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ー第4節 専門家が見つからず苛立つハルト。巡回中、最下位の高橋がユイのお茶を飲みゾーンに入り完璧な企画書を書き上げるのを目撃。霊薬の正体が彼女だと気づき激しい衝撃を受ける。

第4節 専門家が見つからず苛立つハルト。巡回中、最下位の高橋がユイのお茶を飲みゾーンに入り完璧な企画書を書き上げるのを目撃。霊薬の正体が彼女だと気づき激しい衝撃を受ける。


 その頃、社長のハルトは極度の苛立ちを抱えながら社内を巡回していた。

 彼があの給湯室で奇跡のブレンドティーを飲んでから数日が経過していたが、秘書や人事部を総動員しても、一向に「謎のメンタルトレーナー」や「天才調合師」の正体を掴めずにいたからだ。

「無能な奴らめ。社内の監視カメラの死角に入っていたとはいえ、たかが一人の専門家を見つけ出せないとはどういうことだ」

 ハルトは舌打ちをしながら、営業部のフロアを歩いていた。彼が求めるのは、あの圧倒的なパフォーマンス向上と疲労回復をもたらす究極の霊薬だ。あれさえあれば、グランドクロス商事は世界経済を完全に掌握できる。

 その時だった。ハルトの足がピタリと止まった。

 フロアの隅のデスクから、尋常ではない速度のタイピング音が響いてきたのだ。

 タタタタタタッ! ターン! タタタタタタッ!

 まるでマシンガンのようなその音の主は、営業部で最も無能の烙印を押されている若手社員、高橋だった。

 ハルトが驚愕して目を凝らすと、高橋の様子は明らかに異常だった。彼の目は完全に焦点を結び、瞬きすら忘れたかのような凄まじい集中力――いわゆる「ゾーン状態」に突入していた。

 高橋の指はキーボードの上を舞うように動き、パソコンの画面には、高度な市場分析、多角的なリスクヘッジ、そして斬新かつ完璧な海外向けのコンペ企画書が、信じられないスピードで構築されていく。

「なっ……あいつはたしか、万年最下位の落ちこぼれだったはずだ。どうしてあんな超人的な処理能力を……!?」

 ハルトは吸い寄せられるように高橋のデスクに近づいた。そして、デスクの脇に置かれた、飲み掛けの紙コップに気がついた。

 そこから漂ってくる、香ばしくも深い静寂を感じさせる香り。

 ハルトの心臓が早鐘のように鳴った。間違いない。あの時、自分が飲んだのと同じ『神の霊薬』の香りだ。

「高橋! その茶は、どこで手に入れた!? 誰が淹れたんだ!!」

 ハルトは我を忘れて叫び、高橋の肩を激しく揺さぶった。

 ゾーンから引き戻された高橋は、目の前に鬼の形相をした社長がいることに腰を抜かしかけた。

「ひぃっ!? しゃ、社長!? えっと、このお茶は、さっき派遣のユイさんが、僕を気遣って淹れてくれて……」

「派遣の……ユイだと……?」

 ハルトは雷に打たれたように立ち尽くした。

 あの給湯室にいた、オーラも能力もない、冴えない雑用係の女。天才調合師の使い走りにすぎないと思っていた彼女自身が、この奇跡を生み出しているというのか。

 能力至上主義の権化であるハルトの価値観が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。それと同時に、彼はユイという存在に対して、抗いがたい強烈な興味と執着を抱き始めていた。

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