第10話 二丁拳銃
ルシファーが直進してくるのに対し、俺は右斜め前へ、カインは左斜め前へ突っ走った。
三十メートルほど走ったところで止まり、俺は『雷刃』を発動――空中の相手に攻撃できるスキルは、『雷刃』しかない――し、雷の刃を投げつける。が、ルシファーの体に直撃するよりも先に、雷の刃がポリゴンとなって消滅した。
「え……?」
俺は予想外の出来事に、その場で硬直した。
そして、すぐに、何故そうなったのかを理解した。
射程範囲内に、ルシファーは居なかった。それだけだ。
まさか、『雷刃』に射程範囲があるだなんてな。
いや、当たり前か。アスカの魔法だって射程範囲があるんだ。剣士だけそれがないとか、どれだけチートなんだって話になる。
俺がそう思っている間にも、ルシファーは向きを変えた。
俺を見ている。
……マズい。
『雷刃』を凪払うほどの剣は今、ルシファーの手元にはないが、それでも、本気のルシファーなら素手で弾かれるだろう。
そうと決まれば。
俺は走った。カインに向かって。
とりあえず、カインと合流した方がいい。そんな気がする。
カインの近くまで辿り着き、話しかける。
「カイン、空中に居るモンスターに攻撃できるスキルってあるか?」
カインは少し考え、こう答えた。
「うん、一つもねえ」
……いや、予想はしていたさ。
だって剣士だ。あの、接近戦の剣士だ。
遠距離攻撃用のスキルを持っている方が凄いんだよな。
……あ。
「詰んだな」
カインが言った。
直後、ルシファーが黒い刃を飛ばしてきた。
俺とカインは、それぞれ違う方向に飛ぶ事で回避した。
しかし、本当にどうすれば良いんだ?
接近戦は出来ない。
遠距離戦に長けている魔導士のアスカと銃士のグレムは、完全に戦意を喪失してしまっている。
「どうすれば……」
俺がそう呟いた時、ルシファーが俺めがけて直進してきた。
てか、ルシファーおれしか狙ってないか!?
いや、確かにHPを一番多く削ったのは俺だけどさ!!
ルシファーの右パンチを紙一重でかわすが、パンチで生じた風で吹き飛ばされる。
ダメージは受けたが、何とか床に着地。すぐに体勢を直して顔を上げると、次はカインが攻撃されていた。
カインは太刀でルシファーの攻撃を受け止めたが、やはりルシファーはパワーがあり、カインは弾き飛ばされた。
カインが吹き飛んだのを確認したルシファーは、左手と右手の手のひらで、黒い魔法陣を展開。黒い球体が、左右の掌で生成され、渦を巻いている。
左手を俺に、右手をカインに向け、その球体を放とうとした。
その時。
ガァンガァンと、銃声が部屋に響いた。
ルシファーは放つ直前に攻撃を受けたため、バランスを崩した。その影響で球体の軌道がずれ、俺の頭上の壁を粉砕した。
落ちてきた瓦礫をバーチカルソードと鋼の剣で弾きながら、部屋の入り口――グレムたちが居る方を見た。
そこには、両手にハンドガンを持った、グレムの姿があった。
やっぱり、グレムか。
―――
――こんなところで、戦えないとか言ってる場合じゃない。
そう自分に言い聞かせ続けたグレムは立ち上がり、ルシファーにダメージを与えた。
そのおかげで、二人を救う事が出来た。
カインとアレンがグレムが居る近くまで走ってきて、アレンはグレムに言う。
「グレム……お前、もう戦意がないんじゃ――」
「いや」
グレムがアレンの言葉を遮り、言う。
「アレンとカインを見てると、何だか、俺も戦わなくちゃって思ってさ。それに……」
グレムがルシファーを睨み付けた。
「空を飛んでる敵は、銃士に任せろ!」
グレムは力強くそう言い、ルシファーに銃口を向けた。
「なあ、皆。俺の頼み、聞いてくれるか?」
グレムの質問に、カインとアレンが頷く。残る少女二人は、ただ黙って座っていた。
「俺が良いって言うまで、時間を稼いでくれないか?」
「何でだ?」
カインの問に、グレムが答える。
「ルシファーを一撃でポリゴンに変える為には、どうしても時間が必要なんだ」
――だから、お願いします。
グレムが頭を下げたのを見て、アレンとカインは頷いた。
「よっしゃ、行くぜアレン」
「ああ。グレム、俺はお前を信じるよ」
アレンとカインはそう言うと、ルシファー目指して直進。その間に二人はそれぞれの武器を鞘から抜く。
鞘から抜いた直後、アレンは立ち止まった。
カインは走り続け、立ち止まった時には、ルシファーは二人に挟まれていた。
「(これで、時間を稼ぐ為の配置は終わった)」
そう内心で呟き、カインに聞こえるように言う。
「行くぞ!」
アレンのかけ声と共に、二人は走り出した。
ルシファーを中心に、二人で円を描くように走り続ける。
ルシファーはそれに戸惑い、一瞬動きを鈍らせる。しかし、ルシファーは迷う事なく、カインに向かって黒い球体を投げつけた。が、カインはもうすでにそこにはおらず、ただ床を砕いただけだった。
それが続き、一分後。
足場かなり悪くなり始め、走り辛くなった頃。
ついにグレムが、合図を出した。
アレンとカインは、グレムがどんなスキルを使うつもりなのかを教えられたため、すぐさま部屋の端へ移動した。
二人が位置に着いた瞬間、氷の壁が出現。
アスカが、二人を守るために動いたのだ。
「銃撃技発動!」
二つの銃口に、ポリゴンが収束していく。それはまるで、銃口が風を収束させているようにも見えた。
ある程度たまった時、グレムが叫びながらトリガーに触れる指に力を込めた。
「『風牙双槍』!!」
銃士の中で、『二丁拳銃』を扱うたった一人のプレイヤーが入手できる、SS。
銃口から放たれた半透明で緑色の、二つの風槍は何の迷いもなくルシファーへ直進。回転しているのか、槍が通り過ぎたところには、突風が吹いている。
流石、風属性だ。
それに対抗するかのように、ルシファーは限界まで六枚の黒翼を伸ばし、両の手のひらを向かい合わせる。
手のひらと手のひらの間に黒い球体が出現。しかし、その球体は今までのものと少し違い、一段と黒い。
手のひらをグレムに向けると、その球体から、ビームのようなものが放たれた。
二つの風槍と、一筋の黒き光線。
双方が衝突し、部屋中を爆音と突風が満たす。
アスカが作り出した氷の壁が、殆ど一瞬で砕け散った。
強力なスキル同士の競り合いの果てに、グレムの『風牙双槍』がルシファーの黒き光線を打ち破った。そのまま風槍は直進し――
ルシファーの左右の肩を、貫いた。
『う……があああああ!!』
肩を貫かれたルシファーは、断末魔を上げながら、地に落ちた。
まるで、地に堕ちる天使のように。
槍がポリゴンとなって消えるのを、五人は見た
――これで終わったか。
その場に居る全員が、そう思った。
しかしルシファーのHPは、僅かに5、残った。
『ハァ、ハァ、まだだ……』
ルシファーは、尚も立ち上がろうとする。
「カイン!お前が決めろ!」
アレンが叫ぶと、カインは走り出した。
残り五メートルの地点で跳躍し、太刀の刀身が炎で包まれる。
「剣技発動!『火炎車』!!」
カインは高速で縦に回転し、ルシファーの首に彼の剣技は命中。電動鋸が木を切り落とすが如く、呆気なく首は跳ね。ルシファーのHPが漸く尽きた。
―――
「やっと……終わった……」
俺がそう呟いた直後、部屋中が歓声で満ちた。
そのせいで五月蠅いが、ここは文句を言わず、我慢していよう。俺だって嬉しいのだ。
俺を除く四人がハイテンションの中、俺はふと、メニューを開き、自分のステータスを見てみた。
名前・アレン
職業・剣士
武器・双剣
Lv・14
HP・642/642
ワアオ、レベルアップしてるよ。
と、言う事は。
俺はアスカとカインのステータスも見てみた。
名前・カイン
職業・剣士
武器・太刀
Lv・14
HP・608/608
名前・アスカ
職業・魔導士
Lv・14
HP・699/699
MP・935/935
こうして見ると、やっぱりHPはアスカがずば抜けてるな。MPは、俺とカインは魔導士じゃないから比べる対象が居ないから分からないが、やっぱり高いと思う。
普通、接近戦担当の剣士のHPが一番多くても良い気がするんだが……まあ、いいや。
これからもっと上がっていくかもしれない。
……流石にカインのHPは少な過ぎるとは思うけど。
ああ、そうだ。
「なあカイン」
俺はカインに歩み寄り、カインに話しかけた。
「何だ?」
「お前、モンスタードロップとかしてないか?」
モンスタードロップ。
モンスターを倒した後に、そのモンスターがアイテムを落とす事を言う。
基本的にそのアイテムは、モンスターにトドメを刺したプレイヤーのものになる。勿論、プレイヤーが使えるものの場合もあるし、使えない場合もあるが。
カインはメニューを開き、アイテム欄を見る。
スクロールさせていき、カインが一つのアイテムをクリックした。そのアイテムの解説の文が現れる。
説明を纏めると、こうだ。
名前・『悪刀・黒翼』
種類・太刀
性能・攻撃力+30、闇属性強化+3
「とんでもねえ太刀だな……」
「あ、ああ。流石ルシファーのドロップアイテムだ」
ちなみに、闇属性強化は、雷属性強化の闇属性版だと思ってくれ。
……て言うか。
「闇属性使いって、居るのか?」
「いや、それ用の武器があるんだ。闇属性使いが居ても可笑しくはねえんじゃねえか?」
「でも、闇属性強化って……」
「ああ、使えねえ。使えるって言ったら、やっぱり攻撃力+30だけだろうな」
そこまで言って、カインは肩を落とした。
「まあでも、攻撃力が上がるんだから、これからはこれを使うか!」
いつでも前向きなカインだった。
「ちょっと待ってろ」
そう言い、カインは太刀の装備を解除。新しく、『悪刀・黒翼』を装備し、カインの背中にその太刀が現れた。
鞘の色は漆黒で、六枚の翼のような模様が刻まれている。
カインは悪刀・黒翼を抜き、俺もそれを見た。
柄は完全な日本刀のようになっており、両手で持っても少し余るくらいの長さ。刀身は漆黒に輝き、鍔は翼を連想させる。全体的に黒い刀だ。
「この太刀、丁度良い重さだな」
両手で柄を握って振りながら、カインが笑顔でそう言った。
振る度にブォンブォンと風を斬り、禍々しく刀身が光る。
暫く振った後、カインは太刀を鞘に納めた。
「そろそろ行こうぜ」
カインを除く、俺を含めた四人は、階段を登り始めた。
―――
「ねえ、この階段妙に長くない?」
アスカの問いに、誰も答えない。
階段を登り始めて数十分が経った。しかし、未だに階段は続く。
しかし、この階段は本当に地下五階に繋がっているのか?何か、地下四階に着きそうな気がするんだけど。
そんな事を思って階段を登り続けていると。
「あ、あれ!」
先頭から二番目に登っているヘディが、何かを指さした。
「どうした?」
グレムがヘディに訊くと、ヘディが「出口よ!」と言った。
少しだけペースを上げ、俺たちは漸く階段を登り切った。
―――
「多分、ここは地下四階だな」
俺が呟く。
え?どうして分かるのかって?
この部屋に見覚えがあるからさ。
カインが大袈裟に反応し、地面に両手を着く。
「何で地下四階なんだ……」
戻れたは良いが、まさか地下四階に戻ってくるとは……だが、そんな事をしている場合ではない。
とりあえず、反対側にある階段へ歩き始めた。
大体、半分くらい歩いた時だろうか。
その時、突如階段のすぐ手前の地面から、水が溢れ出してきた。
そして、全員の手前に、『ミッション発生』と書かれたものが現れた。それが消えると、頭の中に情報が流れてきた。
内容はこうだ。
・水は出続け、この部屋が水で満たされると、全員のHPが0になる。
・水を止めるには、どこかにあるスイッチを、とある法則に従って押さなければならない。
……て。
「やばい。かなりやばいぞ!」
カインが叫ぶ。
すでに水は、踝ほどまで溜まってきている。水が冷たい。
「確かスイッチが……あ、あったよ!」
アスカが天井を指さす。
見ると、そこには赤青黄の、三色のスイッチがあった。
なるほど。
あのスイッチを押せばいいのか!
……でも、どうやって?
そう考えるうちにも、水は溜まっていく。
To Be Continued.




