落とし物
街の交番に落とし物が届けられた。
それは、ぷっくりと膨れた黒光りする財布だった。
表面には数多の傷痕が走り、長く使い込まれていたことが一目でわかる。
警察官は中を確かめ、静かに棚に置いた。
警察官はおもむろに警察手帳を取り出して、中を確認していた。その顔はどこか影が落ちているように見えた。
数日後、また落とし物が届けられた。
今度は厚みのある、薄汚れた財布だった。
革の端々がほつれ、指に引っかかるほど擦り切れている。
警察官は軽くため息をつき、先の財布の隣に並べた。
数週間後。
パトロールから戻った警察官は、受付台の上に置かれたそれを見つけた。
「落とし物」とだけ書かれた小さな紙。
その下に、異様に肥大した財布があった。
持ち上げたとき、音はしなかった。
中身が偏る感触もない。
ただ、手のひらに、重さだけが残った。
警察官は中をじっくりと確かめると、ひと呼吸おいて、棚に置いた。
次の日、警察官は別の人間だった。
きっと勤務地の交代があったのだろう。
その警察官も忘れ物を処理していた。
それはどこかで見たことがある警察手帳と何の変哲もない黒い財布だった。
やることは変わらない。
この街はとても親切だった。
落とし物や忘れ物は、必ず交番に届けられる。
しかし、それを受け取りに来る人間は、
ひとりもいなかった。
棚は、今日もすっきりと整理されていた。




