第12話 クエストクリア
―――ギルド―――
俺たちがギルドに戻ると、ギルドには結構沢山のプレイヤーたちが居た。
プレイヤーたちは皆、担がれたハルトを見て驚愕に目を見開いている。が、その表情は驚愕からすぐに、心配に変わっていく。
ハルトが毒の状態異常になっている事を、悟ったのだろう。
プレイヤーの一人が、ハルトを担いでいるプレイヤーに、紫色の何かの液体が入った小瓶を渡した。毒状態を回復する、状態異常回復系のアイテムである。
それを受け取った、ハルトを担いでいるプレイヤーがハルトに飲ませてみるものの、ハルトの毒状態は治らない。
一体、どうなっているのだろうか。
普通のアイテムでは、効果はないのだろうか。
……このままでは、ハルトが死んでしまう。
このゲームで、犠牲者を出したくないのは、誰だって同じ――闇ギルドなる連中はどうかは知らないが――はずだ。だからこそ、さっきのプレイヤーは自分の状態異常回復系のアイテムを、何の躊躇いもなく与えたのだろう。あのアイテムは結構高価なのだ。
さて、どうしたものか。
俺が悩んでいると、グレムが腕を組んで唸っていた。しばく見続けていると、グレムが突如目を見開いた。
「あ!そうだ!」
グレムへと、プレイヤーたちの視線は送られた。
その視線を気にしていないかのように、グレムは言葉を口にし始めた。
「ヘディのユニークスキルなら、治せるんじゃないか?」
グレムの提案を聞き、ヘディがはっとした。
ヘディはグレムを見て頷き、ハルトへと歩み寄る。
そして、ハルトを担ぐプレイヤーに話しかけた。
「あの、私のユニークスキルならハルトを助けられます」
ヘディの言葉に、そのプレイヤーは驚く。
「ほ、本当か?」
「だから、ハルトを下ろして。じゃないと、できないわ」
そのプレイヤーはすぐさまハルトを下ろし、仰向けに床に寝かせた。
ハルトのHPバーの色は、緑色から毒々しい紫色に変色しており、少しずつ――多分10ずつくらい――減少していっている。それに、残りHPは四分の一をきった。減少していく量は少ないが、ペースが早く、ハルトのHPが尽きるのも、時間の問題だ。
仰向けに寝かされたハルトの胸の辺りに、両方の手のひらを翳した。
少ししてから、ヘディの手が緑色に光り出した。
その光は次第に強さを増していき、最終的には、ハルトの全身を包み込んだ。
その状態のままが、数十秒ほど経過した。
ヘディが手を離すと、緑色の光は次第に弱くなり、ある程度の弱い光はなると、ポリゴンとなって爆散した。
ハルトを見てみると……彼のHPバーは通常の緑色に戻っている。残りHPはレッドゾーンに入るギリギリ前で、減少を止めていた。
「ヘディのユニークスキルって……」
「私のユニークスキルは『絶対完治』。どんな状態異常でも、絶対に完治させる事ができるわ」
カインの言葉を繋ぐように、所有者であるヘディが言った。
それにしても、どんな状態異常でも絶対に完治させる、か。これからのUO攻略において、必要不可欠なスキルになるだろう。いや、もうすでになっているか。ハルトの毒状態も、完治させたしな。
「へぇ~、そんなスキルもあるんだ~」
「そうだろアスカ。凄いだろ!」
「グレムは褒めてない」
何故か自分のように嬉しがる銃士は放置しておく。
ふとヘディの方を見ると、ハルトを担いでいたプレイヤーと、もう一人のプレイヤーが、ヘディに頭を下げてお礼を言っていた。
一方ヘディはそれに対し、手を振って「こんな事どうって事ないわよ」と言っている。が、お礼を言われて嬉しいのか、表情が若干緩んでいる。
……まぁ、お礼を言われて嬉しくない奴は、そうそう居ないだろうけどさ。
暫くして、ヘディから二人のプレイヤーは離れ、ハルトの元へ駆け寄った。
HPを回復させるともう一度頭を下げ、ギルドを去っていった。
ハルトは無事そうで何よりだし、犠牲者が出なくて良かった。
俺はヘディを呼んだ。
「何?」
「今から、この宝箱をギルドのカウンターに渡してこようと思うんだけど……誰が持って行く?」
正しいかどうかは分からないが、恐らく、このラストクエストの報酬は、宝箱を届けたプレイヤーのみに与えられるだらう。その方が良いし、少なくとも、不公平ではなくなると思う。
だからこそ、俺が持って行くのか。それとも、別の誰かが持って行くのか。それを決める必要がある。
勝手にそうして、この関係をぶち壊す事だけは避けたい。
「別に、アレンが持って行けばいいんじゃね?」
後頭部を右手でガシガシと掻きながら、カインが答えた。
グレムとヘディ、アスカも頷いている。
「何でそう思うんだ?」
俺の疑問に、アスカが答えた。
「なんて言うかさ、ほら、ルシファーのHPを一番多く削ったのはアレンでしょ?」
だから、俺が持って行って、報酬を貰えば良いと。
俺がそう言うと、アスカかが頷いた。
他の皆も、同じのようだ。
でもそれなら、カインはどうなんだ?
水攻めを止めたのはカインだし、結果的にルシファーを倒したのも、カインだ。だから、俺ではなく、カインが貰うべきだと、俺は思った。
だが、カインは首を横に振った。
「俺はさ、ルシファーのドロップアイテムで充分だ。なんせ、攻撃力が30も上がるんだぜ?俺はこれで充分だ。満足してんだよ」
「だから、カインは遠慮するのか?」
「そーゆーこと。あんまり貰いすぎても困るしな」
カインは充分だと言っている。
他の三人も、異論はない。
だから、貰って良いのだろうか。いや、貰って良いんだよな。
皆がそう望むのならば、俺はそうしよう。
「分かった。皆の気持ちに甘えさせて貰うとするよ」
そう言って俺は、ギルドのカウンターへ向かった。
―――
メニュー画面から、『アイテム』という所を一度タッチし、開く。
上から下へスクロールさせ、『黄金の宝箱』を一度タッチし、実体化。カウンターに座る、制服のようなものを来ている女性に、手渡した。
彼女はそれを受け取って暫く宝箱を見つめると、一度カウンターの奥へ歩いていった。
動きがなめらかで、まるで本物の人間のようだ。NPC――俺やカインのように、ゲームをプレイしているキャラではない。RPGで例えるなら、店の人的な存在――には、全く見えない。
NPCの女性はすぐにカウンターに戻って座ると、微笑んだ。
「はい。あれは確かに、『黄金の宝箱』でした。では、ラストクエストクリアという事で、アレン様には、報酬をお渡しします」
機械が話しているとは思えない、なめらかな口調で、女性はそう言った。
まさか、本当に報酬があったとは……。
まあ、それはそれでいいか。
少しして、俺の胸の前辺りに、青白く光るパネルが出現した。そのパネルには、『アイテムを受け取りました』と表示されている。
早速メニューを開いて確認すると、そこには新しい武器と、シアが一万も上がっていた。
武器の説明はこう。
名前・雷帝剣
種類・片手用直剣
性能・雷属性強化+4,攻撃力-5
攻撃力は5下がってしまうが、雷属性強化が良いな。+(プラス)4だぜ?+4。
それにこれは片手用直剣だ。俺の『双剣』でも、何の問題もなく装備できる。
流石はラストクエストの報酬と言ったところか。
特に意味はないが俺は頭を軽く下げ、カウンターを立ち去った。
―――
カインたちの所へ戻り、新しい武器である『雷帝剣』について話し、装備してみた。勿論、入れ替えたのは鋼の剣だ。
雷帝剣の柄は短めで、種類の名の通り、片手用の長さである。
片手で振るとしては丁度良い長さの刀身は黄色で、光の加減によっては黄金にも見えなくはない。再びその名の通り、刀身は一直線に伸びている。
鍔には複雑な模様が掘られており、まるで、雷のようなマークにも見える。
片手用直剣にしては、少し軽めの剣だ。
雷帝剣を見終えて鞘に納めると、突如、周囲が光に包まれた。
瞼を持ち上げると、沢山のプレイヤーたちが居た。
どうやら、UOがデスゲーム化した際のような事が起こっているようだ。
そんな事を考えていると、アナウンスが聞こえてきた。声の高さからして、女性だろうか。
『皆様。本日をもって、第一層のラストクエストはクリアされました』
ギルド内に、歓声が響く。
『それにより、第二層への入り口である扉を開きます。開き終えたら、ご自由に移動してください』
……と、言い終わった直後、ふいに、ギギギギと聞こえてきた。その音はまるで、何かの扉が開くような音だった。
音を頼りに進んでいると、完全に開ききった扉を発見した。
「でかい……」
扉を見てまず思ったのは、それだった。
横幅は広く、大人の象が2~3頭並んでも、まだ隙間があるであろうほど。そして高く、高さは3メートルはある。
その扉の奥には、灰色の階段があった。。
そんな巨大な扉をギルドに居たプレイヤーたちは潜り、階段を上り始めた。
……ついに第二層攻略が、始まった。
To Be Continued.




