アボーニンの月
アボーニンの町は今夜も静かだ。
だけど空には大きなピエロの顔をした月が浮かんでいて、町の人たちはそれを‘’ピエロムーン‘’と呼ぶ。
そのピエロムーンが笑うと町は毒霧に覆われてしまう。
町の人たちは慣れっこだから、淡々とガスマスクを顔面に装着してその夜を過ごす。
違う町や都市から来た人は町の人から忠告を受けて困惑するが、すぐに分かる。
毒霧を吸っても死んだりはしない、ただしピエロになってしまうのだ。
どんなにお金持ちでも、どんなに貧乏でも。
無差別さ。
「用心しろよー」
顔にガスマスクを着けた町の人たちは忠告をする。
ピエロになると陽気な性格になってしまう。誰でもだ。
Mr.オクトパスが強い刺激を求めて今夜も町を歩いていた。
ギザギザに尖ったスカートの先端には、大人の拳程の大きさもある鉛が付けてある。
「忠告したハズだ」
彼は第一声にそう言う。
ピエロはヘラヘラと笑っているだけだ。
Mr.オクトパスは身構える。
ピエロの顔が豹変し、エメラルドグリーンの血管が浮かび上がる。
ピエロは陽気で凶暴だ、それは町の人なら誰でも知っていること。
だから、ピエロが出たら町の人は戸締りをしっかりして家からは出ない。
「ピエロに襲われたら殺されてしまうよ」
もう何人も犠牲が出ている。
自警団は一夜にして潰された。
巡査は夜は出歩かない。
風の穏やかな夜だ。
鉛付きのスカートを穿いたMr.オクトパスが空高く飛び上がる。
その高さは優に10メートルを超える。
重力とは無縁のMr.オクトパスが上空から一気に降りてくる。
スカートが広がる。
ピエロ目掛けてスカートが覆いかぶさる。
スカートの鉛が地面にボトボトボトと落ち、ピエロは身動きが取れなくなってしまった。
Mr.オクトパスはピエロの首を両脚で締め上げる。
スカートの中、ピエロの顔のエメラルドグリーンの血管はどす黒い紫色へと変わる。
ピエロはヘラヘラと笑いながら苦しむ。
「ゲェゲェー!!」
Mr.オクトパスの脚にピエロが噛みつこうとした。
Mr.オクトパスは全体重をかけて後ろへ宙返りをした。
ピエロは首を絞められたまま硬い煉瓦造りの地面へ顔面から叩きつけられた。
舌を出してのびているピエロを抱きかかえると、Mr.オクトパスは夜の川へと消えて行った。
「朝になるまでのどんちゃん騒ぎ」
誰かがそう言った。ピエロは朝になれば元の人に戻るから。
町の人はピエロを恐れている、町の人はMr.オクトパスの事をよく知らない。




