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リンデとアデル②

リンデは悠然とアデルに近づいてくる。


アデルは後ずさった。


「何を言ってるんだ?」


アデルは無意識のうちにエーテルソードを出していた。


今のリンデは普通ではない。


「オ前ノ翼ヲ…ウッ……ググッ!」


リンデは突然,頭を抱え,苦しみ出す。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





『やらせない!』


かき消されたはずの女の子の声がリンデの脳裏に響く。


『貴様…マダ…消エナイノカ…』


邪悪な声が対抗するかのように響く。


『リンデは貴方の人形なんかじゃないわ!』


『クックックッ,人形サ,私ノ大望ヲ叶エルタメノ大イナル器ヨ…』


『どうして,そこまで貴方は…』


『今ハマダコノ器ノ好キニサセテヤロウ,内側ヨリモ外側カラコノ人形ニ絶望ヲ与エテヤルサ,近イウチニナ,クククッ……』


『どこまでも悲しい人,もし,私がこんなんでなかったら私が貴方を…』


『…………』


邪悪な声はもう響かなかった。


『必ず止めてみせるわ,ーーーーー…』


『さあ,目覚めてリンデ…』





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「リンデ!目を覚ませ!」


アデルは苦しむリンデを抱き寄せた。


リンデの体から力が抜ける。


同時に凍えるほどの邪悪なエーテルが消えていく。


「あっ…アデル…」


リンデはいつもの青色の瞳でアデルを見つめ,微笑む。


「助けて…くれて…ありが…とう…」


リンデはそう言って,眠りにつくのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







ダルトスは天使兵を薙ぎ払いながらも視線を感じ,天使を両断しつつ,顔を向ける。


視線の先には漆黒のフードを纏った者がいた。


「さすがは〈隊長〉が見込んだだけはありますね。大した強さだ」


「何者だ?」


フードの者は慇懃無礼にお辞儀する。


「これは申し遅れました。私は〈隊長〉の部下の一人,〈ギエル〉と申す者です。ダルトス様…」


フードを脱ぎ,素顔を晒しだしてきた。


フードと同じ漆黒の髪を靡かせ,瞳は血よりも紅い緋色だった。


緋色の瞳はダルトスの姿が映っていた。


ダルトスは久しく感じてなかった感情を思い出した。


それは恐怖。


(彼奴と相対して以来だな…)


「ギエルとやら,お前がこの天使部隊を引き入れた張本人に相違無いか?」


「だとしたら,如何致しますか?」


「こうするさ!」


ダルトスは直径10メートルもの光球を生み出し,ギエルに向かって投げつける。


必殺のセイントバーストだった。


「せっかちな方だ…」


ギエルは蠅でも払うかのようにして手を振るい,10メートルもの光球を弾いていく。


弾かれた光球は天使兵等に激突し,悲鳴と共に霧散していく。


「貴様,味方の天使に…」


ギエルはダルトスの義憤に意に介しないかのように笑う。


「そうでした,特別サービスに貴方様が愛する故郷に群がる害虫を駆除して差し上げましょう」


ギエルの周囲に剣ほどの大きさの深紅の針が大量に出現する。


「天使部隊の皆,任務は無事に果たすごとができた。ゆっくりと眠るがいい…」


深紅の針は一斉に放出され,里に潜入した全ての天使兵の額を貫き,絶命させていく。


ダルトスは唖然とする。


一瞬にして里を蹂躙していた天使兵が皆殺しになったのだ。


(なんて奴だ。これほどの力を持つ者がただの部下の一人だというのか…)


ギエルの周囲に濃く紅い霧が出てくる。


「待て!お前達の果たした任務はいったい!」


「近いうちに隊長と共にそちらにお邪魔しますよ。では,ご機嫌ようダルトス様」


ギエルは霧と共に姿を消すのだった。


こうしてミッドガルド襲撃の件は幕を閉じた。


襲撃者の首謀者の手によって…。







----------------------------------------------------------------------------------







濃い霧の森。


私はひたすら血の跡を辿っている。


なぜ,と聞かれても分からない。


ただ,一つ言えることは。


この先に私の〈運命〉が待ちかまえている。


私を解き放つ〈翼〉が待ち受けている。


荘厳に響くパイプオルガン。


全てを覆い隠す白い霧。


ふと私を導くかのように霧が晴れていく。


そこには古びた教会がそびえていた。


血の跡は教会の扉に続いている。


(あれ,私は,ボクはこの場所を……知っている)


「なんだ…ろう,何だか悲しい夢…」


リンデは目が覚める。


目には涙が零れていた。


いつの間にかベットに横たわっていた。


「リンデ!目が覚めたのか!」


ベットの横の椅子に腰掛けていたアデルが声をかけてくる。


リンデはアデルを呆然と見る。


しばらくして目が潤み始めてくる。


「どうした,どこか痛いところがあるのか?」


アデルが心配そうにリンデの顔をのぞき込む。


「アデルぅぅぅぅ!!」


「うぉおおお!!」


リンデはベットからタックルするかのようにアデルの胸に飛び込み,アデルは突然のことに身構えることができず,椅子ごとひっくり返るのだった。


「ありがとう!助けてくれて,ほんっとうに怖かったんだからね!」


「いたたっ,そ,そうだな,間に合って良かったよ…」


胸で泣きじゃくるリンデの髪を撫で,無事を祝いながらもアデルの思考は別にあった。


(あの時のことを覚えていないのか?)


血にまみれ,獲物を見るかのような目で自分を見つめていた深紅の瞳。


だが,今のリンデは澄み切った蒼い瞳。


瓦礫で見つかった真っ二つになり,片腕と翼がもぎ取られていた無惨な天使の死体。


あの天使を惨殺したのは間違えなくリンデ。


だが,リンデは覚えていない。


(それどころか俺が助けたと思っている。まるで都合の良いように記憶を改竄したかのように…)


“あの”リンデはリンデではない。


凶悪な何者かの意志によるものだろう。


だったら何の目的で?


アデルはリンデを見つめる。


「アデルぅ,アデルぅ…」


自分に心を開き慕っている無邪気な少女。


(やめよう,今はただリンデの無事を喜ぶんだ…)


「いい加減に泣き止め,安心しろ,お前は必ず俺が守る!」


「アデル…」


涙に濡れた瞳でアデルを見つめるリンデ。


「お前は俺の掛け替えのない……妹分だ!」


リンデを力強く抱きしめる。


いつになく感情を露わにするアデルにリンデは心臓の鼓動が強くなるのを感じる。


(アデルが私をこんなにも力強く抱きしめてくれるなんて初めて…)


リンデはアデルの広い背中に両手を回した。


(別に妹分でもいい。アデルが私の,ボクの側にいてくれるのなら…)


「ありがとう,アデル。愛してるよ…」


(けど,いつか妹分じゃなくて,女として…私を,ボクを…)


「ずっと側にいてね…」


(だから,私は,ボクはアデルの隣に並べるように強くならないといけない)


「言っただろ,お前が一人前になるまでずっと側にいるさ…」


(例え,リンデが邪悪な存在だろうと俺は必ず守ってみせる)


二人はしばらくの間,そのまま抱き合うのだった…。

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