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【Unique Online】  作者: 地味な男
第一章 第一層攻略編
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第4話 出現

 『Unique Online』が、ログアウト不可能のデスゲームになったあの日から、一カ月が経った五月十四日。

 死者は出ていない。しかし、未だにラストクエストは出現していなかった。




 ---五月十四日---




 俺の耳に、午前七時に鳴るように設定したアラームの音が響く。

 この『Unique Online』で設定出来るアラームの音は様々だ。しかし俺は、確実に起きれるような、且つ、最早五月蠅いと思う様な音に設定している。

 重い瞼を持ち上げて上半身を起こし、欠伸(あくび)を一つする。

 ベッドから立ち去り、右隣に位置する部屋--カインの部屋--に向かおうと、俺の部屋の扉の前に立った。勿論、起こしに行く為だ。

 扉を開くと、向かいの部屋に居たアスカと鉢合わせになった。これも、見慣れた光景だ。

「おはよう、翔馬。宗を起こしに行くの?」

「おはよう美野里。まあ、そんなところだ」

 短い会話を済ませ、アスカは朝食を作るべく階段を降りて行った。俺はカインの部屋の扉の前に辿り着いた。

 ちなみに俺達三人は、三人の時だけはアバター名ではなく、現実(リアル)の名前で呼び合っている。何と言うか、アバター名で呼び合うと、何だか余所余所しくなってしまうのが嫌だったのだ。

 こう言い出したのは、カインだが。

 説明が遅れたが、俺達三人はアクレアの町にある、一軒家に住んでいる。

 三人でシアを出し合い、何とか買えたのだ。言わば、三人の家だ。

 その家は二階建てで、一階にはリビングとトイレ、キッチンが。二階にはそれぞれ三人の部屋がある。外見は、住宅街で見るようなもので、白を基調とした、清潔感溢れるものだ。

 家を選んだのはアスカである。

 カインの部屋の扉を二回ノックする。

 カインの返事が返ってくると思ったら、カインの(いびき)が聞こえてきた。

 それを聞いた瞬間、俺は叩き起こす事に決めた。少々強引だが、一刻も早くこのデスゲームから解放される為だ。

 俺はドアノブを握り、時計回りに捻って扉を押した。

 キィと扉が開き、カインの部屋が視界に入ってきた。

 窓には茶色いカーテンが掛けられ、大きなベッドが一つ、モノクロのランプが二つ置かれている。まだまだ家具は揃っていないが、なかなか洒落た部屋だ。

 グレー一色のベッドとランプしか置かれていない俺の部屋とは大違いですね、ハイ。

「(何で俺はこんなにも、オシャレとかに興味が無いんだろう……)」

 一人で考えていると、本来の目的を思い出し、どうでも良い思考を取り払う為に大きくかぶりを振った。

 俺はベッドへ向かった。

 覗き込むと、カインが大の字になって熟睡している。

 気持ち良さそうな表情で寝がやって……。

 起こす俺が何だか悪者みたいに思えてくる。

 いや、これは仕方ない事なのだ。

 とりあえず、カインが被っている掛け布団を退け、カインの体を揺する。

「おーい、朝だぞー」

「…………」

 返事はおろか、一切動かない。

 何コイツ。銅像なの?死んでるの?

 カインは俺とアスカと同じように、午前七時にアラームが鳴るように設定している。だったら、今もアラームが鳴り響いているはずだ。

 アラームが鳴ってて体も揺すられて。それでも起きないカインって……。

 もういいや。とにかく起こす事だけを考えよう。

 こんな状況になった時、俺は剣でカインの体を傷つけてみてはどうかと思った。しかし、この『Unique Online』では痛覚が軽減されるシステムが搭載されているため、プレイヤーが受ける全ての痛みは不快感に変わる。カインはそんな不快感で起きるような奴ではない。

 よって却下。

 ならば、属性攻撃はどうだろうか。

 試した結果、成功した。

 考えても見てくれ。寝ていたらいきなり全身が痺れるんだ。誰だって起きるだろう。

 背中に二本の双剣を装備し、双方の剣を鞘から抜く。そして、カインの腹部に二本の剣の腹を押し当てた。

「剣技発動……『雷剣』」

 俺の剣が雷に包まれたと同時にカインは--。

「ぎぃやああああっ!?」

 感電し、目覚めた。




 ---自宅の一階・リビング---




 ジト目で睨んでくるカインを引っ張って一階に降りると、丁度アスカが朝食を作り終えたところだった。

「今日もアレ使ったの?」

「あんな事でもしない限り、宗は起きないよ」

「それって誉めてる?」

「もう一発して欲しいのか?」

「冗談です!!」

 俺達はリビングの真ん中にあるテーブルに腰かけた。俺の右隣にはカイン。俺の正面にアスカが座っている。

 テーブルに置かれた箸を取り、今日の朝食のメニューを見た。

 本日は味噌汁と米、卵焼きの三点セット。まさにザ・和風だ。

 ちなみにアスカから聞いたのだが、この『Unique Online』で料理は出来るようだ。勿論食材も必要になる。食材を選び出し、料理したい品物を選ぶと、自動で出来るんだとか。

 更には、『Unique Online』の料理や機能の性能は高く、料理の味を完全に再現している。このゲーム内でなら、食の為にフィールドに出ても、誰も何も言わないだろう。

 まあ、それはこの際どうでも良い。

 とにかく今は飯だ。

 俺達はほぼ同時に合掌。

「「「頂きます」」」

 声を揃えてそう言った。




 ---数分後---




「ふ~~、食った食った」

 満腹になった腹をさすりながら呟くカインと、椅子に座ったままメニューを開く俺。アスカはキッチンで昼に食べる分を作っている。

 改めて、俺達のステータスを見てみた。


名前・アレン

職業・剣士

武器・双剣

Lv・12

HP・635/635


名前・カイン

職業・剣士

武器・太刀

Lv・12

HP・597/597


名前・アスカ

職業・魔導士

Lv・12

HP・689/689

MP・924/924


 と、こんな具合だ。

 このゲームを始め、デスゲームになって一カ月。一カ月かけても、レベルはまだ12だ。

 普通なら後2~3位は上がっても良いと思うが、まあ、そこは諦めた。

 それにしても、カインのHPが少ない。597って……。てか、アスカのMPもうすぐ1000越えるよ。

 そんな事を考えていると、アスカが料理を終え、俺の向かい側に腰掛けた。

「お昼の準備は出来たけど……今日はどうするの?」

「そうだな。今日もいつも通りにやろう。その方が良い」

「そうだね……」

 アスカは不安そうに呟いた。

 無理もない。

 1ヶ月の時間が経った今でも、ラストクエストが未だに出現していないのだ。まあ、モンスター十万体を倒すと言う、最早嫌がらせに等しい出現条件があるのだ。時間がかかると分かっている。だが。どうしようもなく、帰りたいのだ。家族が居る、暖かい家へ。

 俺も、カインも。その一人だ。

 だが、いつまでも不安がっていてはいけない。このゲームから解放されるため、俺達は行かなくちゃいけない。

 --フィールドへ。

「もうそろそろ行くか」

 俺は立ち上がった。




 ---ギルド内---




 俺達は決まって毎朝ギルドに出向く。

 理由は勿論、ラストクエストが出現しているかどうかを確かめる為だ。

「確か……出現条件は『モンスターを十万体倒す』だったな」

 カインの言葉に、俺とアスカは頷いた。

「ああ。昨日は残り四十二体だったんだ。二十体くらいまで数が減っていれば、今日中にラストクエストが出現するかもな」

 そんな会話をしていると、いつの間にか開示版の前に到着していた。

 アスカが前に一歩踏みだし、例の大きな紙の文面を読む。

「『残り十九体』だって!今日中にいけるんじゃない!?」

「まあ、いけるだろうな」

 レベルが12になってから、俺達は一人で五体のモンスターを倒している。他のプレイヤーも俺達と同じ様なペースだとしたら、大体四人くらい居れば充分だろう。

「ん?十六体に減ったぜ?」

「あ、本当だ」

 --このペースなら、俺達が行かなくてもラストクエストが出現する。

 そう俺は思ったが、やっぱり行く事にした。

 フィールドに出る。

 それは、いつ死ぬかも分からない、いつ何が起こるかも分からない場所に行くと言う事なのだ。

 それを踏まえ、出来ればフィールドへ出たくはないが、早くこのデスゲームから解放される為だ。行くしかない。

「そろそろ行こう。午前中にラストクエストを出現させるつもりでな」

「当たり前だ!」

「分かった!」

 俺達は装備を整え、フィールドへ向かった。




 ---フィールド・アクレアの町付近---




 俺が今装備している剣は、『バーチカルソード』と『サンダース』。二つの武器は初級だが、たった一つ、すごいスキルを持っている。

 それは雷属性強化だ。

 効果はその名前の通り、雷属性攻撃の威力や麻痺の効力を格段にアップさせる。そのスキルにはレベルが存在し、1~5まである。現在、俺の双剣のスキルはレベル2だ。

 そして俺の『双剣』について、分かった事が一つある。

 『双剣』は、二本とも同じ剣でなくてはならない訳ではなく、全く違う種類の剣を装備していても使えるのだ。いや、全く違ってはいけない。Aの剣を装備したとして、もう片方のBの剣は、Aの剣と同等くらいのものでなくてはならない。

 そして、片手用直剣しか、双剣は使えない。

 簡単に言うとだ。

 形が全く違ったとしても、二本の片手用直剣の質が同等なら問題はないのだ。

 故に俺は、同等の質を持つ片手用直剣を二本装備している。形は違うが、雷属性強化と言うスキルは同じだ。二本のスキルのレベルはどちらも2。つまり、二本同時に発動した場合、レベル4並の強化が出来る。

 ……勿論、入手には手こずったが。

 アスカとカインに手伝って貰ったのは、言うまでもないだろう。

 それにしても。

「なかなか見つからないな……」

 俺達は現在、それぞれ単独行動をしながらモンスターを探索している。

 カインとアスカからのメッセージでは、二人ともすでに三体のモンスターを倒したと言っていた。俺は一体も倒していないどころか、発見さえ出来ていない。

 釣りかよ。隣に居る奴は滅茶苦茶釣れてるのに、俺だけ釣れてないみたいじゃんか。

 そんな事を考えて涙目になっていると、モンスターの反応があった。

「ずっと索敵してて良かった……」

 誰にも聞こえない程の小さな声で呟き、反応がある場所へ向かう。

 その場所に到着した俺は、近くにあった岩に身を隠し、五メートル先に居るモンスターが、どんなものか見てみる。

 モンスターの姿を具体的に表現するならば、コモドドラゴンの一,五倍だ。背中には幾つもの棘が生えており、しっぽの先はステゴサウルスの様になっている。四本の足ははっきり言って短い。

 次に、そのモンスターのステータスを見た。


名前・ヴォング

属性・土

Lv・8


 属性は土か。

 雷属性使いの俺にとっては不利な相手だが、力で押し切れるだろう。

 何せ、俺とあの巨大トカゲのレベルの差は4だ。それに加え、レベル4並の属性強化もある。

 油断せずに戦えば、勝てない相手ではないはずだ。

 俺は小さく一度頷き、背中に装備された『バーチカルソード』と『サンダース』を抜刀。シャキンと音とを立て、光を反射する。

 『バーチカルソード』はその名前の通り直剣だ。一方『サンダース』は緩やかな曲線を描いており、見た目は剣と言うよりも短刀だ。刃は片方しかなく、見れば見るほど刀のミニサイズ版に見えてくる。

 俺は立ち上がり、ヴォングへ二メートルだけ接近。三メートルの距離に縮まる。

 --この距離なら、行ける!

 剣技の名前を内心で叫び、刀身が雷で包まれた二本の剣を携え、俺に気づいてカーソルが赤に変わったヴォングへ斬りかかった。

 俺がヴォングから離れた時、ヴォングの体は一瞬にしてバラバラになり、ポリゴンとなって消滅。俺の前に、例の画面が出現した。

「……いくら何でも弱すぎるだろ……て、俺の剣技が強かったのか」

 そう呟いて再び歩き出そうとした時、背後から何かが突進してきた。

 俺はそれを何とか回避し、突進してきた何かを睨む。

 突進してきたのは、あのダンゴムシ的なモンスター、ワームだった。


名前・ワーム

属性・無し

Lv・5


 先程のヴォングよりもレベルが3も低い。俺とのレベルの差は7。

 ……これ、剣技使うまでもないな。

 そう思って一歩前に踏み出そうとした時、俺はある事を思いついた。

「そうだ。ユニークスキルがどんなものか試してみるか」

 俺のユニークスキル、『小さくなる』は、この『Unique Online』を初めて以来、一度も使わなかった。いや、使う気にもならなかった。

 だが、今俺が相手をしているモンスターは弱く、剣技無しでも勝てる気しかしない。

 ……故に。

 実践で試せる!

 俺のユニークスキルを知った時のあの二人が俺に向けた可哀相な者を見る様な目。あの目を見開かせてやりたい。

 俺はそう決心し、ユニークスキル発動の方法を今一度確認した。

 ユニークスキルを発動する場合、剣士のような剣技同様、『ユニークスキル発動』と言えば良い。

 俺はワームに向かって走り出した。

 充分に近づき、割と思いっ切り『サンダース』で斬りつける。

 ワームの体力の残りが、一気に三分の一にまで減少した。マジかよ。

 いや、気を取り直して。

「(ユニークスキル発動)」

 直後、俺の体が縮み始めた。

 徐々に視線の高さが下がっていき、最終的には目の前に雑草の先端がある。

 ……これ、身長五センチも無いんじゃね?

 いやしかし、まだ試していない事があるじゃないか。

 そんな事を自分に言い聞かせるように内心で喋っていると、いきなりワームが突っ込んできた。 咄嗟に移動して回避するが、歩幅が小さい故に移動距離が短いため、俺はワームの突進をまともに受けた。

「ぐふっ」

 小さいままの俺は五メートル近く弾き飛ばされ、背中を強か地面に叩きつけた。もしも痛みが軽減されるシステムが無かったら、今頃涙を流しながらそこら辺を転げ回っていただろう。いや、そんな程度で済む気がしない。

 HPを確認すると、半分近く減少していた。

 その事にショックを受けながら俺が立ち上がったと同時に、ワームが再び突進してきた。

 今こそ、反撃の時だ!

「剣技発動!『雷刃』!」

 二本の剣の刀身が雷に包まれ、徐々にその光の強さを増していく。

 そんな状態の剣を振り払い、雷の刃が飛び出した。その刃はワームの体に直撃。

 --決まったか!?

 そう思ったが、俺は自分のユニークスキルに絶望した。

 ただのワームの体に直撃した雷刃は、見事なまでに弾き返されたのだ。弾かれた雷刃は、それぞれ別の方向へ飛んでいった。

 --マジかよ。

 ダメージは数十倍だわ威力は泣きそうな事になってるわ。このスキル、使えなさすぎる。

 とりあえず、俺はユニークスキルを解除。元の大きさに戻り次第、ワームを瞬殺した。それにかかった時間、約一秒。『サンダース』を振り下ろしただけで済んだ。

「俺のスキル……弱すぎだろ……」

 こぼれそうな涙が地面に落下しないように、空を仰ぎながらそう呟いた。

 すると、一件のメッセージが届いた。

 そのメッセージを開き、やっとかと言うかの様にため息を付いた。






 --遂に、ラストクエストが出現した。






To Be Continued.

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