第13話 アクアフォール
古代城・シークレアス。その第2層を一言で言うならば、水の町。
第2層のフィールドは、四分の一が水だ。故に、モンスターとの戦闘では、水中戦になる確率が極めて高い。
第2層のモンスターは、魚や半魚人、水中の生物をベースにしている。そのどれもが水中戦に長けており、初めて戦うプレイヤーは、必ず苦戦する。
もうお分かりかもしれないが、この第2層では、水属性のモンスターが多い。
第二層での適正レベルは、20前後。この層で出現する、もっとも高いレベルは、大体18くらい――とあるモンスターを除けばの話だが――だ。
第2層の町の名前は、『アクアフォール』。
アクアフォールの町にある武器屋には、雷属性の武器が多く置かれ、炎属性の武器はあまり置かれていない。
まあ、これは先ほどにも言った、大部分のモンスターが水属性と言う事に影響している。雷属性と炎属性以外は、第1層と変わりはない。
アクアフォールには『修練所』と言う場所が数カ所あり、そこで水中戦を練習する事ができる。
修練所に行って水中戦を練習したプレイヤーと、そうでないプレイヤー。第2層での生存確率は、確実に前者の方が高いと言える。まあ、レベルの問題を差し置いて、の話なのだが。
第2層へ続く階段が異常に長かったのは、フィールドの四分の一が水、と言う理由が影響している。少し肌寒いのも、そうだ。
――『Unique Online』取扱説明書より抜粋。
――第2層・アクアフォール――
アクアフォールの町は、至る所に噴水があった。
その噴水の水の色も様々で、青や赤、黄、緑などなど。噴水を見て回るだけで、一日潰せそうである。
アクアフォールに建てられている建物は、青を基調としているものが多く、心が落ち着いてくる。
何というか、こんな町だったら、犯罪も減るのだろうか。
「よし!まずは、ギルドに行くか!……じゃなくて、探すか!」
俺が現実世界の事を考えていると、カインがそう言い出した。
そう言えば、第2層での、ラストクエストの出現条件などを確認しておかなければならない。このUO攻略において、最も大切な事ベスト3にはいるほど、大切な事だ。
ちなみに残り二つは、レベル上げとアイテムの数である。
グレムとヘディの二人だが、彼らとは、第二層に入ってすぐ、別れた。
二人とはパーティを組んでも良いのだが、やはり、大人数で行動するのは、あまり気が向かなかった。なので、別れる事になった、と言う訳だ。
まあ、フレンド登録はしているがね。
さて。俺たちが第2層のギルドを発見したのは、アクアフォールに来てから、三十分後の事だ。
――アクアフォール・ギルド――
「此処が……第2層の……」
「大きいね……」
「正に『水の町』って感じだな」
カイン、アスカ、俺の順で、ギルドの感想をそれぞれ口にした。
アクアフォールのギルドは、他の建物と同じく、青を基調としている。そして所々に水槽のようなものがあり、その中には、現実世界でも見た事のある魚たちが泳いでいた。
ギルドの周囲を囲むように、沢山の噴水が並んでいる。それらの噴水の水の色は、すべて水色だった。
ギルドのドアを開けて中に入る。
ギルド内にプレイヤーの数は少なく、たった二十人ほどと言ったところか。
俺たちは迷う事なく、ギルドのクエストボードに向かった。
そこには様々なクエストがあり、採取や討伐などがある。
でもまあ、俺たちが見たいのは、それではない。
俺たちが見たいのは、ラストクエストの出現条件だ。
「お、あったぜ」
カインが指さす紙を見る。
そこには、こう記されていた。
―――
出現条件
・『シェルの真珠』を三十個、『アルビエラの角』を二十個、『バーテンディの碧玉』五個採取し、ギルド職員に渡す。
・フィールドのモンスターを、千体倒す。
―――
「…………」
「…………」
「……と、とりあえず、フィールドに出てみれば分かるんじゃないかな?」
俺とカインは無言で頷き、ギルドを後にした。
だってさ、全部で五十五個のアイテムと、千体のモンスターを倒さなきゃならないんだぞ?どんだけ時間がかかるんだよ……。
そう肩を落とした。
……てか、待てよ?
「アスカ、フィールドじゃなくて、先に修練所に行かないとまずいだろ」
水中戦の練習は必須だ。
「あ。忘れてた」
俺は呆れながらも、修練所に向かった。
――修練所――
ここは先ほどでも言っていた通り、第2層特有――特有かどうかは分からない――の水中戦の練習が可能な施設だ。
その施設はこのアクアフォールに、全部で四つ設置されている。東エリア、西エリア、南エリア、北エリアの四カ所だ。
さて、修練所なる施設について、説明しておこう。
修練所とは、早い話、先ほども言ったが、水中戦の練習ができる施設だ。第2層攻略において、水中戦ができる事は必須なのだ。故に、その水中戦を練習できる場所に向かうのは、普通な事である。
修練所の練習は、至って簡単。
まず、水中でも武器を扱えるようになる練習から始まる。
が、ここで早速、問題が発生してしまった。
カインは、炎属性だ。水中では、炎は出せない。
俺は、雷属性だ。水中で剣技を発動しようものなら、水中に居るアスカやカイン――全プレイヤーに、甚大な被害が出てしまう。いや、最悪の場合、犠牲者が出てしまうかもしれない。
まあ、何が言いたいかと言うとだ。
俺とカインは、水中では剣技を使えない。
――なら、どうして雷属性の武器が多く売られているのか疑問だが。
「要するに、俺たちは何も役に立たない……」
俯きながら呟くカインの肩を叩き、「まあ、仕方ないさ」と言うと、カインはひざを地面についた。
だが、剣技が使えないからと言って、水中戦ができない訳じゃない。
モンスターを倒すまでに時間はかかるが、倒せない事はないのだ。が、予想しているよりも時間はかかる。
ちなみに、アスカの場合だが、彼女の属性は氷。水中での戦闘では、あまり影響はない。羨ましくて仕方ない。
これはNPCから聞いたのだが、どうやら、水中戦は水属性のプレイヤーが有利なんだとか。
それを聞いた俺とカインは、ヘディの事を思い出していた。
さてと。
長々と話してしまったな。次は、今の俺たちについて話そう。
今、俺たちは何をしているかというと。
「早く来いよ、カイン」
「ったく、剣技が使えねえってのは、本当に不便だぜ」
俺とカインは、巨大な水槽の中で、それぞれの武器を構えて睨み合っている。優奈は、そんな俺とカインを、水槽の横から見守っている。
何かをきっかけにした訳でもなく、カインがばた足で泳いできた。
ある程度俺との距離を縮めたカインは、力強く、ドルフィンキックを放った。
ドルフィンキックの推進力で直進し、俺の腹部めがけて悪刀・黒翼を突き出す。
俺は二本の剣を交差させ、カインの突きを受け止め、そして左側に刀を流す。カインは左側に進み、俺はカインのがら空きになった左の脇腹に、バーチカルソードを突き出した。
俺のバーチカルソードが、カインの脇腹に――
「終了!!」
突き刺さる寸前で、練習時間の終了を知らせる合図が、NPCのオッサンによって出された。
俺はそれに従い、寸止めで剣を止めた。
今日の修練所での練習は、俺の勝利で終わった。
――第1層・マイホーム――
「ああー、水中戦は難しいなー」
オッサンみたいな声を出しながら、カインがソファに腰を落とす。
つい昨日もこの家に居たのに、たった一日留守にしていただけなのに、どうしてこんなにも久しぶりに感じるなのだろう。
まあ、考えても意味ない事は分かって居るのだから、考えないが。
……それにしても。
「確かに水中戦は難しいけど、このゲームは凄いよな」
「そうだね」
カインは無言で頷いた。
実はこのUO、水中でも話す事ができて、尚且つ呼吸もできるのだ。
……初めて水中に入った時は、三人揃って驚いたものだ。
先ほどの、俺とカインの立ち会いを見て察したかもしれないが、水中での移動方法は、普通に泳ぐだけだ。ちなみに、ばた足が一番武器を持って泳ぎやすく、進む。
「でもよ、アスカは良いよなー」
「本当にそうだよ」
カインと俺に羨ましそうに見られたアスカが、右に首を傾げる。
「なんで?」
「だってよー、アスカは水中でも魔法を使えるだろ?でも俺とアレンは、水中では剣技使えないんだぜ?」
「正確には、カインが使えなくて、俺は使ったらいけないんだけどな」
傾げていた首を元に戻し、うんうんとアスカは頷く。
「確かに……」
そして、満面の笑みで、「ドンマイ」と言ってきた。
この瞬間、少なくとも、俺はアスカをうざいと思った。
「…………チッ」
隣に座っている太刀使いも、俺と同じのようだ。
「まあとりあえず、俺とカインは明日も修練所に行くけど……アスカはどうするんだ?」
「うーん……二人について行くよ」
「そうか」
さて、暫くは水中戦の練習に専念する日が続くな。
これで、ラストクエストクリアはもっと時間がかかると俺がため息をついたのは、二人は知らない。
ToBe Continued.




