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【Unique Online】  作者: 地味な男
第二章 第二層攻略編
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第16話 救助

 ブラックフィッシュとの戦闘は、実に呆気ない物だった。

 カインの全力の上段斬りで尾鰭を切断され。

 俺の双剣に難なく切り刻まれ。

 アスカの魔法で氷付けにされて永久保存された。

 ……まあ、永久保存って言っても、HPが0になれば、どんな状態であったとしてもポリゴン化して消滅するんだが。

 ブラックフィッシュをしとめた後も、俺たち三人は、午後の五時になるまで戦い続け、ひたすらモンスターを虐殺しまくった。

 そのおかげで、俺たちはレベル18まで、レベルを上げることができた。後二回か三回モンスターを倒せば、レベルは19になるだろう。

「どうするの?まだ戦う?」

「んーー、そうだな。後もうちょっとでレベルが19に上がるし……アレン、それで良いよな?」

「ああ、良いぞ」

 そんな会話をしながら、フィールドである海を泳いでいた。

 二~三分ほど泳いだ頃だろうか。

 突如、水の流れが急変した。

 今まで緩やかな流れだったのだが、本当に突如、流れが急になった。なんだか、川の流れに逆らっているような感じだ。

 ――向こうで、いったい何が起こっているのか。

 それを確かめるべく、俺たちは泳ぎ続け、その原因をその目にした。

 一人のプレイヤーと、一体のモンスターが互いに向き合い、身構えていた。

 モンスターの全身には黄緑色の鱗がびっしりとあり、左右の腕と足の筋肉は鍛え上げられている。首は長く、瞳孔は極限まで細く、縦長。口には何本もの鋭利な牙が生え、背中にはスピノサウルスを連想させる鶏冠(とさか)のようなもの。

 まるで、翼のない、少し小さめの竜だ。

 その名を、バーテンディ。

 ラストクエスト出現条件の一つである、『バーテンディの碧玉』のアイテムが手に入るモンスターだ。

 俺たちは、未だに一つも職員に渡されていないアイテムが手に入るモンスターが、目の前にいることに、心底驚いた。

 だけど、それ以上に驚いたのは――バーテンディと対峙している、一人のプレイヤーの方だった。

 この距離からでは、プレイヤーの性別は区別できない。だが、大まかな容姿ならわかる。

 プレイヤーの髪は少し短めで、色は限りなく黒に近いグレー。白い防具は、髪の色とよく似合っている。

 武器は太刀のようだが……太刀にしては、刀身が真っ直ぐだ。直刀の(たぐい)だろうかと思ったが、両刃(もろは)だった。

 ならばあの武器は恐らく、『両手剣』だろう。

 ――両手剣なんて、取り扱い説明書にあったっけ。

 そんな事が一瞬だけ脳裏を過ぎるが、頭を振ることで、無理矢理その思考を終了させた。

 先ほどにも言ったが、俺たちが驚いたのは、また別のことだ。

 ――プレイヤーの体が、小刻みに震えている。

 それを見ただけで、あの両手剣使いがどういう経緯でバーテンディとエンカウントしたのか、容易に想像できた。

 恐らくあの両手剣使いも、まさかバーテンディとエンカウントするとは思ってはいなかったのだろう。そして、勝てない相手だと確信し、怯えている。

 ――助けなければ。

 そう思った。

 そう思ったとき、俺はカインとアスカに振り返り、話しかけていた。

「カイン。アスカ。今から、あの両手剣使いを助けたいんだけど……」

 カインがニヤリと笑った。

「まあ、大体何を言い出そうとしてるのは想像できてたしな。別に良いぜ?アスカは?」

 カインの振りに、アスカは答えた。

「うん。犠牲者をできるだけだしたくないって言うのは、私もアレンと同じだよ。勿論、カインもそうだよね」

「当たり前だってぇの」

 二人は嫌な顔を一つもせず、快く承諾してくれた。

「ありがとう。俺の我が(まま)に付き合ってくれて」

 俺はそう一言言って、両手剣使いのプレイヤーを見た。

 その体勢のまま、ゆっくりとバーチカルソードと雷帝剣を、鞘から抜く。カインは悪刀をすでに抜刀状態にし、束を両手で持って構えていた。

 あの両手剣使いの構えとは、少し違う構えだ。

 俺とカインはお互いの顔を見て頷き合い、バーテンディへと向かった。




 ―――




 俺たちと両手剣使いとの距離が徐々に縮まっていき、後三メートルと言うところで、バーテンディが行動を開始した。

 バーテンディは前進をくねらせ、手足を器用に動かすことで水中を泳ぎ、両手剣使いへと近づき始めたのだ。

 あんな鋭い爪で攻撃されたら、一撃とは言わないまでも、五撃目くらいで、HPバーを根こそぎ持って行かれるだろう。

 そうすれば、このUOで、一番出したくない犠牲者を出してしまうことになる。

 それだけは嫌だ。

 だけど、どうすればいい?

 あの両手剣使いとの距離は、残り二メートル半をきった。だけど、それよりも遙かに、バーテンディと両手剣使いとの距離の方が、近かった。

 バーテンディの鋭い爪が、両手剣使いの体に直撃する直前、俺の横から、漆黒の太刀が飛んでいった。その太刀は何の迷いもなく真っ直ぐに飛んでいき、バーテンディの脇腹に深々と突き刺さった。

 ――グギャアアアア!?

 思わず耳をふさぎたくなるような断末魔を上げ、バーテンディは両手剣使いへと伸ばされた右手を引っ込めた。そして、漆黒の太刀が飛んできた方向――俺たちのいる方向を向いた。バーテンディの瞳には、怒りの感情が篭もっているのが、すぐに分かった。

「ゲームなのに、モンスターにも感情表現があるんだな。このUOやっぱすげえぜ」

「感心してる場合じゃないだろうが。早く太刀を装備しなおせ。バーテンディが来るぞ!」

「はいよっと!」

 カインは素早くメニューを開き、現在装備している設定の悪刀をアイテム欄に収納。こうする事によって、バーテンディに突き刺さった悪刀はカインのアイテム欄に収納された。そして、再び悪刀を装備。カインの右手に、再びあの漆黒の太刀が現れた。

「アスカ!後衛頼んだぜ!!」

「うん!」

「行くぞ!」

 俺とカインは、バーテンディへと泳ぎだした。




 ―――




 近づくにつれて、バーテンディのステークスが確認できるようになった。


名前・バーテンディ

属性・水

Lv・18


 まさかの、レベルが俺たちと同じ。

 スキルを使えないというハンデ持ちの俺とカインでは、間違い無く、苦戦……もしくは長期戦を強いられるだろう。

 バーテンディの残りのHPバーだが、全体の十分の一だけが、黒くなっていた。恐らくこれは、カインが悪刀を投げ飛ばし、バーテンディの脇腹に突き刺さった時のダメージだろう。

 カインの攻撃力は俺たち三人の中で最も高く、一撃の威力が高いためという理由もあるかもしれない。しかし、それでも、このHPバーの減り方を見る限り、俺たちなら剣技無しでも何とか倒せるはずだ。

 そして、こんな事を考えている俺とカインは今、バーテンディと対峙している。

「アレン」

「どうした?」

 カインは構えを一切崩さず、口だけを動かして、話しかけてきた。

「作戦……みたいなのはあんのか?」

「作戦か」

 先ほど考えていた事を口に出しながら、考えてみるか。

「カインノアの一撃で、バーテンディのHPは一割減少した。だから、剣技を使えない状態の俺たちても、勝てる相手であるとは思う。だけど……」

「だけど?」

「だからと言って、真正面から渡り合って勝てるとは思わない」

「じゃあ、どうすんだ?」

「簡単な話さ」

 俺は口の両端をつり上げる。

「真正面から勝てないんだったら、違う方向から攻めれば良い。そして、俺とカイン、合わせて前衛は二人だ。これなら、二つの方向から攻める事ができる!」

「挟み撃ちって事か。良いぜ。やってやらぁ!」

 俺と同じくカインも口の両端をつり上げた。

 ……その後、暫く対峙するのだが、先に動いたのは、俺だった。

 瞬時にバーテンディに近づき、バーテンディとの距離が一メートルをきる時、右の方向へと軌道を変える。案の定……いや、俺の計画通りに、バーテンディは俺を目で捉えている。今のバーテンディには、バーテンディから見て右側は見えていないはず。

 バーテンディの尻尾が、俺に向かって飛んできた。

 それを降下する事によって回避し、尻尾が完全に通り過ぎると、俺は少しバーテンディから離れた。

 バーテンディを見ると、奴は口を閉じ、肺がある部分を膨らませていた。

「まさか……!?」

 俺がそう呟いた時、バーテンディの口が――

「うおらああああっ!!」

 スバァッ!!

 開かれる事はなかった。いや、バーテンディの口は開かれたが、やつのしようとしていた攻撃は、不発に終わった。

 HPバーを見ると、残り七割をきっていた。

 ……カインの一撃の威力、凄まじいなおい。

 怒りの雄叫びを上げ、カインがいる後ろを振り返った。

 ……それは良いが、俺の存在を忘れちゃ困る。

 素早くバーテンディの背後に近づき、二連撃をプレゼントしてやった。

 カインほどではないが、バーテンディのHPが減少していく。

 バーテンディが俺を攻撃しようとしたのか否かは分からないが、バーテンディは振り返ろうとした。

 しかし。

 ――ザクザクザクザクザク!!

 バーテンディの頭上に突如として出現した、五本の青い氷槍。それが、バーテンディの頭、肩、胸、翼などの五カ所に、ほぼ同時に深々と突き刺さった。

 それら計五回のほぼ同時攻撃は、バーテンディのHPを完全に奪うのには、充分過ぎる一撃だった。




 ―――




「まさか、あそこまでアレンの作戦通りに行くとはな。ほんと、すげえよ」

「ん?そうか?」

「うん。おかげで私の『五連氷槍撃(アイシクルランス)』が全て、バーテンディに命中したしね」

「いや、バーテンディの動きが、単純すぎたんだろ。俺だって、まさかここまで上手く行くとは思ってなかったし」

 自分でも驚いてます。

 そんな事を内心で呟いていると、アスカが何かを思い出したようだ。

「それより、あの両手剣使いのプレイヤーは?」

「あ」

「あ」

 急いで俺たち三人は、周囲を見渡した。

 あの両手剣使いは、どこへ行ったのだろうか、と。

 探索する事五分。

 俺たちが助け出したはずの、あのグレーの髪の両手剣使いを、見つける事はできなかった。

「んだよあいつは。一言礼を言ってから去っても良いじゃねえか」

「まあ怒るなよカイン。別に俺は犠牲者を出したくないだけで、例が欲しかった訳じゃないんだ。だから、別に良いさ」

「……そっか。アレンがそう言うならそうだな!」

「ねえ……」

 俺とカインが話していると、メニューを開いていたアスカが、俺とカインに話しかけてきた。

「ん?」

「どうかしたのか?」

「私たち、19にレベルアップしてる。それに、『バーテンディの碧玉』も、ドロップしてる」

「やったじゃねえか!」

「ああ。今日はギルドに行ってから帰ろう。『バーテンディの碧玉』を渡さないとな」

 レベルが1上がった事により、適正レベルに近づいた。そして、まだ誰も納品できていなかった、『バーテンディの碧玉』も手に入れた。

 俺たち三人は、和気藹々と、ギルドに向かった。

 ギルドで『バーテンディの碧玉』を納品した後、第一層のマイホームに帰宅。

 その夜、俺たちが住むホームは、夜遅くまで、楽しそうな声が耐える事はなかった。






To Be Continued.

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