黒い傘
肩には重さが滲んでいた。
全身の筋肉は酷くこわばり、
動作がとてもぎこちない。
今にも泣き崩れそうな、
とぼとぼとした足取り。
下を向いて、
ため息をひとつ。
その暗い感情に呼応するように
黒い雨が降り出した。
まるで、彼女を助けるかのように。
赤いワンピースの女性は、
溶けるように、濡れた。
マスカラが黒い涙のように頬をつたう。
ついに、やせ細った体躯は重力に負けた。
足をくの字に折り曲げ、地面に崩れ落ちる。
そこに、大きな黒い傘を持った人間が駆け寄ってきた。
黒い傘は、地面に置かれる。
二人は、見えなくなった。
「……もう、大丈夫か」
と周囲を歩く人々の足は、速度を取り戻した。
肌寒い空に、白い吐息が漂う。
カバンから折りたたみ傘を取り出し。
傘を開く。
びしゃびしゃ、びしゃ。
傘を開いた途端、雨にしては粘着質な音。
握る手に、雨とは思えない感触が残った。
ゆっくりと振り返った。
大きな黒い傘をさした、赤黒いワンピースの女性が歩いていた。
吐く息が、白くなかった。
今日もこの街は、平和だった。
誰も、何も見ていない。
……うまくやったものだ。




