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空が紅く染まる刻

戦闘シーンは難しいですけど,大好きです。拙い文章ですが,それでも良かったらご覧になってください。

濃い霧の森。


少女は霧の森を歩いていた。


「はあ…はあ…はあ…」


肩まで掛かった銀髪に雪のように白い肌,白いワンピースで着飾った少女は今にも霧のように儚く消えて


しまいそうな雰囲気だった。


唇は蒼白となり,額に汗を流した状態から何らかの病にかかっている様子だった。


それでも歩みを止めることなく少女は歩き続ける。


辿っているのは白の霧が立ちこめる中,禍々しくも深紅に染めていた血の跡。


彼女の命はもう長くはない。


それでも黄昏に染まった道を歩んでいく。


「私は…」

(ボクは…)


紅い道を辿れば辿るほどの血の臭いが濃くなってくる。


そして,荘厳なるパイプオルガンの音色が聞こえてくる。


「なぜ…」

(どうして…)


霧が濃くなってくる。


「歩いているの…」

(歩いてるんだろう…)




『ぉぃ』




『おきろ』




「おきろ!リンデ!」


「っあ…」


リンデは起き上がる。


横を向くとアデルが呆れた顔をしていた。


「やっと起きたか…。随分うなされた感じだったけど,なんか悪い夢でも見たんか?」


「ボクだけどボクでない女の子が白い霧の森を歩く夢だった…」


まだ,意識がはっきりしないのかリンデは独り言を言うように虚ろである。


「血で塗れた道を辿ってたんだ。パイプオルガンの音が響いてて,女の子は病気になっていて…」


アデルは呆れた顔から真剣な表情になる。


リンデが話しているのはただの夢の内容,そのはずだが…。


アデルは何か開けてはいけないパンドラの箱を暴こうとしているように思えた。


「夢の話はもういい。それより朝食だ。早くベットから出て支度しろよ」


そう言ってアデルは部屋から出ていく。


リンデはまだ虚ろなままだった。


(自分だけど自分でない女,霧の森,血痕の道,何か胸騒ぎがする…)


アデルはリンデの夢の内容が何となく嫌な感じがしていた。


「アデル君,おはよう。何難しい顔してるのよ」


イリアはほんわかと笑い,アデルに抱きついてくる。


(何となくだけど,お母さんにリンデの夢の内容を言ってみようかな)


「お母さん!」


突然のアデルの真剣な口調にイリアはびくっとし,頬を染めるようにして悶える。


「なにアデル君!ひょっとして告白するのかなあ。ダメよ,私にはダルトスがいるから。けど…ときどきなら…」


「何訳の分からないことを言ってるんですか!それにときどき…って何するつもりだと思ってるんですか」


「あら,その話じゃないの?」


「違います!」


アデルはイリアによって乱されたペースを持ち直し,改めて夢の話をしようとする。


「別に大したことじゃないんですけど,何となく気になりまして…。リンデが妙な夢を見たらしいんですよ」


「妙な夢って,妙だからこそ夢なんでしょ?」


「まあ,聞いてください。自分だけど自分ではない女が霧の森で血に染まった道を歩いている内容なんでですよ。さらに女は病気にかかってると何とか…。あとパイプオルガンが聞こえたと言ってましたね」


アデルがリンデの夢の話をしていくうちにイリアのいつものようなのほほんとした表情は消えていた。


「その夢の内容,本当にリンデはそう言ってたのね?」


イリアの表情は戦場で裁きの女神と呼ばれたような鋭い威圧感があった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





天使兵サイド。





「もうすぐミッドガルドに着く頃だな。それなのに天使なのに劣種のように地べたを這いずり回らんといけんとはねえ…」


「それももう終わりだな。一刻も早くこの物騒な棺を置いていこうぜ」


天使兵は先に進もうとする。


「これ以上進むな」


だんまりだったフードの男が突如声を発していた。


「どうしたんですか?もうミッドガルド直前ですぜ」


天使兵は今更怖じ気づいたのかといわんばかりに言ってくる。


「愚か者め,直前だからこそだからだ。見るがいい」


フードの男は足下に落ちている小石を拾い,天使兵が進もうとした先に向かって投げた。


小石は丁度天使兵が進もうとした先の空間で一瞬にして灰となって散っていった。


「なんですかい!これは!」


「戦略級の超広範囲結界(イージスの盾)だ。貴様がもしこのまま進んでいたら,灰となって散った小石と同じ運命を辿ったわけだな…」


「ひぇー,おっかねえ。けど,これじゃあ先の進めませんぜ」


「フッ,案ずるな。この程度のことは想定内だ。さて,始めるとするか…」


フードの男は先に進み出す。


「おい,あんた!灰になって…」


フードの男は手を前にかざす。


「我が血肉より全てを黄昏に染めん…」


ミッドガルド全域を覆っていた結界が黄昏に染まっていく。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「おい,空が紅く染まってきてるぞ!」


「いったい何なんだ!あれは!」


アデルとイリアは外が騒がしくなっていることに気づき,家から外に出ていく。


「夢の話は後にしましょう!みんな落ち着いて!何が…」


イリアは空は見上げた途端,言葉を失う。


それはアデルも同様だった。


深紅に染まった空。


「イリア!アデル!無事なのか!」


ダルトスが駆けつけてくる。


「私達は大丈夫よ!それよりもあの紅い空はいったい…」


「私にも分からん!だが,どうやらイージスの盾は破られたようだな…」


常に冷静であったダルトスが舌打ちせんばかりに苛立った声を出していた。


「イージスの盾って,あの戦略級の結界が破れたんですか!?」


アデルは愕然としていた。


戦略級超広範囲結界〈イージスの盾〉は天使軍が第一次聖戦時に人類軍に対して優位にする要因の一つだったからだ。


上級天使でなければ使用できない超高密度エーテル。


人類軍の大量殺戮兵器ですらも微塵も寄せ付けないほどの強固な結界であり一つの伝説でさえあったのだ。


それが斯くも呆気なく破られてしまった。


深紅の空に亀裂が走る。


「総員撃ち方用意!」


里で戦える異種,天使,人間がダルトスの号令の元,一糸乱れない動きで〈エンジェリウム〉で加工されたサブマシンガンを一斉に構える。


空間の亀裂が弾け,一斉に天使兵が群がってくる。


「ファイヤー!!」


一斉に火を吹くサブマシンガン。


狩りで落とされる鳥のように打ち落とされていく天使兵。


しかし,天使兵も応戦してくる。


「ホーリーアローを放てぇぇっ!!」


天使兵の手元にエーテルにより圧縮されて形作った弓矢が次々と出現していき,矢を放ってくる。


深紅に染まった空から純白の矢の雨がミッドガルド全域に降り注がれていく。


爆撃音が至るところから響き,平和だったミッドガルドが瞬く間に血みどろの戦場となっていく。


「裁きを受けろ!劣種共め!」


爆撃と共に一斉に降下してくる天使兵。


「神のイヌなんかに負けてたまるか!俺達を嘗めるな!」


エンジェリウムで加工された装具で天使兵に立ち向かっていく里の戦士達。


「私達の手でこの里を守り抜くんだ!いくぞ!」


ダルトスはエーテルにより剣を生み出し,天使兵を次々と斬り捨てていく。


「死ねぇぇ!裏切り者め!」


天使兵の一人が両手にエーテルソードを持って,ダルトスに斬りかかってくる。


カキンッ!


ダルトスは同じくエーテルソードを生み出し,天使兵の剣を受け止めた。


「中級天使如きに討たれるほど私は安くはないつもりだがね」


受け止めた剣ごとに天使兵を薙ぎ払い,エーテルソードをもう一つ生み出し,二刀流の構えをとった。


「私達の故郷に害をなす者共に裁きの刃を…」


ダルトスの周囲に群がる天使兵が次々と血飛沫と共に崩れていく。


「くっ!ダルトス様相手に接近戦で挑むな!遠距離攻撃で仕留めろ!」


「甘いな。接近戦だけと思うのか?」


距離を置いてホーリーアローを放とうとしている天使兵部隊に向けて,ダルトスは剣を軽く振るう。


その瞬間,剣圧が刃となって天使兵を切り刻んでいった。


「我が名は元人類擁護派上級天使筆頭にして,三聖者が一人,ダルトス・エスカレーネである!我を討ちたのであれば,その身を粉にしてかかってくるがいい!セイントバースト!」


ダルトスは持っていたエーテルソードを直径10メートルほどの光球に変え,天使兵が密集する場所に向かって投げつける。


凄まじい爆音と共に天使兵達の肉片が飛び散っていく様子が他の天使兵には恐怖を里の戦士には希望を与えた。


「我に続けぇぇ!」


「ダルトス様に続くんだみんな!トリ野郎共をぶったおしてやるんだ!」


ダルトスの鬼神の如きの戦いに里の戦士達は士気を上げ,銃火器が火を吹かせて天使兵を次々と落としていった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「みんな落ち着いて!戦場で我を失ったら死を招くわ!」


イリアは襲撃してきた天使兵に対し,異種部隊を指揮して応戦していく。


「お願いアデル君,リンデを守ってあげて!」


「イリアさんは…」


言いかけようとしたアデルの唇にイリアは人差し指を押し当てる。


「お母さんと呼びなさいと言ったでしょ。大丈夫,私は腐っても三聖者の一人と呼ばれた者よ。こんな雑魚天使になんか負けるイリアさんじゃないわ」


「……分かりました。リンデは俺が何としても守ります。それと…」


「ん?」


「別に母さんは腐っていませんよ。今でも俺が尊敬する綺麗な女神様です」


イリアは唖然としてアデルを見る。


そして,肩を震わせて笑い出した。


「私を一瞬とはいえ,石化にするなんて……,でも,ありがとう…」


イリアはアデルの額に口づけする。


「さあ,行きなさい!ここは私達で何として守り抜くのよ!」


アデルはリンデの下へと駆け抜けていき,イリアは襲撃してくる天使兵を見据えた。


手にはいつの間にかエーテルで出来た鞭を持ち,威嚇するように地面を薙ぎ払う。


「さてと…,私達の故郷を土足で踏みにじった愚かで哀れな天使共,覚悟はいい?とびっきりな恐怖を送ってあげるわ…」


イリアは鞭を振るい,襲いかかってくる天使兵の膝から下を吹き飛ばしていく。


足を切断された天使兵は足を流しながらもイリアを見る。


イリアはそんな天使兵を虫けらのように見下し,周囲に次々とエーテルによって生み出された光輝く狼が


現れる。


「生きたまま私の可愛いホーリーウルフに喰い散らかされるといいわ…」


天使兵は恐怖に青ざめる。


ホーリーウルフ達は足を切られて動けない天使兵にゆっくりと近づいてくる。


「何あわててるんだ!足が無くても我等には翼があるはず…ぎゃあああ!」


背中から鮮血が吹き出し,倒れていく天使兵。


背後には腕から剣を伸ばし,血塗れた異種達がいた。


「姐さん,何面白いことやってんですか。俺達も混ぜてくださいよ」


獰猛な笑みを浮かべて躙り寄る異種達。


襲撃してきた天使兵は戦慄する。


異種は手を足を刃に変え,天使兵を切り刻んでいく。


頸動脈を切り裂き,血を噴き出させ,頭部や腹部にエーテル波を叩き込み,脳や内臓が飛び散るように惨殺する光景はまさに悪夢だった。


これが人類軍最恐と呼ばれる裁きの女神と呼ばれるイリア・エスカレーネが率いる部隊なのか…。


彼らは武力もさることながら,徹底して残虐に殺していくことで敵兵の士気を挫くことを得意としている。


ダルトスが率いる部隊へと襲撃すれば良かったと天使兵は後悔するのだった。


「貴様達,今,ダルトスの部隊を襲えば良かったと思っただろう。ますます許し難いな。思う存分に恐怖に震えるといい!」


いつもののほほんとした口調から女猛将に相応しい苛烈な口調となり,天使兵を容赦なく殺戮していく人類軍最恐の裁きの女神。


愚かで哀れな天使兵達の絶叫が響き渡るのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





爆音が響き,リンデは虚ろな表情から生気を取り戻し,状況を確認する。


「天使が襲撃してきてるの?」


ダルトスから聞いた話だとイージスの盾を里全域に展開しているから,上級天使等が一兵卒として襲撃し

てこない限り安全だろう,と言っていた。


上級天使は絶大な力を有しているが,少数のため,ほとんどが後方指揮してるらしい。


例外は〈双翼〉の一人であり,天使軍最強の猛将〈ウルキヌス〉と〈双翼〉に次ぐ実力者で三聖者最恐のイリアに宿敵と称される女将軍〈リディエル〉であった。


二人の上級天使は果敢に前線で猛威を振るい,幾度も三聖者と激突したことがあり,その壮絶な死闘は戦

場の語りぐさになるほどであった。


「お父さんが言っていたその上級天使が仕掛けてきたのかな?それよりも早くみんなに合流…」


がしゃーん!


自宅の家財が破壊される音が響く。


『おーい,誰かいないのかな?神々しくも怖い天使様がやってきたぜ~』


獲物を痛ぶろうと嗜虐的な声を出してくる天使兵。


リンデは恐怖に震える。


毎日アデルに剣の稽古をつけてもらってるとはいえ,実践経験は皆無,戦場に出たことがない。


自分に出来ることは逃げ延びて助けを求めること。


リンデは天使兵に気づかれないように気配を殺して自宅から出ようとする。


『くっくっくっ…。生命反応がするぞ。上手く気配を消したつもりになるとは笑えるねえ。これは…異種か。男だったらミンチになるまで嬲り殺すが,女だった飽きるまで犯し尽くしてやろうかなー』


天使兵の足音がゆっくりだが,確実に近づきつつあった。


怖い…。


怖い!


怖い!


けど…。


震える体を押さえて,必死に自宅から出ようとするリンデ。


天使兵は獲物に恐怖を与えるため,わざとゆっくりとした足取りで追い詰めていく。


『俺の名は〈ダレス〉,一応元中級天使小隊隊長だ。まあ,やんちゃが過ぎて犯罪者になっちまったがねー』


リンデは必死に息を殺して,出口まで這いずっていく中でダレスはあざ笑うかのように獲物にはなしかけ


ながら近づこうとしていく。


(こんなところで死んでたまるか!ボクはまだ…)


『戦場は泥臭くて嫌いだね。けど,楽しいこともある。それは略奪さ』


(お父さん!お母さん!………アデル!)


『火事場で金をむしり取り,女をコマにする。最高だ…』


(後少しで!後少しで出口…)


そのとき,自分のすぐ後ろで足音が聞こえてきた。


「みーつけたー。これはこれは可愛い子猫ちゃんだね~」


リンデは恐怖に青ざめる。


「いい顔だ。つくづく思うぜ。俺は天使なんかよりも悪魔に産まれてきたほうが良かったとな…」


ダレスは舌なめずりしがらリンデに近づこうとしていく。


(もうここまでなの。何も出来ずにこの天使にいいようにされて…)


(甘えるなと言ったけど,努力した末で出来ないことに関しては別腹だ)


ふとアデルの言葉が脳裏に浮かぶ。


(そうだ,まだボクは自分に出来ることを,努力することをしてない!)


リンデは手にエーテルを凝縮させ剣を形作った。


「ほう,子猫ちゃんが俺と戦おうっていうのかね」


「子猫ちゃんじゃない!ボクは……ボクは三聖者の一人,ダルトス・エスカレーネの娘,リンデ・エスカレーネだ!」


リンデはエーテルソードをダレスに向ける。


ダレスは肩を震わせる。


そして,発狂したかのように笑い出す。


「ひゃひゃひゃははははぁあ!そうか!貴様があの糞忌まわしい三聖者様の小娘だっていうのかよ!」


ダレスはふと笑みを消し,剣を構える。


「これほどの上玉,俺はつくづく運がいいぜ!クライアントに差し出す前にたっぷり味見させてもらおうか!」


凄まじい速度でダレスが剣撃を繰り出してくる。


(アデルのに比べたら遅い,これなら…)


リンデはダレスの剣を受け止める。


しかし…。


(お,重い!これが戦場での剣なのか?)


リンデは膝を折って,剣を何とか受け止める。


そんなリンデをあざ笑うかのようにダレスは剣をそのまま押しつけてくる。


「ほう,俺の剣を受け止めるとはね。少しは剣のお稽古してたのか。が,戦場を知らない剣だな。その程度で刃向かおうなんて片腹痛いぜ!」


ダレスはそのまま剣を振り払い,リンデを弾き飛ばしていく。


「がっ!」


リンデは壁に激突し,呼吸困難に陥る。


(やっぱり,ボクなんかじゃ…)


『あきらめないで…』


リンデの脳裏に白いワンピースを着た儚げな少女が浮かぶ。


それは夢で見た血の道を辿っていた少女。


(ボクだけどボクでない女の子…)


雰囲気は違えど顔立ちはリンデと同じ。


『私はあなた,けど,あなたはあなた…』


(何を言ってるの?)


『生き延びて!彼奴を,〈あの人〉を止めるまで…』


そのとき,リンデの意識は真っ白となる。




リンデはゆっくりと立ち上がる。


「なんだ,まだやるってのか。だったら腕一本はもらっ…」


どさっ。


ダレスの足下に何かが落ちる音がする。


ダレスは足下を見る。


それは何か見たことがあるモノだった。


「俺の……うで?」


ぶしゃああぁ!


ダレスの肩の付け根から鮮血が吹き出る。


「あぎゃああああぁぁぁああ!」


ダレスは絶叫を上げ,のたうち回った。


そんなダレスをリンデは冷然と見つめる。


手には血塗れたエーテルソードが禍々しくも輝いてる。


「俺の…俺の腕をよくも!よくもぉおおおおお!」


ダレスの咆吼と共にエーテルソードが巨大化していく。


「クライアントの任務なんざあどうでもいいっ!バラバラにしてやる!」


ダレスが巨大剣を横薙ぎした瞬間,ダルトスの邸宅は爆発する。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




駆けつけているアデルにふと爆発音が聞こえてる。


その爆発音が響いた方角は…。


「爆発音,ダルトスさんの家の方角だ!くそっ!」


アデルは必死に駆けつけていった。


リンデは大切な妹分,けどそれ以上に…。


いや,今はリンデを助けることだけを考えよう。


「無事でいてくれ!リンデ!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「かっさばいてやるぞぉおおお!」


ダレスは巨大剣を振り上げ,上空に飛んだリンデを追いかけていく。


「エンジェルダスト…」


リンデは厳かに呟き,剣を振るった瞬間,エーテルを超圧縮して形作った弾丸が数百,周囲に出現し,ダレスに向かって一斉放射する。


ダレスはとっさにバリアを展開するが,高密度に圧縮した弾丸はバリアを貫き,容赦無く撃ちつけていく。


「このアマ!なめるなぁあ!」


ダレスは弾丸により血まみれになりながらも強引に巨大剣を振り,弾丸をまとめはじいていく。


「うるぁああああ!」


ダレスは巨大剣をリンデに叩きつけていく。


超重量の剣を支えきれなくなったのか,リンデの体は上空から地面へと叩き落とされる。


さらなる爆発音が響く。


「どこだぁああ!どこにいったぁああ!」


リンデの放った弾丸により,全身の肉が裂け,片腕を無くし,血まみれになったダレスは怒りのままに周囲にエーテル弾を撒き散らしていった。


彼は中級天使といえど限りなく上級天使に近い戦闘力を誇り,中級天使の中では最強クラスだった。


それに慢心し,律法を犯し,今に至っていた。


しかし,年場のいかない小娘に手酷い傷を負わされ,屈辱に怒り狂っていたのだ。


もはや彼の心はリンデを嬲り殺すことが全てとなっていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





(ここは…)


リンデは目を覚ます。


(ボクはいったい…)


(そうだ,確か天使に追い詰められて,女の子の声が……)


思い出せない。


自分がなぜ,こんな状況になっているのかが…。


周囲は炎に包まれていた。


体中が痛い。


(もう死ぬのかな…)


お父さん。


お母さん。


アデル。


(最後にアデルから一本取りたかったな…)


(そしたら,アデルに……)


『生キタイカ?』


(誰?)


突如,脳裏に声が響く。


女の子の声じゃない。


『生キタイカ?』


(生きたい)


『ナラバ翼ヲ喰ラエ…』


(翼を?)


『ソウダ,天使ノ翼ヲ貪レ…』


(天使の翼…)


『貪欲ニ際限無ク喰ライ尽クスノダ!』


『駄目!彼の声に耳を…』


女の子の声が割り込もうとするがかき消される。


「ボクは…」


リンデは立ち上がる。


目が深紅に輝いていた。


「翼ヲ喰ラウ…」


強大で禍々しいエーテルの力が吹き荒れる。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







ダレスは感じていた。


禍々しい凶悪なエーテルの力を。


「なんなんだ!この寒気がする力の波動は!」


エーテルの反応が自分に近づいてくる方向を確認する。


「そこかぁぁあ!」


巨大剣を振るい,波動を感じる方向にエーテル波を放つ。


どごぉぉおおおん!


砂煙が舞う中,ダレスに近づいてくる影が見えてくる。


ダレスが放ったエーテル波に異に返さないかのように。


「この,化け物がぁああ!」


ダレスは何度もエーテル波を放つ。


しかし,影の歩みは止まらなかった。


「こうなったら直接叩き斬ってくれるわぁああ!」


ダレスは巨大剣を振りかぶって近づいてる影に向かっていき,斬りかかっていく。


だが,影にもう少しで剣が当たりそうになったとき,何かに捕まれたかのようにして剣が止められる。


「な,何だと…」


ダレスは驚愕する。


自分の剣がリンデのか細い手によって受け止められていたからだ。


リンデの血よりも赤い瞳がダレスを捉える。


「翼ヲ…喰ラウ」


「ひぃぃぃぃぃ!!」


これは自分の手に負える次元の化け物ではない。


そう思い,ダレスは背を向けて逃げようとする。


だが,それは致命的なミスだった。


ぶちぶちぶちっ!


「ぎゃああああああああ!」


リンデは瞬時にダレスの背後に行き,翼を引きちぎったのだ。


ダレスの背中から鮮血が吹き荒れる。


ダレスは振り向き,リンデを見る。


リンデの手から血管が浮かび,千切り取った翼が吸血されたかのようにしぼんでいき,リンデの手に吸収されていく。


(俺は…誰と…戦って…たんだ…)


最初見たときは初めての戦場に震える弱い女だった。


だが,今目の前にいるのはなんだ?


〈翼喰らい(ウイングブレイカー)〉


異種で最も凶悪で天使軍が危険認定していた存在。


天使の翼をエーテル力に変換し,際限無く力を高めていくモンスター。


第二次聖戦中期に三聖者,いや【四聖者】の一人として天使軍に恐れられたあの…。


リンデはいつの間にダレスの目の前におり,血塗れたエーテルソードを振り上げていた。


「死ネ…」


ずばっ!


ダレスの意識はリンデの刃により両断されていった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






アデルはダルトスの邸宅,いやダルトスの邸宅だった場所に辿り着く。


周辺は瓦礫の山となっており,所々が炎上していた。


リンデは無事なのか?


ひょっとしたらもう…。


「いったい何が起こったんだ!リンデ!リンデぇぇぇ」


アデルの声が深紅に染まった空に響くも誰も応えない。


徐々にアデルの心が絶望に染まっていく。


「ちくしょう!守るって誓ったはずのに…」


地面に蹲り,アデルは涙を流す。


そのときだった。


途轍もなく邪悪なエーテルを感じたのだ。


極寒の氷河の如くの冷たい殺気。


アデルは顔を上げて見る。


全身が血に塗れ,血塗られた剣を携え,深紅の瞳を持つ少女。


「リンデ…なのか?」


アデルはただただ呆然とする。


そんなアデルにリンデは冷たく微笑む。







「オ前ノ翼ヲ喰ワセロ…」



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