第88話 成層圏の覇者を撃破せよ!
「外壁温度上昇! ミスリルが赤熱してるぞ!」
護衛長のリナが叫ぶ。
大気との摩擦熱で、窓の外は紅蓮の炎に包まれていた。
「耐えろ……! 俺の打った金属だ、これくらいで溶けるかよ!」
ガンドが歯を食いしばってモニターを睨む。
ロケットは尚も空を切り裂いて上昇を続ける。
雲を突き抜け、空の色が青から群青へと変わっていく……。
◇
「高度20キロ到達! まもなく成層圏を抜けます!」
大気が薄くなり、機体を震わせていた轟音が、ふっと遠のいた。
窓の外はすでに濃紺の世界。
そこは、生物の生存を許さない死の領域――の、はずだった。
だが、その時!
「レーダーに反応あり! ……6時の方角! 急速接近!」
砲手のクロウが叫んだ。
「鳥か!? いや、あれは……!」
モニターに映し出されたのは、雲海を突き破って現れた巨大な影。
翼開長50メートルを超える、伝説の超巨大怪鳥――成層圏の覇者『ストラトス・ロック』だ。
縄張りである空を荒らす銀色の矢を排除しようと、背後から猛烈なスピードで追いかけてくる。
「速い! 追いつかれる!」
ボルスが叫ぶ。
ロケットは加速中だが、怪鳥の飛行速度はそれを上回っている。
怪鳥はロケットの真後ろにピタリとつけ、灼熱の噴射炎など意に介さず、エンジンノズルごと噛み砕こうと巨大な口を開けた。
「くっ、エンジンの真下だ! 迎撃できねぇ!」
リナが歯噛みする。この位置では、ロケットの死角になって攻撃できない。
絶体絶命。
だが、晶はモニターに映る怪鳥の「大口」を見て、不敵に笑った。
「好都合だ。……あいつ、腹が減ってるみたいだぞ」
晶はクロウとテオに指示を飛ばした。
「エサをやって追い払おう。……クロウ、第1段ロケット切り離し準備! タイミングを合わせろ!」
「まさか……この巨大な燃料タンクを、直接口の中に!?」
「そうだ。ミスリルの塊で作った、特大の激辛爆弾だ。……テオ、起爆準備!」
怪鳥がさらに加速し、ロケットの底部に食らいつこうとした、その瞬間。
「――今だ、分離ッ!!」
ガコンッ!
クロウがレバーを引いた。
ロケットの下半分、わすがに残っていた燃料ごと、重りとなった巨大なタンク(第1段)が切り離される。
ほぼ空になったとはいえ、それはミスリルゴーレム100体分を溶かして作った超高密度の金属塊だ。
慣性でわずかに浮き上がった数十トンの鉄塊は、下方から口を開けて突っ込んできた怪鳥の顔面に、カウンターの形で激突した。
ズドゴォォォォォォンッ!!
「ギャッ……!?」
鈍く、重い衝撃音が響き渡る。
あまりの質量と相対速度による激突に、怪鳥の顎がひしゃげ、首がのけぞった。
「へっ、ざまぁねぇな! 超高速のミスリルハンマーで思いっきりぶん殴られた気分はどうよっ!」
ボルスがモニターを見て快哉を叫ぶ。
だが、晶の攻撃はそれだけでは終わらない。
「トドメだ。今だ、テオ! 残り火を起爆しろ!」
「爆破ッ!!」
ドカァァァァァァンッ!!
空中で大爆発が起きた。
口内でタンクに残っていた燃料と魔力が炸裂し、怪鳥を内側から焼き尽くす。
「ギャアァァァァァッ……!!」
断末魔と共に、黒焦げになった『空の覇者』が墜落していく。
その爆風を背に受け、軽くなった本体(第2段)は、さらに加速した。
「突破したぞぉぉぉッ!!」
ボルスの雄叫びと共に、ロケットは最後の大気の壁を突き抜けた。
◇
ふっ……。
唐突に、振動が止まった。
轟音が消え、耳が痛くなるほどの静寂が訪れる。
窓の外の空は、深い藍色から、星々が輝く完全な「漆黒」へと変わっていた。
そして。
「……あ」
セシリアの手から、スパナが離れた。
落ちない。空中で静止し、ゆっくりと回転している。
「浮いたのだ! アキラ、見て見て! 泳げるのだ!」
ポチがシートベルトを外し、空中で犬かきをする。
「ほぅ……。これが天の世界か……」
タマも窓に張り付き、眼下に広がる青い星を見つめた。
全員が感動に打ち震える中、晶はゆっくりとシートベルトを外した。
そして、真っ先に自分の胸元へと視線を落とした。
無重力。
あらゆるものが浮く世界。
ならば、重力に負けていた自分のさらしの中身も、ふわりと浮き上がって自己主張を始めるはずだ。
晶は、さらしの上からそっと手を当てた。
「……よし」
晶のアイスブルーの瞳が、狂気じみた確信に輝く。
「重力から解放された。ここからが『成長期』の本番だ」
感動的な第一声がそれかよ、と全員が心の中でツッコんだが、口には出さなかった。
この船長はブレない。
「現在地、低軌道。……ボルス、進路を月に取れ」
晶は無重力で裾が漂った白衣を翻し、キッチンの方を向いた。
「だがその前に、腹ごしらえだ。……まずは、宇宙で一番美味いラーメンを食うぞ」
ついに一行は宇宙へ到達した。
第4章・全141話まで完結保証、キリの良いところまでキッチリ読み切れます!
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第6章執筆のモチベーションに使わせていただきます。




