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翼舞い散る戦場

戦場は弾丸とエーテル波が飛び舞っていた。


血と肉と汗と涙が混じり合うオブジェ。


そんな光景をリンデはただ静かに見据えていた。


彼女にとって,それは夜空に打ち上げられる花火を見るような有り触れた光景。


ここがリンデ・エスカレーネ,天使の翼を狩る者の居場所なのだから。


前方には数百万もの天使兵が集結していた。


対するはリンデとアデルが率いる〈翼断つ者〉数十万。


〈翼断つ者〉はリンデとアデルが結成した天使軍へのレジスタンス。


リンデが天使を狩る活躍に惹かれ,集結して出来た組織だった。


「どうやら,天使軍は本気で俺達を討伐しに来たようだな…」


淡々とした口調で唱える青年の名はアデル・エスカレーネ。


リンデの片腕として,影から支える存在。


「望む所よ。これでまた,一歩あいつに近づくことができる…」


アデルの静かな声にリンデは獰猛な笑みで答える。


戦えば,戦うほど強くなれるリンデにとって危険な戦場ほど格好の修行場は無かった。


そんなリンデにアデルはため息をつく。


「その台詞をこの戦場を生き延びてからにしろ。今回は上級天使が指揮官だ…」


アデルの言葉にリンデの笑みが消えていく。


上級天使。


天使軍の最高戦力であり,人間でいう一人軍隊(ワンマンアーミー)の存在である。


稀少故に後方で指揮を執っていることが多いが例外もまたあるのだ。


「理解したか?今回は翼を狩ることではなく,生き延びることを第一に考えろ…」


「上等よ。上級天使の翼を喰らえば,私は今までよりも格段に強くなる」


リンデにとって強い天使ほど好物は無かった。


翼を喰らうのに,翼の持ち主である天使が強ければ強いほど喰らったときに得られる力が高まってくる。


「私はやる。ここで倒れるなら所詮ここまでのことよ!」


リンデは群がってくる天使兵に向かって突っ込んでいく。


「ちっ,世話が焼ける。仕方ない。お前等,マシンガンにバズーカ,ありったけの重火器を所持しろ!出陣するぞ!」


「「うおおおおおっ!」」


アデルは前方を見る。


そこには群がっている天使兵等に赤い花びらを散らしているリンデがいる。


彼女はともかく猪突猛進で,自分勝手で自己中心的である。


だが,そんなリンデをアデルは見捨てることは決してなかった。


「あいつは俺の妹分だ。だから,必ず守ってみせる」


アデルはリンデの死んだ両親には本当の息子のように愛してもらっていた。


そして,アデルにリンデの未来を託して逝ってしまった。


両親の思いに報いるためにもアデルはリンデのために戦っていく。


「撃ち方用意!」


兵士達が一糸乱れぬ動きで銃口を天使兵に向けていく。


「ファイヤー!」


弾幕の嵐が天使兵を包み込む。


「撃って撃って撃ちまくれっ!」


戦場に血の霧が立ちこめていく。


対抗して天使兵は屍を盾にして,ホーリーアローを無差別に放ってくる。


「ぐはっ!」


「ぎゃあ!」


「慌てるな!エンジェリウムの盾を持てっ!ホーリーアローぐらいなら防げる!全軍盾を持って突撃するぞ!」


「制圧せよ!」


翼断つ者と天使兵が戦場で入り乱れていく。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







リンデは何も考えずにひたすら剣を振るっていた。


それだけで,彼女の周りに血の霧が吹いていた。


「雑魚共には用はない!疾く死ね!」


ぶしゃあああっ!


鮮血が彼女の体を彩っていく。


(私は私の目的のために天使を狩っている。天使を狩っている。お父さんと同じ天使を…)


リンデは上級天使であるダルトスの娘だった。


ひょっとして,自分が斬っている天使兵の中にダルトスに従って戦ってきた者がいるかもしれない。


(天使にとっては私が黄昏の翼になるだろうね…)


ずしゃっ!


天使兵が紙人形のように脆くリンデの剣で両断されていく。


(だけど,私はもう止まらない。私は決めたから…)


剣を横薙ぎにして,天使兵数体を纏めて斬り捨てていく。


(あの黄昏の翼を必ず倒すと…)


リンデは群がる天使兵から距離を取ってエーテルを集中させる。


(お父さん,お母さん,私に戦う力を!)


「劣種共に裁きの刃を!」


「天に召すがいい!」


天使兵がエーテル波を一斉にリンデに向かって放ってくる。


リンデの掌から直径10mほどの光球が出現してくる。


「全てを消し飛ばす!セイントバースト!」


リンデは光球を投げつける。


光球は天使兵の放ったエーテル波を吸収し,さらに巨大化していく。


戦場に凄まじい爆風が舞い上がっていく。


「はあああああっ!」


爆発で混乱している天使兵を瞬く間もなく斬り捨てていくリンデ。


(これが私が辿る道…)


天使兵の首が宙に舞っていく。


ふとリンデは上空にエーテル反応を感じる。


上空は無数の魔法陣に埋め尽くされていく。


「天の雷を受けよっ!セレスティアル・レイ!」


魔法陣から全てを焼き尽くす閃光が上空から次々と放たれていく。


どごおおおおおおん!


閃光の衝撃に戦場の大地は何度も揺らいでいく。


「くっ!味方ごと私を始末する気か?」


リンデは閃光の雨をかいくぐっていくが,前方の天使兵が逃げ場を塞いでくる。


「邪魔だ!どけぇええ!」


リンデは何度も剣を振るって天使兵を薙ぎ払うが砂糖菓子に群がる蟻のように集ってくる。


(このままだと,やられてしまう!)


上空には閃光が雨のように降り注いでいる。


リンデは天使兵に阻まれていて身動きが取れない。


閃光が直撃するのも時間の問題だった。


「相変わらず世話が焼けるな…」


リンデの周囲にシールドが展開されていた。


「アデル…」


「さあ,生き残るぞ…。お前の戦いはまだこれからなんだからな…」


アデルは群がってくる天使兵を斬り払っていく。


「言われなくても分かってるよ…」


リンデはアデルの背中に立ち,天使兵を薙ぎ払っていく。


「けど,助けてくれて…ありがとう…」


リンデはアデルにそう言って,逃げるように天使兵に大群に突っ込んでいく。


「どういたしまして…」


アデルはリンデを追うようにして戦場を駆け抜けていく。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








翼断つ者と天使軍の戦いは凄惨極まるものだった。


天を両断するようなエーテル波,エンジェリウムで加工された兵器の火力。


戦場の大地は血と肉で埋め尽くされていく。


「爆撃機を出撃させろ!出し惜しみするな!トリ共を叩き落とせ!」


制空権を確保して戦況を有利に進めてこようとする天使兵を牽制する形で戦闘飛行機を出撃させる翼断つ者。


「空を汚す羽虫共め!天の雷によって購わせてやる!」


爆撃機をエーテル波で打ち落とそうとする天使兵。


「甘いぜ!これにはシールドも搭載されてるんだぜ!」


爆撃機はシールドを展開してエーテル波を弾いていく。


「的がいっぱいだから,狙い撃つ必要もねえな!」


「誰が一番多くトリを撃ち落とすか競争だぜ!」


「では,私が勝たせてもらいますよ!」


天使兵は狩人に狙われた鳥のように次々と撃ち落とされていく。


「こしゃくな!これでも喰らえ!」


空に魔法陣が無数に展開されていく。


「やばいな!おい!散開しろ!」


魔法陣が一斉に輝きだしてくる。


「滅せよ!ホーリー・カノン!」


魔法陣から光弾が撃ち出されていく。


光弾は吹雪のように視界を埋め尽くし,爆撃機を蹂躙しようとしてくる。


「ぐああああっ!」


回避しきれない爆撃機が次々に墜落させられる。


「ここは私がやるわ!」


光弾の吹雪の前に一人の女性が立ちはだかった。


「大将!」


「リンデ姐さん!」


リンデはエーテル力で上空を飛んでいったのだ。


リンデはゆっくりと剣を鞘に収め,エーテル力を集中していく。


光弾の吹雪がリンデを呑み込もうとしてくる。


「リンデ!」


アデルはリンデが光弾の吹雪に呑まれようとしたところを見て,駆けつけようとする。


「はああああああっ!」


リンデは裂帛の気合いと共に剣を横に凪いでいく。


光弾の吹雪はリンデの剣圧によって,真横に両断され,後方の魔法陣を根こそぎ破壊していった。


そんなリンデの離れ業を見て,アデルは苦笑する。


「馬鹿力だけは一人前だな…」


アデルはリンデの横に並んでいく。


「このまま一気に畳みかけるぞ,リンデ!」


「そのつもりよ,アデル!」


リンデとアデルは上空を埋め尽くしている天使兵を蹂躙していく。


翼断つ者の軍勢は二人の後を追うようにして雪崩れ込む。


翼断つ者のナンバー1とナンバー2。


二人が揃えば,まさに無敵だ。


翼断つ者の誰もが二人の武勇を見て,戦いの勝利を疑わなかった。


そう思っていた矢先だった。


『なるほど,貴方達が我等天使を脅かしている異物なのか…』


リンデとアデルは動きを止める。


空全体を包み込むような膨大なプレッシャーを感じたのだ。


大気が震え,大地が揺れていた。


「いよいよね,アデル…」


「ああ,来るぞ,リンデ…」


空間が歪み,魔法陣が展開された。


そして,魔法陣の中心に一体の天使が現れる。


「お初にお目にかかる。我が名は〈シディエル〉。異物を排除する断罪者だ…」


天使軍最高戦力である上級天使が戦場に降臨したのだった。

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