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Criminal Snow  作者: しんとうさとる
第一章
2/23

第1-1~1-2章




-1-










ジリジリと太陽が照りつける。どこまでも青く青く晴れ渡った空が続き、遮る物が無いのをこれ幸いに、と光がさんさんと降り注ぐ。

それを受けて地面の草木も伸び伸びと成長しそうではあるが、残念ながら雨季は短く背の低い雑草がまばらに散らばっているだけ。遠くを見れば熱にあてられて陽炎が揺らめいている。

三百六十度見渡すと数えられるだけの低木があるが、それらの多くは半ばから折れたり焼け落ちて真っ黒な肌を空に向かって晒している。更には地面の草でさえも所々で黒く焦げていた。


その中を一人の少女が駆け抜けていた。

肩の後ろ辺りまで伸びた金髪をポニーテールにまとめているがそれが風になびき、蒼い双眸はひたすらに正面だけを見据えていた。

大きくクリクリとした愛らしい目に整った鼻筋。そこに小さめの口が乗っていて可愛らしい。汗ばんだ額に前髪が張り付いていて、行き交う人が見れば活発な女の子、と微笑ましく感じるかもしれない。


「おおおおおおおぉぉぉっ!?」


雄叫びを上げながら全力疾走していなければ。

小柄な体を精一杯動かし、背筋と指先を限界までピンっと伸ばして眼からは涙。鼻からは鼻水。はっきり言って可愛さなど何処にも無い。

当の本人もそれは自覚しているが、そんな外面を気に掛けている余裕は皆無。

この地を過ごすにしては丈夫そうな生地で作られたズボンと、同じく頑丈なブーツに守られた脚を本来の役割通りに、乾いた土煙を盛大に上げながら走り抜けていく。


彼女は逃げていた。逃げて逃げて逃げて、しかし背後からは確かに何かが追いかけて来ている。そしてそれが何であるか、彼女には心当たりがあった。


この辺りは危険だとは事前に聞いていた。大型のモンスターが周期的に徘徊し、不用意に足を踏み入れれば命を落とすことも珍しくない、と前の町の人が言っていた。

それでも今は、その周期からは外れており、この時期にはそういったモンスターを見たことは無く、だからこそ町の人も少女がここを通るのを無理に引き止めはしなかった。


だというのに。


「どぉうして~っ!?」


少女が叫ぶが、広い平原にこだますることもなく声は消えていく。

代わりにすぐ後ろからはハッハッハッ、と荒い呼吸音が聞こえてくる。

当然少女の耳にもその声は届き、そっと後ろの様子を探ってみようかと思っていたがすぐ断念。その間、0.5秒。一切の迷いも無し。涙と鼻汁でグシャグシャになった顔をひきつらせながらも走る。


走りながら彼女はその顔を左右へと振る。

右。何も無い。荒れた土地が広がっているだけ。

左。同じく何も無し。遠くの倒木の山が今にも崩れそうに頭を揺らしてるだけ。

結論。絶望的。助けになる物無し。ついでに言えば助けてくれる人も無し。

状況確認から瞬時に弾き出されたお先真っ暗な結論に崩れ落ちそうになるが、すんでの所で踏み止まった。


どうしてどうしてどうして。

一度緩んだ足を再び全力疾走へと変えながら彼女は思う。何故、こんな事になったのか。

自分はただ、手を差し伸べただけだというのに―――!どうして!

彼女の心中が叫びとなって荒野に響いた。


「ぬぁんでこんな事になるのよ~!?」


情けなく涙を流して曇った眼が災いしたか、彼女は足元に転がる小さな木に気付かなかった。気が付いた時には彼女の体は宙に浮いていて、そのまま顔から飛び込んで盛大に転がっていく。


「ふべらっ!!」


ゴロゴロゴロ、と前転を繰り返し、最後に海老反りしてようやく止まる。打って赤くなった鼻を押さえてうずくまり、今度は横にゴロゴロ転げ回った。


「つぁ~!」


奇声を上げながら痛みを堪えていたが、不意に背中に掛けられた、グルルル、という声に動きをピタリと止める。

影がゆっくりと迫り、熱い吐息を背中越しに感じる。

背筋が伸びる。冷や汗が流れ落ちて焼けた地面で音を立てた。

震えながら彼女は恐る恐る振り向く。そして、その瞬間に影は彼女へと飛び掛かっていった。


「きゃあああああああああああっ!!」








「クゥ~ン……」


ペロペロと一匹の犬が顔を舐めていた。顔より少し大きいくらいの。


「……へっ?」


間の抜けた声を上げた彼女の顔に犬は自分の顔をこすりつけ、再びペロペロと音を立てた。

しばらく呆然として腹の上でじゃれついてくる犬――正確にはサンドウルフの子供だが――を眺めていたが、状況を正確に把握すると、少女は脱力して大きなため息をついた。


「驚かせないでよ……」

「何やってるんだ?」


突然掛けられた声に少女はうひゃあ!と叫びながら飛び上がった。その時に犬を思いっきり抱きしめてしまって変な声が漏れていたが。


「び、びっくりしました……」


バクバクと激しく鳴る胸を抑えて声を掛けてきた女性を見た。

髪は茶色で、耳が隠れる程度に短く切られている。やや浅黒い肌は快活な雰囲気を醸し出しており、前髪の隙間から覗くやや大きめの眼は少しだけ吊り上っていて、顔に浮かべている笑みと相まって何処か猫の様な印象を少女は受けた。

ジーンズ生地のパンツを履き、シンプルな装いのシャツを着込んでいて、肩からはベージュ色のマントがはためいている。

女性は不思議そうな表情を浮かべてもう一度少女に問いかけた。


「こんな所で一人で何やってたんだ?

ずいぶんと汚れてるみたいだけど、転んだのか?」

「え、ええ、まあ……」


言えない。子供のサンドウルフに追いかけられてたなんて。

アハハ、と笑って誤魔化すが、女性はニヤリ、と口端を釣り上げた。


「そのサンドウルフを大人と勘違いして逃げまわってた、とか?」

「分かってるんなら聞かないで下さい!!」


直後、大爆笑。ツボに入ったのか、腹を抱えて、それこそちょっと前の少女がやっていたように転げ回りそうな勢いで、町の方まで届くんじゃないか、とばかりに笑い声を上げる。


「だ、だいたい、見てたんなら教えてくれたっていいじゃないですか?」

「あ、あれをと、止めろだって?バカ言う、なよ。あんな面白いモンを、止める、なんてもったいない真似、できる、わけない、だろ」


どんだけ恥ずかしい醜態を自分は晒してたんだ。

未だに腹を抑えて笑い続ける女性の姿にそんな疑問が浮かんだが、少女は自分の精神衛生のために疑問を遥か彼方に放り捨てた。そして代わりに別の質問を女性にぶつける。顔は真っ赤だったが。


「それで!そのアナタはここで何をしてたんですか!?」

「あ~、笑った……

で、アタシ?アタシは仕事だよ」

「仕事、ですか?」

「そ、仕事」


そう言って女性は遠くの何も無い草原を見つめる。いや、何も無くは無い。陽炎が立ち昇る景色の遥か向こう。うっすらと小さな影が少女の眼にも入ってきた。

その影はかなりの速度でその大きさを増していく。そして未だそれなりの距離があるはずなのに、耳をつんざくような甲高い声が聞こえた。

ビリビリと空気が震える。

子供のサンドウルフが少女にしがみつく。

同種であってもサンドウルフには関係が無い。純粋に強者が弱者を食し、それは同じサンドウルフでも、そして人間であっても差は無かった。

獲物を見つけたサンドウルフは、低い唸り声と攻撃の意思を示す高周波音を交互に発しながら近づく速度を更に上げる。


「ちょっと下がってろ」


少女に向かってそう言い放つと、女性もまたサンドウルフに向かって走りだした。

マントの中から一振りのナイフを取り出して左手に、右手にはエネルギーパックの付いた大ぶりの拳銃。走る速度を速めながら銃をサンドウルフに向かって発砲した。

ビームの弾が砲身から放たれ、サンドウルフは斜めに飛び跳ねてそれを避ける。だがビームが後ろ足をかすめ、痛みから一際大きな咆哮を上げた。

それでも動きは止まらない。果たして、女性とサンドウルフが正面で対峙し、サンドウルフが跳ねる。

女性はやや大柄だが、対してサンドウルフの全高は二メートル。空を跳ぶ、倍近くもある高さから巨大な体が女性目掛けて落ちてくる。

丸太の様に太い脚が地面を抉る。土砂の類が辺りに舞い散り、女性は体を捻って容易くその攻撃をかわした。

すれ違いざまに左手のナイフが分厚い毛に覆われた体皮を切り裂く。真っ赤な血が噴き出し、悲鳴の叫びが草原に響く。

尚も攻撃を続けようとサンドウルフは踏み止まり、通り過ぎた女性の方を振り向く。

が、その瞬間、再度ビームがサンドウルフの脚を貫いた。

サンドウルフの体が崩れ落ちる。大きなあごが地面に向かって落ちていく。そしてその先には通り過ぎたはずの女性の体があった。喉にナイフが突き刺さる。ナイフを伝って血が垂れ落ちていき、ついにはその巨大な体が地面に伏せ落ちた。


「ふう……」


大きく息を肺から吐き出し、女性は額の汗を拭う仕草をした。だが実際には汗一つ掻いておらず、慣れた手つきでナイフに付いた血を拭き取り始めた。

一瞬で終わった激しい攻防。呆気に取られ、少女はただそれら一連の流れをボーっと眺めるだけだったが、女性のため息と同時に我に返ってサンドウルフに近づいていった。


「あ、あのぉ……」

「ん?ああ、ケガは無かったか?」

「え?ええ、おかげさまで……

じゃなくて、お仕事ってこれの事ですか?」


流れだした血が乾いた地面に急速に取り込まれていく。

動かなくなったサンドウルフの顔に手をやり、少女は開いたままだった眼を閉ざしてやりながら女性に尋ねた。


「まあな。

あんまりコイツらは町の方までは近づかないんだけどな、最近になってどうも町を襲い始めたらしい。それでギルトの方に依頼が出されてアタシが引き受けたってワケ」

「ギルツェントの方だったんですか」

「ああ、違う違う。アタシはただ金稼ぎのために依頼を受けただけ。

町のギルトは小さくてな、戦闘要員が常駐してるわけじゃないから何かあったら他の町に依頼するか、アタシみたいな奴が依頼を受けるかのどっちかなんだ」


女性の説明にフーン、と相槌を打ちながら少女はサンドウルフの頭を撫でる。足元では子供のそれが恐る恐る前足で突っついている。


「さて、アタシは用は済んだし、もう行くとするよ。

お前はどうするんだ?もし、町に行くなら乗せていくけど」


体を翻し、離れた所にあるバイクを親指で指しながら女性が尋ねた。

バイクにはサイドカーが取り付けられていて、今はそこには女性の荷物が雑に詰め込まれていた。

少女は右手の人差指を軽くあごに当てて考える仕草をするが、大丈夫です、と提案を断る。


「だいぶ町まで距離があるけど、大丈夫なのか?歩きだけだと半日以上は余裕で掛かるぞ?」

「大丈夫です、体力には自信がありますから!」


そりゃそーだろ、と内心で突っ込む。じゃなきゃこんな所を徒歩で通過する奴はいないだろうし、子供とはいえサンドウルフと同じ速さで走れるわけがない。

まあいいか、と女性は少女に向かって軽く手を上げてバイクへと向かう。

少女はニコニコと笑って、小さくなる女性にブンブンと音が聞こえてきそうなくらい大きく手を振り返した。

元気な奴、と口元を緩めながら歩くが、ふと気になって女性は少女の方を振り返る。

少女はサンドウルフのそばにしゃがみ込んで、地面に手を当てていた。

それを見て少女が何をしようとしているのか悟り、嘆息するとバイクを走らせていった。



少女は自身の手を地面に突き立てる。服が汚れるのも構わず地面を掘り返し、穴を空けていく。

幸いにしてここいらの土は比較的柔らかく、素手で掘り返すのは難しくなかった。だが少女が望むほどの大きさの穴を掘るのには、まだ相当な時間が掛かる。

サンドウルフの死体を囲むようにして少しずつ地面を削り取っていく。太陽が頭上でギラギラと輝き、汗は絶え間なく少女の額から滴り落ちていって、わずかな水分をあっという間に地面が吸い込む。


「はぁ……」


一向に進まない作業に少女の口からため息が漏れた。それでも手は休めず穴を掘り続ける。

女性と別れて、つまりは穴を掘り始めて三十分近くが経過していたが、全体の進度はどれくらいだろうか。今まで掘り返した分を振り返ってみて、そして絶望的なまでの進捗状況にまたため息が出る。


「う~ん……今日中に終わるかなぁ……」

「終わんねーだろ、どう考えても」

「うっひょい!?」


奇声を上げて飛び退く少女を他所に、女性はドシンと音を立てて足元に何かを捨て置いた。


「これは?」

「何ってか?木に決まってんだろ。

てか、お前バカだろ?素手で掘ってコイツが入るほどデカイ穴なんて掘れると思ってんのか?どんだけ時間掛けるつもりなんだよ」

「一日中掛けるつもりです」

「干からびて死んでしまえ」


罵倒に少女は頬を膨らませて抗議の意を示すが、女性は気にする風も無く太めの丸太を地面に突き立て始めた。


「これ使えばちっとは早いだろ。

ほら、お前も使え」

「あ、ありがとうございます」


少女も丸太を手に取り、ガリガリと地面を少しずつ削っていく。人数が増えたこともあって掘る速度は格段に違う。

そうしてしばらく黙々と二人は掘っていたが、不意に女性が口を開いた。


「なあ、なんでこれを埋めようと思ったんだ?」

「え、だって、このままじゃ可哀想じゃないですか」

「そりゃそうだろうけど、こういうモンスターにとっちゃ野晒しのままが普通だぞ?人でさえ野垂れ死にも珍しくは無いしな」

「でもモンスターでも人でも、命である事は変わりませんし……

こういう事できる人が近くにいるなら弔ってあげたいですし、私はそうありたいと思ってますから」


そうか、とだけ女性は返事をして、少女に気づかれないようそっとため息をついた。

今時珍しい、と女性は思う。動物だけでなく人の命でさえ軽くなっているこの世の中で、こんな考えを持てるのはそうそういない。

感覚としては飼っているペットを埋めてあげるのに近いのだろうが、討伐対象になっているモンスターまでその感覚を適用できるのは凄いというか、バカというか。


(まあ、それでも……)


必死に作業を続ける少女の顔を見て思う。愛らしい顔立ちで、汗を流しながら真剣に手を動かしている。偽善だろうが、底値無しのお人好しだろうが、別に良い。


――可愛いから問題無し!


自身の趣味に照らし合わせて女性はそう結論付けた。


「ところで、お前の名前は?

アタシはハル。ハル・ナカトニッヒだ」

「ナカトニッヒさんですか」

「ハルでいいよ。ついでに『さん』もいらない」

「ハル、ですね。

私はアンジェ・ユース・エストラーナっていいます。アンジェって呼んでください」


そう言って少女――アンジェは手を差し出した。

彼女の手は土でだいぶ汚れていたが、構わずハルはその手を握りしめた。


「よろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」


ハルの大きな手を握りながら、アンジェはハルに向かってニッコリと笑いかけた。

瞬間、ハルの顔が赤く染まった。


(こ、これは……)


ハルの顔が赤いのに気づき、アンジェは不思議そうに首をかしげて、頭一つ大きいハルを見上げる。その仕草が、表情がハルにダメージを加える!

唐突に握手が解かれ、ハルの両手がアンジェの肩にがしぃっ、と置かれた。


「ちょっとお姉ちゃんと一緒に行こうか」

「へ?」










-2-










「ちょっと待っててくれな。手続きを済ませてくるから」


そう言いながらハルはギルトのカウンターの方へ向かっていった。アンジェもその後ろを付いて行く。

石造りの建物の中は、広さはあるもののあまり人はいない。カウンターの奥では何人か職員が働いていたがどこか暇そうに仕事をこなしていた。

眼を反対側へと向ければ、掲示板らしきところには張り紙がいくつもしてあり、数人がそれを眺めている。ギルトに持ち込まれた依頼や、その他の情報が紙媒体で周知されているらしいが、中には黄ばんだ紙もあって役割を果たしているのかも疑わしい。


「依頼を完了したんで手続きを頼む。依頼NO.は017693だ」


用件を伝え、身分証明を兼ねている会員証をカウンターの上にハルは置く。別段何の変哲も無い通常の手続だったが、その奥では受け付けた女性が慌てた様子で後ろで働く職員に声を掛けていた。

その言葉はアンジェには理解できなく、首をひねりながら見上げると、ハルが「またか……」とため息混じりに呟いていた。

女性は会員証を手に取って何かを確認すると、手をハルに向けて突き出す。

どうやら待て、の意味のようでハルは気だるそうにうなずいてみせた。


「どうしたんですか?」

「あー……田舎役所の本領発揮ってトコだな」


要領を得ないハルの返事にアンジェはますます首を傾げた。

受付の女性はカウンター備え付けの端末に向き合うとそれを操作し、そして引き出しからケーブルを取り出してコンピュータと自身の襟元にそれを差し込んだ。


「データ転送?」

「田舎なモンだからコイツら共通語をインストールしてねえんだよ。

アウトロバーの国だしな、こんな田舎に行くとメンシェロウトも滅多に来ないし、この国の言葉しか使わないからだいたいは事は足りるんだろうけど……」

「共通語なのに、ですか?」

「言語データは容量が結構でかいからな。ロバーの性能次第だけど、ほとんど使わないデータは無駄になるし、お前だって必要ない事は覚えようとは思わないだろ?」

「それもそうですね」

「ここに来るのも四度目で、なのにいつもこうして待たされてんだよ。いい加減どうにかして欲しかったんだがなぁ……」

「お待たせしました」


時間潰しに話をしていたが、インストール作業の終わった女性が共通語で声を掛けた。

ハルは組んでいた腕を解いてもう一度カウンターに向き直り、改めて用件を伝える。


「NO.017693……サンドウルフの討伐で間違いありませんか?」

「ああ、それで合ってる」

「依頼完了の証明になるものはお持ちでしょうか?」

「これで大丈夫だよな?」


ハルはポケットから指の長さほどの小型のコンピューターを取り出して女性に渡す。受け取った女性は先ほどと同じ様にそれを首に差し込んで中身を確認する。


「何が入ってるんですか?」

「さっきの戦闘の映像データだよ。カメラも内蔵されてるし浮遊機能も付いてるからな。上から撮ってたんだ」

「確かに、依頼の完了を確認しました。

それでは報奨金の支払いを致しますので受け取りのサインをお願いします。受け取りは現金でよろしかったですか?」

「ああ、ついでに通貨はジルとセントの半々で頼む」


かしこまりました、と告げて女性は席を立つ。

ハルはカウンターに肘を突いて何処ともなしに視線をぶらつかせていたが、腕時計を見るとアンジェの名前を呼び外を指差した。


「ちょっと遅くなったけど昼飯にしよう。隣に食堂があるから先に行って席を取っててくれ。何なら先に注文しててもいいぞ?」


隣で暇そうにしているアンジェを見てハルは言った。数時間前には二人して穴掘りをしていたためにハルは空腹を感じていたし、アンジェも同じだろうと思ってそう伝えたのだが、アンジェは眼を逸らし、人差し指を突き合わせてクルクル回しながら恥ずかしそうにしていた。


「どうした?」

「いえ、その……恥ずかしながらお金が……」


そういう事か、とハルは合点し、嘆息しながら視線をさ迷わせるアンジェの頭をグリグリと強く撫でる。


「アタシのおごりだから気にすんな。好きなモンを好きなだけ注文しても大丈夫だ」


何気なく言ったセリフだったが、それを聞いた途端にアンジェはガバッと振り向いてハルに迫る。


「本当ですか!?」

「ああ、金も手に入ったし、ここの食堂は安い割に旨いからな。ガンガン注文してていいぞ」

「本当ですね!? 後で『嘘でした~』とか無しですよ!?」

「誰もそんな事言わねーよ」

「注文させるだけさせといて『お前にはやらん』とかも無しですよ!?」

「ああ、それはそれで面白そうだな」

「~~っ!」


ニヤリと口元を歪めてアンジェをからかう。が、アンジェは今度は泣きそうな顔をしてハルの顔を見つめた。


「冗談だよ。本気の本気で好きなモン頼んでいいし食っても文句は言わねーから」


苦笑いしながら告げるとアンジェの顔がパアッと明るくなった。ハルの手を握り、何度も上下に振って感謝の言葉を述べる。ハルが呆気に取られるそばで一しきりそうする事で満足したのか、外に向かって走りだし、あっという間にアンジェの姿が小さくなる。


「そんな慌てるとコケるぞ! ……てもう聞こえねーか」


嵐の様に去っていったアンジェを見送りながらハルは軽く息を吐き出した。

ギルトを出たところでアンジェが盛大に転ぶのを見届け、そしてちょうどカウンターに置かれた報酬の額を数え始めた。







「うん、うまいな」


フォークに突き刺した料理を口へ運び、ハルは感想を述べる。そしてすぐにまた皿の上の料理に向かってナイフとフォークを伸ばす。料理は胃へと運ばれ、また一つの皿が空になる。空いた手は今度は別の皿へと手が伸ばされ、皿の中身がまた消化されていった。

ギルトの入り口を出てすぐ右に折れた所にあるそれはちょうど角にあって、町一番の通りに面していた。昼もだいぶ過ぎていたが、まだ店内には多くの客が食事を摂っていた。オープンテラスになっていて、陽光がテントに遮られているおかげで程良く暖かい。


「ほむほ、とっへもおいひぃへふぅ」


相槌を打つアンジェもまた絶え間なく料理へと手を伸ばしていた。僅かな空白すら惜しいとばかりに次から次へと口の中へ詰め込んでいく。左の皿が空けば右の皿へ。手元には常にスープを準備していて、いざという時の為の準備も怠りない。

直径一.五メートル程の、本来ならば四人がけのテーブル席には少し前まで次から次へと料理が運ばれてきていた。肉に魚に野菜に、とありとあらゆる種類の料理が注文されている。あっという間にテーブルを埋め尽くし、持って来ていたウェイトレスも呆れ顔でそれらを眺めていたが、これだけでは終わらなかった。

二人がナイフとフォークを持った瞬間、皿の上の料理が消える。何処か優雅さを残した仕草で食べるハルに、まさに暴食と評するのが適切な勢いで平らげるアンジェ。呆然としていたウェイトレスが気がついた時には、すでにテーブルの半分が空の皿になっていた。


「スイマセン、これのお代わりお願いします。あ、あと他に……」

「あ、ついでにこれももう一つ、いや二つ頼む」


それでもなお注文する二人。ウェイトレスは慌てて厨房へ走り、戦いの始まりを叫ぶ。

店内の客たちは、そんな二人をはやし立てて面白そうに眺めていたが、やがて自分の口元と胃を押さえて何処かへと消えていっていた。


「いや、食った食った」


うず高く積み重ねられた食器の影でハルが食後のコーヒーを飲みながら、満足そうに笑みを浮かべた。

正面のアンジェはまだ口をモグモグと動かしていて、最後のスープを皿ごと持って口の中の物を流しこんでいく。


「コラ、行儀が悪いぞ。

ああ、ほら、口の横からスープが垂れてる」


指摘されてアンジェは皿を置いてナプキンで口元を拭う。そして今度はきちんとスプーンを使ってスープを飲み始めた。

そんなアンジェを見ながらハルは思う。まるで自分が保護者みたいだ、と。

スープから顔を上げたアンジェとハルの眼が合う。ニッとハルが笑いかけるとアンジェも笑い返す。

途端にハルは自分の頬が熱を持つのを感じた。

アンジェが自分に笑うと、どこか幸せに感じる自分がいる。

どうしてだか、分からない。自分が――意外とは自分でも思うが――小さくて可愛い女の子が好きなのは自覚している。男に全く、とは言わないが興味は薄い。可愛い子が好きとは言っても男と比べて好き、というレベルで、アンジェに抱く程の愛しさは感じたことは無かった。

そこまで考えてハルは気づいた。自分が幸せ、という言葉を用いたことを。

言葉は知っている。どんな感情であるかも多少は。だがこれまでの人生で何度、その感情を抱いただろうか。

アンジェが視線をハルから逸らす。それと同時に幸せも消える。そしてまたいつもと同じ感覚に戻る。

まだ出会って数時間。まだ何もアンジェの事を知らない。というのに、どうしてここまでの感情を抱かせるのだろうか。

不思議なヤツだ。気づかずまたハルは微笑んでいた。


「またずいぶんと食べたわねぇ」


背後から掛けられた声にアンジェは後ろを振り返る。ハルはイスの背もたれに体を預けたまま大義そうに手を上げて応えた。


「ニーナ……どうしてアタシがギルトに行く時に限って非番なんだよ? 共通語をインストールしてるのはお前くらいなんだから、いない時はせめて誰かにインストールさせとけよ」

「そりゃもっともなご意見だけど、残念ながら私にそんな権限ないのよ。

だいたいこの町で共通語使うのってアンタくらいじゃない。アンタのために常にデータを残しておくのなんてメモリの無駄よ」

「その無駄なことしてんのはどこのどいつだよ」

「私は趣味で入れてんだからいいのよ」

「あのぉー……」


慣れた感じで言葉を交し合う二人に、気後れしつつもアンジェが割り込む。

その声に会話を中断し、ハルがニーナと呼んだ女性を紹介する。


「コイツはニーナっつってな、そこのギルトの職員をしてるんだ。

唯一共通語をインストールしてるからいっつもいればいいのに、アタシが行く時に限っていない使えないヤツだ」

「自分の間の悪さを棚に上げてのその紹介はあんまりじゃない?」

「ならもうちょっとロバー以外に優しい環境を作るんだな」

「ロバー以外でウチに来るのなんてアンタくらいじゃない。一人のために環境を変えるなんてそれこそ無駄の極みね」


やれやれ、とニーナは肩をすくめてわざとらしくため息をついてみせる。そしてテーブルの上にある食い散らかされた皿の山を見て、感嘆混じりのため息をもう一度ついた。


「そしてこの食事量……アタシからしてみればトコトンアンタの体は無駄だらけだとつくづく思うわ」

「残念ながらアタシが食ったのは半分だけだ。残りはコイツの胃の中」

「はあっ!?

……まったく、ノイマンっていうのはよくそんなに食べられるわね」

「え? ハルってノイマンだったんですか?」

「そうだよ……て、言ってなかったか?」


コクコクと無言で首を縦に振るアンジェ。そうだったか、と頭をポリポリと掻きながらハルは答える。


「てか、この飯の量見りゃ分かるだろ」

「こんなに食べるのはノイマンの中でもアンタだけじゃなかったのね……」

「ご飯の量とノイマンにどういう関係があるんですか?」

「関係って……ノイマンはメンシェロウトと比べてエネルギーの消費が大きいからな。光を浴びるだけで補給ができるロバーとは違って大量に飯が要るんだよ。お前、自分がノイマンのくせに知らないのか?」

「知らなかったです。というか、私ノイマンじゃないですし」

「はあっ?」


今度はハルが素っ頓狂な声を上げて驚く。その隣ではニーナが口をポカン、と開けてアンジェのお腹を見ていた。

そしてススス、とアンジェに近づくと、ポッコリと膨らんだお腹を撫でる。柔らかいお肉が気持ちイイ。


「……ねえ、ハル。この子何者?」

「アンジェ、つって、さっき仕事の途中で拾ったんだけど……

なあ、お前ホントに違うのか?」

「違う……と思います。たぶん」

「自信なさ気だな、おい」

「たった今まで自信満々だったんですけどね。ちょっと事情があるんで、自信が無くなりました」

「事情?」

「記憶喪失なんですよ、私」


ハルとニーナの表情が一瞬強ばる。気まずげに会話が途切れ、ニーナはバツが悪そうに視線を逸らす。

それを察してアンジェは大丈夫ですよ、と殊更に明るく話を続けた。


「あんまり気にしてないんで、気を遣わないでください。

失ったのも、もう何年も前の話ですし、旅をしてていろんな楽しい思い出もできましたから。ハルにも出会えましたしね」


自分は平気だと、その証拠だと言わんばかりにアンジェは笑ってみせる。その笑顔は確かに陰りは何処にも無くて、ハルからしてみても本気でアンジェがそう思ってるのが分かる。

アンジェとハルの目が合う。ほんのりとハルの胸の内が暖かくなり、妙に照れくさくなってくる。それと同時にハルの中にある衝動が湧き上がってくる。無意識に、ハルの手がアンジェに向かって伸びていく。椅子から立ち上がり、吸い寄せられる様にアンジェに近づき、そして思う。

もっと、もっと――

不思議そうな眼でアンジェが見上げてくる。ああ、その顔がまたたまらない。もう一度笑ってくれ、笑いかけてくれないか。

何度も何度もハルは頭の中でその言葉を繰り返す。撫でようと、ハルの手がアンジェの頭に触れかけたその時。

潰れたカエルの声がした。


「あぁ~ん、もうカワイイわぁ、この子!! 健気で抱きしめたくなっちゃう!!」

「ぐ、ぐるじいでず……」


ギュウゥゥゥ、と音が聞こえてきそうなくらいに全力でニーナがアンジェを抱きしめていた。スリスリと頬を擦りつけ、対するアンジェの方は腹を思いっきり抑えつけられて顔が真っ赤になっていた。

ハルは不意に我に返った。サッと手を引っ込めて自分の胸を抑える。


(なんだ、今のは……)


振り返ってもう一度アンジェを見てみる。ジタバタともがいてアンジェはニーナの拘束から逃れようとしているが、それを見てもさっきみたいな感情は湧き上がらない。微笑ましいとは思うが。

ハルは思考を巡らせるが、理由は思いつかない。まるで何かに取りつかれたみたいで、自分が自分でないような、そんな感覚だった。三度アンジェを見てみるが、やはり特別に何も思いはしない。


(まさか、な……)


アンジェが何かをした、とも考えたが、どう見てもアンジェにそんな事をできそうな様子は無い。人をどうこうできるなら今まさに死にそうなこの状況をどうにかしてるだろう。頭を捻りつつも、ハルはとりあえずアンジェに差し迫った危機に手を差しのべることにした。


「そろそろ解放してやれよ。顔が紫になってきてるぞ?」

「あらっ、ゴメンね」


ニーナの抱擁からようやくアンジェは解放されて、涙目になりながら一頻り咳き込み、恨みがましくハルを見上げた。コッチを責められても困るんだが、とハルはつぶやきながら頭を掻く。


「ところで、だ。アンジェ、お前はこれからどうするんだ? 何かこの町に用が有って来たんだろ?」

「うーん、そういう訳でも無いんですけど……ここに来たのもただ何となくですし」

「何となくでここまで歩くつもりだったのかよ」

「あら、アンジェちゃんも目的無しで旅なんかしてるの?」

「アタシ『も』ですか?」

「ハルも同じなのよ。まあコッチはもう一ヶ月もここに留まってるけどね」

「なんだ、とっとと出て行って欲しそうな言い方だな、オイ」

「あら、そう聞こえたのならそうなんじゃない?」


ホホホ、とわざとらしく笑い声をニーナは上げるが、ハルはヤレヤレ、と肩をすくめて立ち上がる。


「ま、いいさ。アタシも丁度ニーナにお別れを言おうと思ってたところだしな」


ハルがそう言った瞬間、ニーナの笑い声が止んで表情がくもる。釣り上がり気味の眉が八の字に垂れて心底残念そうに口を開く。


「そっか……確かに旅人に一ヶ月は長過ぎよね。元々お金が貯まるまでって話だったしね。あんまりにも馴染んでたからお別れっていうのをすっかり忘れてたわ」

「こっちもさ。ニーナがいてくれたおかげでアタシも助かったし、楽しかったから正直、この町を離れるのが名残惜しいよ」

「嬉しいこと言ってくれるわね。また気が向いたら遊びに来なさいな」

「そのつもりだよ」


椅子の横に置いていた荷物を肩に担ぎ、ハルはニーナと握手した。一度だけギュッと力強く握り、だがすぐに手を離す。二人にとって別れは珍しいものでも無く、だからこそ二人とも別れ方を心得ているかの様だった。

うらやましい。アンジェは二人を見てそう思った。アンジェも別れこそ多く経験しているものの、あまり一つの町に長居することが無かったため、二人の様な関係を築いた事は無い。いつも眺める立場だった。

記憶を失う前は、自分にもそういう相手がいたのだろうか。そう考えると口では気にしていない、と言ってもやはり記憶の事が気になってしまう。いなかったとしたらそれはそれで残念で、いたとしても思い出せない記憶に想いを馳せる程に陰鬱な気持ちになってくる。アンジェは親指を噛んでその気持ちをごまかした。


「っと、そうだ。それでアンジェはどうする?」

「えっ? あ、えーっと……」


思考に埋没してたせいで先の質問の答えを何も考えていなかった。二人の顔を見ながらアンジェは頭を悩ませる。と、そこへ頭上からニーナの楽しそうな声が降りてきた。


「そうだ! どうせなら二人で旅しちゃえばいいじゃない!」

「は?」

「え?」


手をパチン、と叩き、さも名案と言わんばかりに一人でうんうん、と頷く。


「二人とも目的のない旅人なんだから丁度いいじゃない。ハルもいつまでも女ひとり旅なんて寂しいこと辞めちゃって、アンジェちゃんも一人っきりだと危ないし」

「アタシはコイツの保護者かよ」

「いいじゃないのよ。アンタはアンタ好みの可愛い話し相手ができる。アンジェちゃんは身の安全を確保できる。コイツの腕は相当良いしね。そこはアタシが保証してあげる。

どう? 二人にとっても悪い話じゃないと思うんだけど?」

「アタシは……まあ、うん、そりゃ嬉しい限りだけどさ」


自分の好みを口にされるとどうにも弱い。ハルは横目でアンジェを見ながら口ごもる。

実はハルもまたアンジェを自分の旅に誘うつもりだった。町に来る前の出来事といい、どうにもアンジェは見ていて危なっかしい。幸いにして襲われてたのがサンドウルフの子供だったから良かったものの、あれが自分が倒したような大人だったら間違いなくやられてた。一足遅ければ無残な遺体でアンジェと対面することになっただろう。

戦争が終わったと言ってもまだ世界は荒れ果てているし、このお人好しがそんな中で生きていけるのか、ハルの中には不安が強く残る。保護者になるつもりは無いが、ここで見捨てて後で死にました、なんて話を聞くのもゴメンだ。


(だけど……)


自分が誰かと一緒にいてもいいのだろうか。そんな考えがハルの頭を過ぎり、そしてすぐにその考えを振り払った。どこまでいっても自分では煮え切らない答えしか出せないのだ。ならアンジェに答えを出させればいい。


「どうする? アタシは構わないよ」

「えっとぉ……」


自分の髪をいじくりながら、アンジェは悩む。ハルの顔を見て、ニーナを見て、地面を見る。モジモジと答えを出せないでいたが、しばらくしてようやくアンジェは口を開いた。

「えっと、その、一緒に行っても良いんですか?」

「ああ、そろそろ一人にも飽きてた頃だしな」

「お金なんて持ってないですよ? オマケに大飯食らいですし、結構バカですよ?」


自覚はあったのか、という言葉は自分の中に飲み込む。ハルは気にすんな、と手をヒラヒラと振った。


「どうせアテの無い、寂しい一人旅なんだ。多少バカがいたほうが楽しめる。

第一、これ以上お前を一人で動き回らせるのはアタシの精神衛生上良くない」

「どういう意味ですか?」

「まんまだろ。バカじゃなきゃ荒野を一人で突っ走るなんてマネするかよ」


ぐ、とアンジェは言葉に詰まった。確かに普通はサンドウルフのうろつく荒野を徒歩で通過しようとは思わない。自分では謙遜でバカと言ったつもりだったが、なるほど確かにバカだ。アンジェは自覚して、そして落ち込んだ。


「ま、とにかく、これからしばらく宜しくな」

「こちらこそヨロシクです。存分に迷惑掛けますから覚悟しててくださいね」


笑みを浮かべてハルは手を差し出す。そしてアンジェも笑ってその手を握り締めた。


「やっと決まったのね。アンタら時間掛け過ぎよ」

「そう言うなよ。大事なパートナーになるんだから」


ため息混じりに話に入ってきたニーナに、ハルはアンジェの頭を撫でながら言葉を返す。


「キチンと面倒見るのよ? 粗雑に扱ったら許さないんだから」

「安心しろ。アタシは可愛くてダメな子の面倒はキチンと見るタイプだ」

「あの、私ってそんなにダメな子に見えますか?」

「違うのか?」

「可愛かったら多少ダメな子の方がいいのよ?」


ワシャワシャと頭の上で動くハルの手をどけながらアンジェが抗議の声を上げるが、返ってきたあんまりな返事に再度落ち込む。


「それで、今度はどこに行くの?」

「そうだな……西へ行こうかな。ここから西にしばらく行ったらでかい街があったはずだ」


それで良いか、とアンジェに問いかけると、アンジェも項垂れたまま頷いて応える。だがニーナは僅かに眉をひそめた。それに気づかずハルは肩に掛けた荷物から地図を取り出して地名を確認する。



「えっと……あったあった。そうだ、サリーヴだ」



それを聞いてニーナはますます顔をしかめた。






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