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ー第5節 真実を知ったハルトはユイに「俺専属になれ」と迫る。だがユイは「安い市販のお茶ですよ!社長、過労で頭がおかしくなりましたか!」と怯え、致命的なすれ違いが発生する。

第5節 真実を知ったハルトはユイに「俺専属になれ」と迫る。だがユイは「安い市販のお茶ですよ!社長、過労で頭がおかしくなりましたか!」と怯え、致命的なすれ違いが発生する。


「ユイ! そこにいるな!」

 誰もいない地下の資料室で書類の整理をしていたユイは、突然ドアがバンッと勢いよく開かれ、ビクッと肩を跳ねさせた。

 そこに立っていたのは、肩で息をする社長のハルトだった。彼の目は肉食獣が獲物を見つけたようにギラギラと血走り、ユイに向かって真っ直ぐに歩み寄ってくる。

「しゃ、社長!? どうしてこんな地下室に……ひゃっ!?」

 後ずさったユイの背中が冷たい壁にぶつかる。次の瞬間、ハルトの長い腕が伸び、ダンッ、とユイの顔の横の壁を強く叩いた。いわゆる壁ドンである。

「捕まえたぞ。君が、あの奇跡の霊薬の創り手だったんだな」

 ハルトの低く熱を帯びた声が、ユイの耳元に降り注ぐ。至近距離で見つめてくる彼の瞳には、狂気にも似た強烈な執着が渦巻いていた。

「ひぃっ……! ご、ごめんなさいっ!」

 ユイは涙目でギュッと目を閉じた。

(やっぱり、あの時のお茶が濃すぎて渋かったことを根に持ってたんだ! わざわざこんな地下室まで追いかけてきて、私をクビにする気だわ!)

 恐怖で震えるユイに対し、ハルトはうっとりとした表情で言葉を紡いだ。

「謝る必要などない。君は素晴らしい。あの神がかり的なブレンド、いったいどうやって調合している? 脳疲労を一瞬で消し去り、潜在能力を極限まで引き出すあの味……。ユイ、君のお茶が欲しい。俺専属のメンタルトレーナーになれ。報酬は君の望むだけ、いくらでも払おう」

「…………はい?」

 ユイは恐る恐る目を開けた。ハルトの言っている意味が全く理解できなかった。

「神がかり的なブレンド……? 潜在能力を引き出す……? あ、あの、社長、何を仰っているんですか?」

「とぼけなくていい。先ほど、高橋の劇的なパフォーマンス向上をこの目で確認した。あれは君が淹れた茶の力だろう。君のような天才を、ただの派遣社員として雑用係にしておくなど、我が社の甚大な損失だ」

 ハルトはユイの肩を強く掴み、熱っぽい吐息をこぼした。

「毎日、俺の部屋で、俺のためだけにあのお茶を淹れてくれ。俺には君が必要なんだ」

 情熱的なプロポーズにも聞こえるその言葉に、ユイは顔を真っ青にして首を横に振った。

「だ、騙されてますよ社長! 天才調合師なんていません! 私が淹れたのは、一箱二百円で売ってる、スーパーの特売品のティーバッグに、給湯室のお湯を注いだだけのものですよ!?」

「ほう。特売品に偽装して、独自の成分を配合しているのか。見事なカモフラージュだ。企業秘密というわけだな」

「違いますっ! 本当にただの安いほうじ茶です! 社長、過労のせいで、ついに味覚と頭がおかしくなっちゃったんですね……! 可哀想に……!」

 ユイは本気でハルトの精神状態を心配し、同情の目を向けた。

「俺の頭はこれ以上ないほど冴え渡っている! なぜ素直に才能を認めない!」

「才能なんてありません! ただの安いお茶っ葉です!」

 奇跡の力を絶対に独占したい冷酷社長と、自分の無自覚な神スキルに全く気づかず「社長が過労で狂った」と信じ込む底辺OL。

 能力至上主義の会社で、二人の致命的に噛み合わない、奇妙で壮絶な溺愛のすれ違い劇が、今まさに幕を開けたのだった。

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