第2話 初戦闘
古代城・シークレアス。その第1層のエリアの一つ、フィールドにはそれぞれの属性を一つずつ持つモンスターが存在する。そのモンスターの種類は豊富で、モンスターにもレベルが存在している。第1層で出現するモンスターのレベルは、最高でも5~7。レベルが10あれば、モンスターが複数襲ってこない限り、HPが0になることはない。
そして、フィールドともう一つのエリアは町で、その町の名前はアクレア。
そのアクレアには沢山の店が存在しており、食料や武器、アイテムが売られている。この町の店には必要最低限のアイテムなどが売られており、店を一回りすれば、大抵のアイテムは揃う。
簡単に言えば、初心者のための町だ。
--以上、『Unique Online』取扱説明書より抜粋。
---第1層・アイテム販売店---
俺たちが居る店には回復系、状態異常回復系、戦闘用系などの、様々なアイテムが売られている。
「どんなアイテムが必要なのかな……」
アスカはカウンターに置かれているアイテムを見ながらそう呟いた。
「そうだな……。とりあえず、全種類買ってみるのは?」
「そんな事したら、一瞬でシアがなくなるだろ。だから駄目だ」
俺の提案は、あっさりとカインに却下された。 シアとは、このゲームの金の単位だ。
「回復系と状態異常回復系は買っておいて、残ったシアで他のアイテムを買えばいいだろ」
「そうだね。じゃあ、これとこれと……」
アスカはアイテムを選び出し、購入欄へ移し、個数を入力していく。
ちなみに、アイテムの購入や交換、装備の変更、アイテムの入手をする場合、メニューを出す必要がある。
そのメニューを出したいとき、左手を右から左へ振れば、右から流れるように出てくる。
「にしても、武器はどうするんだ?」
アスカから聞いたが、はっきり言って魔導士に杖は必要ないらしい。なので、このアイテム販売店に着いたとき、その杖を売っていた。
魔導士は良いとして、俺とカインにはある問題がある。
それは武器だ。
「確かにな。俺たち剣士にとって、武器は必要不可欠だよな」
剣士は、己のレベルに似合った武器を使う必要がある。そうでないと、戦闘中に武器が壊れる場合がある。
まあ、装備している武器とは別の武器をアイテム欄に保管していれば、武器が破壊されても大丈夫なのだが。
そして、このゲームは武器を強化することも出来る。
それはまだ俺とカインには関係ないが。
「まあ、武器はその時にどうにかすればいいんじゃねえか?」
「そう言うものか」
そう言うもんだ、と言いながらカインは頷いた。
「よし、カインが言ってたアイテムは買ったよ~」
アイテム購入を済ませたアスカが、俺とカインに向かって歩いてきた。
パーティを組んだからと言って、全員の所持しているシアが共有化されることはないが、アイテムは共有化される。
さて、アイテム購入は終わった。
「じゃあ次は、フィールドに行こうぜ!」
「そうだな」
「うん!」
俺達三人は、フィールドへ向かった。
---第1層・フィールド---
剣士のみが持つ固有スキル。それこそが剣技だ。
剣技には様々な種類があり、幾つかレベルアップすれば、手に入れることが出来る。保有できる数は無制限。
その点に関しては、魔導士のみが持つ魔法と、銃士のみが持つ銃撃技と設定は変わらない。
話は戻って今。
俺達三人は、同じ容姿をしてそれぞれ違う場所にいる三体のモンスターを発見した。
モンスターの容姿は、はっきり言ってダンゴムシの体に無数の棘が生えたもの。その体の上には、緑色の正四角錐の形をしたカーソルが浮かんでいる。
「一人一体ずつで戦おうぜ。まずは練習だ」
「分かったよ」
「了解」
二人はそれぞれの位置にいるモンスターに向かって歩き出した。
「(まずは練習。どんな風に戦うのかを覚えないと)」
内心で呟き、背中に装備された二本の剣を同時に抜く。
剣の刀身は直線で、その長さは四十センチ前後。目立つような装飾はなく、鍔と柄がグレー、刀身は銀に光っている。二本とも、同じサイズだ。
フィールドに入る前に確認したのだが、俺が現在使える剣技は二つ。
一つ目は『雷剣』。
二つ目は『雷刃』。
両方の剣技を試し打ちし、尚且つ今発見したモンスターを倒す。
それが今の目標だ。
とりあえず、気付かれないように恐る恐る近づいてみる。
残り1メートルでモンスターが振り向いた。俺に気付いたからなのか、緑だったカーソルが赤に変わり、緑色の体力ゲージが出現した。体力ゲージの上には、名前と属性、レベルが表示されている。
名前・ワーム
属性・無属性
Lv・2
レベル1の俺にとっては、丁度良い相手だろう。
何せレベルは1しか差がないし、属性もない。相性を気にしないで戦える。
まず俺は一つ目の剣技、『雷剣』の発動を試みる。
「(剣技発動!『雷剣』!)」
--ちなみに、剣技を発動する時には、今の様に内心で言うか、声に出して言えば良い。
言った直後、握られていた二本の剣の刀身が、青白い雷に包まれた。
その後は何も起こらなかった。
恐らく『雷剣』は、雷を刀身に纏う剣技なのだろう。
「それにしても、すごくリアルだなぁ……」
そう感心していると、いきなりワームが俺に向かって突進してきた。
「うおっ!?」
俺はそれを右に移動することで回避。ワームをしっかりと見据える。
「(そうだ。これは戦闘だ。ワームを倒さないと)」
そう思い、次は俺がワームに向かって走り出した。
十分に近づき、右手の剣でワームを斬りつけた。
俺が斬りつけた後がワームの体に赤く残り、すぐに何も無かったかのように消えた。だが、確実にワームのHPは減少している。
振り抜いたままの右手と入れ替えるように、次は左手の剣を突き出した。
が、それは後退することで回避された。
俺は気を取り直して左の剣を体に引き、ワームを見たまま声を発した。
「剣技発動!『雷刃』!」
直後、刀身を包んでいる雷が更に強くなり、完全に刀身を包み込んだ。すると、俺の体が自動的に右に捻り、両手の剣を引く。そしてその剣を振り抜いた。
振り抜いた時、雷が刀身を離れ、刃の形状に変化。二つの雷の刃が生み出される。
その二つの刃は一直線に進み、ワームに直撃。ワームのHPが最大量の半分減少した。
ワームのHPは残り僅か。
確実にしとめるため、もう一度『雷刃』を発動した。
しかし、二度目のそれは回避され、ワームの突進を左足に受けた。
俺は半回転しながらその場に尻餅を付き、俺のHPが三分の一減少。自分がレベル1だったことを思い出した。
「(だけど、ワームのHPは残り少ない。普通の攻撃で倒せるはずだ!)」
決心した、俺は左の剣をワーム目掛けて全力投球。投げ終えた直後、走り出す。
ワームはそれを前進を開始することで回避し、俺が投げた剣は地面に突き刺さった。
だが、それこそが俺の狙いだ。 ワームが前進し終えた時には、俺はワームの目の前に右手を左肩に引きつけた体勢で居た。
そして、全力で振り抜く。
「らあっ!」
HPが0になったワームは明るい青緑色になり、ポリゴンとなって爆散。俺の目の前には、獲得したアイテムとシア、経験値が表示された。
「か、勝った……」
---
「アレン、結構遅かったね」
「何してたんだ、お前は」
「カインとアスカが早いだけだろ……」
俺がワームを倒した時には、既に二人はワームを倒し、話をしていた。 --ちなみに、二人のステータス--俺が分かる範囲--はこうなっていた。
名前・カイン
職業・剣士
武器・太刀
HP・112/133
名前・アスカ
職業・魔導士
HP・196/196
MP・261/303
カインは俺と同様にダメージを受けたが、アスカは遠距離戦故、ダメージを受けなかったのだろう。魔導士の特権だ。
「で、これからどうする?」
アスカが立ち上がり、訪ねてきた。
「そうだ。お互いのスキルを見せ合うってのはどうだ?」
「それいいね!」
「俺も賛成」
「よし、決まりだ。じゃあ俺から見せるな」
カインはそう言って立ち上がり、少し離れた場所に移動。太刀を抜き、両手で持って構える。
カインの太刀も俺の双剣と同様、何の装飾もないただの太刀だ。
「剣技発動!『炎剣』!」
カインの太刀の刀身が、赤い炎で包まれた。
「剣技発動!『炎刀斬』!」
カインは太刀を振り上げたと思った時、一瞬で振り下ろした。それで生じた風で、俺とアスカの髪が靡く。
「カインって……炎属性だったんだな」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「「言ってない」」
「……すんません」
「ところで、魔法は使えないの?」
アスカの興味津々な質問に、カインは苦笑しながら答える。
「どうやら、まだ使えねえみてえなんだ……」
まあ、それなら仕方ないだろう。使えるようになるまで時間が掛かりそうだが。
「それはそうとして、次はアスカの番だぜ!」
「分かった!」
カインとアスカの位置が入れ替わった。
「魔法発動!『氷守壁』!」
アスカの一歩手前の地面で、青色の魔法陣が展開。魔法陣には解読出来ない文字が書かれており、中心には氷のようなマークがある。
その魔法陣が展開されたと同時に、ポリゴンが収束して実体化。分厚い氷の壁が出現したところで、魔法陣は閉ざされた。
暫くして、アスカの「解除」と言う言葉でその氷の壁はポリゴンとなって爆散。それを確認したアスカが、右手を前に出した。
「魔法発動!『氷球』!」
次は、前に出した右の掌の手前で展開。ポリゴンが収束し、実体化。野球ボールくらいのサイズの氷の球が出現し、魔法陣が閉ざされた。
そして、氷の球はポリゴンとなって爆散した。
「アスカ、その魔法はそれだけで終わりなのか?」
カインが何か物足りない様子で、アスカにそう訊いた。
「終わりじゃないけど、対象がないからね。むやみに放つのは危ないと思って」
「そうか」
「ちなみに、これを出現させた次は、標的に向かって飛んでいくよ」
アスカは笑顔で説明した。
しかし、ポリゴンが収束してから氷が出現するって言うのは、やっぱりVRMMOだからなのだろう。
「次はアレンの番だよ」
「ん?ああ、俺の番か」
俺はアスカが居た場所へ行き、『雷剣』を披露した。
「それって、俺の『炎剣』と同じじゃん」
「そう言えばそうだな」
次に、『雷刃』。
アスカに氷守壁を出して貰い、それに向けて放った。
「凄いね。それって、遠距離用なのかな?」
「よく分からないけど、近距離でも使えるぞ」
実際、ワームと戦ったときに近距離で使ったしな。
と言う訳で、俺たちはそれぞれのスキルを披露し終えた訳だが。
「次……どうするんだ?」
「私に聞かないでよ……」
「俺が決めなきゃ駄目なのか?」
「「宜しく、カイン」」
「そうだな……。よし、暫く此処で戦うか」
カインの提案により、俺達は暫くフィールドに居ることにした。
---
「そうだ!」
あれから数十分が経った。
暫くモンスター--殆どワームだったが--を倒し続けたお陰で、俺達三人のレベルは3になっていた。
最後の一体を倒したところで、カインがある提案をしてきた。
「俺達三人で共闘しようぜ」
「教頭って?」
「字が間違ってる。共に戦うと書いて共闘だよ」
首を傾げて変なことを言うアスカに、俺が説明する。
--余談だが、アスカは天然だ。それ故、優等生とは思えない発言もたまにする。
「じゃあ、私とアレンとカインの三人で戦うんだね?」
「そう言うことだな」
「反対がないから早速行こうぜ!レベルは3か4くらいが良いけどよ」 暫く歩き続け、お目当てのモンスターを発見した。
名前・バキュル
Lv・5
属性・雷属性
バキュルと言う名のモンスターは、簡単に言うと巨大な蜂の様な姿をしている。六本ある内の、左右の一番前にある腕が針となっており、そのサイズはとても大きい。
「馬鹿でかい蜂が相手か……しかもレベル5。まあ、やってみるか」
カインはバキュルを見てそう呟いている。
「炎属性じゃなくて良かった……。」
「何でだ?」
アスカが胸を撫で下ろしているのを見て、俺が質問した。
「氷は炎に弱くて土に強いんだよ。だから、相手が炎だと分が悪いの」
「そうだったのか……」
「その代わり、特殊属性の魔法は強力だよ!」 アスカは氷属性のフォローを入れる。
……理由は分からないが。
「とりあえず、前衛は俺とアレン、後衛はアスカで行くぜ?」
「分かった」
「サポートは任せて!」
そう言ったアスカは後退し、俺とカイン、バキュルから離れる。
「行くぜアレン!」
「おう!」
俺達の、初めての共闘が始まった。
---戦闘開始から数分後---
バキュルの雷を纏った右腕の針の攻撃を、俺の『雷剣』で受け止めて弾く。
バキュルの隙を逃さず、アスカが後方から『氷球』を放った。
『氷球』はバキュルの顔面に直撃。短い悲鳴を上げ、よろよろと高度が下がった。
それにタイミングを合わせ、カインが『炎刀斬』で斬りかかるも、何とか体勢を立て直したバキュルに回避される。
それを確認した俺とカインはバックステップで後方へ下がる。
「くそっ!どうすればいいんだ!?」
カインが苛立ち、怒鳴る様に疑問を声に出す。
その問いに答えるべく、俺は頭をフルスピードで回転させる。
バキュルは飛行が可能で、空中で滞空しながら戦闘を行うことが出来る。それがバキュルのボーナスの様なものだろう。
ならば、そのボーナスを打ち砕く。
飛行が不可能になれば、必然的に陸上で戦わなければならなくなるのだ。
が、問題がある。
それは、俺とカインのHPとアスカのMPの残量だ。
以上の事を踏まえ、長期戦は出来ない。
早期決着をする必要がある。
「カイン!アスカ!今から作戦を言うから、言った通りに行動してくれ!」
二人は無言で頷く。
「まず、バキュルの羽を斬り落とす」
「どうやるんだ!?」
「アスカが『氷球』を打って、俺が『雷刃』を打つ。バキュルの高度が下がったら、『炎剣』を使ってから『炎刀斬』で羽を斬り落とせ!タイミングは任せる!」
この作戦は、二人を信頼しているからこそ考えることが出来たものだ。
「分かった!」
「了解した!」
アスカ、カインの順に答え、アスカがいきなり『氷球』を放った。
「(剣技発動!『雷刃』!)」
「(剣技発動!『炎剣』!)」
俺はアスカが放ったと同時に『雷刃』の発動一歩手前で留め、太刀の刀身を炎で包んだカインと共に走り出す。
バキュルがアスカの『氷球』を、高度を上げることで回避。それを目視した瞬間、横向きに縦一列で、二つの雷の刃をバキュルの頭上目掛けて走りながら放つ。それと同時に、カインは思い切り跳躍--筋力スキルというものがあり、そのお陰でかなり高く跳躍できる。ちなみに、このスキルは『剣士』専用--した。
あっと言う間に『雷刃』はバキュルとの距離を縮め、バキュルの頭に直撃する寸前に、バキュルは高度を落とすことで回避。
此処までは順調だ。
「行けぇカイン!」
「剣技発動!」
俺の言葉を合図に、カインが頭上に太刀を構えた。
炎が尾を引きながらカインは落下し、太刀の柄を握る手に力を込める。
「『炎刀斬』!!」
十分にバキュルに近付き、思い切り太刀を振り下ろした。
その斬撃は、バキュルの二枚の左の羽に見事に命中。根本から斬り落とされ、斬り離された部分はポリゴンとなって爆散。羽を失って滞空出来なくなったバキュルは、悲鳴を上げながら地面に墜落した。
カインとアスカは俺が指示した通りに動いたことで、俺が考えた作戦は成功。バキュルのHPはカインの攻撃で大幅に削られ、後はトドメを刺すだけだ。
失敗をする訳にはいかない。
「剣技発動!『雷剣』!」
刀身が雷に包まれ、青白く光り出す。
左手の剣を逆手に持ち替え、両手を左側に引き寄せる。
漸く立ち上がったバキュルに近付き、左を右斜め前に一歩出す。捻られた体を元に戻そうとする勢いを利用し、右、左の順に剣を振り抜いた。
二本の傷跡をバキュルの体に付けた直後、バキュルのHP残量が、少しも残さずに削り取られた。そしてバキュルはポリゴンとなり、爆散。俺達三人の前に、獲得したアイテムとシア、経験値を表示した画面が現れた。
「勝てた……」
そう思った瞬間、聞き覚えのある短い曲が流れた。
これは確か……。
曲が鳴り終わり、俺達の目の前に、先程とはまた別の画面が出現。そこには、レベルが3から4に上がったと記されていた。
「よっしゃぁーー!」
「やった!」
「…………」
声に出して喜ぶ二人と違い、俺は内心で喜んでいた。
一通り喜んだところで、アスカがメニューを呼び出した。
「アスカどうした?」
「うん?いや、何のアイテムを入手したのかなと思ってね」
「どれどれ……」
「他人のメニューを覗くな!」
「あいた!」
他人のメニューを覗くと言うマナー違反を犯したカインは、アスカの平手打ちをもろに受けた。 カインのHPが、若干減少していたが、きっと気の所為だ。
しかし。
「(バカかあいつは……いや、バカか)」
「アレン!お前俺に失礼なこと考えただろ!」
どうやらバレたらしい。
俺は苦笑することで誤魔化した。
「あ!」
そんな遣り取りをしていると、アスカが驚きの声を上げた。
「どうしたアスカ」
「何かあったのか?」
俺、カインの質問に、アスカが笑顔で答える。
「もう少しで十一時だから、とりあえずログアウトしない?お腹空いたし」
「そうだな。取扱説明書に書いてあったけど、この世界の飯は腹が減ったのを紛らわすだけだもんな」
「ちゃんと現実世界に帰って食べたい」
満場一致でログアウトすることに決まった。
俺がメニューを呼び出そうとしたとき、カインが手を止めた。
「どうしたんだよカイン」
「いや?何か、『ログアウト』のボタンがねえんだよ」
「は?」
「私も……ない」
急いで俺も確かめる。
だが、俺にもそのボタンはなかった。
「俺もだ……」
「何で……ないの?これじゃあ……ログアウト出来ないよ……」
俺達は、ログアウト出来ないと言う理由が分からず、その場に棒立ちしていた。
暫くして、突然俺達の足下が光った。その光は段々大きくなり、最終的に全身を包んだ。
あまりの眩しさに、思わず目を閉じた。
---午前十一時---
俺達が目を覚ますと、そこはギルドだった。
To Be Continued.