ー第2節 茶葉でなく「誰かを想う心」が水を最高の霊薬に変えると悟ったユイ。産業医が諦めかけたハルトの元へ駆け寄り、ただのミネラルウォーターに純粋な祈りを込めて飲ませる。
第2節 茶葉でなく「誰かを想う心」が水を最高の霊薬に変えると悟ったユイ。産業医が諦めかけたハルトの元へ駆け寄り、ただのミネラルウォーターに純粋な祈りを込めて飲ませる。
時間が再び動き出した。
オフィスの喧騒と、エラーを知らせるアラーム音が耳に飛び込んでくる。しかし、ユイの心は一点の曇りもなく透き通っていた。
「……そうだった。お茶の葉が、魔法をかけていたんじゃない」
ユイは自分の手のひらと、そこに握られた百円のミネラルウォーターのペットボトルを見つめた。
給湯室という場所も、市販のティーバッグも、ただの媒介に過ぎなかったのだ。
「誰かを純粋に想い、痛みに寄り添い、癒やそうとする心。それそのものが、このありふれた水を、世界で一番の霊薬に変えるんだわ」
ITスキルがなくてもいい。経営の知識がなくてもいい。
私には、この人を助けたいという「想い」がある。能力至上主義のこの会社で、誰よりも純粋に他者の幸せを願う心がある。それこそが、何物にも代えがたい私の本当の価値なのだ。
ユイはペットボトルを握りしめ、倒れているハルトの元へ向かって真っ直ぐに走り出した。
「どいてください!」
床に血を吐き、チアノーゼを起こして意識を失っているハルトを取り囲んでいた産業医やエリート社員たちが、ユイのただならぬ気迫に圧倒され、無意識のうちに道をあけた。
今のユイの全身からは、目には見えないが、誰もが畏怖と安らぎを同時に覚えるような、神聖で黄金色のオーラが立ち昇っていたからだ。
「おい、君は派遣の……何をしようとしている! 社長はもう、通常の医療処置では手の施しようが……」
「処置なら、私がします」
静かだが、絶対に揺るがない力強い声。ユイは床に膝をつき、死の淵をさまようハルトの上半身をそっと抱き起こした。
冷たく、生気を失ったハルトの頬。どんなに冷酷で完璧な社長として振る舞っていても、その内側は誰よりも傷つき、重圧に悲鳴を上げていたのだ。
「社長。……もう、ひとりで戦わなくていいですよ」
ユイはペットボトルのキャップを開け、ハルトの青白い唇にそっと近づけた。
(どうか、生きてください。あなたの張り詰めた心が、重圧から解放されますように。どうか、この命の流れが途絶えませんように……!)
ユイは一切の雑念を捨て、心からの純粋な祈りと慈愛を、手にしたミネラルウォーターに込めた。
トクトクと、澄み切ったただの冷たい水が、ハルトの口内へと流し込まれていく。




