横断歩道の鳩
目を覚ますような鳩の声が、
無機質な横断歩道に落ちた。
パッポッ、パッポッ。
誰も前に進まない。
二色の信号機は、確かに青い。
鳩の鳴き声も人間を前へと急かしている。
けれど、そこに佇む人間の群れはどこか遠くを見据え、ただただ、ぼぅっと立っていた。
車道と歩道の境。
白線で仕切られた空間。
そこには、黒い何かが漂っていた。
やがて青がちらつき、赤に変わる。バスとダンプが、排気ガスを吐き出しながら、何事もなかったように通り過ぎた。
──パッポッ、パッポッ。
人間たちは、その音を聞いた瞬間、何かに弾かれたように前に進んだ。
数瞬前の出来事を何もなかったかのようにスタスタと。まるで豆を追う鳩のようにスタスタと。
プープー、プープー。
急かされるような警告音が落ちると、人間たちは小走りになった。
そしてまた、そこに人間が溜まっていく。
黒い何かは、それとともに、重く、膨れ上がる。
ふと、同じ顔が何度も、ぼぅっと立っている気がした。過ぎ行く人間たちは、隣に立つ人間など、気にしてはいない。
けれど、明らかにさっきと同じ服装で、同じ顔。さっきすれ違ったはずの背中が、まだそこにあった。
再放送のように同じ位置、同じ速度。
通り過ぎたと思っても、次の回には同じ位置。
あの顔も、この顔も、昨日見た、一昨日も見た。
みな、どこかで折り返し、
また、ここに立ち戻ってくる。
そう思いながら、気づけば、鳩の鳴き声を待っていた。
パッポッ、パッポッ。
目を開ける。時計は少しズレていた。その音を聞いて、足が勝手に前に出た。
車道と歩道の境。
白線のすぐ内側に、
小さな黒い豆が落ちていた。




