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何も見ていない街  作者: TOMMY


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6/8

存在の噂

彼女はいつも笑っていた。笑顔を決して絶やさない美少女。肩よりも長いストレートな黒髪。西洋風な落ち着いた服装。その耽美な容姿は、この街で、しばしば噂になっていた。


しかし、なぜか誰も関わったことがないという。街角ですれ違ったとか、商店街から出てくるところを見かけたとか、バスに乗り込む後ろ姿を見たとか。


「忘れた頃に見かける」


そう言って首を傾げる人間は多かったが、いつ、どこで見たのかを正確に言える者はいなかった。まるで、思い出そうとすると輪郭だけが薄れていくようだった。


──その女性が、ショッピングモールにいた。ガラス張りのショーウインドウの前で、彼女は一着の服を眺めていた。

蛍光灯の光を受けて、彼女は笑っていた。


けれど、その笑顔はどこか不自然だった。

頬の角度も、唇の開き方も整いすぎていて、貼り付けられた仮面のように見えた。


やがて彼女は店の前を離れ、建物の奥に消えた。なぜか目を離してはいけない気がして、慎重な足取りで追いかけていた。


だが、角を曲がった先に、彼女の姿はなかった。通路はまっすぐ続き、隠れる場所もない。それなのに、まるで最初から存在しなかったかのように、何もない空間だけが残っていた。


生暖かい風が、頬を撫で上げた。

背中を這うように鳥肌が立ち上がる。

ざわざわとした気配が全身を支配する。

落ち着かない。

喉の奥にその感覚が溜まっていく。


夕暮れの光が、時計塔をわずかに照らした。

街はいつも通りの時を刻んでいる。


でもその針は、思ったよりずっと早く進んでいた。


──数日後、その場所を訪れると、ショーウインドウは白い紙で覆われていた。


ゆっくりと周囲を歩いていると、急に風が吹いた。冷たい風。

「……忘れて」

囁くような透き通った声。

頭の中に、あの日見かけた彼女の姿がよぎる。でも、黒い霧のようなノイズによってその姿は街の中に散っていった。

ふと、白い紙で覆われた店が視線に入った。

……店の名前を、思い出せなかった。


街の人間たちは、噂話を広げていく。

「そんな人、いたっけ」

その言葉の隙間に、黒い影が落ちていた。

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