表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/25

ー第5節 絶望するユイの視界にフロアの隅の自動販売機が目に入る。ハルトを助けたい一心で彼女は震える手でミネラルウォーターを購入。限界の状況下で、ユイは最後の行動に出る!

第5節 絶望するユイの視界にフロアの隅の自動販売機が目に入る。ハルトを助けたい一心で彼女は震える手でミネラルウォーターを購入。限界の状況下で、ユイは最後の行動に出る!


 涙で視界が歪む中、ユイの目に、あるものが飛び込んできた。

 フロアの奥、コピー機の横にひっそりと設置されている、飲料の自動販売機だ。

 給湯室は鍵がかけられて入れない。茶葉もない。お湯も沸かせない。

 けれど、あの自販機には、冷たいミネラルウォーターが売られている。ただの水だ。特別な成分も、心安らぐ香りも、何もない。

「……水……」

 ユイは無意識のうちに、フラフラと自販機に向かって歩き出していた。

 頭の片隅で、冷徹な声が囁く。

(ただの冷たい水なんかで、どうにかなるわけがない。一流の医者でも治せない過労と心不全を、お茶っ葉すらない素人の水で救えるはずがない。能力のないあなたがしゃしゃり出ても、ただ迷惑になるだけよ)

 それは、この会社がユイに植え付けた「能力至上主義の呪い」そのものだった。

 けれど、ユイの脳裏に、あの時のハルトの言葉が蘇る。

『ユイ、君のお茶が欲しい。俺には君が必要なんだ』

 あれが、ただの過労による幻覚や勘違いだったとしても。

 彼が私を必要としてくれた。私の淹れたものを飲んで、少しでも安らいでくれた。

 その事実だけが、今のユイを突き動かす唯一の希望だった。

「私にITスキルがなくても……経営の知識がなくても……。彼に、生きていてほしい……! このまま、苦しんで死んでほしくない……!」

 ユイは財布から震える手で小銭を取り出し、自販機に投入した。

 ガチャン、と重い音を立てて、百円のミネラルウォーターのペットボトルが取り出し口に転がり落ちる。

 ユイはそれを両手でしっかりと握りしめた。ペットボトルの冷たさが、手のひらから伝わってくる。

 極限の状況下で、ユイはキャップをひねり開けた。

 そして、自分自身の絶望と自己否定を断ち切るように、そのただの冷たい水を、ゴクリと一口、自らの喉の奥へと流し込んだのである。

 ――その瞬間。

 時間が、完全に停止した。

 周囲の喧騒、怒号、アラームの音が全て消え去り、絶対的な静寂が世界を包み込んだ。

 ユイの目の前に、再び「彼」が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ