってきた。
俺はそれをバックステップで回避し、地面に着地。『雷剣』を発動した。
『雷刃』を発動しようとしたその時、俺の背中と誰かの背中が当たった。
別に俺が後ろへ行った訳じゃない。つまり、誰かが俺にぶつかってきたのだ。
鬱陶しげに視線だけを俺の背中に向ける。
俺の後ろに立っていたのは、ブラウンの髪を短く切った、太刀を装備した男。
紛れもない、カインだ。
「どうした?カイン。邪魔をするんじゃない」
「わりいな。別に邪魔するつもりは無かったんだけどよ」
「まあいいや。とりあえず、今からは俺の背中を宗に預ける」
カインがニヤリと楽しそうに笑った。
俺もそれに答えるように笑う。
「ああ。任せろっての」
「水を差すようで悪いんだけど……」
「どうした?」
俺はサンダースとバーチカルソードの柄を握り直し、低めの声で言い放った。
「……囲まれた」
「……マジかよ」
俺の前方にスケルトンが五体、カインの前方には……分からない。
分からないけど、囲まれたのは確実だ。
俺とカインは同時に地面を蹴った。
俺は一気に真ん中に居たスケルトンへ肉薄。雷を帯びたサンダースを振り下ろし、スケルトンのHPを根こそぎ奪った。
次に右へ足を踏み込み、『雷刃』を発動。雷の刃を全力で投げ、同時に二体のスケルトンのHPを三分の二削る。
再び『雷剣』を発動し、先程HPを削ったスケルトンに接近。サンダースとバーチカルソードの二本の剣を使った斬撃を繰り出し、両方のスケルトンを葬った。
――後、二体。
そう思って振り返った時、いつの間にか、二体のスケルトンが俺の半径一メートル以内にまで接近してきていた。
この距離では、俺が全速力で剣技を発動したとしても間に合わない。
が、諦める訳にはいかない。
この世界で諦める事は、死ぬ事なのだ。
俺は振り返りざまに遠心力を利用して二本の剣で斬りつけると決め、振り向こうと反転した時。
二体のスケルトンが突如ポリゴン化し、消滅した。
あまりにも突然過ぎて、何が起こったか理解出来ないまま立っていた。
元々スケルトンだったポリゴンが完全に消えた時、俺の視界にアスカが入った。
なるほど、アスカが二体のスケルトンを倒してくれたのか。
サンダースとバーチカルソードを背中の鞘に収め、アスカの所へ走っていく。
「ありがとな、アスカ。おかげでダメージ無しだ」
「ううん、スケルトンが全然私に気付かなかっただけだよ」
頬を桜色に染め、照れながらも謙虚な少女。
今交戦中の茶髪とは大違いだ。
「ところで、カインは大丈夫なのかな?」
アスカが俺の後ろへと視線を送った。
俺も振り返り、カインを見た。
太刀を両手で持ったカインの正面にスケルトンが一体。カインの左斜め前にスケルトンが一体。右斜め前にスケルトンが一体。計三体のスケルトンが、今にも飛びかかりそうな体勢でいた。
この状況を見た時、カインは不利に見える。
が、実際、カインは別に不利な立場に立たされている訳ではない。寧ろ、丁度良い数だ。
――一体を一撃で倒せるのなら。
だが、別に心配はない。
カインの攻撃力は、炎属性特有の『攻撃特化』があるため、攻撃力が高い。
レベルが2しか違えども、強力なスキルを使えば、瞬殺だって可能だ。
――ちなみに。俺の雷属性は『速度特化』。一撃の威力は強いとは言えないが、瞬発力と跳躍力、切り替えが高い。切り替えとは、スキル発動が終了し、次のスキル発動にかかる時間に影響する。切り替えがあれば、通常よりも早く、次の動作に移れるのだ。
さて。
それを理由に、カインにとっては、レベルが2低いモンスターが三体襲ってきても、油断さえしなければ、一撃で倒せるのだ。
俺とアスカはそれを知っているため、別に心配はしない。が、万が一があるかもしれないと思い、カインの姿は視界に入れておく。
突如、三体のスケルトンが動いた。
真っ直ぐにカインへ向かっている。
カインはその場を動かず、達の柄を握り直す。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
カインが両の瞳に鋭い光を宿した瞬間、カインの太刀が、紅に燃え盛る炎に包まれた。
その太刀を逆手に持ち替え、大きく振りかぶって地面に突き刺す。
次の瞬間、紅の炎が刀身を離れ、空中で三つの火の玉になり、浮かぶ。その炎は姿を変え、一瞬にして炎の玉が三本の剣の形状へと変化した。
カインが太刀を引き抜くのと、炎の剣がスケルトンへ飛んで行くのは、ほぼ同時だった。
炎の剣は一直線に進み、スケルトンの首をはねた。三体同時だった。
俺とアスカはスケルトンを葬りながらカインの所へ向かった。
「やっぱりそのスキルは凄いな、カイン」
素直に褒める。
「だろ?」
カインがドヤ顔で見てきた。
うぜぇ。
「でも、アレンには負けちゃったけどね」
アスカの一言で、カインのドヤ顔は消えた。
ドヤ顔が消えたのは良いが、それは今は触れてはいけない所だと思う。
三日前、カインは新しいスキルを手に入れたから、アレンのスキルと戦ってみたいと言い出した。
何言ってんだこいつ、と思ったが、カインが言ってくるので渋々了解した。
このUnique Onlineのメニューの中に、『デュエル』と言うものがある。
一対一の決闘だ。
デュエルには二つのルールがあり、それぞれ選ぶ事が出来る。
相手に先に一撃を与えた者が勝利するものと、先に相手のHPを半分まで減少させた方が勝利すると言うものだ。
相手のHPを0にした方が勝利するというルールもあったが、デスゲーム化してからは、そのルールは消えていた。
カインが言っていたが、PKをなくすためにしたんだろう。
まあ、実際には闇ギルドと呼ばれる者達がいるのだが。
「そう言えば、スケルトンはどうなったんだ?」
俺の言葉を聞き、二人は周囲を見渡した。
カインの事を見始めた時は何体かのスケルトンが襲ってきたが、今は一体も来ない。
暫く周囲を見渡してみたが、スケルトンの姿は何処にもなかった。
「どうやら、スケルトンは全滅したらしいね」
「……みたいだな」
「じゃあ、早速階段の所へ行こうぜ!」
いつにしても、カインのテンションは高い。
カインは階段に繋がる扉へ走っていく。
後二メートルで辿り着くというところで、カインが何かに衝突。びたーんという音を鳴らし、カインは背中から倒れた。
そこへ俺とアスカが駆けつける。
「大丈夫!?」
「随分派手にぶつかったけど……何があったんだ?」
カインは鼻を押さえ、涙目になっている。
痛みが軽減されていると言っても、急所はやっぱり痛いらしい。
カインは鼻を抑えていない反対の手で、扉を指さした。
「ここに……見えない壁がある」
「そうなのか?」
俺は試しに右手を伸ばした。
すると、掌に平らな何かが触れる感触がした。
どうやら、カインの言っている事は本当のようだ。
が、それはそうと、問題が浮上する。
「この壁をどうするかだな」
「何か、スイッチとか無いのかなぁ……」
アスカは部屋をキョロキョロと物色しながらそう呟いた。
俺が何となく右斜め後ろを見ると、一人の女性プレイヤーが二人組の女性プレイヤーに向かって走っていた。
「(別に関係ないな)」
そう思って視線を見えない壁に戻そうとした時、先程走っていた女性プレイヤーが、足を引っかけて盛大に転けた。
地下二階の部屋が静まりかえる。
「(何やってんだあの人は……)」
そう思って右手を前に出し、体重を右へ移動させた。
そして、俺も転んだ。
「おわっ!?」
「あ」
「お」
転んだ俺を見たアスカとカインが、驚きで目を見開いていた。
一瞬どうかしたのかと思ったが、すぐに何故二人が驚いているのか理解した。
「見えない壁が……消えた……」
俺の言葉を聞いた二人は、すぐに俺の隣に歩いてきた。
立ち上がりながら二人に話しかける。
「だろ?」
「「…………」」
二人は驚きで言葉を失っていた。
いや、その気持ちは分かる。
恐らく、先程派手に転けた女性プレイヤーが影響しているのだろう。
彼女はただの石に躓いたのではなく、レバーかスイッチのような何かに躓いたのだ。
と、一人で納得していると、次々とプレイヤー達が扉を開け、階段を下って行く。
俺とアスカ、カインも、その後に続き、地下三階へ向かった。
To Be Continued.