国王からの招聘
国内どころか、俺が知っている世界で最も勇敢な者と言うことで、俺は周りから勇者と呼ばれていた。
そんな俺は、魔法の力を手に入れようとして、現在随一の魔術師に師事し、最難関と呼ばれている魔法の召喚魔法を使えるようになった。
そして召喚したには女の子の魔王女だった。
召喚はこちらと向こうの世界で日常的に行われているもので、同質の魔法使い同士が召喚することができる。
だから基本的に、どちらが上でどちらが下という主従関係は存在しない。
一応、言葉としては、召喚した者を召喚者、されたものを従召喚者と呼ぶこともある。
このことは、両方の世界で基礎教育中に教えるということになっている。
俺が魔王を召喚してから半年後、俺が今いる国の国王が、魔王を見たいと言ってきた。
あいかわらずソファに横になって、今はジャンクフードを食べている魔王に、俺は聞いてみた。
「なんか、そんな話がきてるけど、行きたいかい」
「べっつに~。行くだけ面倒だし。ここでゴロゴロする方がいいな~」
「じゃあ、行かないって返事しとくぞ」
「いいよー」
この話を持ってきた、白シャツを甲冑の上から着込んでいる兵士に、一身上の都合で行くことができないと伝えるように言った。
残念そうな顔をして、兵士は帰って行った。
俺は玄関で見送ると、すぐに魔王がいる部屋が戻った。
勇者である俺はいくらでも豪邸を買うことができるが、そんなことしてももったいないので、都市部の一軒家を買うぐらいにとどめた。
2階だて、1階に駐車場、玄関、10畳の部屋1つ。
そして、2階に、25畳に部屋1つ、10畳の部屋2つに風呂とトイレがある。
キッチンは25畳の部屋に併設されて、基本的に魔王がいる部屋は一番大きい部屋だ。
「断った?」
「ああ、残念そうに帰ったよ」
珍しく座りながら、テレビでニュースを見ながら俺につぶやいた。
「まあ、俺も面倒だと思ったし、気に病むことはないさ」
俺は冷蔵庫から、コーヒーの缶を取り出す。
魔王には、アップルジュースを渡す。
「ほら」
「ありがと」
座ったままで、投げた缶を受け取ると、俺は魔王の横の比較的きれいな場所に座った。
「なにか心配そうな顔してるな」
「…まあ、私にもいろいろあってね」
「次期魔王の選定とかか」
魔界の頂点に君臨する魔王は、一身専属ではあるが世襲制ではないうえに、譲位することが慣例となっているそうだ。
生きている間に、最も魔王にふさわしいだろう者に、魔王の位を譲り、元魔王は隠居するということになっているらしい。
「それもあるけど、国王が会いたいっていう話。そっちのほうが私は心配だな」
「どうしてだ。別に攻めてくるわけじゃないぞ。俺だって爵位や勲章をもらう時にあったことがあるけど、そこまで悪い人じゃないさ」
「…ならいいんだけど」
俺は、そういったが、魔王は何か心配は消えない表情を浮かべていた。
そして、翌日、その心配はいやな方向に成就する。
正午過ぎにドンドンとドアが叩かれる音が聞こえたと思うと、大声で、俺の名前を呼ばれた。
「魔王イハルガ・ガバナンス。いるならば姿を見せよ。これは国王の勅命である」
「なにごとだ…」
俺が返事をするよりも前に、魔王がベランダから外に身を乗り出した。
俺はそのすぐわきに立った。
「魔王よ、おぬしを一度見たかった」
白馬にまたがった国王が、衛視を連れて家の周りを取り囲んでいた。
「どうしたんですか」
「勇者よ、おぬしは知らぬだろう。このイハルガ・ガバナンスは、わが孫娘じゃ」
魔王と俺は、目を合わせて、そして言った。
「なんだってー!」
国王と、2人の衛視だけを家に招き、ほかの者は、家の周りの警備をさせる。
その間に、紅茶を入れて、国王へ差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
一息ついたところで、すぐに本題へ入る。
「私が、あなたの孫って、どういうことですか」
「15年前、我が息子が魔界へと召喚された。末子ではあったが、深く嘆いたものだ。だが私自身魔界から召喚を行って成功した身。今の側近中の側近、我が右腕である者が、そのとき召喚した者だ。だからすぐに諦めた。魔界へ行って返してくれるように相談を行うことをしても良かったが、魔術師の会話はかなり悠長だ。だから息子はそのまま魔界へ行ったままだ。だが、先日、使いの者と名乗る者が1枚の写真を見せてくれた。それこそ、君を抱く息子の姿だった。この娘はと私が聞くと、写真で抱いている人の娘だという。そして私は確信した。君が我が孫娘であると」
俺は、その写真を見たことがなかったので、それが本当かどうかがわからなかった。
魔王は冷静な口調で、国王に聞いた。
「…じゃあ、DNAの検査でもする?親子鑑定ならすぐをできるはずだし」
やはり信じることができないようだ。
「ああ、私も本当かどうかを確かめたく、ここに機材を用意しておいた」
国王のそばについていた従者が、3重の梱包を施されたA6ほどの大きさの機器を取り出す。
「唾液でわかると言う最先端の機器だ。綿棒で拭ってもいいだからどちらか好きな方を選んで欲しい」
魔王の前んはコップと綿棒がおかれた。
コップには水が張られていて、ストローが刺さっている。
綿棒の横には、ハサミがおかれていた。
魔王は迷わず綿棒をとった。
それぞれ比較するためのサンプルを、機器の左と右においた。
「これで専用の水をたらせば、どれほどの割合でDNAが同じかを測ってくれる。だいたい2分ほどで終わる」
国王が液晶画面を見ながら言った。
1分半経ったころに、液晶に表示が現れた。
「25%一致です。2親等の血族です」
簡単にいえば、祖父と孫の関係が証明されたということだ。
「おじいちゃん!」
機械やテーブルを一気に飛び越えて、国王に飛びつく。
「そうかそうか、やはり我が孫だったか」
それからというもの、二人とも泣くのをやめなかったので、頃合いを見計らって、タオルを二人に渡した。
それからまるまる1時間使って、積もる話をし続けていた。
国王が帰る時、魔王に言った。
「君ならいつでも歓迎するよ」
「わかった、おじいちゃん」
魔王は笑顔を手を降って見送った。
これまで見たことがないような、清々しい笑顔だった。