俺と彼女は同居中
今回は少し短いような気がしますが、なるべく眼そこには目をつぶってください。
では、本編へどうぞ。
昼休みは俺の常識では和やかなはずなのに今日に限ってその幻想は砕かれてしまった。
「許婚になってください」
このセリフの意味を理解するのに俺は3秒ほどかかった。
しかも真由や舞が冗談半分で行ったのであればまだ流すこともできた、しかし言ってきたのは泣く子も黙る生徒会長・有明美鈴その人だ。勿論クラスの男子、女子を問わず
「「「「「ええぇーーーーー」」」」」
俺はこの顔が眼もあてられないくらいに真っ赤になった上級生に、
「何なんだ?」
という返事を返すのがやっとだった。当の会長様は、
「あの、これ私の電話番号とメルアドだから、それじゃ」
と言って脱兎のごとく逃げ去った。そのあとに俺の身に起きたことは言いたくないが、例をあげると真由と舞に問い詰められて、そのそばでは麗香が逃がさないようになのか俺の背後で仁王立ちのポーズをとっていた。
そんな精神攻撃を俺は昼休み終了まで受けていた。(余談だがいちばんムカついたのは新太郎の「俺の情報収集力は足りなかったのか」と俺を助けるという選択肢を全く窺わせないせりふだった。)
だが今日の波乱はここからだったことを俺はそのあと思い知ることになる。
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放課後、ホームルーム終了の合図とともに全力で俺は魔の巣窟(学校)から逃げだした。後ろからざわめく声や視線をすべて無視することができた俺は素晴らしいと自分でほめられる。だから「待て」とか「逃げるな」などの単語は俺の耳に一斉入っていない。
そして俺は家の前で感動していた。こんなにも我が家を楽しみにした日はほかになかったのだから。
「あ、でも会長平気なのかな?」
と俺はここで柄にもなく人の心配をしてしまった。
「ま、原因作ったのあの人だし、どうでもいいか」
一人で納得して家に入る。そして一直線に道場へ向かった。
「おーっす」
道場の木戸をあけて、中をのぞくと案の定門下生が一心不乱に竹刀をふるっていた。俺に一番最初に気がついたのは門下生ではなく、道場の一番奥で指導をしていた妹の天上時瑠璃だった。
「おかえりなさい、兄さん」
我が妹は率直にいえば俺とは出来が違う。こいつは中学三年で生徒会長をやっている(会長と同じ立場だ)。
それだけでなくとそのほかの部分も会長と似ている。例えば、頭脳明晰、容姿端麗、性格もいいというところだ(「ていうか全部じゃね?」という突っ込みは無視する)。だからたまに瑠璃は本当に俺の妹なのかと思うことがある。そんな妹と俺は、
「よっし、今日も稽古するか」
「珍しいね、兄さんが自分から稽古しようだなんて。学校でさっそく何かあったの?」
(自分から)と(さっそく)という部分が強調されている気もしたがそれはこのさい無視した。
「とにかうはじめようぜ」
「がんばれ、瑠璃さん」
「負けるな、瑠璃さん」
「好きです、瑠璃さん」
なぜだか瑠璃だけ声援(余計な声援は無視して)を受けている気がしたが無理もない我が道場の門下生のほとんどは男子でしかもすべてといっていいほどの人数が瑠璃と姉・天上時渚のファンなのだから。
「大人気だな、瑠璃」
「ありがとう」
ちなみにこのありがとうは俺へではなく(俺へであっても嫌味だが)声援を送る門下生たちへである。
「行きますよ、兄さん」
「おぉ、来い」
ちなみに「鉄拳」のあだ名はだてではなく俺はこの道場では一番強いはず、なのだ。それは確かめようとしたところで、
「明さ~ん、お客さんですよ~」
と、とても陽気な声が聞こえて俺と瑠璃の間に合った緊張感は一瞬で消え去った。
「分かった今すぐ行く」
今の時間は6時ごろ、新太郎や真由なら姉さんが名前で言うだろうしいったい誰だ?
「じゃ悪いが、瑠璃また後で」
そんな事を思いながら瑠璃に断りは入れ小走りで玄関へ向かった。
玄関を開けて俺は激しく動揺した。
「か、会長?なんでこんなところに」
そこには俺の昼休みを嫉妬と怒りの空気に変えた張本人、有明美鈴がいた。
「家でくつろいでいたら、お父さんに呼ばれて「花嫁修業に行け」って言われて・・・」
「いや意味がわからないですし、分かりたくもないんですけど」
「だからここに住んで交流を深めろって言われたんです!」
「あのまずですね俺はあなたの許婚になるなんて言ってませんよ」
「私だって20人いた候補をすべてやめてあなたにしたお父さんの真意が分かりません」
「候補ってなんよ」
「私の許婚です!」
しかしこの争いは瑠璃のおかげで一時休戦になった。
「兄さん、門下生帰ったから片づけ手伝って」
「分かった今行く、会長家の中で待ってください」
と俺は会長に言い残してこの場を切り抜けた。
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しかし片づけ後の居間の雰囲気は俺には耐えがたいものだった。瑠璃は何も言わずに会長を見ているし、姉さんはくすくす笑って何も言わないし、張本人の会長は黙って瑠璃を見返している。それで俺はそわそわしながら正座して日残に目を落としていた。やがて瑠璃がやっと口は開き、
「それで、明兄さんこの方は」
瑠璃が兄さんのまえに明をつけているときは怒りの表れだ!しかしここで屈すれば俺は一生妹に頭の上がらないダメ兄貴になってしまう(大げさな by夢見る卵)なので、
「この人は桃山学園生徒会長有明美鈴先輩だ」
「あら、生徒会長さんなんですか」
「えぇ、まぁ」
この雰囲気でいつものテンションを維持している姉に俺は敬意を表する。大げさなと思ったあなた本当になぜかそんな雰囲気なんですよ!
「ではなんでその生徒会長さんが明兄さんになんのようですか?」
なぜ瑠璃がここまで機嫌を損ねているのかはわからんが最初に見たときからまともな説明をしていないからだということだろう。(ちなみに瑠璃の会長を初めて見たとこの感想は「誰」ではなく「美人」だった)
「実は、私の父有明義三が天上時明さんを私の正式な許婚として認定してしまったので」
「許婚!」
「あらまぁ」
頼む、姉さんもっと驚いてくれ
「それでいっしょに住めと、言われまして」
「あのさっきも言いましたけど会長、俺はあなたの許嫁になんてなった覚えはありませんよ」
「で、でもですね、お父さんがとにかくここで住めと言って一歩も譲らないんですよ」
「私は反対です、ですよねお姉ちゃん」
いいぞ、瑠璃、家族が反対ならさすがにあきらめるだろう。しかし、
「私は別に構いませんよ」
「お姉ちゃん!」
「姉さん!」
「だってこんなにもかわいらしい人と住めるなんて嬉しいですよね明さん?」
「いや、うれしくないこともないけど」
この時の瑠璃の視線はいつになく強かった。
「ですから、一緒に住みましょう美鈴さん」
「あ、はい、ありがとうございます」
「え、ちょっと、お姉ちゃん!」
「では晩御飯にしましょう」
「あ、私手伝います」
「では、よろしくお願いしますね」
瑠璃の意見は採用されずに、会長は超険悪ムードを出す瑠璃から逃げて俺が瑠璃の相手をしなければならなかった。
「そんな目をするなって、瑠璃」
「女ったらし」
この火も一瞬で冷えるような声に俺は何も言えず、「私も手伝うよ」といういつもの妹の声を遠くに聞いていた。
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夕食が終了して、俺が食器を洗っている最中に瑠璃が、
「お風呂沸いたよ」
「美鈴さん入ってきたら?」
「いえ私は居候ですから最後で結構です」
ちなみに会長は今俺の隣で食器を拭いている。
「居候だなんて、天上時美鈴さん」
「姉さん、あまり会長をからかうな!」
「兄さん、顔が赤くなっているのは私の見間違えですか?」
「る、瑠璃何を言っているのだ。俺にはさっぱり分からない」
「とにかく私は最後でいいので」
「じゃ、瑠璃入ってきなさい」
「はーい」
と言って瑠璃はすたすたと風呂場へと向かっていった。
「いいね、こういう家族の会話って」
「えっ」
そういった会長の顔はとても寂しそうだった。
「家はさ、お姉ちゃんは組のやり方にうんざりしたみたいですぐに家を出ていっちゃってあんまり家族の会話ってしたことないんだよね」
「あ、あぁ、そうなんだ」
これが今俺に出来る精一杯の返事だった。たぶん俺はこの会長の顔を忘れないだろう。
しかし、この日は更なるハプニングが俺を待っていた。
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「明さ~ん、瑠璃がお風呂上がったから入ってきて」
ちなみになぜだか姉さんは俺のことを「さん」付けで呼ぶ理由は聞いたことないが、何度やめろと言っても聞く耳を持たないのでもうあきらめている。
「はいはい」
今、会長は部屋の整理をしている。家が世間一般から見れば広いので空き部屋はいくつかあるのだ。そして俺は今日の疲れを文字通りすべて洗い流すべく風呂場へと向かった。俺は風呂場の扉への扉を開けて、硬直してしまった。
「な、何しているんですか、兄さん」
なぜかというと裸の瑠璃が今まさにバスタオルを取ろうとしていたのだった。
「え、あ、いや、その」
完全に思考回路が止まっている俺をしり目に瑠璃は、大声で
「おね」
「お姉ちゃん」と言われる前に俺は瑠璃の口をふさいでいた。俺の力に勝てるわけもなく瑠璃はおとなしくしていた。
「偶々、偶然、見たくて見たわけじゃないからな、いいな」
と俺は小声で瑠璃に弁解する、しかし瑠璃からの返事は意外なもので
「私の裸は見る価値もないということですか?」
そう言われて俺は今の状況を察し、顔がほてるのを感じた。そこでバッドタイミングで
「何しているんですか」
会長がやってきてしまった。俺が発言する前に、
「兄妹の絆を確かめているんです」
真顔で瑠璃がこんなことをいうもんだから、会長は
「そうですか、すいません、お邪魔しました」
「ちょっと会長、そこで納得しないでください」
そこは顔赤くして「ハレンチな」とか言うべきでは?という俺の思考は次の言葉で玉砕された。
「いえ天上時君、私は人の趣味ではなく感性に文句は言いませんよ」
「・・・・」
俺は何も言えなかった。そのあと無理やり会長を留まらせ、瑠璃に服を着るように言い、やってきた姉さんと留まってもらった会長に事情を話して納得してもらえた。会長のコメントは
「女ったらし」
どこからその言葉がでてくるのか俺には不思議だった。
その後、少し考えてみると姉さんは瑠璃が風呂から上がったと言ったということはその様子を見ているはずなのだ(なぜなら姉さんがいたリビングと風呂場は廊下を真ん中に向かい合っているから)。そこで俺は思考を止め姉さんに聞くと、案の定「私が工作しました」のお答をいただいた。
「ふぅ~、疲れた」
俺はすぐにベッドへと横になり眠りに落ちたが、俺は明日の朝もっとひどい目に合う。
いかがでしたか。次もなるべく早く投稿するのでよろしくお願いします。