第24話 二〇八三年四月十四日
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現在の時刻は、二十一時三十五分。夜中だ。
つい先ほど、少年の目の前にいたモンスターは、少年が放った斬撃により、ポリゴンとなって消滅した。
その光景を、本当につまらなさそうに、少年の黒くて冷徹な瞳が見ていた。彼の顔に、表情はなかった。
最期まで見届けた彼は、剣を背中の鞘に収めた。
そして彼は、膝まである裾が擦り切れた黒一色のロングコートを翻し、町へと戻っていった。
―――
夜の町を、先ほどの少年が歩く。
夜の町は様々な光があり、とても綺麗で、幻想的だ。
そんな町の中にある道を、ゆっくりと歩く。
道を歩いていた二人の青年は、彼を見た。
すると突如、二人の青年は、少年に道を譲った。
彼は、まるでそれが当たり前だとでも言うかのように、でも、ゆっくりと歩く。
少し長めの彼の髪は黒で、ろくに整えてもいなく、ボサボサ。限りなく黒に近いグレーの長ズボンは無地で、ロングコートに比べて少し痛んでいるように見える。ちなみに、彼は今、武器は装備していない。
彼は暫く歩き続け、とある一軒の家のドアの前まで来ると、立ち止まってドアを向いた。そして、そのドアに向かって歩く。
ドアまで行くと、彼はチャイムを鳴らした。
暫くして、ドアが開く。
「はーい」
少し高めの声を出しながら、赤い髪をショートカットにした、一人の少女が顔を出した。
彼女は少年の顔を見ると嬉しそうな表情になり、こう言った。
「お帰りなさい、アレン」
ただいま、ヘディ、と言い、少年――アレンは、家に入った。
―――
「はぁー、疲れたー」
まるでおっさんのような声を出しながら、リビングのソファに腰を落とす。
「はい。今日の晩ご飯よ」
「ありがとうな」
なるべく明るい声で言ってみたが、恐らく俺の顔は、無表情のままなんだと思う。
ヘディは俺の右隣に座り、俺たちは晩ご飯を食べ始めた。
―――
食事を終え、俺とヘディはソファに座って、会話をしていた。
「このUOがデスゲームになってから、もう三年か……」
空になったコップをテーブルに置き、ふと、呟く。
「そうね……。あれから、三年も経つのね」
ヘディもそう呟き、リビングの天井を見た。
デスゲームになってから、三年が経ち、今は二〇八三年四月十四日。そして、今俺たちがいる場所は――古代城・シークレアスの第二十層の町、バガンヌだ。
俺とヘディは、三年前の闇ギルドによる襲撃の日から今まで、行動を共にしている。
今では、ヘディは俺のパーティメンバーであり、相棒でもある。
エディスのことだが、あの日から今の今まで、一度も接触していない。
恐らく奴は、ひたすらに身に付けているスキルや、剣の腕を上げているのだろうか。
――俺を、殺すために。
「もっと、強くならないとな……」
「何か言った?」
「いや、何もいってないよ」
聞こえないくらいの声で言ったつもりが、ヘディには聞こえたみたいだ。
「さてと。そろそろ寝るか。明日にはラストクエストを出現させる勢いでな」
「そうね。お互い、頑張りましょう。それで……」
「ああ。エディスを……殺す」
俺とヘディは決意を新たに、それぞれの寝室で眠った。
―――
朝食を済ませた俺たちは今、ギルドにあるラストクエスト出現条件を見ている。
古代城・シークレアスの最上層である、第二十層。そのラストクエストの出現条件は、今まで以上に過酷で、困難なものだった。
――
出現条件
・第一層から第十九層のラストクエストを再びクリアすること
――
な?過酷だろ?
簡単に言えば、あのルシファーやリヴァイアサンと、また戦わなくちゃいけないのだ。
そのせいで、第二十層に来てからもうすぐ半年になるが、未だにラストクエスト出現条件をクリアできていない。……とは言っても、後は第十九層のラストクエストをクリアすれば良いだけなのだが。
「一通り確認したし、そろそろ第十九層に行くか」
俺がそう言って歩き出そうとした時、後ろからヘディが走ってきた。
ヘディは俺に追いつくと走るのを止めて歩き、恐る恐る話しかけてきた。
「そう言えばさ、アレン」
「なんだ?」
顔の向きを変えず、そう答える。
「闇ギルド……って、どうなったんだろうって思って」
「闇ギルド……か」
三年前に起こった、あの闇ギルド襲来。あれから三年の月日が流れたが、その闇ギルドについての情報は、ほとんど耳にしていない。
耳にした情報と言えば、闇ギルドが壊滅した、と言うものくらいだ。
その情報を信じるとすれば、闇ギルドのメンバーは、全員死んだと推測できる。だが、層は思わない。少なくとも、奴は――エディスは、生き残っているだろう。
現在、このUOで生き残っているプレイヤーの数は、おおよそ三百人だ。そのうちの一人が、闇ギルドの生き残りというわけだ。
「分からないけど……確信を持って言えることは、間違い無くエディスは生きてるな」
「……それは私も思うわ」
「さて、と。行くか」
「そうね」
俺たちはそう言い、ギルドを出た。
―――
第十九層のラストクエストのクリア条件は、至って簡単だ。
フィールドのどこかにある、『門の鍵』を五つ入手し、ボスモンスターがいるエリアの門を開く。そして、そのままボスモンスターとの戦闘。そしてドロップアイテムである『バジリスクの冠』を手に入れて、第十九層のギルドに納品する。……と言うものだ。
『門の鍵』はなかなか見つけ難い所に隠されていて、発見するのに苦労した。鍵が全て揃うのに、一週間は費やしていた。
だが、今は違う。今は二回目だ。あっさりと五つの『門の鍵』を見つけ出し、ボスモンスターがいるエリアへ向かう。
鍵を鍵穴にはめて回し、鍵を開ける。勢いよく門を開けると同時に、十五人近くのプレイヤーがエリアに押し寄せた。
彼らは皆やる気満々で、各々は手に武器を持って構え、瞳を爛々と輝かせている。
まるで、戦争でも始まるかのような景色だ。
「確か……バジリスクはいきなりポップアップするんだっけかな……お!」
そんなことを呟いていると、俺が言った通りになった。
エリアの床の中央にある、翼が退化したドラゴンのような模様。その模様が刻まれていた場所の真上に、青白いポリゴンが収束。模様と同じ形になり、実体化した。
完全に実体化したそれは重力に逆らわずに落下し、床に着地。ズゥン、と音を鳴らし、少し地面が揺れる。
バジリスクの体は全体的に赤く、体長は三メートル近くある。長い首のその先には、王冠を思わせる突起を持つ、蛇のような頭。瞳は黄金で、翼は退化して小さい。足は体にしては短いが、それでも俺たちから見たら充分に大きい。
ちなみに、バジリスクのレベルは90。属性は無い。
バジリスクは、人間では再現不可能な雄叫びを上げたかと思うと、俺たちに襲いかかってきた。
バジリスクに注意する点は一つ。
それは、バジリスクの黄金の瞳だ。
あの瞳に睨まれると、睨まれたプレイヤーは『石化』と呼ばれる状態以上になり、一定時間の行動が不可能になる。下手をすればそのまま集中攻撃されてジ・エンドと言うわけだ。だから、気を付けなくてはならない。
できる限り顔を見ず、体だけを見ながら戦うプレイヤーたち。
さすが二回目の攻略とあって、全員はバジリスクの対処法を知っている。
だが、ここで異常事態が発生する。
戦闘が始まってから、五分が経過した頃だろうか。
バジリスクのHPが残り四十%を下回った直後、バジリスクは突然暴れだし、周りにいたプレイヤーを蹴散らした。
各々の悲鳴を上げながら、プレイヤーたちはバジリスクの体に弾かれて飛ばされていく。
プレイヤーたちを蹴散らした後、バジリスクは頭を天井に向け、雄叫びを上げた。
するとバジリスクの体が血のように赤く光り出した。
その光が収まり、バジリスクは走り出し――そして、一瞬で俺の目の前に来ていた。
「……え?」
その時、自分でも分かるほど、間抜けな声が出たと思う。
そんな声を出した次の瞬間。気がついたら俺はバジリスクの頑丈な尻尾に殴り飛ばされていた。
それを見て驚くヘディに、全力で叫ぶ。
「気を付けろ!そのバジリスク、何かが可笑しい!!」
俺は言い終わった直後、背中を強か壁に打ち付け、HPが三十%削られる。ずりずりと滑りながら床に尻餅をついた。尻餅をつくなり、俺はすぐに顔を上げ、驚愕する。
俺の視界には、今まで見たことのない素早さで動く、バジリスクがいた。
黄金の双眼に睨まれ、石化してしまうプレイヤー。バジリスクの一撃でHPを全て削り取られ、ポリゴン化して爆散するプレイヤー。
それぞれのプレイヤーたちが、それぞれの方法で死んでいく。
「くそォ!一旦引くぞォ!!」
そう誰かが叫ぶと、他のプレイヤーたちはその言葉に従った。
こうして俺たちは、一時的な戦略的撤退と言う行動を選択した。
その時には、生き残っているプレイヤーの数は、たったの八人だった。
―――
「急に移動速度が上がるなんてな……」
「あんなの、今まで一回もなかったぜ?」
「一体……どうすれば……」
回復をすませ、それぞれが、各々の思ったことを口にしていく。だけどそれらは全て、『どうすれば良いか分からない』の言い換えだった。
まあ、俺もそう思っていたから、人のことは言えないんだろうけどさ。
だが、本当にどうすれば良いのだろうか。
誰かが言ったように、あんな動きをするモンスターなんて、一度も見たことがない。
まるで、竜の形をしたプレイヤーと戦っている気分だ。
俺は移動速度を上げるスキルを収得しているが、それは一時的なものだ。長時間動けるバジリスクとまともに戦えば、間違い無く、殺される。
一人ではまず、倒せない。だから、複数人で戦わなければならない。
だがあんなにも違いを見せつけられたら、正直に言ってしまうと、複数人で戦っても、勝てる気がしない。
レベル97の俺と、レベル95のヘディがいても、倒せない相手。
俺とヘディを除いた六人の中でも、一番高いのはレベル91だろう。
――後一人。後一人、俺と同レベルのプレイヤーがいれば――
「僕で良ければ、力を貸すよ?」
俺の思考をぶった切るように、誰かが俺たちに声をかけてきた。
皆は驚きながら顔を上げ、声がした方――バジリスクがいる部屋の扉がある方――を見て、俺とヘディは思わず同時に立ち上がり、驚きの声を上げていた。
だって、そこにいたのは――
「「……エディス!?」」
俺とヘディの大切な人を奪った、絶対に殺すと決めた、因縁の敵がそこにいた。
「やあ、久しぶり。大体……三年ぶりだね」
To Be Continued.




