ー第5節 絶望するユイの視界にフロアの隅の自動販売機が目に入る。ハルトを助けたい一心で彼女は震える手でミネラルウォーターを購入。限界の状況下で、ユイは最後の行動に出る!
第5節 絶望するユイの視界にフロアの隅の自動販売機が目に入る。ハルトを助けたい一心で彼女は震える手でミネラルウォーターを購入。限界の状況下で、ユイは最後の行動に出る!
涙で視界が歪む中、ユイの目に、あるものが飛び込んできた。
フロアの奥、コピー機の横にひっそりと設置されている、飲料の自動販売機だ。
給湯室は鍵がかけられて入れない。茶葉もない。お湯も沸かせない。
けれど、あの自販機には、冷たいミネラルウォーターが売られている。ただの水だ。特別な成分も、心安らぐ香りも、何もない。
「……水……」
ユイは無意識のうちに、フラフラと自販機に向かって歩き出していた。
頭の片隅で、冷徹な声が囁く。
(ただの冷たい水なんかで、どうにかなるわけがない。一流の医者でも治せない過労と心不全を、お茶っ葉すらない素人の水で救えるはずがない。能力のないあなたがしゃしゃり出ても、ただ迷惑になるだけよ)
それは、この会社がユイに植え付けた「能力至上主義の呪い」そのものだった。
けれど、ユイの脳裏に、あの時のハルトの言葉が蘇る。
『ユイ、君のお茶が欲しい。俺には君が必要なんだ』
あれが、ただの過労による幻覚や勘違いだったとしても。
彼が私を必要としてくれた。私の淹れたものを飲んで、少しでも安らいでくれた。
その事実だけが、今のユイを突き動かす唯一の希望だった。
「私にITスキルがなくても……経営の知識がなくても……。彼に、生きていてほしい……! このまま、苦しんで死んでほしくない……!」
ユイは財布から震える手で小銭を取り出し、自販機に投入した。
ガチャン、と重い音を立てて、百円のミネラルウォーターのペットボトルが取り出し口に転がり落ちる。
ユイはそれを両手でしっかりと握りしめた。ペットボトルの冷たさが、手のひらから伝わってくる。
極限の状況下で、ユイはキャップをひねり開けた。
そして、自分自身の絶望と自己否定を断ち切るように、そのただの冷たい水を、ゴクリと一口、自らの喉の奥へと流し込んだのである。
――その瞬間。
時間が、完全に停止した。
周囲の喧騒、怒号、アラームの音が全て消え去り、絶対的な静寂が世界を包み込んだ。
ユイの目の前に、再び「彼」が現れた。




