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屍天使の狂宴

濃い霧の森にそびえたつ古びた教会。


血の跡は扉の中に続いている。


そして,パイプオルガンの音色。


少女を誘うように扉が開かれていく。


そこにはいたのは…。


「お祈りに来たのかな?お嬢さん…」


血塗れた姿でパイプオルガンを演奏する男。


「間もなく終わり無き悪夢が開幕するだろう」


少女は教会の中で歩みを止める。


「さあ時間だよ。リンデ・エスカレーネ」


男はパイプオルガンの演奏を止め,リンデの方へと顔を向けようとする。


そして,夢は途切れる。


ふとアデルは目が覚める。


側には虚ろな目で起き上がっているリンデがいた。


「リンデ?」


リンデはアデルの呼びかけに応えること無く虚空を見つめていた。


(まさか,また…)


アデルはあの血まみれとなり,狂気に満ちたリンデを思い出す。


「逃げて…もうすぐ…あの男が…来る…」


静かで儚げな声でアデルに告げるリンデの姿をした“少女”。


「お前は何なんだ?」


「“私”はリンデ…」


「お前は俺が知っているリンデじゃない!お前はいったい…」


どごおおおおん!


突然鳴り響く爆撃音。


アデルは窓から爆音が響いた方向を見る。


煙が上がっていた。


「リンデ!」


「何!さっきの音は?」


「リンデなのか?」


「えっ?“ボク”はリンデだよ」


リンデは起き上がり,服を着替えようとする。


「なんか悪い予感がする,外出よう,アデル」


「分かった」


アデルはリンデが目の前で着替える姿が見えたが,スルーする。


緊急事態なので気にする余地が無い。


リンデとアデルは煙がたつ方向へと走っていくのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「やはり仕掛けてきたか,念のため,兵を編成して正解だったな」


「ええ,でも…」


ダルトス,イリアとその部隊は目の前の光景に戦慄していた。


「ぐぇえええあああ…」


「ぐふぅぐぃええはあああああぁ!」


呪いのような喘ぎ声を発しているのは先日襲撃し,ギエルによって殺されたはずの天使兵だったからだ。


天使兵の額には心臓のように脈打っている深紅の針が突き刺されていた。


「まさか,これがギエルの狙いだったわけか…」


ダルトスは歯がみし,エーテルソードを手に持った。


「これもあの男の差し金というやつね,全く反吐がでるわね…」


イリアは嫌悪感を露わにし,エーテルウィップを出す。


「うがああああっ!」


「…っ!」


天使兵だったモノは生前とは比較にならないほどの凄まじい速度で突進してくる。


「ちっ!」


イリアは鞭で薙ぎ払おうとするが,天使兵ゾンビは驚異的な早さで回避し,背後に回り,腕を振るってくる。


イリアは天使兵ゾンビの攻撃を回避し,鞭を払って胴薙ぎにしていく。


「こいつ等,強い…」


「ああ,油断してるとやられるぞ…」


天使兵ゾンビは両手を前方に向けてくる。


「何をするつもりだ?」


里の兵士が武器を構える。


ダルトスはふと天使兵ゾンビの手から凄まじい殺気を感じ,回避を呼びかける。


「避けろっ!」


「え」


ずぼっ!


兵士達の胸にいつの間にか,深紅の触手が貫いていた。


天使兵ゾンビの指先から放たれたものだった。


「ぐへっぐへぅああはははははああああ!」


さらに口から閃光を放出し,兵士達を次々と貫いていく。


「くっ!散開しろ!一カ所にとどまるな!」


ダルトスはエーテル弾を放ち,天使兵ゾンビを次々と粉砕していくが,数匹は回避し,全身から触手を放出してくる。


里の戦士達は第二次聖戦開始時から戦場を渡り抜いてきた歴戦の古強者で揃っていた。


しかし…。


「げぃあああいやややや!」


獣のような叫声を上げながら,天使らしからぬグロテスクな攻撃をしてくる天使兵に驚愕していた。


しかも,上級天使には及ばないものの,凄まじい戦闘力を誇っていた。


四肢を切断しようとも内蔵が飛び散ろうともかまわず天使兵は突進してくる。


「ぎゃああああ!」


天使兵が里の兵士ののど笛を噛みちぎり,鮮血の雨を降らせていた。


全身を触手で貫かれ,絶命する兵士。


「総員,炎属性のエーテルを発動しなさい!」


イリアは天使兵をゾンビを始末すると同様に焼却することにした。


「ファイアストーム!放てぇええ!」


家一軒を飲み込むぐらいの業火の竜巻が天使兵ゾンビを包み込む。


「あぎゅえあああああああ!」


狂おしいほどの絶叫を上げていく天使兵ゾンビ。


「悪趣味なことをする。悪魔の方がまだ弁えているものだ」


ダルトスは襲いかかる天使兵の頭部,すなわち深紅の針が突き刺さっている所を破砕しながら舌打ちする。


死してなおも戦場で肉体を腐らせながら戦わされる天使兵に憐憫を感じた。


「せめてもの慈悲だ。肉片一つ残さず,浄化してあげよう」


ダルトスは膨大なエーテルを収束していく。


天使兵ゾンビもまた一斉にホーリーアローの射撃準備をしていた。


「消え去れ!セイントバースト!」


巨大なエーテル弾が放たれる。


「ぐぅおおおおおおああああああああ!」


雪崩のようにホーリーアローが降り注いでくる。


凄まじい爆音が戦場を席巻する。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「こっちだ!リンデ!」


「わかってるよ!アデル!」


リンデとアデルは煙がたつ方向に向かっていた。


どごおおおおおん!


「ぎぇええええああああああ!」


狂おしい咆吼と爆音が二重奏となって里に響く。


「また天使の襲撃なのか?」


「アデル!天使兵だ!」


リンデの呼びかける方向に視線を向けるアデル。


涎を垂らし,虚ろな目で近づいてくる天使兵。


額には深紅の針が突き刺さっていた。


「此奴等,ゾンビなのか?」


「だったら,火属性のエーテルで浄化しよう!」


リンデはエーテルを集中させ,剣に純白の炎を宿す。


「はああああ!」


リンデは裂帛の気合いと共に炎を纏った剣を振りかぶり,天使兵を両断していく。


「てぇやあああああ!」


さらにすぐさま背後から来る天使兵を胴凪ぎにしていく。


リンデは天使兵を屠りながらも自分の動きに驚嘆していた。


(ボクって,こんなに早く動けたっけ?)


斬りつけられた天使兵は燃えさかり,あっという間に灰になっていく。


アデルもまたリンデの身のこなしには驚いていたが,気を取り直し剣に炎を纏わせる。


アデルは知っていた。


血塗れた姿で自分の翼を求めていたリンデを。


そして,彼女が〈翼喰らい〉で天使兵の翼を喰らったことを…。


翼を喰らったことで戦闘力が上昇したのだろう。


(今は目の前の驚異を取り除くことが先決だな…)


アデルは圧倒的な速度で天使兵を斬っていく。


アデルの剣術はダルトスのお墨付きである。


彼に敵う者は里の中ではそういない。


「やっぱり強いね,アデルは。けど,ボクも負けない!」


リンデは懸命にアデルの強さに追いつこうと天使兵を斬っていく。


リンデには戦への恐怖は無かった。


敵を殺すことにも躊躇いが無いのだ。


初陣のはずなのに…。


アデルは初めてリンデに少し恐怖を感じた。


そのとき油断が生じたのか,天使兵の触手がアデルの肩を掠ってしまった。


「ちっ!油断したか…」


(通常の天使兵よりも遙かに手強い,早くお父さんに合流しないと…)


「げぇああああ!」


天使兵等は体中から生えている触手の先端からエーテル弾を大量に撃ち出してくる。


「アデルっ!」


今まで冷静に天使兵を斬り捨てていたリンデに初めて焦りを感じさせる声で呼ばれる。


「心配するな」


エーテル弾の嵐をかいくぐりながらもリンデに笑顔を向けて天使兵を凪いでいく。


「お前は先に父さんの所に行け!」


「でも…」


リンデはアデルの方へと駆けつけようとするが,それを阻むように天使兵が群がってくる。


「くそっ!どけよ!」


リンデは天使兵を斬り捨てようと剣を振るが,受け止められてしまう。


「えっ」


天使兵はリンデの動きを見切ったかのように剣を受け止め反撃しようとしてくる。


アデルの方に注意を向けていたためか,天使兵の力を侮ったためか,リンデは呆然と天使兵の刃が近づいてくるのをただ見ていた。


「リンデぇええ!」


ざしゅっ!


リンデの顔に血がこびり付いていた。


この血は…。


リンデに寄りかかるように倒れているアデル。


その背中からは血が流れていた。


「アデルぅぅぅぅぅぅぅっっ!」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「はははははははっ!これこそ地獄絵図というやつですかねえ」


ギエルは上空から炎上しているミッドガルドを見て高らかに笑う。


「さてと,そろそろだ」


屍天使はダルトス等の目を欺けるための囮にしか過ぎない。


本当の目的は天使兵に運び込ませ,ミッドガルドの地中に埋めた“棺”だった。


「さあ,暴虐なる天使よ,目覚めよ!そして,殺し尽くせ!破滅の始まりだ!」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「グゥゥ…」


ミッドガルドの地中に埋められた棺が動き出し,天使の髪で編まれた縄が千切れていく。


「グゥオオアアアアア………」


暴虐なる天使は身体機能が正常に起動することを認識する。


『サア,目覚メルノダ,〈タルス〉ヨ…』


創造主の声に導かれ凶天使が目覚める。


「グオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


凶天使の咆吼がミッドガルド全土に響き渡るのだった。

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