鬼退治
しわの影が濃い老婆は、腰を深く折り曲げながら街中をゆっくりと歩き回っていた。過ぎ行く人間の顔を見つめ、何かを吟味していた。
すると、足取りは少しだけ早くなり、一直線に歩を進める。そしてある青年を呼び止めた。
「もし、お若いの、少しだけ、手伝ってくれんかね」
青年は無表情のまま、老婆の元へ歩み寄る。
老婆はゆたりとした奇妙な動きで、人間たちから見えない角度に身を整える。そして隙間だらけの黄色い歯を覗かせた。
「鬼じゃあ、鬼。この街に鬼が出たんじゃあ」
青年は訝しげに老婆を見つめる。
すると老婆は、青年に向けて左手を差し出した。
掌には、乾いて軽い豆がいくつか転がっていた。
「この豆を持って、鬼を退治しとくれんかね」
青年は一瞬だけ豆に目を落とし、次の瞬間、露骨な笑みを浮かべた。
「へぇ、そうですか。その鬼とやらは、どんな容姿でしたか?」
そう言って、青年は路地裏に向けて歩き出す。
老婆は小さく笑い、その後を追った。
折れ曲がった腰に据えた右手の内で、何かが鈍く光った気がした。
二人の足音は、重々しく路地裏に吸い込まれていく。
暗がりの奥で、青年の表情は、再び何も映さなくなった。
その路地裏からは、いつまで経っても、誰も帰ってこなかった。
街の老人たちは、街の人間を静かに見つめていた。




