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第23話:屈する? いいえ、切り捨て御免です

交易都市アステル郊外、『魔王城せっけんこうじょう』の平和な午後に、下品な怒号が響き渡った。


「おい! 責任者を出せ! この工場は違法建築の疑いがある!」


正門を強引に押し入り、ドカドカと敷地内に入ってきたのは、派手な服を着た小太りの男だ。


後ろには、武装した数名の私兵を引き連れている。


「あいつは……王都ルミナの徴税官、ゴズ子爵だ」


リナが嫌そうな顔で耳打ちした。


「難癖をつけては賄賂を巻き上げている、悪名高い小悪党だ。今回、アステルの石鹸ブームを聞きつけ、甘い汁を吸いに来たんだろうよ」


「けっ、薄汚い工場だ。こんな場所で『宝石石鹸』を作っているとはな」


ゴズ子爵が工場内を見回し、鼻を鳴らす。


その無礼な態度に、作業中だった従業員たちが一斉に手を止めた。


「……あぁ?」


梱包担当の元暗殺者クロウが、氷のような殺気を放つ。


運搬担当の元重戦士ボルスが、巨大な木箱を片手で握りつぶし、ミシミシと音を立てる。


全身漆黒の制服に身を包んだ『黒薔薇騎士団』の精鋭たちが、無言で子爵を取り囲む。


「ひぃっ!?」


ゴズ子爵が縮み上がる。


無理もない。彼らの威圧感は、正規軍の精鋭すら凌駕している。


「社長……。許可を。一瞬で首を……」


クロウが懐のナイフに手をかけ、姿を消しかける。


「待て。役人を殺せば工場が潰される」


結城 晶(ゆうき あきら)は、白衣の袖を払いながら冷静に制した。


暴力で解決するのは簡単だが、それでは後味が悪いし、工場の操業に支障が出る。


ここは「権力」と「科学」で、合法的に抹殺する。


「……お話は応接室で伺いましょう」


晶は営業用の愛想笑いを浮かべ、ゴズ子爵を奥へと案内した。



応接室。


晶はテーブルの中央に、奇妙な機械を置いた。


大きなラッパのような真鍮製の集音器がついた、木製の箱だ。


「なんだそのガラクタは。……まあいい、単刀直入に言おう」


ゴズ子爵はふんぞり返り、ニヤニヤと笑った。


護衛の騎士団が部屋の外に待機していることで、気が大きくなっているらしい。


「貴様の工場には、いくつもの法令違反が見つかった。排水基準、建築法、労働基準……このままでは即刻、営業停止処分だな」


「それは困りますね。……どうすれば?」


晶は機械のスイッチを密かに入れた。


箱の中で、蜜蝋みつろうを塗った円筒が静かに回転し始める。


「話が早いな。……金貨1,000枚よこせ。そうすれば、今回の件は見なかったことにしてやる」


「ほう。それは賄賂ですか?」


「ガハハ! 『手数料』と言え! もし払わねば、貴様を反逆罪で投獄し、この工場も没収してやるからな!」


完璧な言質だ。


空気の振動が、針を震わせ、回転する蜜蝋の表面に物理的な溝を刻んでいく。


これは『蝋管蓄音機(フォノグラフ)』。音を「波形」として記録する、初期の録音装置だ。


「……証拠は取れたな」


晶は小さくため息をついた。


「やれやれ。……ボルス、クロウ、入れ」


晶が合図すると、ドアが重々しく開かれた。


入ってきたのは、全身フルプレートアーマーに身を包んだ巨漢、ボルスと、影のように音もなく現れたクロウだ。


その威圧感だけで、部屋の酸素濃度が下がったかのように空気が重くなる。


「な、なんだ貴様らは! 私は子爵だぞ! たかが商人の護衛ごときが……」


ボルスが大きく息を吸い込み、腹の底から轟音を放った。


「控えろぉぉぉッ!!」


「ひいっ!?」


鼓膜が破れんばかりの怒号。


ゴズ子爵と私兵たちが、条件反射でビクリと直立不動になる。


すかさず、クロウが冷徹な声で口上を述べた。


「こちらにおわすお方をどなたと心得る!恐れ多くも名誉公爵、アキラ・ユウキ様なるぞ!」


その言葉と共に、晶が懐から『黄金のメダル』を取り出し、カタリとテーブルに置いた。


「……この紋章が、目に入りませんか?」


ゴズ子爵が目をしばたたかせ、そのメダルを凝視する。


王家の紋章。そして、最高位を示す装飾。


「なっ……!? ルミナ王家の紋章……!? しかもこの色は……公爵位!?」


ゴズ子爵の顔から、サァーッと血の気が引いていく。


ルミナ王国において、身分制度は絶対だ。


子爵ごときが、王族に連なる存在(こうしゃく)に対して恐喝を行ったとなれば、それは単なる不敬罪では済まされない。


「ば、馬鹿な! たかが石鹸屋がそんなもの持っているはずが……! 偽物だ! 罠だ!」


「本物ですよ。先日、国王陛下から直々に頂いた『名誉公爵』の証です」


晶はアイスブルーの瞳で冷ややかに見下ろした。


「貴方は知っていますか? この国には『切り捨て御免』があることを」


「あ……あぁ……」


ゴズ子爵がガタガタと震え出し、歯の根が合わなくなる。


上位貴族に対する無礼や反逆があった場合、その場で処刑しても一切罪に問われない特権。


公爵である晶には、一介の子爵の生殺与奪の権があるのだ。


「ま、待っ……ご慈悲を……! さっきのは冗談で……!」


「往生際が悪いな。……『再生』」


晶が蓄音機の針を戻し、ハンドルを回す。


『ガハハ! 金貨1,000枚よこせ! 払わねば反逆罪で投獄し……』


不気味なノイズ混じりの再生音が、部屋に響き渡る。


それは紛れもなく、ゴズ子爵自身の声だった。


「ひぃぃッ!? こ、声が……箱から私の声が!?」


「証拠は揃いましたね」


その様子を見ていたフローラが、青ざめた顔で口元を押さえた。


「恐ろしい……。過去の言霊をその場に縛り付け、真実を白日の下に晒す……。これぞ罪人を裁くための神具『断罪の聴覚ジャッジメント・イヤー』……!」


「反逆罪はお前の方だな。……連れて行け」


晶が無慈悲に宣告すると、待機していた黒薔薇騎士団たちが、満面の笑みで雪崩れ込んできた。


「へへへ……。社長の許可が出たぜぇ!」


「合法的に『処理』できるな……。衛兵に突き出す前に、たっぷりと『教育』してやる」


「ひぃぃぃッ! 助けてくれぇぇ! 衛兵! 衛兵ーッ!」


ボルスに首根っこを掴まれ、ゴズ子爵は宙に浮いた。


悪徳役人はそのまま、黒い集団によって「衛兵の詰め所」へと丁寧(・・)運搬(・・)されていった。


その後、王宮に「ゴズ子爵の自白音声」と「公爵への脅迫の事実」が届けられ、彼は即座に爵位剥奪・投獄となったのは言うまでもない。


(……ふぅ。水戸黄門ごっこも悪くないな)


晶はメダルを磨き、満足げに懐にしまった。

このメダル、ただの飾りかと思っていたが、ハエ叩き(・・・・)としては最強の武器だ。


「アキラ、あのおじさん泣いてたのだ。お腹痛かったのかな?」


「ああ、心が痛かったんだろうよ」


ポチの純粋な疑問に適当に答えつつ、晶は午後のティータイムに戻るのだった。

第1章・全38話完結保証しています。キリの良いところまでキッチリ読み切れます!


続きが気になる、面白かったと思っていただけたら、

ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援していただけると嬉しいです!


第2章(ラーメン編)は執筆済みなので、第3章執筆のモチベーションに使わせていただきます。

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