第44話:【閑話】成り上がり賢者(♀)のイカれたステータス
第1章を晶のギルドカードを通して振り返る回です。
『魔王城』での大宴会から数日が過ぎたある日。
平和を取り戻した『よろずや 結城』の店内で、店主の結城 晶は、更新したばかりの銀色のプレート――ギルドカードをテーブルに置き、深い溜息をついた。
「……見ろ。これが現実だ」
テーブルを囲んでいるのは、リナ、フローラ、そしてポチの三人だ。
晶が女性であることをカミングアウトし、さらには「女神」だの「公爵」だのと祭り上げられた今、もはやステータスを隠す意味はなくなっていた。
「へへっ、ついに解禁か! ずっと気になってたんだよなぁ、アネキの真のステータス!」
リナが身を乗り出す。彼女は晶のカミングアウト以降、呼び方を「アニキ」から「アネキ」に変えていた。
「わたくしもですわ……。アキラ様の歩まれた神話の軌跡、この目に焼き付けさせていただきます!」
「ボクも見るー! キラキラなのだー!」
フローラとポチも目を輝かせる。
三人がカードを覗き込むと、そこには驚愕の、そして晶にとっては残酷な文字列が並んでいた。
【名前】 ユウキ・アキラ
【種族】 人間
【性別】 女
【職業】 大賢者 / 創造神の愛し子
【体力】 D
【魔力】 測定不能
【攻撃】 F
【防御】 A
【回避】 F
【魔攻】 S
【魔防】 A
【幸運】 F
【称号一覧】
・永遠の平原
・イカの天敵
・氷結の支配者
・雷光の乙女
・不滅の獄炎
・死の霧を撒く者
・城塞創造者
・生命の錬金術師
・冥府の参道
・美容神の加護を持つ者
・白き竜の契約者
・戦いの女神
「……職業欄、しれっと『創造神の愛し子』になってんぞ。前は文字化けしてたのに」
「まあ……! システムさえも、アキラ様の神性を認めざるを得なかったのですわ!」
「……ところでアネキ。なんだよ、このおかしなステータス配分は?」
リナが引きつった顔でカードを指差した。
「『S』と『測定不能』があるかと思えば、『F』が三つも並んでるぞ。こんな極端なステータス、見たことねぇよ」
「私も初めて見た。だが、これ以上なく正確だ」
晶は淡々と紅茶を啜った。
このステータスは、晶の歪な戦闘スタイルを冷酷なまでに数値化していたからだ。
「まず、この【攻撃】と【回避】の『F』だ。これは私の素の身体能力だな。武器を持たず、ポチもいない状態なら、私はスライムにすら勝てないだろう」
「いや、スライムくらい勝ってくれよ! 大賢者が聞いて呆れるぜ!」
リナがツッコミを入れるが、フローラは感動したように手を組んだ。
「素晴らしい……! 肉弾戦という野蛮な行為を不要と切り捨て、全ての能力を魔力へと特化させたのですね! これぞ大賢者の鑑!」
「まあ、特化というか、偏ってるだけなんだがな」
晶が苦笑する。
【魔力】の『測定不能』と【魔攻】の『S』。これは彼女の科学知識と、外部電源などの道具が「魔法」として判定された結果だ。科学にMP切れはないため、測定不能なのは当然だった。
「でもよ、こっちの【防御】と【魔防】が『A』ってのは意外だな。アネキの防具なんてそのペラペラの白衣と内側の革鎧だろ? なんで戦士のあたいのBより硬いんだ?」
「……たぶん、こいつのせいだ」
晶は膝の上でクッキーを齧っているポチを撫でた。
「私の周りには常にポチという『守護神』がいるし、私が展開する科学障壁や称号の効果が防御判定に含まれているんだろう。本体は貧弱だが、殻だけは硬いってことだ」
「なるほど、中身はプリンだけど、外側はオリハルコンの缶詰ってわけか」
「言い得て妙だが、なんか腹立つな」
晶がジト目になる中、リナが最後の項目に気づいて「あ」と声を漏らした。
「……で、最後のアレだけどよ」
【幸運】 F
「……まあ、これに関してはノーコメントでいいか」
「ああ。納得しかない」
「アキラ様の波乱万丈な人生……トラブル体質が、システムにも認知されていますわ……!」
「……うるさい。ほら、さっさと称号の確認に行くぞ」
晶は不貞腐れて話題を変えることにした。
そして、問題の称号欄だ。
【称号一覧】
• 永遠の平原(固定)
「ぶふっ!!」
一番上の行を見て、リナが盛大に吹き出した。
「わ、わりぃアネキ! まさか一番上がこれかよ! 『固定』ってなんだよ、呪いか!?」
「……うるさい。放っておけ」
晶がこめかみをピクつかせる。
フローラは気まずそうに目を逸らし、ポチは無邪気に晶の胸元を指差した。
「アキラ、平らなのだ! ここは永遠に平らで、平和なのだ!」
「……ポチ、今日のおやつ抜きにするぞ」
気を取り直して、次を見る。
• イカの天敵
「ギャハハハハ! これもまだ残ってやがった! あの時のイカ焼き、美味かったもんなぁ!」
「……不服だ。『広域感電漁法士』に変えてほしい」
晶がむくれる中、ここから空気が一変する。
ずらりと並んだ、中二病全開の称号の数々。
• 氷結の支配者
• 雷光の乙女
• 不滅の獄炎
• 死の霧を撒く者
「お、おお……。すげぇ……」
リナがゴクリと唾を飲む。
「『氷結』は、あの暑い日に冷却パックで涼んだ時か……」
※第2話参照
「『雷光』は、ポチ様の静電気でリナさんが感電した時ですね」
※第6話参照
「『獄炎』は、湿気た炭に生石灰で火をつけた時だな」
※第9話参照
「『死の霧』は……蚊取り線香で蚊を全滅させた時なのだ」
※第10話参照
リナとポチが感慨深くギルドカードを覗いている中、フローラが叫び出した。
「すべて……すべて私が記録書(聖典)に記した通りの御名ですわ……! ギルドの魔道具は、真実を正しく理解しているようです!」
(お前のせいか!? お前の妄想がシステムに反映されたのか!?)
晶が戦慄する間もなく、リストは続く。
• 城塞創造者
• 生命の錬金術師
• 冥府の参道
「『城塞』はコンクリートで工場建てた時だな。あの一夜城は伝説になってるぜ」
※第14話参照
「『生命』は……石鹸の香りを酵母で作った時ですね。あれは本当に魔法のようでした」
※第11話参照
「『冥府の参道』って、あのアスファルトの道か? 確かに真っ黒だけどよぉ」
※第27話参照
リナが苦笑する。
科学実験の結果が、ことごとく「魔王軍の所業」のような名前で登録されている。
そして、極めつけは最新の称号だ。
• 白き竜の契約者
• 戦いの女神
「出た……。温泉掘った時のやつ」
※第34話参照
晶が頭を抱える。
「あの間欠泉、やっぱ『竜』認定されてんのかよ。国中が大パニックになったもんな」
「そして『女神』……。あのお風呂上がりのアキラ様を見れば、誰もが納得する称号ですわ……!」
※第35話参照
フローラがうっとりとカードを拝み始める。
「見てくださいリナさん。この輝き……。アキラ様は、永遠の平原というハンデを背負いながらも、氷と炎を操り、城を築き、竜を従え、女神へと至ったのです……! これぞサクセスストーリー!」
「ハンデ言うな」
晶がジト目で突っ込むが、ポチが晶の膝に乗ってきた。
「アキラ、すごいのいっぱいなのだ! でもボク知ってるのだ」
ポチが、ずらりと並んだ威圧的な称号の最後を、小さな指でなぞった。
「アキラの一番の称号は、これなのだ!」
そこには、書かれていない行があるように見えた。
「『ポチのご主人様』なのだ! エヘヘ!」
ポチが晶の胸(平原)に顔を埋めてスリスリと甘える。
その温もりに、晶の強張った表情がふっと緩んだ。
「……まあ、それだけは認めてやってもいいか」
「あーっ! ポチずるいぞ! あたいだって『黒薔薇騎士団・特攻隊長』だ!」
「わたくしも! 『アキラ様専属の記録係(語り部)』ですわ!」
リナとフローラも晶に抱きついてくる。
「暑苦しい! くっつくな!」
よろずやの店内に、賑やかな笑い声が響く。
ギルドカードに刻まれたのは、恐ろしい二つ名の数々。
だが、その裏にあるのは、この世界で晶が積み上げてきた「科学」と「信頼」、そして「騒がしい日常」の記録だった。
(……ま、退屈はしないか)
晶はカードをしまい、いつもの白衣を羽織り直した。
伝説のステータスを持つ「理系作家」の物語は、まだ始まったばかりである。
ちなみに、ギルドカードに記載されている称号の効果は、以下の通りです。
◇◇◇
【結城 晶・称号一覧】
※第1章終了時点
永遠の平原
永久Aカップ保証
イカの天敵
軟体動物特攻(微)、イカ料理・味UP
氷結の支配者
氷属性攻撃力UP(大)
雷光の乙女
雷属性攻撃力UP(大)
不滅の獄炎
炎属性攻撃力UP(大)
死の霧を撒く者
即死攻撃成功率UP(大)
虫・昆虫系特攻(極)
城塞創造者
防御力UP(大)
生命の錬金術師
回復スキル効果UP(中)
冥府の参道
闇属性特攻・特防(中)
不死系に懐かれやすい
美容神の加護を持つ者(中)
肌がプルプルツヤツヤになる
一定条件を満たすと光り輝く
白き竜の契約者
竜族特攻(大)
竜族から懐かれやすい
戦いの女神
味方の全ステータスUP(中)




