片づけ
三題噺もどき―きゅうひゃくにじゅうろく。
ヒンヤリとした空気が室内を漂っている。
外から聞こえる小さなモータのような音は、室外機の唸る声。
おかげでこの部屋は快適に過ごすことができている。
「……」
光のせいか、床に敷いてあるマットのせいか、カーテンのせいか。
うっすらと青い光に包まれた室内は、視覚的にも涼やかで気に入っている。
これは意図したものでもないし、外が晴れていれば、年中この景色なので夏限定というわけではない。
「……」
部屋には時計を置いていないので、今が何時なのかは分からない。
時間なんて気にするような時間でもないと思うのだが、今でなくても、いちいちスマホを見ないといけないのは面倒な感じもする。
今そのスマホは充電中で手元にないから尚更。
「……」
家の中は静かで、人の気配はしない。
今週から妹たちは部活の時間が長くなっているらしく、昼を過ぎても帰ってこない。強豪校というわけでもないのに、血の滲むような努力を強いられているらしい。……言い方がよくないか?
母はもとより一日仕事に出ているので、帰ってくるのは夕方だ。
「……」
しかし、夏になってから外の景色と時間の関係はあまり信用ならない。
明るくて、まだ15時くらいかなと思ったら、すでに17時になってた、なんてことが、今年は多かったような気がする。
それで、19時を過ぎたあたりで突然暗くなるから、ようやく、あ、夜かとなる。
「……」
これはまぁ、時計を置いていないし、時間を確認する癖がないからというのもあるんだろう。でも常に時間を気にしているのも疲れるような気もする。
社会人になればそうも言っていられないんだろうけど。
「……」
そんなまぁ、誰もいない。
時間もあまりはっきりしない中で。
うっすらと青く染まる自分の部屋で。
涼しい冷房の効いた部屋で何をしているのかと言うと。
「……」
部屋の片づけをしていた。
なぜ今、このタイミングなのかという感じだが。
私もその辺はよくわからない。……こういうことはあるあるだと思うんだけど、何かをしないといけない時って、つい部屋の片づけをしてしまう。
「……」
床には本の山が何個か出来上がっている。
その隙間で、床に座って。
漫画を読んでいた。
「……」
片づけしてないじゃないかと言われるのも仕方ないが。
これはもう人の性だと思う。
片づけなんて、こうやっていちいち止まるものだろう。懐かしむものや、つい手に取ったものに夢中になって時間が無くなるなんて当たり前の事ではないんだろうか。
「……」
売ったりするわけでもないのだけど、位置を変えたりしたいなぁと思って全部引っ張り出したが最後。
昔―と言っても数年前だと思うが―読んでいた漫画を見つけてしまい。
これがまぁそれなりの巻数のあるシリーズで、しっかり全巻揃えているので手が止まるわけもない。
「……」
趣味が趣味なら、誰もが通るような、お決まりと言えばお決まりの。
日常を過ごしつつ、呪文を唱えたり紋章を掲げたりしながら何かと戦うような。
まぁそういう、漫画である。
「……」
これはな、バトルシーンはもちろん凄いのだけど。
日常のシーンで出てくる、食事の書き込みが物凄いのだ。
もうなんというか、おいしそうとしか言えない。
「……」
ただの目玉焼きがこんなに美味しそうに見えることあるんだと思うし。
おにぎり1つでこんなに細かく描くことあるんだと思ってしまうし。
たまに詳しいレシピなんかも乗せられていて、料理系の漫画だったかなと錯覚するくらいには、もうそれはそれは。
「……、」
こうしているとお腹が空いてくるんだよなぁ。
片づけも終わっていないどころか散らかしただけなのに。
それに一応昼食はすでに食べている。
ガチャ―
「……」
なんてことを考えだしていると玄関の開く音が聞こえた。
何時なのかは分からないが、おそらく妹のどちらかが帰ってきたのだろう。
……とりあえず、本棚に直すか。
「……」
これが読み終わってから。
お題:滲む・目玉焼き・紋章




